西川善司の大画面☆マニア

第258回

プレステ5対応テレビの正しい選び方。キーワードは「4K/120p」「VRR」

PlayStation 5に最適なテレビを選ぶには、どうすればよいのだろう

新型ゲーム機発売はテレビ/ディスプレイ買換えの好機

11月、ついに待ちに待った次世代ゲーム機が発売される。

新型ゲーム機を購入するための貯金を始めている人もいるだろうが、新型ゲーム機とその対応ゲームソフトを買ったとしても、今のプレイ環境では、もしかするとそのゲーム機の性能を完全に活かしたゲーム体験が楽しめないかもしれない。

もちろん、今のテレビ/ディスプレイ環境に新型ゲーム機を組み合わせてもゲームはプレイできるだろう。しかし、それは新型ゲーム機からすれば「まだまだオレは全然本気を出してないのだが?」と言われているような状態かもしれない。

かつて、PlayStation 2からPlayStation 3(PS3)の世代交代直後も、PS3をSD画質のブラウン管に接続したらゲーム画面のGUIやパラメータ表記文字が全然読めない……という事態がけっこう横行した。この世代交代のタイミングでテレビの買い換えを行なったゲームファンは少なくなかった。今回の世代交代はそこまでではないにしろ“テレビ/ディスプレイを買い換える”、1つのきっかけにはなるだろう。

PlayStation 5

ゲーム機メーカー側は「レイトレーシング対応でオーバー10TFLOPSのGPU」「超速SSD」「オブジェクトベースオーディオ技術採用の立体音響対応」といった派手な要素の方に力を入れて新型ゲーム機の魅力を訴求してきているが、PlayStation 5、Xbox Series X(同Sも)といった新型ゲーム機の映像出力端子はHDMI 2.1へと世代が改められており、4K/8K解像度への対応、毎秒120コマ(120fps,120p)対応、VRR(Variable Refresh Rate)、ALLM(Auto Low Latency Mode)に対応してくることが明らかとなっている。

Xbox Series S(写真左)と、Series X(右)

新型ゲーム機は、HDMI 2.0世代に追加されたHDR/WCGといった映像技術にも当然対応しており、PS3/Xbox 360世代に導入した古いテレビ/ディスプレイ製品では、このHDR/WCGに対応していない可能性が高い。

新型ゲーム機対応のゲームソフトはゲーム内容に合わせて、(全てではないかもしれないが)そうした要素技術に対応してくることだろう。

新型ゲーム機導入後、実は自分の見ているゲーム画面は、友達やライバルが見ているものよりも何要素か抜け落ちた「品質の低い映像」だった……ということにならないためにも、「新型ゲーム機購入を見据えた、テレビ/ディスプレイの買換えポイント」を前出の技術キーワードを軸に解説していこう。

次世代ゲーム機に8Kテレビ/ディスプレイは必要か?

8K、4Kといったキーワードについては耳にしたこともあり、既に知っている人も多いだろう。

8Kは7,680×4,320ピクセル、4Kは3,840×2,160ピクセルの解像度を表し、値が大きいほど、より高精細な映像表現に対応する。前世代のPS4、Xbox OneではフルHDと呼ばれた1,920×1,080ピクセル解像度を想定してゲームが設計されていた。

振り返れば、2005年から2006年にかけてPS3/Xbox360等が登場した時代、テレビ解像度の大きな変革があった。

PS3(初代)
Xbox 360

新世代の1,280×720ピクセル以上の高解像度映像をHD(High Definition:ハイデフ)解像度と呼び、それ以前の時代のHD未満解像度の映像をSD(Standard Definition)解像度と呼んだ。

PS3/Xbox360のゲームの多くはHD解像度を前提にして開発されたため、当時まだ多かったSD解像度のブラウン管に映すと文字情報などが潰れて読めなくなってしまう状況があった。日本ではHD解像度を“ハイビジョン”解像度と呼ぶこともあったが、今ではHD解像度が当たり前となったために、両方とも死語同然となっている。

