小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1179回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

4万円以下で買えるフラッグシップモニタースピーカー、Edifier「MR5」を聴く

6月より販売開始された「MR5」

デスクトップスピーカーも好調なEdifier

今年に入って本連載では割とデスクトップスピーカーに力を入れているが、それだけいい製品が出てきているとご理解いただきたい。何しろ性能の割に安いという高コスパ製品がどんどん出てきているので、どんどんご紹介していきたいのである。

中でも好調なのがEdifierだ。今年に入ってすでに「MR3」、「M60」を取り上げた。そして6月1日にEdifierのモニタースピーカーとしては最上位モデルに位置する「MR5」が登場した。

価格はオープンだが、公式サイトでは39,980円。MR3の倍以上の価格ではあるが、4万円以下でフラッグシップが買えるというのは魅力的だ。

さっそくその音を確かめていこう。

「デカいMR3」ではない秘密の構造

MR5は、モニタースピーカーシリーズであったMR3の上位モデルということになる。カラーはブラックとホワイトの2色展開だが、ルックス的には先行するMR3を大きくしたようなイメージだ。

ボディは一般的なブックシェルフと比較しても遜色ない、159×280×264mm(幅×奥行き×高さ・アクティブ側)というサイズになっている。エンクロージャサイズの割にはスピーカーが小さいのでは、と思われるかもしれないが、実はMR5は3Wayである。

正面からみると2Wayのようだが……

じゃあもう一つはどこにあるのかというと、なんとエンクロージャの下向きにウーファーが付けられている。音は左右に開けられた吹き出し口から出るという仕組みだ。

エンクロージャの下向きにウーファー。円錐形の拡散板に反射して横の吹き出し口から音が出る仕組み

過去ウーファーを下向きに設置した設計は、Amazon Echoシリーズなど円筒系のスマートスピーカーに多かった。いわゆるブックシェルフタイプでの採用例は、ほとんどないと思う。

しかし確かにこの設計であれば、エンクロージャサイズはそこそこでもデカいウーファーが積める。また低域は指向性が高くないので、ウーファーが正面を向く必要性も薄い。

そんなわけでスピーカー構成は、1インチシルクドームツイーター、中音域は3.75インチ PPコーンスピーカー、5インチ ぺーカーコーンウーファーとなっている。5インチということは、約13cm弱ということになる。昨今のスピーカー技術からすれば、十分ウーファーとして通用するサイズだ。周波数特性は46Hzから40kHzとなっており、ワイヤード、ワイヤレス両方でHi-Resオーディオ認証を受けている。

拡散用のディンプル加工が施されたソフトドームツイーター
MRシリーズではおなじみのデザインによるスコーカー

アンプは右側に搭載されており、高域10W×2、中域15W×2、低域30W×1の合計110Wとなっている。MR3が2Way 36Wであったのに対して、かなりパワーアップしている。

背面から入力を確認していこう。左からRCAアンバランス接続、1/4インチTRSバランス接続、XLRバランス接続となっている。特にXLRはこれまでMR3にもMR4にもなかったので、スタジオワークが中心の人には待望の搭載と言えそうだ。

右側背面の入力端子。バスレフポートはアサガオ状に広がっている

ただ基本的にはすべてアナログ入力であり、USBオーディオには対応しない。パソコンと組み合わる際には、何らかのDAコンバータが必要になる。

また前面に3.5mmステレオミニ入力(AUX)があり、テンポラリ的にちょっと聴きたいという時には、いちいち背面に回らなくて済む。ステレオミニのヘッドフォン端子もある。

前面端子はヘッドフォン出力とAUX入力

BluetoothもMR3はSBCのみだったが、今回はLDACとSBCに対応している。なんとも極端な組み合わせだが、汎用的なコーデックは一切搭載しないあたり、モニタースピーカーとしての矜持を伺わせる。

前面のボリュームノブは、長押しで電源入切で、短く押すと3パターンのサウンドモード切り替えになる。入力切り替えはなく、全部の入力が常に同時に鳴らせる仕様になっている。したがってケーブルだけ繋いでほっておくような、終端がオープンになるような接続をすると、ノイズ混入の原因になるので注意していただきたい。

ボリュームノブでEQ切り替えもできる

また背面には、高域と低域調整用のノブがある。高域は10kHz以上を±6dB、低域は125Hz以下を±6dB可変できる。

調整用アプリ「Edifier Connect」を使うと、さらに細かい音質調整ができる。低音域周波数のカットオフは、余計な低域をカットするフィルターだ。設定周波数とカットオフのカーブが決められる。

調整用アプリ「Edifier Connect」

音響空間(アコースティックスペース)は、スピーカーの設置位置による反射音を考慮して、低域のばたつきを抑える機能だ。部屋のセンターで使用する場合は0dB、壁際に設置する際は-2dB、部屋の角に設置する場合は-4dBが推奨されている。

