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ゲーム機がTVに合わせて映像調整「HDMI2.1a」て何だ? パナソニックに聞いた

2月に「HDMI2.1a」がリリースされた

今年2月、HDMI Licensing Administrator(HDMI LA)はHDMI規格の最新バージョン「HDMI2.1a」をリリースした。2.1aでは新たに、「SBTM(Source-Based Tone Mapping)」および「Cable Power」と呼ばれるオプション機能が追加された。

端的に言えば、SBTMは“ゲーム機などのソース機器がディスプレイ性能に合わせて映像調整する”もの、そしてCable Powerは“USBからの外部電源供給無しでHDMIケーブルの長尺伝送を可能にする”機能だ。大型テレビやゲーミングディスプレイで最新ゲームを楽しむユーザー、そしてホームシアターなどで長尺伝送している4K/8Kプロジェクターのユーザーは気になる機能だろう。

通常であれば、HDMIの新バージョンがリリースされると、関連団体がメディア向けに説明会を開催する事が多いのだが、今回は説明会や日本語によるリリースも出されずじまいで2.1aに関する情報が乏しい。

そこで、HDMI規格創設時から仕様策定の中心的役割を担ってきたパナソニックと、CESなどで最新規格のケーブルを展示してきたケーブル専業メーカー・エイム電子の2社に取材を行ない、2.1aの詳細を聞くことにした。

今回はパナソニック編として、SBTMを中心に、2.1aおよび2.1の概要をパナソニック株式会社の事業開発センターに在籍する西尾歳朗氏と、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社で国内向けのテレビ商品企画を担当する真田優氏に尋ねた。

パナソニック 西尾歳朗氏(左)、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション 真田優氏

HDMI2.1aは、HDMI2.1の仕様を追加修正した“改訂版”

HDMI2.1aの話に移る前に、HDMIの事を少しおさらいしておこう。

HDMIとは、High-Definition Multimedia Interfaceの略称で、映像と音声信号をデジタル伝送する規格だ。

HDMIができるまでは、黄色のコンポジットやS端子、D端子、YCbCrのコンポーネント色差といったアナログ映像ケーブルと、赤白のアナログ、または同軸・光デジタルの音声ケーブルを別々に接続する必要があったが、HDMIが様々な機器に浸透したことで、誰もが手軽にケーブル1本で、映像と音をデジタル伝送できるようになった。

HDMIの創設メンバーは、パナソニック、ソニー、ラティスセミコンダクター(旧シリコンイメージ)、東芝、マクセル(旧日立)、フィリップス、テクニカラー(旧トムソン)の7社。「1080pの映像信号」と「192kHz/24bit 8chのリニアPCM音声信号」の非圧縮伝送をサポートした「HDMI1.0」を2002年12月に策定してから、DVDオーディオ(HDMI1.1)、SACD(1.2)、DeepColor/ドルビーTrueHD/DTS-HD(1.3)、3D/4K30p/ARC(1.4)、4K60p/HDR(2.0)などの信号を次々にサポート。バージョンアップと機能拡張を続けてきた。

従来バージョンに比べ、伝送容量を大幅に向上させたHDMI2.1

そして2017年11月、伝送方式を変更することで最大48Gbpsもの大容量・高速伝送を実現したHDMI2.1をリリース。8K60pの非圧縮伝送、8K/10K120pの圧縮伝送に加え、ダイナミックHDRフォーマットや可変リフレッシュレート(VRR)、拡張ARC(eARC)などの機能をサポートして大幅な進化を果たした。

今年2月にリリースした2.1aは、この2017年に策定された2.1をベースに、「SBTM」「Cable Power」機能の追加と、仕様の一部修正を反映させた“改訂版”という位置付けになっている。

HDMIバージョン別の機能対応表

なお、接続する機器のHDMIバージョンがあべこべでも、両者が互いにサポートする信号にダウングレードさせてやり取りする仕組みになっており、最低限の互換性が確保されている。そのため、ユーザーは接続する機器同士のバージョンを必要は無い。

気をつけなければならないのは、仮に「HDMI2.0対応」とか、「HDMI2.1対応」と謳う製品があっても、それら製品が2.0、2.1で追加された機能をすべて内包しているわけでないし、2.1だからといって、旧バージョン(例えば1.4)の機能すべてをサポートしているわけではないということ。