“フル”HDという用語はHD解像度の最低ラインかつ標準スペックである1,280×720ピクセルとの差別化を図るために生まれた用語。シャープなどはフルHDを「フルスペックハイビジョン」と呼んだりもしていた。

PS3/Xbox360では、このフルHD映像を出力することはできたが、フルHD解像度でレンダリング(描画)するにはやや力不足で、多くのタイトルが「HD解像度か、+α程度でレンダリング」、もしくは「フルHD解像度にアップスケール(解像度変換)して出力」という流れが主流となった。

そして2013年発売(日本は'14年)のPS4/Xbox Oneでは、実際に「フルHD解像度でレンダリング」することができるようになる。2016年にはPS4 Pro、Xbox One Xといった中間世代上位機が登場し、4Kをサポートするも、ゲームの基本設計は基準機となるPS4/Xbox Oneに合わせていたこともあり、事実上、PS4 Pro/Xbox One Xでは「基準機に対して+αの上位体験が楽しめる」というものに留まっていた。

PS4
Xbox One

新型ゲーム機では、「リアル4K解像度レンダリングに必要十分な性能」を持ち、なおかつ「ゲームの基本設計」が4Kを前提としているため、テレビ/ディスプレイの買い換えの際には4Kモデルを強く推奨する。

一方で、8Kについては、筆者の私見になるが、たかだか10TFLOPSオーバー程度の新型ゲーム機のGPUでは、8Kゲームグラフィックスはやや重荷と見積もれるため、8Kテレビ/ディスプレイの導入は必須ではないと考える。

近年のPS、Xbox系のメインプロセッサはAMDが設計開発を担当しているが、同社のGPUで高度なシェーダーを動かしつつ、8Kレンダリングを行なって60fpsを維持するためな性能値を過去の実績等に照らし合わせて試算すると、約20~25TFLOPSの性能が必要と見積もれる。10TFLOPSを上回る程度のPS5、Xbox Series XのGPUでは、8K対応は限定的なものとなるだろう。

家庭用ゲーム初の120p対応~倍速駆動とは別ものだ

120p対応は、すでにPCゲームの世界では身近なものになって久しいが、家庭用ゲームとしては今回の新型ゲーム機が初対応となる。これまで60p対応止まりだった家庭用ゲーム機の映像フレームレートが2倍に拡大されることになり、この部分には大きな期待が寄せられている。

テレビとコンテンツが120pに対応していれば、120コマの滑らかな映像が楽しめる

映像中の速い動きが格段に見やすくなるので、アクション性の高いゲームが好きであれば重視したい要素だ。なお、新型ゲーム機が採用するHDMI 2.1は、その仕様上は4Kと8Kともに120p出力に対応できることになっているが、実際のゲーム映像で採用されるのはGPU性能的に4K/120p、8K/60pが上限となることだろう。

HDMIで規定されている解像度・フレームレートを記した一覧。「Speed」の欄が、伝送可能なHDMIケーブルを指している。“赤字でUltra”となっているのが、圧縮伝送しなければ伝送できない信号。8K/60p 4:2:2 10bitや、8K/120p 4:2:0 10bitなどがこれに該当する

ところで、初心者に注意してもらいたいのは、ここで言っている120p対応とはテレビ製品に広く採用されている「120p倍速駆動機能」とは全く別だということ。

新型ゲーム機がテレビ/ディスプレイ側に求めているのは「120p(Hz)入力対応」である。

最近の中堅クラス以上のテレビ製品に搭載されている「倍速駆動」(テレビ機種によっては補間フレーム機能と呼称している場合もあり)は、60p入力された映像を算術的に120p化して表示するもの。60pしかない映像を疑似的に120pとしてみせる機能だ。

