トピック

iPodでキメろ。12台持ち変態男が超容量1,600GB化にトライした

iPod Classic

液晶画面とタッチホイールを搭載した、アップルの携帯型音楽プレーヤー「iPod」が販売を終了したのが2014年9月のこと。ひと昔前は、街中や電車の中を見渡すと、iPodで音楽を楽しむ人をよく見かけたものだが、最近はそんな姿もめっきり見かけなくなった。

携帯型音楽プレーヤーは、そのほとんどがスマホに置き換わり、イヤフォンも主流は有線から完全ワイヤレスへと移行。CDを1枚1枚せっせとリッピングして、PCの楽曲管理ソフトでメタデータ編集をしたり転送する行為はもはや平成レトロ。今や月額数百円の音楽配信サービスに加入するだけで、新旧問わず何千万曲が聴き放題という夢のようなミュージックライフを過ごせる時代になった。

Apple Music(左)やAmazon Music Unlimitedでは、ロスレス、ハイレゾ、3D(Dolby Atmos/360RA)で音楽が楽しめる

しかもアップルやAmazonの音楽配信サービスであれば、ロスレス、ハイレゾ、おまけに3Dで聞くことができる。そんな時に“ハイレゾダメ”“無線使えない”“音楽配信聞けない”iPodを使う人間など、よほどの物好きか変態しかいないだろう。

しかしそんな変態は、いつの世にも存在する。

かくいう筆者もそのひとりで、iPodのシンプルな音楽再生機能と直感的なホイール操作に何ら不満は無く、いまだに現役で使用している。コロナ禍で外に持ち出す機会はだいぶ減ってしまったが、12台中11台のiPodが動作しており、充電さえ行なえば、記録したロスレス音源が再生できるようになっている(万が一の事態に備え1台は未開封)。

11台のiPod Classic 160GB。外出時はradius製ケースに入れてキメる
緊急時の予備の1台。もちろん160GB

ただ、その中の1台から、少し気になる症状が出始めた。内蔵HDDが発生源と思われる「コツンコツン」という異音が目立つようになったのだ。

購入してから結構な時間が経っているし、そろそろ壊れても仕方ないとは思いながらも、長年付き合ってくれた相棒とこのまま別れるのはしのびない。

そこで試しにネットで「iPod HDD 修理」と検索してみたら、iPodを分解し、内蔵HDDをSSDに改造する猛者達の動画やブログがわんさか出てきた。しかもどうやら、iPodの改造はそれほど難易度が高いものではないらしい。それら先人の情報を参考に、うまいこと容量を増量できれば、複数のiPodを1台にまとめる事も不可能ではなさそうだ。

というわけで今回は、ワイヤレス&音楽配信時代に逆行する企画「iPodの1,600GB化」にトライしてみた。

なぜオマエは12台も持っているのか

今回改造を試みるiPodは、160GB HDDを搭載した「iPod Classic」だ。

2007年に始めて登場したiPod Classicシリーズは、カラー液晶&動画再生機能を搭載した第5世代iPodのマイナーアップデートモデル。そのためデザイン変更以外では、CoverFlowやプログレッシブ外部出力など小粒な機能追加だけだったが、Classic世代で新たにラインナップされた容量・160GBは、当時競合他社の音楽プレーヤーに存在せず、大量の音楽ライブラリを抱える音楽愛好家からはとても歓迎された製品だった。

iPod Classicのブラック(左)とシルバー。Classicでは、筐体が金属になった
天面には、ロックとイヤフォンジャック
底面には、今は亡きDockコネクタ
背面パネルはステンレス
CDのジャケットを見ながらアルバムをブラウズできるCoverFlow機能。ディスプレイの解像度が320×240ドットしかないため、かなりガビガビ

米Apple、完全金属筐体のHDD搭載「iPod classic」-80GB/160GBの2モデル。29,800円/42,800円

その頃筆者は、ソニーが推進していた「Hi-MD」を信仰していて、家に積み上がった約3,000枚のサントラやJ-PopのCDから気に入った楽曲・アルバムをMDにダビングしては、音楽を楽しんでいた。また“圧縮音源は音楽にあらず”というアブノーマルな排他的思想を唱え、リニアPCMダビングしたHi-MDをカバンに何枚も入れて通勤していた。

しかしだんだんディスク交換が億劫に感じるようになったこと、そして東京メトロ・日比谷線車内に、珠玉の楽曲をセレクトした渾身のマイベストディスク集を酔っ払ってまるごと置き忘れるという失態をおかし、2007年秋、Hi-MDから160GBへと大幅増量したiPodへ改宗。以来、160GBのiPodを愛用&買い足し続けるようになった。

