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甲子園もインターハイもライブで無料。急拡大「スポーツブル」の狙いを社長に聞く

金足農業と大阪桐蔭の2校が優勝をかけて戦い、大きな盛り上がりの中で幕を閉じた夏の甲子園(全国高等学校野球選手権記念大会)。会社や学校などでスマホから視聴するときに「スポーツブル(SPORTS BULL)」というアプリで「バーチャル高校野球」を利用した人も多いことだろう。コンテンツを“完全無料”で楽しめるのがスポーツブルの特徴だが、プロではなく、アマチュアスポーツの無料配信へ注力する狙いはどこにあるのか。運営する運動通信社の黒飛功二朗社長に聞いてきた。

運動通信社の黒飛功二朗社長

朝日新聞社と朝日放送テレビが運営する「バーチャル高校野球」は、甲子園球場での試合だけでなく、今年は地方大会約700試合もライブ配信。また、スポーツをする高校生にとって大舞台である夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)全30競技をライブ配信する大会公式サービス「インハイ.tv」など、多くのサービスとスポーツブルが連携。アプリからのアクセスも急拡大しているという。

スポーツブルのアプリ上での「バーチャル高校野球」画面

高校野球ライブ配信を立ち上げ。アマチュアスポーツを、無料配信する理由とは

――とても盛り上がった夏の甲子園は、多くの人がスポーツブルのアプリで「バーチャル高校野球」を利用したのではと思います。かなりのアクセス数になったのではないでしょうか?

黒飛功二朗氏(以下敬称略):高校野球のコンテンツとしてアクセス数は過去最高となりました。デイリーアクティブユーザーは最高で300万超、月間アクティブユーザー数 が1,200万超となっている状況です。急激な伸びなので、過去との比較は難しいのですが、6月が数千万PVで、甲子園、インターハイのあった8月は数億PVという規模での伸長です。

――朝日新聞社と朝日放送テレビの「バーチャル高校野球」を、スポーツブルが共同展開するようになったのは今年からとのことですが、黒飛社長はかつてバーチャル高校野球の立ち上げに関わっていたと聞いています。どうして高校野球のライブ配信を始めることになったのでしょうか?

黒飛:高校野球のテレビ放送は視聴率が伸び悩む中で、朝日放送の担当者の方から「高校野球を何とかしたい」との話をいただきました。コンテンツの価値は高いのですが、それを視聴率だけでは測れない状況になっていたと思います。放送があること自体は素晴らしいですが、(仕事などで)デーゲームだと観られない人がいるなど、放送だけでは魅力を伝えきれないという課題に着目しました。もともと朝日放送では高校野球を含め様々な動画配信へ積極的に取り組まれていたので、「高校野球の独立チャンネルを立ち上げれば、魅力が余すことなく伝わるのでは」と思い、提案しました。

運動通信社は、以前勤めていた電通を辞めてから2社目の起業にあたります。1社目は、企業の新規事業プロデュースをサポートする会社で、当時の最初の仕事が高校野球への取り組みでした。そして、提案したバーチャル高校野球構想のプロデュースと開発を受託しました。

スポーツブルは2016年4月からのベータ版を経て、今の形でローンチしたのは同年11月からです。その後、朝日放送と朝日新聞の共同事業であるバーチャル高校野球を、我々のスポーツブルと提携しませんかと提案し、かなったのが今年です。スポーツブルでは、それ以前にも色々なスポーツのライブ配信を行なってきましたが、満を持して、バーチャル高校野球と連携することができました。

――7月~8月のインターハイもライブ配信されていました(インハイ.tvとの連携)。プロスポーツの配信ではなく、アマチュアに特化しているのでしょうか。

黒飛:一般的に、プロスポーツは放映権などを買ったところに権利が付随しますが、基本的に、高校野球などのアマチュアスポーツは大々的には権利ビジネスをしていません。私たちは高校野球を配信する権利を持っているのではなく、主催者である朝日新聞、高野連からの公認を受けて行なわれているバーチャル高校野球というコンテンツサービスと連携する形です。プロスポーツで「配信サービスが何億円でリーグの配信権を買った」という話とは違い、全てがプラットフォーム連携。その中でも、アマチュアスポーツ、特に力を入れているのは学生、高校スポーツのライブ配信です。それ以外では、今年2年目になる東京6大学野球の全試合配信があります。

