小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1066回
新MacBook Pro 16インチは、いろいろ想像を超えていた
2023年2月8日 07:30
酷評もある新MacBook Pro 16インチを購入
現地時間の1月17日に発表されたApple 2023年最初の新製品、MacBook ProとMac Miniの一般発売が2月3日よりスタートした。Apple Storeからの出荷は2月2日で、予約注文した人には3日から4日には到着し始めているはずだ。
かく言う筆者も日本で発表された18日に、16インチのMacBook Proを発注し、4日に受け取った。M2 Pro搭載の12コアCPU/19コアGPU/16GBユニファイドメモリ/512GB SSDストレージ、いわゆる“吊るし”の一番安いモデルである。
今回のMacBook Proは、前モデルからデザインもディスプレイも変わらず、違いはほぼCPUだけ、その割には価格がアップということで、パワーアップして価格が下がったMac Miniと比較すると、一部では酷評も聞こえてくるモデルである。せっかく買うならM2 Maxだろうとか、メモリー16GBではもう少ないだろうといった批判もあるだろうが、利用目的からすればこれで十分と判断した。
今回はこのMacBook Proの使い勝手を、AV的な視点からテストしてみたい。
M1 MacBook Airで全然OKなのだが……
筆者は2020年11月に、発売されてすぐM1 MacBook Airを購入している。Macは発売から時間が経っても価格が下がるわけではないので、買うなら出てすぐに買うことにしている。当時購入したのは、8コアCPU/8コアGPU/16GBユニファイドメモリ/512GB SSDストレージだった。
これまで、このマシンをメインに執筆や4K動画編集を行なっているが、パワー不足を感じたことはない。加えてストレージも十分、メモリーも足りなくて苦しいという感じもないことから、コスパ的には最強、あと2年ぐらいはこれで行けると感じていた。
ただ問題もあった。このコロナの影響や、地元宮崎に移住した事もあり、2020年以降はワーケーション的に屋外で仕事する機会が多かった。特に宮崎は2月下旬から10月下旬ぐらいまでは外で仕事できる気温なのだが、いかんせんMacBook Air搭載Retinaディスプレイは輝度が400nitsしかない。
目一杯明るくしても、屋外だと周囲の明るさに負けて画面がよく見えないのである。またサイズも13インチしかないことで、普段40インチディスプレイで仕事している環境からすると、まるで視界が双眼鏡でも覗いてるかのような狭さである。
よってワーケーションになると作業効率がかなり下がってしまうのが難点だった。だがMacBook Proの16インチ Liquid Retina XDRディスプレイなら、SDR輝度で500nits、HDR輝度で1,000nitsある。これなら宮崎の日差しの中でも戦えるだろうという判断である。
それなら、なぜ2021年にM1 Pro搭載MacBook Proを買わなかったのかと言われると返す言葉もないが、M1からM1 Proへ乗り換えるより、M2世代のパフォーマンスを見極めたかったのである。そんなタイミングでちょうど良く発売されたので、購入した次第だ。
Liquid Retina XDRディスプレイのメリットは他にもある。バックライトにMini LEDを採用しているため、画面内の一部分だけHDR表示ができる。つまりHDR動画編集時に、動画のプレビュー画面だけHDR表示にして、見え方を確認できるのである。16インチMacBook Proでこれができることは、以前iPhone 13で「シネマティックモード」が搭載された際のレビューで確認している。
当時はまだ対応アプリがiMovieとFinal Cut Proしかなかったが、昨年4月にリリースされたDaVinci Resolve 18でもLiquid Retina XDRディスプレイの部分HDR駆動に対応した。これまでHDRコンテンツの制作では、レンダリングしてはテレビに出して確認するなど苦労してきたが、これでだいぶ捗りそうだ。
意外に違わない?
2021年発売モデルとは中身しか違わないので、知っている人には知っている情報かもしれないが、M1 MacBook Airと比較しても、あまり違わない点も多い。例えばThunderbolt 4/USB-TypeCポートは、Airは2つだったがProは3つ。Intel版MacBook Proではポートが4つだったのに、とも思うが、端子の1つが電源専用としてMagSafe 3になったという事だろう。
右側にはフルサイズのHDMIとSDカードスロットも備える。HDMIは、外部ディスプレイへ8K/60Hz、4K/240Hz出力も可能だ。
USB-C出力の付属ACアダプタは140Wもあるため、かなり大型だ。ただ消費電力として常時140Wを食うわけではなく、急速充電のために高ワット数になっている。USB-C端子からのPD入力でも充電できることから、常時でっかいACアダプタを持ち歩かないとどうにもならないということではなさそうだ。
ベンチマーク等はすでに色々出ているところだが、M1 MacBook Airの内蔵ストレージと比較すると、ライトはだいぶ早くなっている。一方でリードはそれほど変わっていない。
一方で、USB-C接続の外付けストレージの速度が遅いという点は、すでにM1登場時からずっと指摘しているところだ。新型Macがお借りできるタイミングでは毎回外付けドライブの速度を計測しているが、速度的にはあまり変わっていない。今回3ポート全部の速度を図ってみたが、差はなかった。テストに使用したのは、USB 3.1 Gen 2 対応のSandisk「Extreme900 960GB」で、スペックシート上はリード・ライト共に850MB/sである。
Intel版Macに繋げばこれの2倍ぐらいのパフォーマンスが出るので、その半分ぐらいしかスピードが出ないというのは、今のところM系プロセッサの弱点である。ノート型では外付けSSDを沢山ぶら下げなければならない仕事はあまり考えられないが、Mac Miniなどのデスクトップ型では致命傷になり得る仕様である。