Hi-MD信者だった

買い足しの理由は、当時傾倒していた“iPod-R”信仰だ。

ご存じの通り、HDDはプラッタと呼ばれるディスクにデータを記録する。しかし書き換えや消去を何度も繰り返すと、データが細切れ(断片化)になり、読み込みが遅くなったりする。これはHDDの構造上、仕方のない動作なのだが、オーディオ界隈では「断片化やデフラグが音質に悪影響を与える」という大変にオカルティーな噂があった。

大手HDDメーカーの技術者にこの噂を尋ねた際、「そんなことがあるわけない」と一笑されたが、取材を通じ、部品やアクセサリーで音が変化するミラクルを何度も目(耳?)の当たりにしていたため「信じるものは救われる」と開眼。「データはロスレス(AIFFのみ。WAVだとアートワーク登録できない)」、「記録は追記のみ」、「削除など再編集しない」というマイルールを定め、iPod一度書きという“iPod-R”を実践し続けた結果、気が付けば12台まで増殖することになった。

iPod-Rという信仰、そして常に3~5台のiPodを持ち歩く(途中からどのiPodに何の楽曲が入っているのか把握できなくなった)奇怪な姿を見て、友人や同僚はみな一様に「iPod変態」「どうかしてる」などと呼んだが、恥ずかしながら当時は「こんな事してるのは、世界に数人しかいない。ダカラオレスゴイ」と完全にイキっていたと思う。

実はワタシも「iPod-Rしてました」という勇気ある女性は、編集部までご一報ください。是非、ボクと結……いや、まずはお友達になりましょう

iPod Classicの容量を1,600GBに改造する

それではさっそく改造を始めていこう。

前述したとおり、今回改造するのは160GBのiPod Classicだ。中に入っているHDDをSSD(正確にはmicroSDカード)に換装し、容量10倍の1,600GB(1.6TB)化を目指す。

改造に使用した160GBのiPod Classic

ちなみに、160GBのiPod Classicには、2007年発売の前期型(厚み13.5mm)と、2009年発売の後期型(同10.5mm)の2種類が存在する。残念ながら、組み合わせるiFlash製の変換ボードでは、前期型はテラバイト化できないため(最大128GB)、ここでは後期型(MC293J/A:シルバー)を使用した。

後期型(左)と前期型。前期型の方が3mm厚い

改造に使った道具は以下の通り。

【道具】
・変換ボード:iFlash製「iFlash-Quad」
・microSDカード:512GB×2枚、400GB×2枚
・アートナイフ:OLFA「157B」、替刃「XB157H」
・ピンセット
・静電気防止手袋
・両面テープ
・絶縁テープ
・無水エタノール
・クリーニングペーパー

おおよその道具代としては、変換アダプタが約5,000円、ナイフや手袋・テープなどが約3,500円で、これに容量分のSDカード代が乗っかってくる。記事では1.6TBとかなり欲張ったため、SDカード代だけで3万を超えてしまったが、容量の少ない安価なSDカードを選べば1万円程度に抑えることができるはずだ。

【手順】
1.背面パネルを開ける
2.HDDを外す
3.変換ボードを取付け
4.動作を確認
5.変換ボードを固定する
6.背面パネルを閉じる

手順そのものはシンプル。アートナイフで背面パネルを開け、中にあるHDDと用意した変換ボードを交換。iTunesでiPodの初期化を済ませたら、ボードを固定しパネルを閉じて完成だ。冬の時期は静電気に気をつける必要はあるが、ネジ止めやはんだ付け等の作業はないので、改造の難易度としては比較的優しい部類に入る。

なお、iPodは全世代のモデルが“オブソリート製品”扱いとなっていて、アップル公式の修理サービスは既に終了している。一部のショップではiPodの修理を有償で受け付けているところもあるが、個人での改造による故障やトラブルは自己責任となる事を作業前にお断りしておく。

1.背面パネルを開ける

まずはアートナイフを使って、本体側面に引っかかっている背面パネルのツメを外していく。ツメは、左右に各4、底面のドックコネクタ両脇に2、そして天面イヤフォンジャックの横に1、の計11個ある。

デタラメにナイフを刺し込むと、ツメは取れないどころか、内部のパーツを傷つけてしまう。下記写真を参考に、ツメの場所をあらかじめ把握した上で、ナイフを刺し込んでいこう。

