小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1158回
補正してよし、いじって良し、1万円台で買える高コスパモニター、EDIFIER「MR3」
2025年1月15日 08:00
PCスピーカーで独自のポジション
オーディオ分野においてスピーカーは、いつの時代でも人気の高い商品だ。特に昨今は小型のブックシェルフ型が好まれる傾向が強まり、各社とも力を入れて開発している。
一方PCと組み合わせる、いわゆるPCスピーカーというジャンルは、ブックシェルフよりも一回り小型、アンプ内蔵といった特徴があり、スピーカーメーカーというよりはPC周辺機器メーカーが主力である。
EDIFIERは昨今ヘッドフォンやイヤフォンで認知度が高まっているが、元々はこうしたPCスピーカーが主力であった。オーディオ専門メーカーなんだけどPC向けという、独特のポジションを築いている。
そんなEDIFIERのデスクトップオーディオ向けの新モデルが、「MR3」だ。発売は昨年10月中旬で、オンライン価格は14,980円となっている。
1万円台のスピーカーなら性能はそこそこ、と思われるかもしれないが、DTMにも使えるルーム補正付きモニタースピーカーでもあり、リスニング用としてハイレゾ音源も鳴らせる仕様で、コスパは高い。
一体どんな音なのか、さっそく聴いてみた。
質感の高いスピーカー
スピーカーセットとしては、右側にアンプや入力部を備える、いわゆるアクティブスピーカーである。左側とはスピーカーケーブルで接続するスタイルだ。カラーはホワイトとブラックがあり、今回はブラックをお借りしている。
エンクロージャサイズは125.5×185×220mm(幅×奥行き×高さ)で、左右とも同じ。右側にはノブや端子類があるので、スペック上は奥行きが長いことになっている。エンクロージャはスピーカーとしては一般的なMDF製。
ドライバーは2ウェイで、1インチ径のシルクドームツイーターと、3.5インチ径ミッド/ベースドライバーを搭載。周波数特性は52Hz~40kHz。ツイーターの周囲にはディンプル加工を施した凹みがある。これにより高音域の拡散性を強め、広いリスニングポジションを確保している。
ミッド/ベースドライバーは、中央部に大きく銅製と思われる、平面センターキャップが貼り付けられており、全体のいいアクセントとなっている。なおEDIFIERのスピーカーでは平面センターキャップを採用した例はあまりなく、多くはドーム型センターキャップとなっている。
なお本スピーカーにはドライバ表面を保護するサランネットなどは付属しておらず、ドライバー表面は常時むき出しとなる。ツイーターはソフトドームだしセンターキャップは平面なので、お子さんのイタズラで凹んでしまうといったトラブルには強そうだ。
右側前面には、電源ボタン兼ボリューム兼EQモード変更ノブがある。またヘッドフォン端子や、3.5mmステレオのAUX入力もある。
背面を見てみよう。バスレフポートは背面の上部にある。ダクトパイプのような構造かと思ったら、そのまままっすぐ10cmほど伸びているだけのようだ。ポートからツイーターの背面が見える。
上からBluetoothペアリングボタン、アコースティックチューニングとして、高音域と低音域の調整ノブ、TRSバランス入力、RCAアンバランス入力がある。それから左側に繋ぐスピーカーケーブル端子、電源はメガネ型ACで、ACアダプタはない。
入力切り替えのような機能はなく、入力されている音は全部同時に鳴らすことができる。Bluetoothも同様だ。
付属ケーブルは、電源、スピーカーケーブル、3.5mm-RCA、3.5mm-3.5mmが付属する。それ以外のケーブルは自分で用意する必要がある。
背面には各EQ等の特性が描かれている。設置してチューニングも安定するとマニュアルなどは見なくなるため、背面に特性が書いてあるというのは気が利いている。
内蔵アンプは24bit/96kHz処理のハイレゾ対応デジタルアンプで、出力は18W + 18W。入力はBluetoothを除けばアナログしかないので、A/Dコンバートしたのちデジタルアンプに入るという流れになる。専用アンプに比べれば非力だが、デスクトップに置くと言うことはニアフィールドで聞くということだろうし、これぐらいあれば十分だろう。
多彩なチューニング機能
