小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1152回
M4 Mac miniは映像編集に使えるのか。DaVinci Resolve Studioを使ってテスト
2024年11月27日 08:00
みんな買ってるM4 Mac mini
11月8日に発売となった、M4版Mac mini。最小構成の16GBメモリ・256SSDモデルは税込価格で10万円を切ったということで、筆者の周りでもかなりの人が購入している。Mac miniとしてはM2/M2 Pro以来の製品、加えて今回から筐体デザインも変わってよりコンパクトに、さらに最新のM4チップ搭載と、見どころの多い製品となっている。
筆者も2020年に購入したM1版 MacBook Airのトレードオフとして、16GBメモリ・512GBモデルを購入した。いや元々MacBook Airのストレージが512GBだったので、入れ替えを考えれば同じストレージのほうが簡単だったからである。
現在手元にあるのは、昨年購入したM2 Pro版MacBook Pro 16インチである。これまでこれに4Kディスプレイとキーボード等をつなぎ、自宅のデスクトップ機替わりとして使ってきたのだが、今後はM4版Mac miniがこれに変わることになる。
現在もM4版Mac miniを使って執筆しているところだが、原稿を書くような軽い仕事ではパフォーマンスの差はほとんどわからない。だが動画編集となれば、CPUにしてもGPUにしてもめいっぱい使用するので、プロセッサの違いがある程度わかるのではないか。
今回はM2 Pro版MacBook ProとM4版Mac miniという変則的な比較だが、小難しい話はすっ飛ばして、もっと実践的に映像制作においてM4版Mac miniは有効なのか、そうしたところを探ってみたい。
M2 Pro版MacBook Proと比較
Mac miniに関してはもういろいろなところでレビュー等が掲載されているので、ここではあまり仕様の細かいところは触れず、映像制作に関わる部分をかいつまんでご紹介しておく。
今回購入したのは10コアCPU、10コアGPU、16GBユニファイドメモリのM4版だが、上位モデルには12コアCPU、16コアGPU、24GBユニファイドメモリのM4 Pro版が存在する。価格は218,800円からで、最安バージョンとの差は2倍強となる。
デスクトップ機としての上位モデルにはMac Studioがあり、こちらは12コアCPU、30コアGP、16コアNeural Engine搭載のM2 Max版が298,800円から、24コアCPU、60コアGPU、32コアNeural Engine搭載のM2 Ultra版が598,800円からで控えている。
そういう意味では、M4版Mac miniはエントリーモデルだが、M4 Pro版Mac miniはMac Studioの下位モデルという見方もできる。一方M4版はどうなのか、というわけだ。
Mac miniにはHDMI端子のほか、映像出力可能なThunderbolt端子が背面に3つあり、最大3台のディスプレイに対応する。これまで1~3のMプロセッサは、無印が1台、Proが2台、Maxが4台の外部ディスプレイをサポートしていた。例外はM3版MacBookAirで、これは無印だが2台の外部ディスプレイをサポートする。つまりこれまで、1、2、4台をサポートしてきたわけだが、M4は無印で3台サポートという、これまでのどの組み合わせでもないディスプレイ数をサポートしている。
ストレージ速度に関しては、M2までのMacでは256GBモデルが512GB以上のモデルに比べて遅いという指摘がなされていた。ストレージチップの枚数が256GBでは1枚なのに対し、512GB以上では複数枚の組み合わせであったからだ。しかし今回のM4 Mac miniでは、256GBモデルでもストレージチップを2枚使用したことで、速度面で違いがなくなったとされている。
では実際にストレージ速度から測ってみよう。使用するのはBlackMagic Designが配布している「Disk Speed Test」である。M2 Pro版MacBook Proの内蔵ストレージは1TBである。テストの結果では、対象となるコーデックと解像度全てに対応することができる速度となっている。
一方M4版Mac miniの内蔵ストレージは、同じく全てのコーデックと解像度に対応できる速度ではあるものの、実質的な速度はM2 Pro版MacBook Proの半分程度に止まっている。この辺りがプロモデルとエントリーモデルの差、ということだろう。
続いて外部ストレージの速度も計測してみた。外部ストレージのファイルそのままで編集することはあまりないかもしれないが、素材の受け渡しなどで外付けメディアでやり取りするケースはある。
USB-C接続の外付けストレージの速度が遅いという点は、すでにM1登場時からずっと指摘しているところだ。テストに使用したのは、USB 3.1 Gen 2 対応のSandisk「Extreme900 960GB」で、スペックシート上はリード・ライト共に850MB/sである。
M2 Pro MacBook Proでの速度は以下の通りで、スペックの半分以下の速度しか出ない。
M4版についてもこの部分は改善されておらず、ほぼ同じ速度となった。使用端子は背面のThunderbolt端子である。
一方M4 Mac miniの前面端子には、USBーC端子が2つある。こちらのほうに接続してみたところ、速度に改善が見られた。
書き込み速度は約1.6倍、読み込み速度は劇的に向上しており、ほぼスペックシート通りの速度が出ている。これは朗報だ。スピードアップした理由は判然としないが、もしかしたら前面USB-Cに関してはM4に任せず、専用コントローラチップで動かしているということも考えられる。このあたりは分解レポートなどで調査が進むだろう。