サービスの初年度は、ライブ配信にこだわるより、まずはニュースサイトとしてベースを整えることを目指し、色々な競技の記事や、記事を持っている専門媒体と契約しました。現在は約60社と契約しています。

“記事プラスアルファ”として、結果の速報や、スタッツ(その試合のチームや個人の詳細な結果)など、データ周りの完備を初年度に徹底しました。それに加えてハイライト動画を、1試合丸々ではなく1~2分で試合の状況が分かる形で観られるようにして、まずは「色々な競技の便利なスポーツ専門ニュースアプリ」という土台を作ってきました。

1年目後半からの取り組みとして、アマチュアの中でも特に学生スポーツのライブ配信、映像配信に注力しています。もともとの戦略からあったものですが、土台ができたので、その上にサービスを追加してきたのがこの1年です。その集大成が、高校野球と、インターハイ全30競技です。夏に関して言えば、高校生の全ての競技のライブ配信を揃えることができました。

――アマチュアスポーツ、学生スポーツにこだわる理由とは何でしょうか? ビジネス的にも魅力があるのでしょうか。

黒飛:マーケット、ビジネス的に見ても、まだまだポテンシャルはあると思います。スポーツブルは、スポーツに特化したメディアとして後発です。一般ニュースメディアの中にもスポーツのカテゴリがあって、主要スポーツの情報が分かるので、スポーツのニュースをざっくり入手することにおいて、今は多くの人がそれほど困っていないという状況です。

似たようなものを作って同じ土俵で競争するよりは、独自の考えで、最初から別のポジショニングをとれるように考え続けてきました。それをざっくり表現すると「観てくれた人から『ありがとう』といってもらえるスポーツメディアをどう作るか」です。抽象的に言うと「便利という言葉だと足りない」という感覚です。もちろん便利さは大事ですが、それ以上に獲得しなければいけないのは「あって助かった」とか「まさかここまでやってくれるとは思っていなかった、ありがとう」といった思いです。「この大会を配信してくれてうれしい」、「今までこんなの映像では見られなかった」という要素をどれだけ積み上げられるか。それが後発でスポーツニュース領域に参入する中での勝ち筋だというのが、私の中で最初からありました。

高校野球ライブ配信以外でも、これまで他の放送局から「うちの放送のスポーツ中継をネットでサポートしてくれないか」という相談は来ていました。ただ、プロデュースとして携わった経験の中で、単に便利というだけだと、存在感が示せないという経験がありました。

スポーツブルでは、まず最低限の土台である便利さとして、色々な競技のニュースが集まっている、結果の速報、スタッツなどが観られるというのがある上で「ワクワクできるもの」というオリジナルの体験を加えていかない限り存在意義がないと、最初から強く思っていました。

アマチュアスポーツの試合は、プロのように1試合1試合を世の中の全員が注目するようなカードではないことがほとんどです。ただ、例えば地元の母校が頑張ってる様子を、東京に出てきているサラリーマンがスポーツブル経由で観ることで勇気づけられたり、何年も連絡していない同級生とその話題で盛り上がったりということが、体験価値を生むために必要だと考えています。

プロスポーツの映像配信サービスは、特に近年は充実して、観ようと思ったら観られるものが数多くある状況になりつつあります。一方で、アマチュアスポーツをネットでサポートしていくことは、高校野球に携わった経験から、ユーザーからの明らかな反応があったのも事実です。

例えば、スポーツブルのアプリを提供しているのストア(App Storeなど)のコメントを見ても、かつての(アマチュアスポーツの映像配信をする前の)キュレーションサービスの時点では「いろんな競技があって便利だね」とか「速報が見られて便利」というものが多かったです。

東京6大学野球を配信したところ、それまでも早慶戦などはBSで放送されていましたが、「東大の試合が全試合LIVEで観れる時代が来た」といったコメントがストアに寄せられました。関係者や親、同級生などから見れば、その1点で“神アプリ”となり得るわけです。