さてどうやってPCと組み合わせるかだが、本機はアナログ入力前提なので、PCとの間にはなんらかのDACが必要になる。今回はTEACの「UD-301」を使用して、M4版Mac Miniと接続している。
なおBluetooth接続はコーデックがSBCしかないので、音質的にはあまり期待できない。Bluetooth接続する意味は、サウンド調整用アプリを使うため、ぐらいに考えておくべきだろう。
気軽にPCやスマホ相手でのリスニングで使うなら、年末に発売された「M60」のほうがスペック的には向いている。ただ価格的にはMR3より高く、スピーカーサイズも小さく、ルーム補正機能がない。
さてMR3の特徴は、ルーム補正機能が使えるということである。これには本体ノブと、スマホアプリを組み合わせていく事になる。
まず背面ノブによる調整だが、これはカットオフ周波数10kHzのローパスフィルタと、125Hzのハイパスフィルターになっている。カーブは変更できないが、それぞれ±6dBの可変範囲があるので、かなり大きく効く。
一方アプリ側としては、イコライザーのプリセットとして「モニター」と「音楽」がある。さらにカスタマイズとして6バンドのグラフィックEQが1つ使えるが、それは「モニター」か「音楽」のプリセットに対して加える格好になる。可変範囲が±3dBしかないが、ちょっとした味付けには十分効果がある。
この3タイプ、すなわち「モニター」、「音楽」、「カスタマイズEQ」は、スピーカー正面のノブを押すことで、切り替えられる。モードは色分けされており、モニターは赤、音楽は緑、カスタマイズは白で表現される。
ローカットフィルターは、カットオフ周波数が20~100Hzまで可変でき、また減衰カーブも-6~-24の4段階で選択できる。デフォルトでは35Hzの-24dBとなっている。ローカットフィルタはOFFにはできないので、必ず何らかの設定を行なう必要がある。元々周波数特性的には52Hz以下は保証されないので、その部分をどう減衰させて音を濁さないか、という方向で考えるといいだろう。
音響空間(アコースティックスペース)は、スピーカーの設置位置による反射音を考慮して、低域のばたつきを抑える機能だ。特性としては500Hzから下を減衰させ、加えて20Hzより下をカットオフする。設定としては0~-4dBまでの5段階から選択できる。一般には、部屋のセンターで使用する場合は0dB、壁際に設置する際は-2dB、部屋の角に設置する場合は-4dBが推奨されている。
デスクトップコントロールは、卓上に設置した場合の、机面からの反射音による音の濁りを減衰させる機能だ。具体的には200Hz付近を-4dB減衰させる。これはパラメータはなく、単にON・OFFできるだけである。
ただしチューニングはマニュアル
ルーム調整機能として上記のような機能があるわけだが、それぞれはユーザーが自分で判断しながら使用していく必要がある。これがハイエンドのサウンドバーなら、測定用マイクが付属しており、測定音をスピーカー側から出して調整するといった機能があるのだが、本機にはそのような機能はない。
またAmazon Echoのようなスマートスピーカーには、再生音を内蔵マイクで拾って、入力ソースと比較しながら音質を自動補正するという機能もあるのだが、そのような機能もない。つまり本機の場合、補正機能は沢山あっても、使う責任はすべてユーザーが負うことになる。
アプリと背面ノブの調整がそれぞれあり、両方とも有効なので、効果が混ざる事になる。その関係をどう考えるかがポイントになる。
筆者が考えるに、アプリはある意味、設定を固定できるというメリットがある。一方背面ノブは、触れば簡単に変えられてしまう。よって基本的にはアプリ側で調整を追い込んだあと、背面ノブは物足りない部分を好みで調整する、昔のトーンコントロール的な意味合いで使うといいのではないか。そもそもノブをいじるには立ちあがって背面に手を伸ばさなければならず、正面位置で聴きながらの調整ができないという弱点がある。
まず音響特性として一番フラットなのは「モニター」なので、このモードでデスクトップコントロール、音響空間、ローカットの順で調整するのが妥当かと思う。「デスクトップコントロール」は、スピーカーを机上に直置きする場合にはONでいいだろう。一方でスピーカー設置のセオリーとしては、ツイーターは耳の高さまで上げるのが普通なので、何らかの台座の上に乗せるのであれば、机面の反射はあまり関係しなくなる。この場合はOFFにすべきだ。
