小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第650回:4K編集モンスターマシン、新Mac Proをテスト
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第650回:4K編集モンスターマシン、新Mac Proをテスト
4K/60p相手にサクサク編集できるのか!?
(2014/2/5 10:00)
ついに発売開始されるも……
昨年6月のWWDCでチラ見せ的に公開された新Mac Pro。その独特のルックスから、似てるゴミ箱の中にPCを仕込む者まで現われたという、発売前から伝説化していたハイスペックマシンが、12月19日より予約開始となった。ただ2月4日時点でApple Storeの情報を見ると、出荷予定日が“3月”となっており、かなり品薄な状況にあるようだ。
今回は運良く、Apple Japanから1台お借りすることができた。おそらくスペック等に関しては多くの媒体が報じるだろうが、本稿では実際に4K60p映像の編集パフォーマンスを中心にテストしてみたい。
新Mac Proは、下位モデルでもIntel Xeon E5のクアッドコア、上位モデルでは12コアまである。またグラフィックスプロセッサも2枚標準で組み込まれるなど、いわゆる普通のパソコン的に使われる用途からは、はるかに逸脱したスペックだ。個人的にはどう考えても、4K映像を編集するためのマシンにしか見えない。
Appleは過去、プロ向けの映像編集ソリューションを積極的に展開し、多くのプロユーザーを獲得したが、ハイエンドのMac Proラインナップは2012年以降、新モデルが発売されてこなかった。また2011年発売の編集ソフト「Final Cut Pro X」もUIが大幅に変更された事や、前バージョンで実装されていたプロ向け機能の実装が遅れた事により、従来の使い勝手を好んでいたユーザーからは不評で、次第にFinal Cut Pro離れが起こっていた。
その間に4Kの映像制作が徐々に行なわれるようになり、多くのMacユーザーが4Kの編集パフォーマンスに不満を感じていた。またAppleは近年、プロ向け映像ソリューションの開発が停滞しており、このままプロ向けは辞めてしまうのではないかという疑問も持たれていた。
それを払拭したのが、Late 2013モデルと呼ばれる新Mac Proである。従来のデスクトップ型の概念を変えるMac Proは、どこまでのパフォーマンスを発揮するのだろうか。
コンパクトハイエンドを実現
Mac Proは、BTOでCPUやGPUなどのグレードを選択することができる。今回お借りしているのは、以下の組み合わせである。
プロセッサ | Intel Xeon E5(2.7GHz/12コア) |
メモリ | 32GB(8GB×4) 1,866MHz DDR3 ECC |
ストレージ | 512GB PCIeベースフラッシュストレージ |
グラフィックス | デュアルAMD FirePro D700 GPU |
Apple Storeでこのスペックでオーダーすると、税込み89万6,700円となる。本体は直径16.7cm、高さ25.1cmの円筒形で、ハイエンドのデスクトップPCとしては破格に小さい。従来のPCはデスクトップと言いつつも、本当に机の上に載せている人は少ないだろう。大抵は床置きである。だがこのサイズであれば、本当に机の上に載せても邪魔にはならない。ただ重さは5kgと、サイズのわりには結構重い。
本体の外装にはなんの機能も装飾もなく、背面のポート面にすべて集中させている。というか、これではどこが正面なのかもよくわからないが、普通はケーブルが出てる方を背面と認識するので、やっぱりポートがある方が背面なのだろう。
電源ボタンも背面にあり、特に出っ張っているわけでもないため、手探りでは電源が入れにくい。やはり本当に机の上に置いた方が、使い勝手はよさそうだ。
背面ポートは、普段は電源ボタンが点灯しているのみだが、本体を物理的に動かすと、ポート部分がLEDで囲われる。恐らくモーションセンサーが組み込まれていて、ケーブルを挿そうとして本体を回転させるとライトが付くようになっているのだろう。このあたりも贅沢な作りである。
ポートの構成は比較的シンプルで、USB 3.0×4、Thunderbolt 2×6、ギガビットEthernet×2、HDMI 1.4×1という構成だ。ディスプレイはThunderbolt端子を使い、最大6台まで接続できる。ただし4Kディスプレイは3台までとなる。なお今回はThunderboltディスプレイが手元になかったので、HDMI端子でPCモニタを接続している。
ヘッドフォン出力、光デジタルとアナログオーディオ兼用端子も各1系統ある。無線LANはIEEE 802.11a/cとBluetooth 4.0に対応する。
端子左のスライドスイッチは、本体の外装カバーを外すためのものだ。動作中に空けられないように、カバーを外すと電源が切れるようになっている。ただ簡単に開くとは言っても、表面からすぐにアクセスできるのはメモリスロットぐらいだ。
HDMIが1.4であることを除けば、ほぼほぼ最新仕様をフル装備しているマシンだ。このタイミングにも関わらず、敢えてHDMI 2.0を採用しなかったのは、4K60pを出力するニーズがないという判断なのだろう。米国では4Kとは24pか30pの事であり、4K60pは2016年頃から世界の情勢に合わせて考えるぐらいのスタンスなので、これからさらに拡張が続くかもしれないHDMI 2.0の実装は見送ったということかもしれない。
4K60pを実際にテスト
日本においては、4Kはテレビ主導で推進することになっているので、60pを基本としてコンテンツ開発が進んでいる。4K24pや30pはすでに多くのハイエンドWindowsマシンで編集可能だが、そんなマシンでも4K60Pに対しては、単純な等速での再生すらままならないのが実情である。そこでMac Proに期待がかかっているわけだ。