そうした評価や体験を、手間はかかりますが1個1個集めたほうが、“ザクッと便利”よりも、よっぽど価値があるというのを、サービスを続けながら気づいてきました。

どこにでもあるものをキレイに集めるのではなく、観られなかったものを観られるようにすることが、コンテンツ獲得だったり、事業を進める中で核になっています。スポーツ全般を見る中で、アマチュア、特に学生に対して光を当てていく、映像を観られる環境作ってくことが、すごく大きなビジネスチャンスになると思っています。

広告を知る社長の戦略。「ネットワーク広告を、いつかやめたい」

――大きな特徴である「無料で観られること」は最初から決まっていたのでしょうか。また、どのような形で収益を得ているのでしょうか。

黒飛:最初から「完全無料」だけは徹底すると決めていました。「観られるようにしてくれてありがとう」という体験を、有料で提供するという発想はビジネスとしてはあり得るものですが、一方で、学生スポーツは教育の側面であるというのが前提で、「部活動を観させてもらって、スポーツエンターテイメントととらえて楽しんでいる状況」です。

より多くの人に観てもらうことや、今まで興味がなかった人も観てみたら面白かったというように、競技や大会の普及発展とセットに考えない限り、いかにユーザーがコンテンツにお金を払う気持ちがあったとしても、商業化を優先してビジネスを構築すべきではないという思いは強かったですね。とにかく一人でも多くの人に見てもらうということが大前提で、完全無料というのを決めていました。

収益は、無料配信なので広告モデルの形です。10年弱、電通で働いていたので、広告とコンテンツの親和性に関しては自分なりに経験をしています。一般的な広告配信を現在もやっていますが、これを超えた「ワクワクできる広告のモデル」というのを、狭い範囲だけれど実現できるのではないかと思っていて、今チャレンジをまさにしているところです。

これは(ブライトコーブでの対談イベントで)以前にも話したことですが、既存のネットワーク広告を廃止したいという思いがあります。

それは、「何のコンテンツをどう配信して届けるか」を考えて続けているのに、収益モデルとしては「どんな広告素材が流れるか分からない、設計できていない」ことになるためです。

広告とコンテンツのマッチングに関して言うと、スポーツ、特に学生スポーツに関しては、今はベストな状況ではありません。学生スポーツを教育の一環だと考える中で、例えばアルコールの商材や、お金の貸し借りだとか、学生スポーツにふさわしくないと思われる広告、子供ががんばっている姿を、親が地元からパソコンで見ている状況で、せっかく世代を超えた利用ができている時に、そこに水を差すような広告のコミュニケーションはなるべく排除したい。

学生スポーツと、サポートする企業の良質なクリエイティブがあいまった時、スポンサーシップというのはユーザーにとって、邪魔者ではなくカッコよくなるものだ、という考えが根元にあります。これは広告代理店で育ったのが大きく影響していますが、そこに一つの理想の形があるはずと強く思っていて、そこを目指していけるようなモデルを作りたい。

ブライトコーブのイベントでの対談。左から毎日新聞社のデジタルメディア局 石川直人ディレクター、運動通信社の黒飛功二郎社長、ブライトコーブの山崎一正氏

収益化でいえば、アマチュアスポーツの競技数、試合数はものすごいボリュームなので、配信を無料で行なうコストを、今の理想の広告モデルで回収できるというつもりは当初からありませんが、なるべく補うという意味で、ベストな広告モデルを模索しているところです。

動画だけでなく紙媒体も。意外な反響とは?