ソニー・ブラビアでの「倍速駆動」説明図。テレビで倍速駆動を行なう場合、同じコマを複数回表示、もしくは補間コマを挿入するのが一般的

PC向けのディスプレイ製品で「ゲーミングモニター」として販売されている製品の多くは120Hz以上の入力に対応しており、最近では144Hz対応は当たり前、最上位機になると360Hz対応のモデルもある(PC向けのゲーミングモニター製品についての注意点は後述)。

さらに留意したいのは、入力対応fps(Hz)値と前出の解像度との組み合わせ。

たとえば、120p入力対応を謳う4Kテレビ製品でも、4Kで入力出来るのは60pまでで、120p入力はフルHDまでというモデルが実在する。例えば、東芝レグザの近年モデルがこれに該当する。

東芝レグザは、フルHD/120pや、2,560×1,440/60p入力が可能

Variable Refresh Rate(VRR)対応の重要性

VRRは、地味ながらゲーム体験の底上げをしてくれるかも知れない機能なので、筆者としてはある程度は重視したいと考えている機能だ。

VRRとは簡単に言えば、フレームレートが安定しないゲーム映像を美しく表示する機能のこと。

これまでの家庭用ゲーム機では60fpsが維持できないゲームは、泣く泣く30fps出力に仕様変更すると言ったことが行なわれてきた。これは、30fpsと60fpsの間で揺れる可変フレームレート映像を美しく表示する技術規格に家庭用ゲーム機が対応してこなかったため。

新型ゲーム機ではフレームレートが30fpsから120fpsの範囲で増減する可変フレームレート映像をなめらかに美しく表示できるようになる。

VRRのイメージ(HDMI資料より)

こうした可変フレームレート映像を美しく表示する技術には、NVIDIAが開発した「G-SYNC」や、AMDが開発した「FreeSync」があるが、HDMI 2.1では、映像技術の標準化団体VESA(Video Electronics Standards Association)が、後者のFreeSyncをベースとして規格定義したAdaptiveSyncがVRRという名前となって採用された。なので、既存のPC向けディスプレイ製品でFreeSync対応モデルは、新型ゲーム機のVRRに適合できる可能性が高い。

ちなみにVRR対応ではないテレビ/ディスプレイでは、従来通り30fpsや60fpsといった固定のフレームレートに整頓(Quantize)されるか、あまりなめらかでない表示のどちらかになるはずである。

具体的には、表示がカク付いたり(スタッター現象)、映像が画面内のランダムな位置で上下ずれて表示されたり(テアリング現象)する。逆に言えば、VRRとは「スタッター現象やテアリング現象を回避して可変フレームレート映像をなめらかに表示する技術」ということでもある。

もし、その時点でテレビ/モニターが映像を画面に表示していたとして、60fps周期の表示タイミングを待たずに映像が届いた瞬間から上書き表示を行う(=Vsync無効表示)とすれば、これまで表示していた映像と新しく表示を仕掛けた映像が、画面上のランダムな位置で上下にそれぞれ表示されてしまう。動きの大きい映像では、この際、そのランダムな境界線の上下で映像がずれたような表示となる(テアリング現象)
テアリングの見た目のイメージ
一方、テレビ/モニターが、新しく伝送されてきた映像を、60fps表示間隔の次の表示タイミングまで待ってから映像表示を仕掛ける(=Vsync垂直同期待ち表示)と、テアリング現象は避けられるものの、映像が伝送されてから表示されるまで、時間方向にランダムな「待ち」(遅延)が発生することになる。これは動画として見た場合に「カク付き」を知覚させてしまう(スタッター現象)

Auto Low Latency Mode(ALLM)は無くてもなんとかなる

ALLMとは、簡単に言えば「ゲームプレイに最適な低遅延モードを自動で有効化してくれる」機能。対応していない場合は、ユーザーが自分でリモコンから手動で切り換えればいいだけのことだ。

