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VTuber国内市場は約800億円に。ホロライブ成長の取組みをYAGOOが語る

YAGOOことカバー代表取締役社長CEO 谷郷元昭氏

VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは、近年拡大し続けているVTuber市場について説明。YAGOOこと、カバー代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏が登壇し、市場全体の特徴や強み、ホロライブプロダクションの成長について語った。

VTuberとは、アニメルックなキャラクターのアバターを使い、YouTubeなどで活動するバーチャルエンターテイナーのこと。2016年に登場したキズナアイを先駆けに「バーチャルYouTuber」という言葉が誕生。動画をメインに活動する「バーチャルYouTuber」と、配信をメインに活動する「バーチャルライバー」という言葉が存在していたが、やがて現在のように配信が主体となり、まとめて「VTuber」と呼ばれるのが一般化している。

VTuberが受け入れられたのはアニメのおかげ

同社では、87名の所属タレントを抱え、総チャンネル登録者数は8,600万人を記録。また、VTuberにおけるYouTubeのチャンネル登録者数については、英語圏向けホロライブEnglish所属の、がうる・ぐらが442万人で北米および世界第1位、ホロライブ(JP)所属の宝鐘マリンが303万人で国内第1位、ホロライブIndonesiaこぼ・かなえるが東南アジアにおいて第1位を記録。VTuberの世界登録者ランキングでは、上位10人中、キズナアイを除いた9人をホロライブが占めている。

画像内登録者数は2023年4月のもの

VTuberの国内市場規模は2020年度の144億円から4年で約5倍となる約800億(2023年度見込)に成長。同社の売上推移だけでも、4年で約14倍に成長したという。こういったVTuberの人気の背景には、スマホや5Gの普及といった、動画を手軽で快適に楽しめる環境が構築されたことと、日本発のアニメが世界配信などにより、国内外で人気を博している土台から成り立っていると谷郷氏は説明する。

アニメは、2022年には市場の半数以上を海外が占めるようになったほど世界的に受け入れられ、キャラクターIP産業は日本を代表する一大産業となっている。そういった環境がすでに完成していたため、アニメルックなキャラクターのアバターで活動するVTuberも、登場してすんなりと受け入れられたという。

「アニメキャラがもし人格を持って自由に活動したら……」そんな、アニメを視聴したことがある人であれば一度は考えたことがありそうな内容を実現化したような存在がVTuberだと考えていると谷郷氏は語る。

メインの視聴者層は若年層。IPカンパニーのような収益構造に

視聴者層は国内外ともに若年層が中心となっており、旺盛な消費意欲と熱量をもっていることが特徴だという。現在では第5弾まで販売された、VTuberのオリジナルカード付ポテトチップス「VTuberチップス」の第1弾は2019年の発売即日に完売。カードを揃えるために大量購入するファンのSNSの反応や、X(旧Twitter)のトレンドを席巻したところからもその熱量が伺える。海外の例では同社のホロライブEnglishのアメリカでの初主演公演が挙げられ、約6,000人分のチケットが即日完売となったという。

また、活動開始当初の視聴者層は20代〜30代がメインとなっていたが、近年は10代〜20代の若年層が中心となり、30〜40代へ視聴者層の幅が広がってきているという。SNSでの拡散効果も高く、同プロダクションの大型企画ではX(旧Twitter)の国内トレンド1位を頻繁に獲得するほか、オフラインのライブでは世界トレンド1位を達成している。

こういった視聴者層と特徴から、様々な企業とのコラボレーションが実現。同社では日清やアサヒ飲料、レッドブルといった飲食系、コンビニ、ゲームのほか、富士急ハイランドなどのエンタメ施設ともコラボレーションを実施。

バーチャルのキャラクターという特徴で、衣装や演出などの企業の要望に応えやすいほか、インフルエンサーとしてのしての側面も活かして、若年層とタッチポイントを作れる、SNSでの拡散力も持っているといった強みを全て活かすことができ、現在の同社の収益の半分がこういったライセンス/タイアップ施策によるものと、キャラクターIPを活かしたグッズ販売などのマーチャンダイジングになっているという。

配信においては、大きな金額がランキングなどで公開されて話題となり注目されるスーパーチャット(投げ銭)が主な収益となっているように思われがちだが、これは事業のメインの収益とはなっていないという。