ツメは11箇所。刃を写真の場所に刺し込めば、ツメを外すことができる

ツメの外し方は以下の通り。

1.iPod側面の隙間にアートナイフを水平に刺し込む
2.ナイフの刃が隙間から外れないよう、力を加えながらナイフを垂直にする
3.刃が背面パネルに食い込んでいることを確認する
4.刃をそのまま奥まで押し込む
5.刃が刺さったまま、ホルダーを緩めて分離
6.替刃をホルダーに差し込み、「1」へ戻る

iPod側面の隙間を確認
刃を水平に刺し込む
力を加えながらナイフを垂直にする
刃が背面パネルに食い込む
刃を奥まで押し込む
ホルダーを緩めて刃を分離する

筆者の場合は、正面向かって右側面(4)→天面(1)→左側面(2)→底面(1)の順番で計8つのツメを外したところ、綺麗に本体と背面パネルを分離することができた。ナイフを奥に刺し込んだ際は「ガリッ」と金属が強く擦れる音が聞こえ多少ビビってしまうが、上記の手順で慎重かつ大胆にナイフを刺し込んでいけば、10分もかからずに、しかも背面パネルを変形させることなく外すことができるはずだ。

左側面と天面に刃を入れたら、アルミの本体が浮き上がった
右側面にも刃を入れていく
底面に刃を入れたら……
背面パネルが外れた(※2つのリボンコードが繋がっているので注意)

少し脱線するが、このツメ外し。上述した最適解にたどり着くまで、かなり時間がかかった。

改造にいち早く取り組んだ先人達のブログや動画を見ても、この部分が最も苦労した様子で、マイナスドライバーや金属ヘラなどさまざまなアイテムで開腹に挑んでいる。

筆者も最初は分解・修理用キットを購入してツメ外しを試みたのだが、上手くいかず悪戦苦闘。最後はフレシキブルなステンレス製のヘラでこじ開けたのだが、開腹に1時間近くかかったうえ、金属ヘラを何度も動かしたことで側面を傷つけ、パネルも歪み、ツメも破壊してしまった。

プラスチック製のヘラや硬い金属ヘラも試したが、iPod Classicの背面パネルを開ける場合は、個人的にはOLFAのアートナイフが一番適していると感じた。

オススメのアートナイフ、OLFA「157B」
当初はステンレス製のヘラで挑戦
見事にツメを破壊した……

本題に戻ろう。本体と背面パネルを分離させたら、前面を下にしてパネルを少しずらすと、右下にバッテリーと繋がるオレンジ色のリボンケーブルが見えるので、コネクタ部分のケーブルをピンセットで掴んで上に引っぱる。ケーブルが外れれば、背面パネルを横に全開できるようになる。

右下にオレンジ色のリボンケーブルが見える
ピンセットで掴んで上に引っぱると、ケーブルが抜ける
背面パネルを横に全開できた(※写真中央のリボンケーブルは抜かずに作業した)

2.HDDを外す

次にHDDを取り外す。

青いスポンジが貼られたHDDは、Dockコネクタ付近で基板と繋がっている。HDDを手前に倒すと、裏側にある接続部とリボンケーブルが姿を現す。

HDDの上部を持って
手前に倒す
HDDと基板がリボンケーブルで繋がっている

HDDのコネクタ部分に、リボンケーブルを固定している黒いツメがあるので、先の尖ったもの(アートナイフの刃など)を黒いツメに引っかけ、ツメを90度上向きに回転させる。するとケーブルが抜けてHDDが分離できる。

黒いツメが固定された状態
ツメを90度上向きに回転させた(ツメを立てた)状態
ケーブルが抜けた

3.変換ボードを取付け

変換ボードにある4箇所の空きスロットに、4枚のmicroSDカードをしっかり挿入する。

iFlash製の変換ボード「iFlash-Quad」。AmazonやiFlashのサイトから購入できる
microSDカードを挿入する

変換ボードコネクタにも黒いツメがあるので、ツメを先ほどと同じように90度上向きに回転させて、コネクタ部分にリボンケーブルを接続。黒いツメを倒せば、ケーブルが固定できる。

この向きは間違い
この向きで変換ボードを取り付ける
接続前にツメを立てておく
ケーブルを固定できた
変換ボードもピッタリ収まった

4.動作を確認

変換ボードやmicroSDカードがきちんと認識するか、背面パネルを閉じる前にiTunesに接続して動作を確認する。

まずは「1.背面パネルを開ける」の最後に外したバッテリー用ケーブルを再び接続。背面パネルが開いた状態で、PCとiPodをDockケーブルで接続する。

バッテリー用ケーブルを接続する
PCとiPodをDockケーブルで接続する

しばらくすると、iTunes画面に「リカバリーモードのiPodを見つけました。」のアナウンスが表示される。案内のまま復元ボタンをクリックする。

iTunes画面に「リカバリーモードのiPodを見つけました。」のアナウンス
iPodを復元して初期化する

数分後、iPodの初期化が完了し、iTunes画面が「新しいiPodへようこそ」に切り替わる。PCからiPodを取り外すと、iPodのディスプレイは言語選択に遷移する。日本語を選び、[設定]→[情報]で容量を確認すると、「1685GB空き」との表示。これでmicroSDカードが4枚とも認識されていることが確認できた。