HDMIでは、絶対にこれだけは対応しなければならないとする“プライマリー(マンダトリー)”信号なるものが規定されている。映像であれば720/60pや1080/60i、音声であればリニアPCMがこれに該当するわけだが、逆にこれ以外の信号は“オプション”扱いであって、対応するか否かはHDMIを採用する製品の仕様に委ねられている(馴染みのある1080/60pも、1080/24pも実はプライマリーではない)。

つまり基本的には、HDMI1.1以降に拡張された機能はすべてオプション。だから製品を選ぶ場合は、HDMIのバージョン番号だけで判断するのではなく、HDMIのどの機能またはどんな信号を対応しているのか? を確認する事が重要だ。

“トーンマップ”をディスプレイではなくソース側で行なうのがSBTM

今回、取材に応じてくれた西尾氏は、HDMIフォーラムやUHDアライアンス、HDR10+テクノロジーズなど、パナソニックが名を連ねる団体・組織の会議やAV関連規格の策定に際し、社を代表して出席・交渉するポジションにある人物。

HDMIにおいては、2002年の規格誕生前からいち技師として参画。パナソニックが業界に先駆けて実用化したCEC(ビエラリンク)や、音声を別伝送する事でオーディオ性能を向上させるセパレート出力の発案など、20年以上に渡ってHDMIに関わってきた経歴を持つ。

まずは、HDMI2.1と2.1aの違いから尋ねた。

西尾氏(以下敬称略):大きな違いは、「SBTM」というファンクションの有無です。2.1aではSBTMがオプション機能として加わりました。

SBTM以外の違いとしては、2.1をリリースした2017年11月以降実施の4件のアメンドメント(仕様の微小変更)と、3件のエラッタ(仕様の記載ミス)の修正が2.1aとして集約されています。USB端子からの電源供給無しでHDMIケーブルの長尺伝送を可能にする「Cable Power」は、4件あるアメンドメントの1つでして、HDMIのアダプター(会員)には2019年にアナウンスされたものです。

では、SBTMとはどのような用途、意図で規格されたのだろう。

西尾:SBTM(ソース・ベース・トーンマッピング)をお話しする前に、まずは“トーンマップ”というものが何かをお話しします。

一般的に、映像制作者が使用するカメラやモニターと比べ、家庭用のテレビは性能が異なるため、本来の色域や輝度を等しく表示するには限界があります。では、制約がある中でテレビがどのように再現するかと言いますと、テレビ自身が表現できる色域や明るさに、“テレビ側が信号を調整”して表示しているわけです。これがトーンマップと呼ぶものです。

我々のビエラにも、このトーンマップ処理が入っていまして、例えばテレビの性能以上の明るさを持つHDR信号が入力された場合でも、高輝度部分を潰すことなく、滑らかなグラデーションを維持して、クリエイターが見せたかった画を再現します。信号をどのように最適化してキレイに表示するかは、各テレビメーカーの腕の見せ所の部分でもあるわけです。

HDR映像を、限られたディスプレイ輝度の中で忠実に再現するには、トーンマップ処理が欠かせない
トーンマップ処理には様々な方法があり、以下に見せるかが各社の腕の見せ所でもある
パナソニック・ビエラでは、シーンに応じてHDRトーンマッピング処理を動的に変化させる技術を採用することで、高輝度域でも色鮮やかな映像を実現している

西尾:ただその一方で、一部の製品……例えば安価なPCディスプレイなどは、トーンマップのアルゴリズムが不適切なものもあります。すると、PCディスプレイとトーンマップ処理の入ったテレビとでは、同じHDR信号でも表示映像が大きく異なるわけです。ゲームの場合はこの違いが顕著に表れ、高輝度な爆発のエフェクトであれば、テレビは炎の陰影が再現できているのに、PCディスプレイは真っ白で何も見えなくなったりします。

よく聞くのがレーシングゲームでの事例です。トーンマップが適切に行なわれていれば、トンネルの先にカーブがあるのが視認できるのに、一部の製品ではトンネルの先が真っ白でコースが分からない。こうなるとゲームの勝敗にも影響が出てきてしまうわけです。

テレビ番組や映画などのコンテンツと違って、ゲームはプレーヤーの操作に応じてCGで映像をリアルタイムに生成します。すると、同じアクションを繰り返して高輝度なエフェクトを大量に発生させたり、明暗差が視点や構図にするなど、通常のコンテンツではありえない極端な状況も作ることができてしまう。ただ、どのような状況下でも、ディスプレイで本来見えるべきビジュアルが再現できなければゲームクリエイターも困るわけです。

