小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第714回:ソニーのハイレゾ無線スピーカーが進化!「SRS-X99」。侮れない弟分「X88」も
第714回:ソニーのハイレゾ無線スピーカーが進化!「SRS-X99」。侮れない弟分「X88」も
(2015/6/17 10:00)
昨年の個人的ヒット作がリニューアル
「ハイレゾ」なる言葉も昨年あたりから急速に認知度が高まり、音源もだいぶラインナップが揃ってきた。家電量販店ではまだそんなに対応機器がない時代から、1階の入り口という一等地に“ハイレゾコーナー”を設置するなど、ハードウェアの方も強く訴求していたのも記憶に新しいところだ。
昨年3月に発売されたソニー「SRS-X9」は、あらゆるオーディオソースに対応したハイレゾスピーカーだ。アンプまですべてオールインワンで、どういうスタイルでも聴ける、非常に便利な逸品だった。レビューして気に入り、個人でも購入。この1年仕事中はずっとこれで何かしらの音楽を流している。
購入に踏み切ったポイントは、ハイレゾのリファレンスになるカッチリした機器を1台持っておきたかったこともある。だが決め手になったのは、このスピーカーサイズでS-Master HXを搭載、しかもトータルで154Wぶんのアンプが載っているところだ。上面と前面ツイータに1基ずつ、メインスピーカーに1基、サブウーファに2基で、合計25W×2+25W×2+25W×2+2W×2だそうだ。 さらに周波数を各スピーカーに振り分ける電気的な「ネットワーク」を使わず、アンプの特性だけで周波数を分離、各スピーカーのバランスを個別に取っている。
これは開発チームやっちゃったなと。多分社内で怒られるなと。こんなアホ仕様のスピーカー、後継機はもう無いなと踏んだのだが、残念ながら結構売れたらしく、後継機が出てしまった。今年1月のInternational CESで発表された「SRS-X99」がそれである。今年5月23日発売で、実売は72,000円前後。今回はこれと、同じくハイレゾ対応ながらコンパクト化を進めた「SRS-X88」を取り上げてみたい。こちらは46,000円前後で、価格もリーズナブルだ。
一体どこが変わったのだろうか。早速試してみよう。
見た目はほぼ一緒
今、目の前で筆者宅のX9とX99を比較しているが、見た目的には2つ並べてよく見ないと、間違い探しレベルでしか違いがない。NFCのマークの位置が違うのと、スピーカー保護のパンチングメタルの色が多少白っぽくなったところ、あとは上部ツイータの周囲にあるゴム素材が違う程度で、そのほかは寸法も材質も見分けが付かない。
上部ツイータ部のゴム部材は、以前は真っ黒で光沢がある素材だったが、粘性が高いため、ホコリが貼り付いてしまうという難点があった。新素材は真っ黒ではなくダークグレーになり、光沢も無いが、指で触ってもサラッとしており、粘性がない。掃除も楽になるだろう。
スピーカーユニットのレイアウトや数、内部のアンプに違いはなく、さすがにX9以上のトンデモ仕様にはならなかったようである。ただ内部のアンプバランスは再調整されており、さらにサブウーファの設計が若干見直されている。そのあたりがサウンドの違いに出てきそうだ。
前モデル「X9」のレビューをお読みいただければSRSシリーズがどういう製品かお分かり頂けると思うが、ざっくり言ってしまうと、現状使われるであろうオーディオの接続方法にあらかた対応した、アンプ内蔵スピーカーである。
有線接続ではUSB TypeA/B端子を搭載し、ウォークマンやUSB3.0メモリ、PCなどが接続できる。有線LANもあり、ホームネットワーク内の音源も鳴らせる。アナログオーディオ入力もあり、96kHz/24bit ADコンバータを内蔵している。一方ワイヤレス接続ではBluetoothとWi-Fiがあり、ハイレゾソースもワイヤレスで楽しめる。