――ユニークな収益化の一つで、アスリートのインタビュー動画などを観られる、企業スポンサーの「クレイジーアスリート」というページがありますね。これはどういった位置づけでしょうか。

黒飛:毎月1人のアスリートを自分たちで撮影、インタビューしている番組です。8月は高校野球の第100回大会にちなんで、10年前に甲子園を沸かせた斎藤佑樹選手でした。1社提供で、三井不動産さんが広告を出稿し、単にバナーを出すという形ではなく、我々がオリジナルでコンテンツを作っています。

単にトラフィックに対してお金をもらうのではなく、アスリートがちゃんと前に出ること、競技の普及発展、ワクワクさせること。それをユーザーに届けることを、広告費の対価として提供すると決めています。

露出の場所が少なかったり、なかなかテレビや新聞などで言いたいけれど言えなかったことや、誤解を受けているメッセージなどを、ネットではカットせずに伝えることができます。個々のコメントだけを切り取るのではなく、選手が伝えきれてないメッセージを伝える場を作るのが、両者にとって良い結果になるはずです。

広告としては(動画の前に)CMを流していますが、三井不動産は、デベロッパーであり、商業施設を持っています。そこで、商業施設でフリーペーパーとして「クレイジーアスリートマガジン」も作り、配布しています。メディアを広告枠として利用していただくだけではなく、我々も三井不動産というアセットを使わせてもらう取り組みで、毎月2万部弱ほどを全国に配布しています。

クレイジーアスリートマガジン

商業施設や、不動産のマンションギャラリーなどには雑誌が置いてありますが、どこからか買った雑誌を置くのであれば、三井不動産のブランドを体現するような紙媒体をつくって置いてみてはと提案し、実現しました。毎月アスリートをブッキングして、動画を内製で撮影、編集して、それと連動し、フリーペーパーを作っています。

一般的なスポーツ雑誌だと、競技の人気などによっては、なかなか表紙には登場しないというアスリートもいます。でも、例えば空手を習っている小学生の子供だったら、ららぽーとにおいてあるフリーペーパーを見て、表紙が清水希容選手だと気づくかもしれない。誌面では、本編(インタビュー動画)で語っている内容のイントロダクションがあり、これを全部動画で観たい場合、スマホのQRコード読み取ると清水選手の動画が見られます。

誌面では、それ以外でも、三井不動産がサポートしている様々な競技の大会などを紹介しています。イベントなどを実際に取材して、その模様を紹介しています。広告ではありますが、スポーツ好きからすれば、それはインフォメーションになります。

今の一般的なネット広告のビジネスとは違うものですが、これまでも、新聞社や出版社、放送局は、こうしたことをずっとやってきていました。出版社だと「ブックインブック」などをクライアントと作っていたりするのと同じです。

ネットには、大量のトラフィックをインプレッションに変え、ネットワーク広告の単価を上げて収益化する広告モデルがあります。それを否定するわけではなく、せっかくスポーツに特化して、無料で広告ビジネスをして、ありがとうと言ってもらうことをモットーにやっているのに、広告に対してケアしないことは筋が違うと感じて、広告ですら生活者に何らかのメリットを少しでも出したいという取り組みです。

うれしいことに「ららぽーとに置いてなかったので、他にはどこにあるのか」という問い合わせの電話が、オフィスにかかってきたりすることからも、アスリートの力は強いというのは分かります。ある号で、三井不動産にも、どこに置いてあるか問い合わせが来たケースもありました。その号の中には羽生結弦選手の写真があり、これを家に置きたくて、ららぽーとへとりに行くという状態が生まれたようです。

野球やサッカーなどに比べて、露出の機会が少ない競技団体からすると、全国のららぽーとに、表紙などでそのアスリートが出てくることは喜ばれます。選手のマネジメントだったり、本人、競技団体から、ありがとうという声が届いています。

スマホ利用が8割超。見せ方の工夫とは

――動画配信、試合の速報、スタッツなど、今後どの部分を強化していくといった計画はありますか?

黒飛:どのフォーマットがユーザーにベストかという議論は無く、これからもオールスポーツ、オールフォーマット、オールキャリアで、完全無料で届ける形です。

なぜオールフォーマットかというと、アルバイトをしている学生などにとっては、スマホの料金払うので精一杯。動画媒体は、家のWi-Fiくらいしか見る場所がないケースもあります。電車の中だと、スマホでがっつり映画を観るよりもイヤフォンを着けて音楽を聴く人が多いように、場所と状況によって、その人にとって大事なフォーマット違うと思います。色々なフォーマットを揃えることが、スポーツに触れる機会を少しでも増やすことだと思っています。