こうしたことを踏まえ、“ソース機器側でトーンマップしたい”という声がゲーム関連メーカーを中心に上がりまして、フォーラムで協議した結果、2.1aの新たな機能として盛り込まれました。

つまり、これまでテレビ側で行なっていたトーンマップ処理を、信号を送るソース側で予め処理して伝送する、というのがSBTMというわけだ。

オーディオビジュアルの世界では、“ソース機器は基本何もしない”“プレーヤーは原画忠実”というスタンスが一般的だが、プレーヤーの操作に応じて信号を生成するゲームなら、ソース側で調整した方が早い、という話なのだろう。

西尾:SBTMを動作させるには、SBTMモードを備えたディスプレイと、SBTMに対応したソース機器の組み合わせが必要です。

流れとしてはまず、ディスプレイがEDID(Extended Display Indentification Data)を通じて自身の“情報”をソース側に渡します。そして、ソース側はディスプレイから受け取った情報に基づき、信号を最適化して出力します。結果、ディスプレイはトーンマップ処理をすることなく、HDRのゲーム映像などを一定のクオリティでユーザーに提供できるようになります。

テレビと違い、PCディスプレイは画質処理が簡素化されていることがほとんど。ディスプレイ性能に応じたトーンマップ処理をソース機器……例えば、ゲーム機やビデオボードなどが行なってくれるなら、安価なディスプレイでも一定の品質が担保される。

ゲームの場合は、ゲーム映像に加え、プレーヤーのカメラ映像やチャットウィンドウなど、HDRやSDR信号が同一画面内に複数混在する場合もあるため、ソース側でトーンマップした方が全体の画のバランスは取りやすいと思われる。

7月現在、SBTMに対応したソース機器もディスプレイも発表されていない。しかし今後SBTM対応機が登場した暁には、ディスプレイ側に高精度なトーンマップ性能がなくても、対応機器同士の組み合わせであれば、相応の品質でHDR映像が楽しめる環境ができそうだ。

SBTMの動作イメージ

ただし、このSBTM。フォーラム内部では“推進派”と“慎重派”で意見が二分していたという。

というのも、前述したゲーム映像での白飛びはPCディスプレイ等で発生している事象であり、大手テレビメーカーの製品ではほとんど関係ないというのが実情。西尾氏の発言通り、トーンマップはテレビメーカーにとって“腕の見せ所”の1つになっており、映像面における他のディスプレイとの差別化ポイントでもある。

ソース側のコントロールによって、A社もB社もC社も同等クオリティの映像が出てしまう状況というのは正直、テレビメーカー側には複雑なものがあるだろうし、そもそも「自分たちの製品の素性は自分たちが一番よくわかっているのだから、トーンマップは最終表示機で行なうのがベスト」というのが、慎重派の本音なのだと推察される。

では、規格成立したSBTMについて、ビエラは今後サポートをするのだろうか。HDMIのサイトでは、「SBTMはファームウェアアップデートで対応可能」とあるが……

真田:ビエラはこれまでも、いかに美しく、忠実な映像を再現するかを主眼にテレビの開発を行なって参りました。その過程の中で、シーンに応じてHDRトーンマッピング処理を動的に変化させて高輝度でも色鮮やかな映像を描写する「ハイブリッドトーンマッピングなどの独自機能を開発。現在発売されている製品、そして今夏より発売されるビエラの新製品群に搭載しました。

またゲーミング向けの機能としましても、4K120p入力時のフル解像度表示やALLMほか、一部機種でVRR、AMD FreeSync Premium、ゲーム専用UI、低遅延な等速駆動モードを用意しており、大画面かつ高画質にゲームがお楽しみいただける仕様を用意しています。

SBTMの対応についてですが、'22年発売のビエラを含め、現状はアップデート対応の予定はございません。ただ将来に向けてどうするかについては、ゲームの市場やクリエイター、ユーザーの反応を注視しながら、慎重に検討をさせていただきたいと考えております。

聞けば、ディスプレイがソース機器側に渡す“情報”はいくつかパターンが用意されており、最高輝度などの表面的な情報を渡すだけであれば、EDIDを少し書き換えるだけでSBTM対応できるという。

どのようなソース機器がSBTMをサポートするかにもよると思うが、SBTMの効用を考えれば、まずはテレビよりもPCディスプレイなどからSBTM対応機が発売されそうだ。

FRLよりもTMDS、eARCよりもARCの方が音がいい?!