ハイレゾ音源は、WAV/FLAC/AIFF/ALAC(AppleLossless)に対応し、192kHz/24bitまでのPCMが再生できる。CDからリッピングした楽曲やMP3などの圧縮音源を再生する際は、192kHz/24bitまでアップスケーリングして再生する「DSEE HX」も利用可能だ。DSDも2.8MHzまで再生できるが、リニアPCMへの変換再生となる。
X99はスピーカーやアンプ部の違いは少ないが、機能的な違いは以下の4つがある。
- 1:LDAC対応
高品位なBluetooth伝送を実現する新コーデック、LDACに対応した。これでSBC、AAC、LDACの3タイプに対応したことになる - 2:IEEE 802.11n対応
Wi-Fi接続に関しては、従来のIEEE 802.11a/b/gに加え、nにも対応。ハイレゾ音源を安定してワイヤレス再生できるようになっている - 3:SongPal Link対応
以前からコントロール用のスマホアプリとして「SongPal」が存在したが、これを使って家庭のネットワーク内にある音源を、対応スピーカーなどに自由に飛ばす「SongPal Link」に対応した。対応スピーカーやステレオがあれば、複数台をグループ化して同時に鳴らすことも可能 - 4:Google Cast対応
以前話題になった、HDMI機器に挿してワイヤレスで映像を飛ばせる「Chromecast」をご記憶だろうか。あれの基幹技術がGoogle Castだ。今年1月にオーディオ機器向けに「Google Cast for audio」が発表され、本機はそれに対応している
X99はX9に上記4機能を追加し、チューニングを変えたリファインモデルという位置づけだ。一方X88は、X9から派生した全くの新シリーズである。
単体だけ見るとX99から上面のツイータを取っただけのように見えるかもしれないが、サイズが一回り以上小さい。外形寸法は359×103×111mm(幅×奥行き×高さ)で、Bluetoothスピーカーとしてイメージする一般的なサイズ感だと言える。ハイレゾ対応のオールインワンスピーカーとしては、かなり小型の部類に入るだろう。
色もX99はブラックのみなのに対し、X88はブラックとホワイトの2色展開だ。今回はホワイトのほうをお借りしている。ただホワイトと言っても、パンチングメタルが白っぽいのと、側面がシルバーになっているぐらいで、パンチングメタルを外して正面から見ると、ブラックもホワイトもあんまり違わない。
ボディが小さいぶん、スピーカー類もそのままのイメージで均等に小さくなっている。スーパーツイータはほぼ同サイズだが、メインの磁性流体スピーカーは、X99が50mm径なのに対し、X88は40mm。サブウーファーは94mmに対し、69mm。パッシブラジエータも対角96mmが74mmだ。アンプはツイータに15W×2、メインに15W×2、サブウーファに30W×1で、合計90W。X99に比べると、不足しがちな低域にかなりのパワーを割いているのがわかる。
コントロールのボタン類はなく、すべて上部をタッチするのはX99と変わらない。ただX99が電源とボリューム以外、バックライトが点灯して初めてタッチ部分が現われる作りなのに対し、X88はボタンが全部印刷になっている。このあたりはコスト削減の影響も見られるが、実際にはほとんどの操作はリモコンだけで事足りるので、ユーザーが気にするようながっかりポイントではないだろう。
背面の端子などは変わらず、再生機能も同じだ。電源は、X99は内蔵だが、X88はACアダプタによる駆動になっている。その代わりX88のほうがトータルで電源ケーブルが長いので、ちょっとした設置場所の移動にはメリットがある。
気になる音質は?