例えば、ゲーム機を「HDMI入力 2」に接続していたとして、いつもゲーム機をその入力系統に繋ぐのであれば、一度「HDMI 2」に対して「低遅延モード」や「ゲームモード」を設定すれば、毎回設定する必要は無い。なのでALLMは「そのテレビ/ディスプレイ製品が対応していれば嬉しいかな」という程度の機能といえる。

とはいえ、テレビに「遅延を犠牲にして画質を重視するモード」と「低遅延の方を最優先するモード」があること自体を知らない初心者ユーザーは多いし、そうしたモード切換を自動切り替えしてくれるのは便利だろう。今後は、テレビ製品だけでなく、ゲーミングモニター製品において積極的に対応される流れにはなるとは思う。

なお、この連載を読まれている方には「耳タコ」であろうが、「低遅延と応答速度は別もの」「液晶テレビ/モニタが際立って低遅延ではない」「倍速駆動テレビは遅延が大きい」「現行の有機ELテレビは1フレーム遅延が避けられない」といった基本事項について「え、なにそれ?」と思われた方は、大画面☆マニアの特別編「あなたのテレビは遅れてませんか? 知っておきたい“遅延”の話」を参照頂きたい。

1:ゲーム機側が映像を出力
2:ゲーム機側では、プレーヤーキャラクターは既に攻撃を食らっている
3:回避操作をした時点で、プレーヤーキャラクターはダメージを受けていた。表示遅延が大きいと最速で反応してプレイしても間に合わない状況が出てくる

新世代ゲーム機で本格化する「HDR」対応

PS4(全モデル)やXbox One(初期型を除くSとX)といった現行ゲーム機でもHDR(High Dynamic Range)とWCG(Wide Color Gamut)に対応していたが、対応がライフタイム中盤から始まったこと、そしてHDR/WCG対応のテレビ/ディスプレイ製品の普及モデルが登場して間もなかったために、本格対応はPS5やXbox Series Xといった次世代ゲーム機時代になってからと目されている。

恐らく次世代ゲーム機では、大作タイトルのゲームグラフィックスは基本設計段階からHDR/WCG対応となるはずだ。もちろん、現在のHDR/WCG非対応テレビ/ディスプレイでも画面は映るし、ゲームプレイもできるだろうが、ゲーム開発側がこだわって制作した映像表現の全てを味わうことはできなくなる。

そもそも論としてHDRとWCGとはいったいどんなものなのだろうか。

HDRは、一言で言えば、コントラスト表現がより現実に近づいた映像表現が可能になること。

従来の非HDR映像(SDR映像)では、最暗部の黒をゼロとすると、最明部輝度は100nitとして定義され、8ビット数値の最大値255として表されていた。なので映像中の電気照明の光と、屋外の太陽からの直射日光をほぼ同じ255付近の値で表現することしかできなかった。

ちなみにSDRとはStandard Dynamic Rangeの略。ゲーム業界ではHDRに対する対義語的なニュアンスでLow Dynamic Range(LDR)と呼ぶこともあったが、最近ではHDRに対応していない映像はSDR映像と呼ぶことが多い。

さて、HDR映像の標準規格「HDR10」では最大10ビットの数値表現に対応するため、最明部輝度は2の10乗から1を引いた「1023」と表せる。しかも、最大値1023で表す実効輝度を最大1万nitに割り当てることができる。これはSDR映像の100倍の輝度値であるため、同じ眩しい光を出す電球と太陽の明るさの違いをそれっぽく表現することができるようになる。

太陽の輝度は約20億nit、100W電球は約100nit程度なのでその輝度差は2,000万倍。なのでHDR10規格をもってしても、こうした現実世界の輝度差(コントラスト感)を正確に表現することは出来ていないが、「SDR映像よりはだいぶマシなレベルのコントラスト感」は表現できることは間違いない。