HDMI2.1aの新機能と合わせ、HDMI2.1に関する疑問にも答えてもらった。

――HDMI2.1/2.1aでは、従来のTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)方式から、「FRL(Fixed Rate Link)」と呼ばれる伝送方式に切り替わりました(接続相手によってTMDSモードで伝送することも可能)。

具体的には、HDMI2.0まではR映像(1/2/3番ピン)、G映像(4/5/6番ピン)、B映像(7/8/9番ピン)、クロック(10/11/12番ピン)の計4レーンを差動信号として伝送、音声や制御信号は映像データの“隙間”を使ってパケット伝送されていたと思います。

一方2.1からは、クロックを埋め込んで伝送する方式を採用することで、従来のクロックレーンをデータレーンとして活用、4レーン全てをデータ伝送として使用できるようになりました。FRLになって音声データの送り方は変わったのでしょうか。

西尾:従来のTMDSは、アナログの信号をそのままデジタル化したもので、Hブランク・Vブランクという、いわゆる帰線期間が存在していました。TMDSの場合は、このブランキングに音声をパケットで埋め込んで伝送しています。一方FRLでは帰線期間はデータとして伝送されず、アクティブビデオデータの間に音声データを埋め込むようになっています。

従って、TMDSとFRLではコーディング方法が異なります。ですから、オーディオの何バイトまでを1パケットにして送るか? などの違いはありますが“映像の間に音声を埋め込む”という基本的な手法は2.1以降も変わりません。

HDMIのピンアサインと結線図(カナレ電気のHDMIケーブル製品図より)

――一部のAV機器では、HDMIの音声を高品位に伝送する方法として、映像と音声を分配して伝送する製品があります。“セパレート出力”などと呼ばれていますが、HDMI2.1のレコーダーやプレーヤーが将来出てきた時、映像はHDMI2.1(FRL伝送)、音声はHDMI2.0(TMDS伝送)のようなセパレート伝送は可能なのでしょうか。

西尾:“映像の間に音声を埋め込む”というHDMIの特性上、セパレート出力している状態においても、音声専用ポートからは映像信号も流れています。例えば我々のディーガの場合、1080i/60Hz・黒信号のブランキング部分に音声データが埋め込まれていて、それがサウンドバーやAVアンプなどの音声システムに伝送されているわけです。

なぜ、1080i/60Hzを選んでいるかと言いますと、できるだけブランキングが広く、かつなるべく低いビデオクロックの方がオーディオクロックのジッター性能への影響を低く抑えることができるからです。VGAまで下げてしまうと、ブランキングが狭くなりすぎて、オーディオを送れる量が制限されますから、解像度を1080iにしています。

正確には、音声出力端子というルールがHDMIで規格されているわけではなく、ディーガでは“1080iしか出ないAVポート”を別途用意して、それを音声出力として活用しているイメージです。ちなみに、セパレート出力時のビデオポートは、メニュー設定により映像のみの信号に設定する事ができるようになっています。

【お詫びと訂正】記事初出時、1080pと記載しておりましたが、正しくは1080iです。お詫びして訂正します。(8月8日14時)

パナソニックの4Kレコーダー「DMR-ZR1」では、映像出力と音声専用出力を搭載する
3チューナー搭載4Kレコーダー「DMR-4T202」も2系統の出力を搭載

西尾:現在発売されているHDMI2.1のソース機器を見ると、音声専用出力を設けた製品はありませんが、従来同様に映像と音声をセパレート出力する事は可能です。片方の伝送方式に合わせなければならないというルールもありませんから、映像はFRL、音声はTMDSで伝送できます。

これは検証が必要かもしれませんが、オーディオクオリティ的には、FRLよりもTMDSの方が有利ではないかと考えます。

というのもTMDSの場合は、クロックレーンでソースとシンクがロックされていたのですが、FRLはソースとシンクのクロックのクリスタルが別々になっています。何もしないと、徐々に互いのクロックがズレきてしまうため、一定の間隔でシンク側のクロックを調整することで、互いのクロックが大きくズレないようにしています。ただこれはシンク側のクロックがジッターしているわけで、結果、原理的にオーディオクロックのジッターに悪影響を与えてしまいます。

――14/17/19番ピンを使って、ディスプレイなどからソース機器へ、音声信号を反対方向へ伝送する「ARC」「eARC」という機能がありますが、このARC/eARCの信号においても、映像データが入っているという認識で正しいですか?

