小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1176回

Instagramから無料の動画編集アプリ登場。「Edits」で何ができる?
2025年5月28日 08:00
動画プラットフォーム化するInstagram
Instagramは「バエ写真」加工ツールとしてブレイクしたSNSだが、昨今では友達とのメッセージングに使ったり、美味い店を探したり、あるいはハウツー系ショート動画を探したりといった具合に、インフルエンサーの狩場みたいな状況ではなくなっている。
以前は24時間で消えるストーリーズに「気軽に動画投稿」といった行為が主流だった動画だが、次第にフィードやリールに残る動画が投稿されるようになっていった。高校や大学が自校の広報動画を投下するなど、ちゃんと作り込まれた動画の比重が高まっている。
Instagram動画は、縦長推奨であること、フィードおよびストーリーズは最大60秒、リールは最最90秒とショート動画であること、などの特徴がある。これまでは公式動画編集ツールと言えるものはなく、編集ツールにInstagram出力プリセットを設けて対応するケースが多かった。
そんな状況の中、サービス元のMetaがInstagram専用動画編集アプリ「Edits」を4月23日にリリースした。iOSおよびAndroid版があり、Instagramアカウントがあれば無料で利用できる。
スマートフォンの動画編集アプリは、これまで大手からはAdobe「Premiere Rush」やApple「iMovie」、学生を中心に利用が広がった「CapCut」、GoProユーザーを中心に利用されている「Quick」などがあった。これらでインスタ動画を作っている人も多いだろう。特定のサービスに紐づいた編集ツールというのは、TikTokのようなアプリ内蔵型になっている。
Instagramとは別アプリとして提供される「Edits」は、どういった特徴があるのか。早速テストしてみよう。
カメラ機能もあるが、大きな落とし穴が……
今回はiOS版のEditsでテストしている。使用機材はiPhone 16eだ。
まずインストールすると、利用規約への同意が求められる。基本的にはInstagramの利用規約とMetaのプライバシーポリシーに同意することになる。
最初に行なうことは、プロジェクトの設定である。動画作品は、プロジェクト単位で管理される。画面下に並ぶアイコンは、Editsに搭載されているサブ機能への切り替えだ。中央ボタンが編集ツールで、これがメイン機能である。
左端はアイデアツールで、動画作成のアイデアなどをメモしておける。次はインスピレーションツールで、音楽トレンドやフォロー中のユーザー動画を参照できる。
編集ツールの右側はカメラツールで、スマホカメラへアクセスして動画の撮影ができる。一番右はインサイトツールで、投稿動画の再生数などが参照できる。
なにはともあれ編集素材として動画を撮影する必要がある。Editsのカメラツールでは、解像度やフレームレート、SDR/HDRの切り替えができる。また映像を切り抜いたり、カウントダウンタイマーなどの便利機能も備えている。このアプリだけで撮影から編集まで……というコンセプトのようだ。
ただ現状では、このカメラツールを使うことはおすすめしない。それというのも、撮影した動画はEdits内にテンポラリ的に保存されるだけで、OS側のライブラリ(Editsではギャラリーと表現)に保存されないという難点がある。これはうっかりすると、大きな問題になる。
撮影後に編集に移行すると、自動的に撮影したクリップ全部がタイムラインに追加される。だがこの撮影したクリップをタイムラインから削除してしまうと、もう二度と取り戻せない。
例えば、まとめて2本目も撮影したが、1本目では使わないからとクリップをタイムラインから削除することはあるだろう。だがこれはどこにもバックアップ保存されていないので、もう一度撮り直しになる。
計画的に動画コンテンツを制作するケースでは、2本撮りや、タイトルバックなど使いまわしの映像を撮影することは多い。撮影した動画はプロジェクト単位で保存されるので、撮影だけ行なったプロジェクトを複製して、複製の方で編集していくといった手順が妥当だろう。だがそもそもこうした効率化に標準で対応できていない設計は、クリエイター向けツールとしては厳しい。
また最長10分しか撮影できないのも問題だ。一連の流れを撮影したつもりが、10分で止まっていたということが起こる。特にスマホを固定し、1人で手元を撮影している場合などは、止まっているのに気が付かない。
色々面白機能は搭載されていても、これらの仕様が変更されない限り、Editsのカメラは使わないほうがいいだろう。
遊び心溢れる編集ツール
では編集機能の方を見ていこう。基本的に縦動画編集ツールなので、作業画面も縦で行なう。タイムラインには最低1個の動画か静止画が存在しなければならず、空のタイムラインからスタートすることはできない。