というわけで、HDR映像は「現実世界に近づいたコントラスト感が表現できる」ことが直接的なメリットだが、材質表現もリアルになる。

SDRゲーム映像(左)とHDRゲーム映像のイメージ。HDR光源を用いたHDRレンダリングでは、右のように埋もれた陰影が見えるようになる。「Half-Life 2: Lost Coast」(Valve,2005)より

例えば、道路のアスファルトの材質としての反射率はわずか7%しかない。だから、黒として見える。

「何を当たり前のことを」と言われそうだが、真夏の晴天日の道路は眩しく輝いている。そう、太陽光があまりにも高輝度なので、たとえ反射率7%のアスファルトでも眩しく輝くのだ。

つまり、HDR映像では、シーン毎の材質の見え方をあらゆる照明条件で非常にリアルに見せることができるようになる。この恩恵はCGベースのゲームの映像においてもちゃんと得られる。平面の画面に表示されている映像なのに光の存在感がより立体的なものに見えてくることすらある。

実世界の輝度を数値で表した例(Dolby資料より)

「WCG」対応で色が従来比1.7倍も豊かに

WCGのメリットはさらに分かりやすい。

WCGは俗称で、規格としてはBT.2020色空間と呼ばれ、これは現実世界に存在する99%の色を再現出来る規格(色空間)として定義されている。

一般的なテレビ/ディスプレイの基準として採用されてきたsRGB(≒BT.709)色空間と比べて1.7倍も色域が広い。WCGは平易にいえば色数が1.7倍も多いということだ。逆に言うと、従来の(WCG対応以前の)映像機器は現実世界の約58%くらいの色しか表現できていなかったと言うことになる。

従来のテレビ/ディスプレイで実写映像を見ている限りは、別に色が不足している実感はなかったかもしれないが、実はそうでもない。従来のsRGB色空間仕様のテレビ/ディスプレイではかなりの色がちゃんと出せていない。

分かりやすい事例でいえば、エメラルドグリーンに輝く南国の海辺の色などは現実と従来映像規格では全然その色が出ていないし、自然界にいるカラフルな動植物昆虫の色も再現出来ていないばかりか、我々の身近にある人工物、たとえば車のボディカラーも有彩色のものはほとんど再現出来ていない。これらがWCGでは再現度がかなり高くなる。

輝度・色空間の拡張により、色の情報量が格段に増える

実際にどんな製品を選べばよいか

では一体どんな製品を選べばいいのか。

ここまで解説した「次世代ゲーム機が対応する映像技術要素」に関して、次世代ゲーム機に組み合わせるテレビ/ディスプレイ製品を選ぶ際の優先度と一言ガイドを添えてまとめると、以下の感じになると思う。

・8K解像度/4K解像度への対応
4Kまでで十分。8Kはハイエンド指向の人向き

・毎秒120コマ(120fps)入力対応
一人称シューティング系ゲームファンなど、特定のゲームジャンルによっては優先度高め

・VRR(Variable Refresh Rate)
PC版なども同時発売されるようなアクションアドベンチャーゲーム、アクションRPGなどでは優先度高め

・ALLM(Auto Low Latency Mode)
手動でゲームモードに変えられる人には不要

・HDR/WCG
最近モデルの4Kテレビであればほぼ自動対応。一部のゲーミングディスプレイ製品では未対応のものも多いので対応かどうかは要チェック

以上を踏まえて、具体的な製品選びのアドバイスに移ることにしたい。

ソニー:ブラビアは8K液晶テレビ・Z9Hが「4K/120p」対応

2020年7月に米ソニーエレクトロニクスが「PS5に最適なテレビ製品」として、北米地区販売モデルの8K液晶テレビ「Z8H」シリーズと4K液晶テレビ「X900H」シリーズをアピールするアナウンスを行なって注目を集めたが、日本発売モデルでは8K液晶テレビ「Z9H」シリーズのみが4K/120fps入力に対応している。

逆に、現在国内で発売されている4Kブラビアは全て4K/120fps入力には未対応。またALLM、VRRも現行ブラビアで対応するモデルがない。

8K液晶テレビ「KJ-85Z9H」
Z9Hのみが4K/120Hz入力に対応。それ以外のモデルではアップデート対応の予定もないことを宣言している
米ソニーエレクトロニクスが“Ready for PlayStation 5”テレビとして謳う、4K液晶ブラビア「X900H」。残念ながら、日本未発売モデル

シャープ:アクオス8Kが「4K/120p」入力可能!