西尾:14/17/19ピン上には映像信号は流れません。但し仕様上、順方向の映像信号は必須となっています。規格で定められた音声フォーマット(32/44.1/48kHz・16bitなど)と、ARC/eARCのプロトコルをサポートしていれば、ARC/eARC対応と謳うことが可能です。ARC/eARC伝送時に、どのような映像フォーマットを送信するか? はメーカーが任意に設定できます。

主な機能TOSLINKARCeARC
最大オーディオ帯域幅(ペイロードサイズ)384kbps37Mbps98Mbps
リンク検出なしCECeARCデータチャンネル
能力検出(Audio EDIDなど)なしCECeARCデータチャンネル
リップシンクなしオプション必須
TVミュート&音量調整なしあり(CEC)オプション(CEC)
TVに電源を供給するオーディオデバイスなしあり(CEC)オプション(CEC)
ARCフォールバックなしN/Aあり
オーディオジッタあり(光ジッタ)なしあり(コモンモードノイズ)

※取材資料を基に編集部作成

eARCに対応するオーディオフォーマット(ラティスセミコンダクター資料より)

――近年、サウンドバーやオーディオアンプにARC/eARC専用ポートを備える製品が増えてきました。例えば、セパレート出力の音声出力端子の代わりに、ARC/eARC専用ポートを利用することは技術的に可能なのでしょうか。

西尾:そういったアイデアもあると思います。ただ、仮にディーガにARC/eARC出力専用ポートをつけるとなると、“HDMI入力端子”を付けることになるわけです。入力端子を設けると、入力用の回路や処理が別途に必要になります。それに、HDMI経由の映像をHDDに記録できるわけでもありませんから、ARC/eARCのためだけにHDMI入力端子を設けるメリットが思い浮かびません。

テレビの場合は、ARC/eARC入力専用ポートを仮に設けるとしたら“HDMI出力端子”を搭載することになります。費用対効果を考えても、レコーダーにHDMI入力端子、そしてテレビにHDMI出力端子を設けるのは、現実的ではないかなと思います。

デノンのサウンドバー「DHT-S517」のHDMI端子。「TV(HDMI eARC/ARC)」と記載された専用ポートで、テレビからリターン伝送されたオーディオ信号を受け取る
マランツのプリメインアンプ「MODEL 40n」は、HDMI ARC専用ポートを設ける
ラティスセミコンダクター(旧シリコンイメージ)が提供しているeARCレシーバー、トランスミッターの利用例

――HDMI LAのサイトに「メーカーはARC/eARC両対応の製品を製造可能。ただし、eARCはARCとの下位互換性は定義されていない」との説明がありました。多くのユーザーは、ARCとeARCは関係あるものだと思っている場合が多いと思うのですが、本当に下位互換性はないのでしょうか。

西尾:ARCとeARCは名前は似ていますが、プロトコルが異なるため互換性はありません。ですから、必ずしも“eARCに対応している=ARCにも対応している”わけではありません。

HDMI LAのホームページでは、「eARCはARCとの下位互換性は定義されていない」と記載されている(赤枠の部分)

真田:現実としては、今発売されているeARC対応テレビのほとんどが、ARCにも対応していますから、テレビと組み合わせるサウンドバーがeARCでも、ARCでも、問題なく利用できるようになっています。

西尾:eARCはオーディオのデータを差動で送っているのですが、データ通信チャンネルには同相で信号を変える“コモンモード”が使われていて、ソースとシンクで絶えず通信が行なわれています。ただ、コモンモードで通信していると必ずディファレンシャル信号に漏れ込んで、ケーブルの中で干渉を起こすので、これが原理的にオーディオ品質に悪影響を与えます。一方でARCではデータ通信はCECを使うのでこのようなデグレードは起こりません。eARCは192kHz/24bit、最大32chの非圧縮オーディオの伝送をサポートしましたが、実在のアプリケーションとしてはそのような広帯域のオーディオデータが放送もしくは配信で使用されることは稀であることから、真のオーディオ品質を求めるコアなユーザーには「eARCよりもARCの方がクオリティが良い」という場合もあるかもしれません。

阿部邦弘