小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第755回
約15,000円!? 激安4Kアクションカメラ「H8」を試す。お得なジンバルセットも
(2016/5/11 10:00)
名前があるようなないような……
4月の中頃だったか、アキバ系の製品情報サイトで激安の4Kアクションカメラの情報を見つけた。4K/30pが撮れて、アクセサリ類も付いて14,000円ほど。今国内で入手できる4K対応アクションカムは、だいたい平均すると4~5万円ぐらいなので、破格に安いことになる。
もちろん有名メーカーというわけではなく中国製で、アキバではノーブランド扱いで販売されているようだ。一応アクセサリ類もフルセット付いているようなので、これまで高くて手を出せなかった人には朗報ではないだろうか。
この手の製品はGoProと全く同サイズで作られているため、GoPro用のジンバルが使える。このカメラと、GoPro用ジンバルをセットで販売しているショップがあったので、両方をお借りしてみた。セットでも48,600円だ。ただし常時この価格ではなく、期間限定のようである。なお、カメラのみでは特価で15,800円となっている(5月10日現在)。
海外ではすでに「Eken H8」という名称でレビューなども上がっている。外観やスペックからすると、同じものだろう。この手のカメラはCESなどでも大量にあちこちから出展されており、製造メーカー側は自社ブランドに拘らず、販売先に合わせて多少カスタマイズをして出荷するというパターンのようだ。
さすがにこの価格で4K大丈夫か? と思いつつも、HD解像度でそこそこ使えるのであれば十分安い。アクションカムに限らず、こういった手法の製品は日本国内でもかなり流通していると思われるので、ちょっと試してみよう。
若干変則的な動画撮影スペック
アキバで売られているカメラは「H8R」という型番になっているが、これはワイヤレスのリモコンが付属しているタイプのようである。今回、湘南空撮というショップからお借りしているのはリモコンが付属しない「H8」というモデルで、パッケージにはリモコンのシールが貼ってあるが、実際には同梱されないという。販売店に応じて同梱物を減らしたり追加してシール対応したりと、色々なバリエーションが存在するようだ。
サイズとしてはGoPro HERO4と合わせてあるようで、ボタンの位置などもおそらく同じだろう。液晶モニタや端子類の位置は違うようである。パッケージ写真ではカラーバリエーションは7色あるようだが、今回はブラックをお借りしている。
正面には0.95型カラーのステータスモニターと、電源・モード変更兼用ボタンがある。レンズは170度の広角で、センサーはソニーのExmor R。資料によれば「IMX078」とあるので、おそらくこれ(リンク先はPDF)だろう。
背面には2インチのカラー液晶を備えるが、タッチパネルではない。左手にはmicroSDカードスロットと、microHDMI出力、USB端子、スピーカーがある。Wi-Fiによるリモート撮影にも対応しており、右手側にはWi-FiのON/OFFボタン、天面にはRECボタンとマイクがある。底部はバッテリスロットとなっており、バッテリの交換が可能だ。
本体用の防水ケースを始め、アクセサリー類はかなり多い。組み合わせ的にどう使うのかよく分からないパーツもあるが、とりあえず当面の用途には困らなさそうだ。ケースに入れれば水深30mまで行けるそうだが、国際規格のIPX表示は見当たらないので、用心しながら使ったほうがいいだろう。
撮影モードとしては、動画、静止画、静止画連射、タイムラプス、360度VRがある。360VRは数台のカメラをリグで組み合わせて撮影することを前提としており、アスペクト比1:1の撮影となる。
モード | 解像度 | フレーム レート | ビット レート (実測) | サンプル |
4K | 3,840×2,160 | 30p | 78.5Mbps | FHD0061.MOV(105MB) |
2.7K | 2,704×1,524 | 30p | 60Mbps | FHD0058.MOV(73MB) |
1080/60P | 1,920×1,080 | 60p | 35Mbps | FHD0059.MOV(30MB) |
1080/30P | 1,920×1,080 | 30p | 22Mbps | FHD0060.MOV(19MB) |
VR | 1,440×1,440 | 30p | 24Mbps | FHD0064.MOV(23MB) |
メニュー操作は全てボタンのみで行なう。メニュー項目の移動は前面のモードボタン、決定はRECボタンだ。メニューを1項目戻るにはWi-Fiボタンを押す。メニューは日本語も選べるようになっており、多少わかりづらい表現もあるが、概ね普通に理解できる。
Wi-Fi接続によるスマートフォンのリモート撮影もできる。コントロール用アプリは「Ez iCam」で、パッケージの裏に二次元バーコードがあり、それを読み込ませてダウンロードする。現在Android版は、スマートフォンの機種によっては動かない場合があるようだ。
三軸ジンバルの方も見ておこう。もともとはGoPro HERO4用として売られているもので、「Magic-ProII」という名称だ。この手の製品も最近多くのメーカーが登場し、ジンバル入門として製品も安定してきている。
底部から16340バッテリを3つ挿入するが、電源スイッチはなく、蓋の部分のスクリューを回していくと接点がせり出してくるので、接触して通電すると電源が入るという仕組みだ。なおバッテリは3つ必要だが、専用充電器は同時に2つずつしか充電できない。こういう寄せ集め感は、中国製品にはよくあるパターンだ。