現行モデルでは、8K液晶テレビの「CX1」「AX1」シリーズ、および8K対応液晶テレビ「BW1」シリーズが4K/120p入力に対応。また'18年発売の8K対応液晶テレビ「AW1」も4K/120p入力をサポートする。

しかし、シャープも4Kモデルは全て4K/120p入力には対応しない。またALLM、VRRにおいても、現行アクオスで対応するモデルはない。

8Kチューナー搭載8Kテレビ「CX1」シリーズ
2018年に発売した世界初の8Kチューナー搭載8Kテレビ「AX1」
4Kチューナー搭載の8K対応テレビ「BW1」

パナソニック:4Kビエラは「ALLM」に対応

パナソニックも、4K/120p入力、VRRに対応するモデルは発売されていない。

ただし、ALLMについては、現行の4K有機ELビエラ「HZ2000」「HZ1800」「HZ1000」シリーズ、および4K液晶ビエラ「HX950」「HX900」「HX850」「HX750」、そして「GR770」シリーズで対応している。

4K有機ELビエラ「HZ2000」
現行の全機種で「ALLM」に対応する(ビエラ操作ガイドより)

東芝:レグザは「ALLM」に対応

77型の4K有機ELレグザ「77X9400」

4K/120p入力、VRRについて現行レグザで対応するモデルはない。

なお、フルHD/120p入力は、倍速駆動対応の4Kモデルが対応している。具体的には2020年モデルではX9400X8400Z740Xシリーズがこれに該当する。

ALLMについては、2020年モデルの4Kレグザの全モデルが対応を果たしている。具体的にはX9400、X8400、Z740X、M540XC350XC340Xがこれに該当する。VRRについては対応モデルはない。

低遅延をウリにするレグザは「ALLM」にはいち早く対応を済ませた

LG:4Kテレビで唯一「4K/120p」対応!

LGは、年始に北米で開催したCESにて「2020年のLGはテレビ新製品のゲーム対応に力を入れる」と宣言していただけに、その本気度がうかがえる。

なんと、ほとんどの2020年モデルのテレビ製品が4K/120p入力、VRR、ALLMに対応する。

具体的には、4K液晶テレビ「NANO91」と「NANO86」シリーズ、8K液晶テレビ「NANO99」シリーズを初めとしたNano Cellブランドの2020年モデル、4K有機ELテレビでは2020年モデルの「WX」「CX」「GX」「BX」シリーズ、そして8K有機ELテレビ「ZX」シリーズが該当する。

4K液晶のハイエンド「NANO91」シリーズ
4K有機ELのスタンダード「OLED BX」シリーズ
4K/120p入力、VRR、ALLM全対応を製品サイトでもアピールしている
4K/120p入力をするための設定(取扱説明書より)
α9 Gen3 AI Processor8K/4Kを搭載するモデルは、HDMIのほか、USB端子でも4K/120pコンテンツの入力・再生が行なえる

ということで、次世代ゲームと組み合わせる「4Kテレビ」が今すぐ欲しいならば、LG一択ということになる。

この事態にはちょっと筆者も驚いている。

PS5を提供しているソニー/ブラビアが、対応モデルを用意できていないことがなんとも不甲斐ない。また、「ゲームはレグザ」というブランディングをしてきたレグザも次世代ゲーム機に対応製品の投入が間に合わなかったのは残念だ。