デスクトップコントロールは、卓上に設置した場合の、机面からの反射音による音の濁りを減衰させる機能だ。具体的には200Hz付近を-4dB減衰させる。これはパラメータはなく、単にON・OFFできるだけである。

調整できるパラメータはMR3と同じ

公式サイトの説明には「お部屋の音響を自動調整可能」という表記も見られるところだが、自動でチューニングされるわけではなく、設定は耳で聞きながら手動で行なう必要がある。パラメータは単純化されているので、設定は難しくはないが、自動とは言えない。

間違いないモニターサウンド

ではさっそく音を聴いていこう。今回は仕事用デスクの上に配置しているが、このスピーカー奥行きが28cmとまあまあ長いので、普通の机の上では若干ニアフィールドぎみになる。本来はミキサー卓の上に配置するぐらいがちょうどいいのだろうが、リスニングスピーカーとして使う人の方が多いのではないかということで、よくある設置状況として聴いていく。

今回試聴したのは、6月11日に惜しくも亡くなった、ブライアン・ウィルソンが1998年に残したアルバム「Imagination」から、「Your Imagination」をAmazon Musicで聴く。接続はGoogle Pixel8からLDAC接続である。この曲は個人的にブライアン・ウィルソンのエッセンスが凝縮されていると思っているので、未聴の方はこの機会に聴いてみていただきたい。

本機はEQモードが3つ選択できる。「モニター」、「音楽」、「カスタマイズ」だ。まずは「モニター」で聴いてみる。背面のトーンはフラット状態だ。

中音域の解像度にフォーカスを合わせた音作りのようで、低域・高域ともに控えめ。左右の分離感がよく、前奏のウインドチャイムが左から右に飛ぶ動きも、真ん中が凹んだり出っ張ったりすることなく、平行移動の感じがある。高域特性の左右のバランスの良さによるものだろう。

この楽曲は、左右に展開してセンターに定位しないという変わったメインボーカルの定位なのだが、それもうまく表現できている。全体的にエコーの深いサウンドだが、ぼんやりせず解像感高く聴けるのは、ミックスダウンやシンセの音作りには最適だ。

「音楽」に切り替えると、若干低音が強調され、いわゆる下が安定したピラミッド型のサウンドとなる。高域も若干強調されるようだ。ただ「モニター」とものすごく違うかと言われれば、そこまでは違わない。若干「華がある」サウンド、といった風情だ。

「カスタマイズ」では、前出の「モニター」と「音楽」をベースに少し味付けできる。9バンドのグラフィックEQが使えるが、ゲインが±3dBしかないので、それほど大胆には変わらない。音を作るというよりは、部屋の特性に応じて補正するといった使い方になるだろう。

9バンドEQが使える「カスタマイズ」

音を作るという点では、背面の2つのトーンコントロールはかなり強力に効く。こちらはリスニング用として使用する際に、好みの音にする際に使用するといい。

低音をMAXにすると、中音量ではさすがに多すぎだが、小音量で聞く際には低音が痩せずに聴きやすい。底部に大型ウーファを隠し持っているので、低音過多の鳴らし方でも十分対応できる。

ただ、反射板を使っての拡散 + 背面バスレフなので、大型スピーカーのように空気振動が直接胸を突くようなスピード感のある低音ではない。どちらかというと重厚感のあるロングトーンを聴かせるタイプだ。

高域はMAXにすると、かなり華やかな音になる。アコースティックギターの撥音感が強調され、硬質なサウンドに変質する。さすがにMAXにするのはやり過ぎだろうが、ちょっと味付けとして足すと、満足度が高い。

総論

MR5はEdifierのスピーカーにしては4万円弱とやや高めだが、小型スピーカーに足りなかった量感のある低音を実現した点で、ユニークなモデルだ。しかもモニターとリスニングどちらにでも使えるように仕上げてきた。

モニターとしては待望のXLRに対応したことで、途中に変換や特殊ケーブルをかまさなくても、ミキサーから直結できるという点で、安心できるだろう。入力数もアナログワイヤードで4系統もあり、アンプや音源の聴き比べなどでも、直接挿せば切り替えなしで全部鳴るので、使いやすいはずだ。

リスニングとしてはやはりLDACに対応したことが大きい。Androidでは対応モデルがかなり増えており、割と大きな部屋でも音量がかなり出せるので、力不足を感じることはないだろう。また背面のトーンコントロールにより、スタジオモニターをベースしながらもかなりの味付けができるところは、満足度が高い。

一方iPhoneユーザーからすればSBCで接続するしかないため、物足りなさはある。ただ昨今はスマホ用小型DACもいいものが出てきているので、そういうものと併用するというのも一案だ。

現時点でのEdifierラインナップの中では、一番用途を選ばず何にでも使えるスピーカーであろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。