ではさっそく音を聴いてみよう。現X9ユーザーとしては、X99との音の違いが気になるところだ。今回はUSB接続でPCと接続し、ハイレゾ音源を再生してチェックしてみる。なお、試聴はすべて、パンチングメタルを外した状態で行なっている。リスニングは和室の仕事部屋で、床はフローリングカーペットだが、周囲はふすまや障子など紙類が多いため、音響特性としてはかなりデッドな部屋である。
X9とX99は、ハードウェアスペック的にほぼ同じなので、音の傾向はかなり近い。強いて挙げれば、X9は明るく元気で歯切れのいい音が魅力だが、X99はもっと連続性というか、音のなめらかさや、低域から高域までの繋がりの良さに注力して作られた音だと言える。
音のメリハリと言う点ではX9だが、ハイレゾ特有の密度感を正確に再現するという点では、X99に軍配が上がる。どちらが良い/悪いという事ではなく、どっちが好きかという点で意見が分かれるところだろう。
個人的にはX9の音を聞き慣れているので、X99の音は若干大人しく優等生的に感じる。ただ実際に聴き比べても、それほど大きく音のカラーが違うわけではない。 “X9系の音”という点では、方向性は同じだ。4つの新機能が使えないのは残念だが、X9のユーザーがわざわざ買い換えるほどではないように思う。
続いてX88を聴いてみよう。容積、アンプ、スピーカーに至るまですべて違うので、X99と全く同じ音というわけにはいかないだろうと思っていたが、傾向としてはかなり近い。ただし、リスニングポイントによる。
それというのも、X88は上方向にツイータがないので、真正面から聴くのと、ちょっと上から見下ろして聴くのでは、印象が大きく変わってしまうのだ。真正面から聴けば、高域も綺麗に抜けるため、サウンドカラーが明るく、低域もなかなか元気がいい。低域の量感という点でも、X99と遜色ないように念入りにチューニングされているのがわかる。ただ横幅が短いので、ステレオイメージはどうしてもやや小さくなる。その点は物理的な問題なので、致し方ないところだ。
面白いのは、X99の方は意外に音の直進性が強く、ほぼ正面に居れば縦方向のリスニング位置は選ばないが、横に移動するとサウンドの印象が変わる。一方X88は、縦方向のリスニング位置は選ぶが、横方向の移動ではあまりサウンドの印象が変わらない。
棚の上などちょっと高いところに置いて、部屋に広く音を撒くといった聴き方をするのであれば、X88のほうが向いているだろう。ガンガンに鳴らすというより、キッチンやダイニング、あるいは仕事場に置いて、ずっと音楽を流してるみたいな使い方に最適だ。
一方、X99の方はやや求道的というか、部屋の正面にきちんと設置できて、座り位置もだいたい決まってるといった、固定された聴き方の方が向いている。大音量にも耐えられるので、ガッツリ音楽を楽しむユーザーに向くだろう。
新機能3項目をテスト
では、追加された新機能もチェックしてみたい。上で紹介した4項目のうち、2つ目のIEEE 802.11n対応については、まあ高速化したので安定するよね、という話でしかないので割愛させていただき、1, 3, 4を試してみよう。
まず1のLDAC対応だ。これは送信側と受信側双方がLDAC対応である必要がある。そこで今回は再生機として、今年1月に発売されたウォークマン、NW-ZX2をお借りしてテストした。Android搭載のハイレゾウォークマンのフラッグシップ機としては2世代目にあたるモデルで、早々にLDACに対応している。
実際の使用は簡単で、NFCを使って軽くタッチするだけでBluetoothのペアリングが行なわれ、繋がると「LDACで接続」という表示が出る。あとは普通に音楽を再生するだけだ。そもそもヘッドフォンにしろイヤフォンにしろ、Bluetooth接続による音楽再生では、コーデックをいちいち指定したりしない。使用可能なコーデック中で上位のものが勝手に使われるだけである。LDACも同じ扱いのようだ。なお、ZX2の場合はユーザーが「標準」と「接続優先」から選ぶ事もできるので、音が途切れるときは接続優先を選ぶ事も可能だ。
実際にX99をベースに、LDACとUSB接続で同じ音源を試聴してみた。入力ルートによって音量が多少変わるため、条件を合わせるのに手間取ったが、聴き比べても違いはほとんどわからない。従来機のX9ではaptX止まりなので、これまでBluetoothで聴くメリットはほとんどなかった。LDACは非可逆圧縮だが、この手軽さでこの音質という点では、非常に優秀だ。
現時点でLDACに対応しているプレーヤーとスピーカーを製品化しているのはソニーしかないが、他社にライセンスすることも考えられている。再生機側の実装では技術的なハードルは低いようなので、ウォークマンやXperia以外の選択肢が拡がることを期待したい。
3の「SongPal Link」も試してみよう。これの中核になるのは、スマホアプリの「SongPal」だ。以前このアプリは、スマホをSRSシリーズのリモコンにする的な性格で、ネットサービスもここから起動してSRSに渡すといった役割だった。