ところで、HDMI 2.1に対応したテレビ/ディスプレイ製品であっても、4K/120fps入力、VRR、ALLMの全てに対応しているわけではない点には注意したい。4K/120p入力、VRR、ALLMといった各要素はHDMI 2.1の規格化と共に登場した機能だが、HDMI 2.1対応機器にとって全てに対応する義務はなく、あくまでそれらはオプション機能だからだ。なので、ちゃんと対応しているかは入念に事前チェックが必要である。

また、PC向けのゲーミングディスプレイ製品は4K/120p入力に対応した製品がたくさんあるにはあるが、現状、HDMI 2.1に対応したものはほぼなし。そうした4K/120Hz以上の入力に対応した製品は「DisplayPort 1.4接続時に限っての対応」となっている場合が多い。テレビではなく、ゲーミングディスプレイ製品の購入を考えている人はこの点には注意したい。

HDR/WCG対応製品の選択ポイント

上で述べたように、テレビ製品であれば現在市販されている4Kテレビ(あるいは8Kテレビ)は、ほとんどがHDR/WCG対応ではある。

HDR/WCGは、仕様上は、4K未満の解像度、たとえばフルHD解像度とも組み合わせることが出来るのだが、テレビ製品では4Kテレビ以上にならないとHDR/WCG対応とならない場合が多い。

対して、テレビ製品ではなく、PC向けのゲーミングディスプレイ製品では4K/8K解像度未満のモデルでも、HDR/WCG対応のモデルは散見される。注意深く探せば4K未満の解像度の製品でもHDR/WCG対応モデルが見つかることだろう。

ただ、テレビとは違い、PC向けのゲーミングディスプレイ製品は、HDR対応のモデルが必ずしもWCG対応でないことがある。このタイミングで新規購入するのであればHDR/WCG両対応のモデルが望ましいのは言うまでもない。

そんな製品選びの際、役に立つのがVESAが規定した「DisplayHDR」規格だ。

この規格、映像技術の標準化団体のVESAが規定したものだけに、なにやら映像信号規格のように思えるが、実はこれ、テレビ/ディスプレイ製品のHDR/WCG“表示品質”ランクを表したものなのだ。

DisplayHDRの後ろに付く数値が大きいほどその表示が高品質であることを表し、DisplayHDR500以上からがHDR/WCG両対応になる点に留意したい。これまで多数の製品を評価してきた筆者の経験からすると、ある程度の満足のいくHDR/WCG感が得られるのは、DisplayHDR600以上の製品である。

DisplayHDRの後ろに付く数値が大きいほど高品質な表示に対応する。DisplayHDR400はHDRには対応するが色空間はsRGB対応止まり。HDR/WCGに両対応となるのはDisplayHDR600以上となる。なお、True Blackの記述が添えられたDisplayHDRは有機ELパネルなどの自発光画素タイプの映像パネルに対して付与される。こちらは“400”であってもHDR/WCGに両対応となる。DisplayHDR規格の開始当初は3つしかなかった規格名が、新製品が登場するたびに増え、今ではここまでの数となった
現在、最上位のDisplayHDR 1400に対応した機種は少ない。上写真は日本でも発売が確実視されているASUS製4Kゲーミングディスプレイ「PA32UCG」(価格未定)で、最大輝度は1,600nitを謳う。動的バックライト制御のゾーン数は、極小miniLEDバックライトシステム採用の恩恵もあって1,152。これは一般的な大画面テレビの数倍に相当する。量子ドット技術採用で広色域性能もアピール。最大リフレッシュレートは120Hz。HDMI 2.1対応かどうかは未定。発表後、一年近く経つがいまだ謎が多い製品

HDR対応テレビやディスプレイの製品を選ぶ際に、よく聞かれるのが「HDR10対応は当たり前として、HLGやDolby Visionへの対応は必要?」という質問だ。