一方プロセッサスピードはBlackMagic RAW Speed Testによれば、素のM1に比べればCPUで2倍、GPUで3倍超の能力がある。
これはBlackMagic RAWでのパフォーマンスなので、ProResやH.264/265であれば、M1でも4K/60pの編集には支障はない。
試しにソニー「ZV-E10」でXAVC S 4K収録した素材を13分半ほどに編集したコンテンツをレンダリングしてみたところ、M1 MacBook Airでは3分11秒かかったが、M2 Pro MacBook Pro 16では2分5秒で終了している。
ストレージの読み出し速度が一緒なのもあり、レンダリング時間だけ見れば1.5倍程度しか違わないが、プロセッサの負荷が低いので、レンダリング中にも平行して別作業できる余裕がある。
表示回りのパフォーマンスと、OSの細かな違い
高ダイナミックレンジ・高色域の規格としては、ITU-R BT.2100がよく知られるところだが、これは映像データを規定したものである。ただそれが表示できるかどうかはまた別問題で、BT.2100に対してカバー率何%といった格好で、ディスプレイの規格が決められている。
ディスプレイの高色域規格としては、米国の映画制作団体であるDCIが定めた「DCI-P3」がある。ただこれは映画館のように真っ暗にしてスクリーンに投影した反射光をモデルにしており、環境光がある中でバックライトや自発光するディスプレイではまた別の規格が必要になる。
これに挑んだのがAppleが提唱するDisplay P3だ。色域はDCI-P3と同じだが、ガンマ値をコンピュータの伝統的な値である2.2となっている。ちなみにDCI-P3は2.6だ。
HDRコンテンツをフルフレームで表示させると、RetinaディスプレイとLiquid Retina XDRディスプレイの差がはっきりわかる。M1のRetinaディスプレイはHDR表示ができないため輝度が低いのは当然だが、色域に関してはなるべく強く出そうという方向性は感じられる。
OSの表示やSDコンテンツ表示の場合はSDR表示になるので、このときはsRGBになるのかなと思っていた。だが実際にはSDRでも、色域はどちらもDisplay P3で出るようだ。OS画面で比べてみると、最大輝度が違うものの、発色はかなり似ている。
Liquid Retina XDRディスプレイ搭載のMacのグラフィックスチップは、Retinaディスプレイ搭載モデルよりも上の性能を持つわけだが、その影響はHDMI出力にも出る。両方のマシンのUSB-C端子にHDMI出力可能なUSBハブを繋いでテレビ出力すると、明らかにMacBook Proのほうが色味が強く出る。
色域はどちらもsRGBだが、単に「個性」では割り切れない影響がある。写真の色校正やカラーグレーディングを外部モニターを使って行なうには、マシンごとに自分で納得出来るキャリブレーションを行なう必要がありそうだ。
HDRコンテンツの編集作業については、Liquid Retina XDRディスプレイ上でDaVinci Resolve 18でもプレビュー画面のHDR表示ができるのを確認した。「環境設定」の「一般」にあるチェックボックス、「可能な場合はビューアに10bitイメージを表示」と「Macディスプレイカラープロファイルをビューアに使用」にチェックを付ける。あとは素材に対してHDR用LUTを適用すると、プレビュー画面上がHDR表示となる。
OS回りで実務上困った事が1つだけある。筆者はクラウドストレージにDropboxを使っているのだが、MacOS 13以降ではDropboxフォルダの位置が変更できなくなり、”~/Library/CloudStorage” 以下に固定された。それ以前はユーザーのホームディレクトリ直下がデフォルト位置であり、前OS時代から使っているM1 MacBook Airでは、MacOS13にアップグレードしてもDropboxフォルダは未だ以前の位置にある。MacOS 13ネイティブのマシンからこの仕様になるようだ。
Dropboxフォルダが”~/Library/CloudStorage” 以下から動かせないことで、筆者が写真整理用に使っている「PhotoScape X」がDropboxフォルダを参照できなくなった。このソフトではセキュリティの関係から、ホームフォルダ直下のフォルダ以外を「フォルダーを追加」できない仕様となっている。
シンボリックリンクを作っても参照できるようにはならず、今のところ”詰んで”いる。写真編集ツールなら他にいくらでもあるだろうと思われるかもしれないが、「PhotoScape X」はファイル名の連番変換とかフォーマットの一括変換とかができるので、画像入稿に便利だったのである。他にもディレクトリを表示・参照できるソフトでは同じ影響を受けるかもしれない。
基本的には「PhotoScape X」のアップデートを待つしかないのだろうが、今すぐ解決できる方法があればTwitter等で教えていただけると助かる。
総論
首都圏に暮らして電車移動がメインであれば、2.15kgの16インチを持ち歩くなど普通やらないところだが、地方ではほぼ車移動なので、重量はあまり問題にならない。このあたりはアメリカ社会に通じるものがある。
個人的に今年ワーケーションが増える予定なのは、昨年末に110Wのソーラーパネルとポータブルバッテリーを購入してどこでも発電できるようになったからである。バッテリーは最大300W出力できるので、140Wの本機アダプタも使用できる。仕事で使う電気代はタダ、というのが理想である。
プロセッサ以外あんまり変わってないと言われている2023年版MacBook Pro 16だが、Display P3がらみの問題については、前モデルで評価機をお借りした程度では気がつかなかった。今後はこれを自分事として取り組むことになる。この点では、「飯の種が増えた」とも言える。
今回はほぼ大型Liquid Retina XDRディスプレイのために買ったようなものなので、今後はこれを活かしたコンテンツ制作態勢へ移行していきたいと思っている。