だが定額制のストリーミングサービス「Music Unlimited」も終了し、さらには複数のスピーカーを扱えるSongPal Linkと、音楽サービスアプリから対応機器に向かって音を直接「投げられる」Google Castの登場で、アプリの意味合いが変わってきた。「SongPal Ver3」以降では、スピーカーが複数台あり、ソースも複数ある環境で、それをマッチングさせるためのツールという立ち位置に変わったようだ。
SongPal Link最大の特徴は、Wi-Fi接続可能なスピーカーをまとめてグループ化できる事だろう。このグループに対してソースから音を流すと、複数のスピーカーから同時に同じ曲が再生される。筆者宅の環境では、私物のX9を含め3台のWi-Fi接続スピーカーが見える。このうちSongPal Link対応はX99とX88だけだ。どちらかのアイコンをもう一方に重ねると、グループ化できる。試しにX9のアイコンも重ねてみたが、機能対応してないのでグループ化できなかった。
グループ化したX99とX88に対して音楽を再生すると、ぴったりシンクロして曲が再生される。位相単位のズレもないため、部屋中や家中に音を広げたい場合は有効だ。どこに行っても同じ曲が同じタイミングで流れるのは気持ちのいいものである。
ずっと再生していると、時々曲の先頭で微妙に再生タイミングがずれる事もあるが、8小節ぐらい進んだところでまたぴったり一致する。2つのストリームを再生しているのか、あるいは出力先を2分配しつつも再生先の状況をフィードバックしているのかわからないが、定期的に同期を取っているのは間違いなさそうだ。
4のGoogle Castも試してみた。Google Cast対応アプリは、現在70あまり揃ってきている。映像が出ないとしょうがないサービスも多いが、音楽ものをピックアップすると、Google Play Music、Pandra、iHeart Radio、Rdio、TuneIn Radioあたりだろうか。大手Spotifyがないのを筆頭に、日本でサービスインしていないものも多い。最近日本ではAWA、LINE MUSICが立て続けにサービスインしたが、それらは対応していないのが残念だ。
Google Play MusicはZX2にもプリインストールされているが、音楽のストリーミングサービスが日本からは利用できないため、現時点では単なるローカルファイルのプレーヤーでしかない。ハイレゾソースの再生にも対応していないので、今回は使用せず、TuneIn Radioを試してみた。
使い方としては、Chromecastを使う際と変わらない。画面上部にCastアイコンがあるので、そこから機器を選択して再生するだけだ。ポイントは、実際にサービスに接続して再生しているのは、X99/X88側だという事である。したがっていったん再生が始まれば、スマホやウォークマン側ではアプリを終了したり、別のアプリで別の曲を再生することができる。インターネットラジオなどとは相性のいい機能だ。
総論
X99の登場でX9ユーザーとしては心穏やかではなかったが、音質面では大幅に進化したわけでもなく、ややブラッシュアップという程度に留まった。4つの新機能はどれも魅力的だが、十分に楽しめるようになるには、ソニー1社が頑張ってもどうにもならないものが多く、その点では環境が整うまでに時間はかかりそうである。
個人的には、X88は売れるだろうと思う。機能的にはX99と同じだし、ワイヤレススピーカーに7万円出すのはかなりの好事家かもしれないが、4万円ぐらいならなんとか……というユーザーのハイレゾ入門機としては、なかなかいいポジションだ。
注目のLDACは、X99/X88のようなハイレゾ対応モデルに加え、ハイレゾ非対応の下位モデル、X77やX55でもサポートされている。個人的には他にも再生方法がいっぱいあるX99のような機材に積んでも、それほど活用されないのではないかと思うので、Bluetoothしか再生方法がないような低価格なモデルでこそ積極的に対応するのが望ましい。
ハイレゾ音源でなくても、AACやaptXでは物足りない性能のイヤフォン、ヘッドフォンもある。そういうものに搭載されてこそ、上位コーデックとしての意味があるだろう。
Bluetoothスピーカーも、初期は1万円以下の小型モデルがウケていたが、次第にその良さが浸透し、今は1万数千円ぐらいの価格帯がメインストリームとなっている。X99/X88を“Bluetoothスピーカー”というくくりに入れていいものか悩むところだが、ワイヤレスならBluetoothぐらいしか知らない人も多い中、“ハイレゾ”や“LDAC”にも対応しているという魅力が上手く伝わるだろうか。
実際に使ってみればなんということもないのだが、このシリーズの難点は、機能や接続方法が多いので、説明すればするほど難しそうに見えるところである。店頭で説明する店員さんが苦労する商品だろう。
ソニー ワイヤレススピーカー SRS-X99 | ソニー ワイヤレススピーカー SRS-X88 |
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