ジョイスティックを備えており、パン・チルト以外にもモードを変えればロール(水平方向の傾き)も変更できる。なおジョイスティックの感度に関しては、購入前にショップにリクエストすればカスタマイズしてくれるそうだ。お借りしている製品は、通常品よりもゆっくり動くようにチューニングされている。
また前面にあるスイッチを何回押すかで、4つの動作モードを変更できる。
操作 | 動作モード | 動作 |
1回押し | ヨーフォロード | 上下は固定、左右のパン のみゆっくり追従 |
2回押し | ヨーロック | 上下左右とも固定 |
3回押し | ピッチ/ヨーフォロー | 上下左右とも ゆっくり追従 |
4回押し | ヨー/ロールコントロール | 上下左右とも ゆっくり追従 ジョイスティックで 上下チルトと ロールを制御 |
やはり4Kは……
では実際に撮影してみよう。アクセサリが豊富ということで、まずは自転車のハンドルに装着してみた。本機には手振れ補正がない。舗装道路と悪路の両方を走ってみたが、レンズがかなり広角なこともあり、ブレはそれほど気にならない。
それよりも気になったのが、4Kモードの解像感の低さだ。ビットレートは80Mbps近くあるが、コーデックがMotionJPEGなので、画質的には上がらない。同じくMotionJPEGを使うCanon EOS 1DCでは、4K記録のビトレートは530Mbpsにもなる。それから考えると、この4Kモードはビットレートが低すぎだろう。
レンズやセンサーの特性を見るには、動画よりも静止画の方がいいだろう。センサーは発色の良さはあるが、色の濃淡は多少べたっとした感じがある。中央付近の解像感はあるが、周辺はやや絵が流れる傾向が見られるのは、魚眼レンズの宿命である。フォーカスはパンフォーカスで、近距離はそれほど強くない。レンズ前20cmぐらいが限度だろう。センサーの素性はいいので、意外に写真はちゃんと撮れるという印象だ。
ジンバルとの組み合わせでも試してみた。水平なところにジンバルを立て、電源を入れて数秒そのままの状態を保持すると、自動的にキャリブレーションされる。乗せられるカメラがGoProとH8の決め打ちなので、手動でのキャリブレーションは必要ない。
HDモードは画質的にもかなりクリアだ。映像的にも高コントラストで、見栄えのいい絵が撮れる。若干明るい方がとび気味の傾向はあるものの、1万円ちょっとのカメラということを考えれば、十分だろう。
レンズが170度と広角ゆえに、ローアングルにするとジンバルのモーター部が写り込んでしまうが、歩きながらでの撮影でもかなり滑らかだ。そもそも手ぶれ補正がないので、振動の多いスポーツで固定カメラとして使うには、あまり向いていない。なのでジンバルとの組わせがベストだ。スケートボードやローラースケートなどの滑り物と組み合わせると、さらに滑らかになるだろう。もう連休が終わってしまったが、行楽地をぶらぶらしながら撮影するのも楽しそうである。
ジンバルのジョイスティックは、上下左右だけでなく斜めにも軽く動かせるようになっている。自在に動かせるという点ではメリットもあるが、カメラを完全に真横や縦にだけ動かすには、かなりそれを意識して操作する必要がある。パンだけをやりたいと思っても、微妙にチルト方向にも動いてしまうということもあった。
アプリ「Ez iCam」によるリモート撮影を行なうと、画質モードは自動的にHD解像度固定となる。ビットレートから考えても、4Kを伝送するのは無理があるのだろう。HD解像度は、60pか30pかを選択できる。遅延は10フレーム程度で、リモート撮影としては平均的だ。動画だけでなく静止画撮影にもモード変更が可能だ。
Ez iCamは編集機能も備えている。カメラからWi-Fiを経由して動画ファイルをスマートフォンにダウンロードし、そのファイルに対して編集を行なうわけだが、編集というよりも1カットずつのトリミングができるだけだ。余分なところをカットしてすぐネットにアップするような用途という意味では、GoPro的と言えるかもしれない。
総論
GoPro互換アクションカムは、世界中に結構ある。以前ご紹介したUPQの「ACX1」もそういう製品の一つだが、これは日本企業がブランディングを行ない、販売とサポートを行なうという点では、大手企業がやっている手法とそれほど違わない。
その一方でH8は、メーカー名やブランドがはっきりしないままに、販売店主導で国内にどんどん入ってきているカメラだ。これまでメモリーカードや汎用的なPCパーツ、あるいは監視カメラのようなものは、ノーブランドでアキバの店頭に並ぶということはあった。その波がアクションカメラにも及んできたということだろう。
撮影機材としては、ジンバルも有象無象の類似商品が存在する世界だ。やはりGoPro用を謳う製品が最も多く、価格帯もだいたい同じ、あとはボタンの作りが多少違う程度だ。ただジンバルの場合、ハードウェアとしては大差なくても、制御ソフトの作りこみ次第で結構挙動が変わる。自動キャリブレーションの精度や動きに対する追従性、ジョイスティック操作による動作速度など、弄れる所は結構多い。ハイエンドモデルになれば、自分でカスタマイズできるツールが付属する場合もあるが、GoPro用といった低価格商品では、まだそこまでは至っていない。現時点では、一部の販売店だけでカスタマイズを受け付けるところもある、という程度だ。
4Kの画質は今ひとつだが、HDモードでは問題なく使える。無理して4K対応を謳わなくても、この画質でこの価格ならば、HDモードだけで十分競争力はあっただろうが、いかにも中国メーカーらしい「盛り具合」とも言える。
おそらく今後このようなノーブランド商品は、他のジャンルでもアキバや通販を通じて国内に浸透していくものと思われる。多くのニュースサイトでは、カタログやパッケージの内容から製品情報を紹介をする程度だが、ちゃんと同じまな板に載せて目利きを行なうというのも、本コラムの重要な役割ではないかと思う。