ただ、スポーツは、どれだけスタッツを見ようが、やっぱりプレイは見たい。一番わかりやすいフォーマットが動画です。そこで、常に動画だけでアプローチするのではなく、オールフォーマットで環境に適した配信をします。

――そうしたコンテンツがシームレスにつながることで、全体の価値を高めることにつながるわけですね。

黒飛:そうです。無料もそうですし、競技数も、オンライン/オフラインで楽しめるコンテンツも、根本にあるのは「接触機会をどれだけ増やせるか」へのチャレンジです。スポーツブルを毎日見てもらうのがゴールではなく、ブランドから派生した媒体を出して、いろんな接点をブランドを起点に広げることで、触れてもらったり興味を持つ人の総量が増えることが、事業としての根幹のパワーになっていると思います。

――動画配信をされていく中で、これまで積まれたノウハウや、分かってきたことなどはありますか?

黒飛:技術的なことではないですが、テロップの入れ方だとか、サイズはかなり気にしています。年間通じてアクセスの8割以上がスマホなので、スマホで視聴することを前提にして、縦画面で観てもテロップが見えることを意識しています。

テロップの量を多くしているのは、(電車の中などで)音声無しでも動画が追えるからです。テロップの入れ方、入れる量には、すごく気を遣っています。

あとは、どのタイミングでどの人を撮るかですね。根強いファンとは別に、ライトファンの動きは大事です。偏った見方かも知れないですが、ライトファンは“世の中のムーブメントにのっとって”動きますよね。興味が長続きしません。

欧米では、普段の生活にスポーツを観戦することが根付いていて、地元チームを応援したり、親子や友達のコミュニケーションのきっかけになるなど、暮らしに根ざしていると思います。もちろん、地域に密着したJリーグなど、日本にもこうした文化はありますが、ライト層だと話は変わってきます。

ただ、それをポジティブに考えると、何かが起きた時に、急激に注目する力があります。そのタイミングが、何年かに一度の、その競技へ興味を持ってもらえるチャンス。

以前、表紙に登場いただいた設楽悠太選手は、東京マラソンで日本記録を出し、賞金で“1億円をゲットした男”として急激に話題に上りました。テレビで各局が放送したときにすぐ動いて、クレイジーアスリートマガジンに掲載したところ、めちゃめちゃ持っていかれました(笑)。「1億円の話しか知らなかったけど、そもそもこの選手はどんな人だったんだろう」といった興味だと思います。

インタビューさせていただいた斎藤佑樹選手に関しても、今年の高校野球は第100回大会で、盛り上がるのは分かっていたことです。そんな中で斎藤選手は“ハンカチ王子”と話題になりましたが、スポーツブルでは、ちゃんと本人が伝えたいメッセージが言えるコンテンツを用意しました。これに対してはうれしい反応がありまして、「コアなファンが伝えたいことがこの動画に描かれている」とメッセージをいただき、それを本人にお伝えできました。

世の中の動きを見るという意味では、GoogleトレンドとYahooリアルタイム検索。この2つは全社員で毎日チェックしています。自分たちがサポートした競技に関しての話題が増えているかどうか。高校野球のこの10年の話題と、他の競技とどう違うのか、すぐにわかります。これが無料サービスというのはすごいことだなと。

うれしいことを探すというのもありますが、端末依存で配信に不具合出てないかなどがすぐわかるという面もあります。問題があると、すぐTwitterなどで書き込まれますので。何かあった場合、開発部と確認して、それが端末なのか通信環境なのかなどを確認します。そういった意味で、ユーザーの喜怒哀楽をものすごく気にしながらやっています。

大学スポーツも大幅強化へ。決め手になったのは、あの事件

――今後の取り組みで、何か新しい計画などはありますか?