Dolby Vision(写真上)とSDR(下)の比較イメージ

今のところ、ゲーム用途で、HDR表現を行なう際には、HDR10が標準規格なので、HDR10へ対応していれば問題ない。HLGやDolby VisionといったHDR規格は放送系や配信系の映像コンテンツでの採用が主流なので、ゲーム映像との関連性は現状低い(Xbox Series S/XはDolby Visionへの対応を表明はしているが)。

HDR10+への対応は?」という質問もよく聞かれるが、“ゲーム映像との組み合わせ”という観点から見れば、「対応していればよいけど、必須でもない」という感じだ。

HDR10+のロゴ。「アリータ:バトル・エンジェル」や「1917」など、Dolby VisionとHDR10+両方の信号を収録するUHD BDタイトルも登場している

日本系メーカーでHDR10+対応製品を出しているのは、HDR10+規格の創設メンバーの一社であるパナソニックに加え、親会社のハイセンスが加盟したことで、それに連動する感じで対応を始めた東芝くらい。ちなみに、ソニーは「HDR10+不要論」を唱える推進派だったりもする。

つまり足並みが揃っておらず、それほど多くの対応コンテンツがあるわけでもない。またHDR10+映像信号は、HDR10対応映像機器で普通に表示できる(HDR10+で追加された制御が自動的に無視される)ので、それほど深く気に掛ける必要も無いだろう。

現在、HDR10+対応テレビ、ディスプレイを製造するメーカーの一覧

テレビ/ディスプレイでHDR/WCGを有効化すると画がおかしくなる理由

最後におまけの話題を。

2016年、PS4やXbox OneはHDR/WCGに対応した。続いてマイクロソフトは2018年春のアップデートでWindows10をHDR/WCGへと対応させた。これを「待ってました」といわんばかりに世界中のユーザーがHDR/WCGを有効化させたところ、発色や階調が変になる事例が相次いだ。

この時、多くのユーザーが「ゲーム機やWindows10のHDR/WCG対応はおかしい」と訴えたのだが、実はこの不具合、原因はほとんどの場合、テレビ/ディスプレイ側の方にあった。

どういうことか。順を追って説明しよう。

HDR/WCGの映像規格は2015年に誕生した4K(UHD)ブルーレイのリリースとほぼ同期して実用化された。4Kブルーレイの映像は色差(YCbCr/YCC)形式のHDR/WCG映像だったため、2015年から2017年くらいまでに発売された製品では、この信号にしか対応していないものが多かったのである。

対してゲーム機やWindows 10のHDR/WCG映像はデフォルトではRGB形式が自動採択されることが多く、この場合、色差形式のHDR/WCG映像にしか対応していないテレビ/ディスプレイでは正しい表示が行なえなくなる。原因はこれだったのだ。

この不具合を回避するには、ゲーム機側、Windows10側の映像信号を手動で色差形式に明示指定してやるだけだ。この設定はPS4ならば「サウンドとスクリーン」設定、Xbox Oneならば「画面とサウンド」設定で、Windows10ならばグラフィックスカードベンダーが提供するコンパニオンソフトから行なえる。

なお、筆者調べになるが、近年発売された新しめな製品でも、いわゆる無名ブランドの格安製品では未だにRGB形式のHDR/WCG映像にうまく対応できない製品がある。なので、HDR/WCG対応テレビ/ディスプレイ製品を購入する際には著名メーカーの新しめの製品を推奨する。

2018年春のアップデートを適用したWindows10では「ディスプレイ設定」からHDR/WCGを有効化させることができる
Windows10でHDR/WCGを有効化して表示がおかしくなった場合は、NVIDIA GeForce系GPUの場合であれば「NVIDIAコントロールパネル」を開き、「解像度の変更」にてカラーフォーマットをYCbCr422や420、あるいは444として、色深度を10ビット(bpc)と設定してみよう
トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
YouTube: https://www.youtube.com/zenjinishikawa