「音響空間」は壁との関係なので、これはもう単純に設置位置で考えれば良い。ローカットはOFFにはできないのでとりあえずデフォルトにしておいて、低域がゴチャゴチャするようであれば調整するという格好でいいだろう。
スッキリして分離感の良いサウンド
では早速聴いていこう。今回はデスクから持ち上げて設置しているので、デスクトップコントロールはOFF、音響空間は-2dB、ローカットはデフォルトで、背面EQもセンターで視聴している。試聴ソースはAmazon Musicから、再結成してツアーも開始したOASISの「Definitely Maybe」の昨年30周年としてハイレゾリマスターされたバージョンを聴いていく。
まずは「モニター」だが、なるべく特性をフラット化した音。派手さはないが、音楽制作には色づけが少ないほうが好ましい。この特性でよく聞こえるバランスに仕上げていくわけである。
「音楽」はモニターよりも若干派手めに聞こえるようにチューニングされている。音楽リスニングにはこのモードでいいだろう。カスタムで多少ドンシャリ気味にチューニングしてみたが、少しいじっただけで音の印象が大きく変わる。音質の変化が聞き取りやすいスピーカーだ。
特筆すべきは、音の粒立ちの良さだ。「Live Forever」のスネアやタムなど、アタックが強くサスティンが短い音でも、音のカラーがはっきり確認できる。ただ、重低音部はカット気味になるので、バスドラムはそれほど張り出してこない。
また左右の定位感も良く、位相が安定している。OASISはギターを中心としたグジャッとしたサウンドという印象だが、実は空間を意識して丁寧に音が配置されている事がわかる。昨今はスピーカー位置より空間的に広げる処理が流行しているが、本機は物理的に左右を広げれば済む話なので、好みのステレオ感になるよう設置位置を調整する事になる。
ツイーターにはディンプル加工のウェイブガイドがあり、高域を拡散するが、1m程度のニアフィールドで聴く場合はそれほど効果がないようだ。やはりキチンと耳の高さまで上げた方が、高域の通りが良い。
背面のアコースティックチューニングノブは、センターに小さくクリックがあるので、わざわざ背面に回り込んで操作しなくても、0ポジションを探しやすい。低域はあまり上げすぎるとゴチャッとしてしまうので、あまり上げすぎない方がいいだろう。昨今は低音過多のミックスが増えているため、ちょっと低音が足りないぐらいで丁度いい。
高域はプラスに回せば明るい音に、絞ればウェットな音に変化する。高域を担当するソフトドームツイーターは、金属ダイアフラムの突き刺さるような硬さがなく、柔らかい高域が楽しめる。
総論
昨今はサウンドバータイプも含め、PC用スピーカーが見直されてきている。音源がストリーミング化してきている関係で、ハイエンドのワイヤード接続はスマホよりもPCが主戦場になるからだ。
とはいえ、PC向けアクティブスピーカーで繊細に音がいじれる機能を搭載しているものはそれほど多くない。Creativeはソフトウェアドライバで駆動すればある程度いじれるが、対応ソフトがWindowsに限られるモデルもあり、MacやLinux勢は悔しい思いをしているところだ。
一方本機はスピーカー自体にサウンドプロセス機能があり、コントローラとしてスマホアプリを使うというスタイルである。PC向けでありながら、USBでは繋がらないのでコントロールが独立している。最近はイヤフォンやヘッドフォンがソフトウェアでかなり音がいじれるようになっているが、その感覚でいじれるPCスピーカーというわけである。入力はアナログがメインなのでDACは必須だが、逆に言えば良いDACと組み合わせて聴きたくなるスピーカーだ。
さらに言えば1万円台で買えるスピーカーとしては、サイズ感もまあまあある。大きければいいというものでもないが、やはりエンクロージャ容積があるというのは、低域特性的には有利だ。
左右セパレート型スピーカーはイマドキ流行らないと思っている人も多いが、設置のバリエーションも含めて細かく調整できる本機は、DTMのモニター用として使えるだけでなく、いじり倒してリスニング用にも使える。1台で幅広いニーズに対応できる、高コスパのスピーカーだ。