黒飛:スポーツブルの中で、10月1日に大学スポーツの総合チャンネルを作りました。これまでも東京六大学野球を「BIG6.TV」という名前で全試合配信してきましたが、これに反響や手ごたえがあったこともあります。

元から総合チャンネルをやろうとは思っていましたが、より急いでやろうと思ったきっかけが、“日大タックル問題”です。関係各所から「どうやったら解決できると考えますか?」とよく聞かれましたが、答えは、むちゃくちゃ簡単です。

この5年間、毎年甲子園球場へいって高校野球を見ていますが、あんなプレーは絶対に発生しません。一つの理由として間違いないのは「メディア環境」です。

NHKで全国放送されて、家族も友達も観ている状況では、フェアプレイしか生まれない。問題があったのは、どこかで「みんなに見られていない」という意識があったり、勝つという結果だけ求めるという気持ちがあったからではと思います。

フェアプレイの精神がいくら大事だと言葉でいうことより、「あなたたちがやっている競技は、色々な人が見ているんだよ、応援されてやっているんだよ」ということが伝わるだけで、ネガティブなものはほとんどなくなると思っています。「人は見られることで強くなる」という(スポーツブルの)コピーも、そういう話をしていた中で生まれたものです。強くなるということは、フェアプレーで戦えることだと思っています。

試合などを観られる環境を作ることと、観られていることを意識してもらうことによって、全てとは言いませんが、特にプレーに関係するところでは、少なくともそういった変化があると思います。

これまで、高校スポーツで色々なメディアと協業してきました。大学スポーツも、今まで観られなかったものが観られるように、総合チャンネルを立ち上げます。

高校野球の場合は、コアなファンがいるので、歴史を振り返って「〇年の決勝のあの打席で……」なんていう話題で盛り上がったりもできますが、例えば「去年の大学ラクロスでどこが優勝したのか」を分かる人は、やはり多くはないです。そうしたときに、競技映像だけ配信されてもあまり楽しめないかもしれない。特にライトファンに向けては、楽しみ方の入り口はいろいろあると思います。

私自身はライト層で、まともに部活をしたことはありません(笑)。その視点から考えて「人をフォーカスすること」が一つの見せ方だと思います。

試合の映像だけよりは、大学生だったら「日本一を獲ったけど、どんなマンションに住んでるんだろう」とか、「どんな練習をして、昼ご飯は何を食べているの」といったように、“スポーツ100%”ではなく、大学生らしく他の趣味はないか、親はどれだけサポートしているのか、高校の時はどうだった、という話があって、その人が、来週末の試合に勝たなくちゃいけない、と知ったら、ちょっと応援してみようかなという気持ちになるかもしれません。

そこで毎週、トップアスリートに密着します。家を出るところから家に帰るところまで。一人目のアスリートの時は朝5時半集合でした(笑)。

大学スポーツ全競技が対象ですが、数はかなり多いので、試合映像はもちろん、まだ知らない競技、観たことない選手に着目します。その人たちの生活、人柄を切り取るのが大事だと思っています。1本20分くらいの番組を、毎週1本ずつ配信します。

毎週違う大学、違う競技で、その競技のトップアスリートに密着します。1年間で50人以上、記事ベースのインタビューでは1年間に約300人が登場します。

――そんなにガッツリと取材するんですね。社員の方はスポーツ好きな方が集まってきたのですか?

黒飛:全員というわけではなく、半々くらいです。ただ、続けていくと、競技として自分がプレーして楽しいのとは違う感覚で、サポートできることが見えてきます。選手の皆さんもスポーツブルのことを知っていて、こちらが驚くくらいすごく感謝されたりすることもあって、うれしいですね。スポーツを元々やっているか、好きか嫌いかはもはや関係なく、やりがいはやればやるほど出てきます。

好きな人だけで集まってしまうと、コアな人だけの企画になってしまうと思います。ライトファンを取り込むには、興味がない人が企画を考えないといけません。

――2020年は、スポーツが盛り上がる一つのタイミングだと思いますが、そこに向けては何かお考えですか?

黒飛:オリンピックを形成しているのは、これまで話してきたアマチュアスポーツの延長だと思っていますので、正直なところ、オリンピックを意識して仕事をしているわけではありません。

いま注目すべきアマチュア選手だったり、ファンが少ない競技を見てもらうことが積み重なっていけば、オリンピックの盛り上げに寄与していけると思います。それがオリンピックに向けた準備といえるかもしれません。

中林暁