iTunes画面が「新しいiPodへようこそ」に切り替わった
PCからiPodを取り外すと、言語選択画面に
空き容量は1,685GB

5.変換ボードを固定する

背面パネルを閉じる前に、変換ボードがズレないように固定する。

液晶ディスプレイの背面部分、金属版の箇所に2.5cm程の長さに切った両面テープ(幅3cm×厚さ0.2mm)を貼り付け、変換ボードを接着。念のため、絶縁テープも2箇所に貼り付ける。

厚さ0.2mmの両面テープ
ディスプレイの背面部分に貼る
変換ボードを接着
絶縁テープも2箇所に貼り付けた

6.背面パネルを閉じる

バッテリー用ケーブルを接続したら、背面パネルを元の状態に戻す。本体の周辺部分を両手の指で強く押し込むと、「バチン」という音がして背面パネルが閉じる。

両手で本体の周辺部分を押し込む
背面パネルが閉じた

本体の周囲を見て、背面パネルがしっかりはまっていることを確認。仕上げに無水エタノールを付けたクリーニングペーパーで本体を拭く。

これで、容量1,600GBの改造iPodが完成した。

無水エタノールで本体を拭く
背面も綺麗にする
完成

超容量なのに軽量なiPod爆誕! やっぱり最強無敵だった

早速、マイライブラリの中から1,600GB分のロスレス音源(37,885曲、転送約23時間)を改造iPodに転送し、音楽を再生してみた。

転送完了まで約23時間かかった
再生してみる

こんな事を書くと身も蓋もないが、iPodの音質は特別に良いというわけではない。低域の再現力や音の厚みは感じるが、iPhone 13(Lightning-3.5mm変換アダプタ使用)と比べると、高域が伸びず、レンジの狭さやSNの悪さが気になる。

しかしiPodに最高のポータブルサウンドを求めているわけではないので、そこは無問題。どうしても強化したいという場合は、ポタアンなどのアイテムでちょっとドーピングすればいい。それよりも改造iPodを触って改めて感じたのは、やはりiPodの魅力は、音楽再生に特化したシンプルなUIやホイール操作で、他の何にも変えられないということだ。

改造により動作や操作に支障が出るのでは? とも心配したが、超容量でライブラリが数万単位になっても、(iTunes上でメタデータ整理さえキチンとできていれば)階層を辿って、目的のアーティストやアルバムの楽曲を素早く呼び出すことができるし、これまで通り、再生/停止や曲飛ばし、音量調整などのホイール操作も快適だ。PCに接続してもiTunesが改造iPodを認識しないという事象は少し多いものの(ケーブルを2~3度も抜き差しすれば認識する)、それ以外のトラブルはなくすこぶる快調に動いている。

iTunesが改造iPodを認識しない時があるが、それ以外の動作や操作は問題なし

しかも、記録媒体をSSDにしたことでHDD分の重さが無くなり、本体重量が136gから97gに大幅にスリム化。HDD特有の動作音も無くなったし、HDD時に比べて若干電池持ちも良くなった気がする。超容量なのに軽量でノイズレス、そのうえ省エネなiPodの爆誕とくれば、今回の改造は大成功。やっぱりiPodは最強無敵だった。

改造前の重量
改造後の重量。約40g軽くなった

筆者のライブラリには、青春時代に聴いていたJ-Popアーティスト(木村由姫やD-LOOP、D&Dなど)やBD/DVDから○○○したライブ音源、サントラレーベルVarese SarabandeやINTRADA、La-La Landなどの限定盤、競り落としたFYC盤(アカデミー審査員に配布されるプロモCD)やブート盤など、まだ配信されていない・恐らく配信されない音源が多く含まれるため、まだしばらくは大容量のiPodが手放せない状況が続きそう。

とりあえず今後は、あと4台のiPodをテラバイトに改造して、「サントラ1」「サントラ2」「邦楽1」「邦楽2」「洋楽・その他」とジャンル別にiPodを使い分ける計画だ。

現在、iPodの中古価格は1台数千円程度と、以前よりもだいぶ安く入手できるようになっている。本記事で興味を抱いた方は、是非iPodを入手&改造して、配信上等なiPodライフを楽しんでみてはいかがだろうか。

【 注意 】

分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
内部構造などに関する記述は編集部が使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

阿部邦弘