最初のクリップがタイムラインに配置されると、最初はベーストラックしかないが、文字情報などを加えていくと自動的にトラックが追加されていくという仕組みだ。
ベーストラックの編集は、クリップの使いどころを前と後ろから詰めていくか、再生ポイントで分割していらないところを捨てていくというスタイルである。これらは一般的な編集ツールと同じ作法だ。またクリップを削除すると、間が開くわけではなく、自動的に前方へ詰まっていく。
クリップの追加は、右側の「+」ボタンをクリックすると、カメラで撮影するか、ギャラリー(iOSでは写真ライブラリ)から選択する。
各クリップは、「調整」機能で明るさやコントラストなどの調整ができる。また「フィルタ」機能ではカラーグレーティングのような効果が適用できる。現在選択中の動画で効果のサムネイルが表示されるので、効果のタイプがわかりやすい。どちらもすべてのクリップに対して同じ効果を適用できるので、全部を同じトーンにしたい場合もクリップをマルチ選択する必要はない。
またタイムライン上で選択されたクリップは、動画画面をピンチインすることで拡大や移動ができる。4K解像度で撮影しておいて使いたい部分だけ拡大し、最終的にHD解像度で書き出すといった使い方もできる。
クリップとクリップの間をタップすると、トランジション効果が選択できる。シンプルなものからエフィクティブなものまで、色々揃っている。「効果音」も付けられるので、音付きのトランジションにすることもできる。
今回はプレーンヨーグルトとクリームチーズでレアチーズケーキを作るという、HowTo動画を作ってみた。まずはベーストラックだけ編集してみた。
ここに何らかの説明を加えないと、黙って作っていくだけでは何もわからない。逐一テロップを入れるという方法もあるが、時間がかかる。そこでおすすめしたいのは、まず「音声」ツールを使ってテロップとして入れたい情報を喋り、それを「キャプション」ツールを使ってAIで文字起こしするという方法だ。
「音声」ツールは、ボイスオーバー(アフレコ)のためのツールで、タイムライン上の音声を入れたいところで留めておき、録音ボタンを押すとそこから録音がスタートする。
一通り録音が完了したら、「キャプション」ツールを選択し、作成先を「ボイスオーバー」とする。するとAIが先程録音した音声を聞き取って、キャプションを作ってくれる。
多少の誤変換はあるので、手動で修正する。また字幕が出るタイミングなどもボイスオーバーとはズレているので、そこも修正する。
そのほか装飾的な機能としては、「ステッカー」機能や、「オーバーレイ」機能がある。
最後に音楽を選択して適度な音量でミックスすれば、概ねやりたかったことは完成である。音楽はInstagram内の使用で権利許諾が取れている既成曲やオリジナル曲が選択できる。
エクスポートボタンを押して、レンダリングし、Instagram、Facebook、Threadにシェアする。シェアせずこの画面を閉じれば、ローカルのライブラリに出力される。
総論
初期バージョンでありながら、ショートコンテンツを作るツールとしては、必要な機能をオールインワンで積むことはできたのかなという気はする。
使っていて突然終了するということはないが、どこかで動きがおかしくなると、それが解決されないままずっとプロジェクト内に問題を内包したままという傾向があるように思う。今回もキャプションの編集中に、キャプションの持続時間を変えると文字の中身が消えるというバグに遭遇したが、それ以降エクスポートが99%のところで停止するという問題が出た。
1度こうなると、該当のキャプションを削除してもトラブルは解決せず、プロジェクトの複製もままならない状況になってしまう。正直細かい部分でまだバギーなので、本番のコンテンツをこれで作るのはまだしばらく様子を見たほうがいいだろう。
コンテンツとしてはまだ途中ではあるが、最終形に近いものはInstagramのリールにアップロードできたものがあるので、そちらを参照していただきたい。
今後追加される機能として、クリップの位置、回転、スケールをアニメーション化する「キーフレーム」、 AIを利用して動画の雰囲気を変える「変更」、下書きを共有できる「コラボレーション」といったアップデートが予定されている。これらが搭載される際に、細かい部分のバグも潰されていくだろう。
InstagramなどMeta系のサービス専用となっているのは、やはりTikTokのようなショートムービーのオールインワン制作ツールが求められている、ということもあるのだろう。ご承知のように米国ではTikTokの事業売却を巡って法的措置が執行中であり、将来的にサービスが継続できるのは微妙なところになっている。これの受け皿としてのInstagram、という図式にしたいという目論見もあるのかもしれない。
とはいえ、音楽とダンスをベースにしたTikTokに変わるようなものではなく、Instagramで求められている機能を凝縮したものという方向性のようだ。