お借りしたマシンには、4K素材をFinal Cut Pro Xで編集したプロジェクトファイルが入っていたので、中身を調べてみた。9台のマルチカメラを編集したもので、タイムラインを再生すると、ひっかかりもなくスムーズに再生される。
素材クリップのプロファイルを確認したところ、ProRes 422の3,840×2,160で、フレームレートは23.98fps(いわゆる24pと同等)であった。24pではあるが、9つのレイヤーを同時に走らせるパフォーマンスは持っているという事になる。
では4K60p素材はどうだろうか。今回は以前レビューしたJVCケンウッドの4Kカメラ「JY-HMQ30」をもう一度お借りして、4K60pの素材撮影をおこなった。
このカメラの場合、4つのSDカードに撮影された映像をマージして1つの4Kストリームを作る必要がある。このため専用ユーティリティ「JVC 4K Clip Manager」がJVCから提供されている。1分49秒のクリップをProRes422(HQ)に変換する時間を計測したところ、実測で4分11秒であった。実時間のおよそ2.3倍程度である。このアプリケーションはGPUを使わないため、純粋にCPUパワーでのパフォーマンスという事でいいだろう。
変換した4K60pファイルをQuickTimePlayerで再生したところ、ひっかかりもなく再生された。ただ、ディスプレイが4Kサイズではないので、縮小した状態で再生している事になる。
ではこれらの素材を使って、実際にFinal Cut Pro Xで編集を行なってみよう。Final Cut Pro Xは、Dual GPUに対応している、数少ないアプリケーションである。
単純なカット編集はもちろん、凝ったトランジションをかけても全く引っかかる事なく、リアルタイムでプレビューが可能であった。カラーグレーディングも加えてみたが、これもまったく問題なくプレビューできた。
リタイミング機能により、8倍の倍速再生、20%のスロー再生も設定してみたが、こちらも問題なくプレビューできた。何レイヤーぐらい同時再生できるのかと思い、ルミナンスキーで10レイヤーを作ってみたが、これも問題なく再生できる。
同じ素材だとバッファするのが速いのかもしれないと思い、別素材で16画面を作ってみた。これはさすがに12面以降はコマ落ちの警告が出るが、バックグラウンドでプレビュー画像をレンダリングしていくので、1分ほど待っていればコマ落ちなしで再生できるようになる。驚異的な演算能力である。
CPUの負荷を見るためにアクティビティモニタを表示させて観察したところ、全域にわたって100%を超えるCPU負荷を観測した。ただ、CPU負荷グラフ表示はそれほど高い数値を示しておらず、92%が待機状態であることを示している。
アクティビティモニタはGPUの負荷を測定できないようなので、おそらくその分がCPUのパフォーマンスとして計上されたのではないかと推測する。再生プレビューでは、かなりの部分をGPUが担当していることがわかる。
こうしてテストしたタイムラインは、1分26秒になった。これを4K60pでレンダリング出力したところ、およそ1分30秒で完了した。すでにカットごとではレンダリングが終わっているので、基本的にはファイル結合だけと考えていいだろう。ほぼリアルタイムでレンダリング出力が終了するならば、作業時間としてもだいたい読める。これは重要なポイントだ。
なお、試しに1080/60pにダウンコンバート出力してみたところ、こちらはおよそ2分50秒であった。縮小処理で多少時間は取られるため、ほぼ2倍の時間がかかる。ただこれは同じコーデックのProRes422に出力した時で、掲載サンプルのように、Compressorを使ってMP4に変換する場合は、小一時間かかる。ただCompressorもデュアルGPUに対応しているようで、アクティビティモニターのCPU負荷は1500%ぐらいの値を示していた。
総論
いささか古い話になるが、その昔3DCGが流行った頃、モデリング時にリアルタイムシェージングを行なうOpen GLと対応グラフィックスカードの登場により、3DCGの世界は飛躍的な進歩を遂げた。その後、GPUの演算結果を表示だけでなく、実際のレンダリング結果に流用するRenderGLという技術ができて以降、GPUに対する考え方は大きく変わった。
ただそうは言っても、PCでは永らくグラフィックスカードは1枚あれば十分、という事になっていた。オンボードのグラフィックスと合わせれば、相当数のモニター出力が得られる。これまでグラフィックスカードを複数枚搭載する意味は、ヘビーなゲーマーがリアルタイムレンダリングの処理能力を上げるためとか、6つとか8つとか沢山のディスプレイを1台のPCで使うといった用途ぐらいしか考えられなかった。
Mac ProのGPU 2枚刺し標準化は、Macの存在意義をもう一歩進めるものである。デュアルGPUによって映像処理を行なうモンスターマシンとして、かつてのIntergraphやSGIのような「グラフィックス・ワークステーション」に相当するもの、そういう立ち位置になる。
Final Cut Pro Xによる4K/60p映像処理だけみても、コンテンツ制作者からみれば、これだけのマシンが100万円以下で買えるなら、かなり安いと言える。もちろん4Kモニターや拡張ストレージも必要なので、本体だけ買えばいいというわけにはいかないが、コストパフォーマンスは相当に高い。
また本体もコンパクトで、ハードウェアのアーキテクチャ的にもパーソナルコンピュータの概念を一歩前進させる設計だ。個人的にはそんなにパワーはいらないものの、一番安いモデルでも買っちゃおうかなと思わせる、考え抜かれたデザインだ。
ストレージがSSDなので起動も速く、スリープしてたのかと思わせるほどである。またこれだけパワーがあるのに、動作中ほとんど無音なのもいい。
今から注文しても3月出荷というのは残念だが、Mac Proの登場で日本の4K映像制作も、話が俄然違ってくる。さらに多くのソフトウェアがデュアルGPUを使って高速化していけば、再び「プロはMac」の時代が訪れるだろう。