続いてCPUおよびGPUの速度を計測してみる。使用するのは同じくBlackMagic Designが配布している「RAW Speed Test」である。これはBlackMagic RAWフォーマットの圧縮率別に、処理可能かどうかを測定するツールだ。
どこをどう見るかによって評価が変わってくるところだが、4K以下の解像度では、M2 ProとM4でそう大きな違いは無いように見える。おそらく4K程度の編集では、パフォーマンスに違いを感じることはないだろう。
ただ8K解像度の高負荷になると、処理できるフレームレートの差が大きくなる。最低でも24~30fpsが処理できなければ編集時のプレビューで困るわけで、そこまでになるとM2 Proのほうが有利ということになる。
実際の作業ではどうか
大まかにスペックとしての差は把握できたところで、次はDaVinci Resolve Studioでの具体的な編集作業で、スピード差を検証してみよう。今回は3つのパターンで検証してみる。
まずはHD解像度の10分弱の動画に対してAIによる文字起こしを行ない、テロップ入れしてレンダリングするという作業をおこなってみた。HD解像度は未だよく利用される解像度であり、AIを使った文字起こしとテロップが全体的に入ることで、それなりにレンダリング負荷がかかるが、これぐらいはサクッとこなしてほしいところだ。
M2 Pro MacBook Proでは、AIによる文字起こしにかかった時間は7分9秒。一方M4 Mac miniでは7分20秒で、ほぼ違いはなかった。
DaVinci Resolve Studioの文字起こし機能は、内部の「DaVinci Neural Engine」を使用しており、ローカルで動いている。このエンジンがMシリーズチップのニューラルエンジンにどれぐらいインテグレートしているのかわからないが、プロセッサの違いはそれほど大きな要素ではないようだ。
このファイルをYouTubeフォーマットでレンダリングしてみたところ、M2 Pro MacBook Proでは1分16秒、M4 Mac mini では1分25秒であった。これぐらいならそれほど大きな差とは言えない。
続いて先日キヤノン EOS C80で撮影した素材を使って、9画面を作ってみた。素材はXF-HEVC S(H.265)/422 10bit/LongGOPの4K解像度、タイムラインも4K解像度である。これの再生負荷とレンダリング速度を比較してみる。
プレビュー再生においては、4K映像が9枚揃うと、流石にコマ落ち無しでの再生は難しくなる点など、双方ともそれほど差が見えない。内蔵ディスプレイと外部HDMI出力という違いはあるが、どのみちディスプレイとしては1つしか繋がっていないという点では、それほど大きく条件が異なるわけではない。
レンダリングは、H.265で4K書き出しである。M2 Pro MacBook Proでは16秒、M4 Mac mini では17秒と、ほとんど差がない。4K H.265のパフォーマンスに関してはDaVinci Resolve側がかなりこなれており、プロセッサの差はほとんどでない。
続いて「Blackmagic URSA Mini Pro 12K」で撮影された、公式サイトにあるサンプルを使って編集してみた。コーデックはBlackmagic RAW、解像度は12,288×8,040、24fps 12Kの素材である。
これはカットを並べ、1.2倍ほどに拡大して16:9/4Kサイズに収めた状態で、プレビューしてみた。M2 Proはコマ落ちしつつもなんとか24fpsの速度を保っており、どうにか演技の内容は確認できる程度になっている。
一方M4では、一度遅れ始めるともうリアルタイムからは脱落し、途中早送りで追いつこうとするも届かず、遅れたままで再生される。Blackmagic RAWの再生に関しては、ほぼ「RAW Speed Test」の結果が示すとおりと考えられる。
レンダリングは、4K解像度のProRes 422 HQで書き出しをおこなった。M2 Proでは1分50秒、M4では2分8秒となり、徐々に差が開いていくのがわかる。約30秒のタイムラインで18秒差ということは、1分で36秒、1時間で36分違いが出ることになる。ハイエンドな長尺コンテンツではバカにできない時間差だ。
パフォーマンスモニターでCPUとGPUの動きを追ってみたので、参考までに掲載しておく。負荷が高いところが、レンダリング中の部分である。M2 Proでは高パフォーマンススレッドが多く、レンダリングの瞬間だけ集中的にリソースを投入しているのがわかる。
総論
今回は11月12日に公開されたDaVinci Resolve Studio 19.1を使ってテストした。特にM4チップに関して最適化されているわけではなく、そういう意味ではプロセッサに大してはほぼリニアな性能比較ができたように思う。
本来素直にアーキテクチャの進化を見るなら、無印M3とM4を比較すべきなのだが、2世代前のM2ではあっても、Proという映像処理向けプロセッサは、かなり「強い」ということがわかった。
一方M4版Mac miniは、Apple Intelligenceが快適に使えるという触れ込みのマシンであり、映像に特化しているわけではない。それでも4K以下の解像度でH.264やH.265といったこなれたコーデックであれば、Proチップとそれほど変わらないパフォーマンスが出せる。この点では、非常にコストパフォーマンスのいいチップであり、マシンであると言える。
ディスプレイやキーボードは別途用意しなければならないが、フットプリントが小さいので場所を取らない。どのみち専用コントローラを繋ぐのであれば、本体が小さい方がメリットがある。このパフォーマンスなら、4K以下の映像をメインで扱うテレビ局報道や映像系専門学校などに大量導入しても、かなりコストが抑えられる。
デジタルシネマやHDRなどのハイエンドコンテンツを作るならProマシンが断然有利だが、デイリーな映像制作では案外M4 Mac miniが主力で行けてしまうのではないだろうか。このあたりは業界の判断を待ちたい。