スーパーチャットのほかに、YouTubeの広告収入もあるが、月額制のメンバーシップや、グッズ販売の拡充など、視聴者がタレントを応援する方法が増えたことで、配信の環境でも、スーパーチャットの収益が減ったとしても大きな影響が出にくい環境になっているという。

そして事業全体として、こういったIPカンパニーと類似した収益構造となっていることから、今後はホロライブプロダクションのタレントのみのアニメやゲームといった、同社IPの商品化が加速していくと予想しているという。

ファンと一緒にコンテンツ創造。ホロライブの人気に火が付いた訳

そもそも「バーチャル“ライバー”」についてはカバーが世界初で実現したという。カバー初のバーチャルライバー「ときのそら」がデビューした当初、バーチャルYouTuberとして活動していたキズナアイや、ミライアカリ、輝夜るな、電脳少女シロらは動画をメインとして活動。配信をメインとしたのはときのそらのみだったという。その後、にじさんじ、ゲーム部、ななしいんくなどが登場。VTuberのメインの活動は配信に移り変わっていった。

動画から配信への移り変わりにはコスト面も関わりがあり、動画では脚本、撮影、編集といった人の手が多く関わってくるが、配信であれば、タレントにスマホを提供すればあとは各自が自由に配信を行なえるため、普段の配信におけるランニングコストを抑えることができる。カバーの場合、ライブなどでコストが発生するものの、日常的なコストは抑えられるので、安定して所属タレントをサポートできるとのことだ。

ホロライブの視聴者が爆発的に増加したきっかけは、2020年の1stライブにあったという。ホロライブの活動方針、会社としてはIP活用方針「全員が同じアイドル衣装を着て舞台に立つ」ことを決め、それをこのライブで実施した結果、それが視聴者に刺さったと分析しているという。その成長規模は、ライブ開催前に個人投資家からの資金調達を検討したにも関わらず、その資金が不要になったほどだという。

谷郷氏は、これまでのアイドルアニメは声優が演じているキャラクター、自由に活動しているVTuberという存在が揃いのアイドル衣装に身を包んでオフラインの会場に登場することにニーズがあると考えたという。当時のVTuberはそれぞれに個別の衣装はあったものの、揃いの衣装を着て全員が集うという環境はなかったため、その初の取り組みが成功したわけだ。

運営方針も、タレントを採用後に十分な期間をかけて育成した後にユニットとしてデビューさせるという方式を取っている。これにより、配信や動画制作において一定のクオリティを担保できているという。

これに合わせてテクノロジーの進化も強みとなっている。同社では総工費27億円をかけて国内最大級の設備を備えたVTuberコンテンツ専用のスタジオを解説。高クオリティな3Dコンテンツや、ライブを同社で実現できるほか、オフラインにおいてもステージの上に居るかのようなライブ体験を実現しており、世界的に受け入れられるコンテンツに成長した。

また、大事にしていることがUser Generated Content(UGC)、ユーザーが作るコンテンツ所謂「二次創作」だ。同社の場合は、VTuberによる配信、楽曲などに対しての、ユーザーによる切り抜き動画や歌ってみた動画、ファンメイドゲーム、イラストなどのことで、二次創作ガイドラインを明示することで、これらの活動を促進。ファンと共にコンテンツを創作することで、より多くの人へ魅力を届けることができているという。

とくに今月登録者数300万人を達成した宝鐘マリンは、2023年に公開したオリジナルソング「美少女無罪♡パイレーツ」がヒットし、YouTubeでは3,390万再生を突破。これに対して、UGCに当たるTikTokでの楽曲使用動画は6万本を突破、4,000本以上の新たなYouTube動画も誕生し、未視聴層への拡散が高まり、200万人達成から約1年5カ月で300万人の記録を達成した。

小型のモーションキャプチャー「mocopi」の登場などで、誰でも簡単にアバターを使った配信が行なえるようになった一方で、視聴者層の獲得などを踏まえると、高度なITテクノロジーや、ファンコミュニティの形成、多言語化など、高い参入障壁が存在していることもVTuber市場の特徴とし、谷郷氏は、生きたIPである所属タレントと、カバーがすでに保有している技術力や、海外ファンとの接点などを活かしながら、今後VTuberを主軸とした新しいカルチャーのスタンダードを作っていきたいとまとめた。

野澤佳悟