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無響室からクルマが入る電波暗室まで、JVCケンウッド価値創造拠点「VCS」行ってみた
2024年12月5日 11:35
JVCケンウッドは、横浜本社地区に、価値創造の新たな拠点になるという「Value Creation Square」(VCS)を創設。4日、メディアにその内部を公開した。そこでは、車が入る広さの電波暗室や無響室などの試験・評価設備と、アイデアを生み出す空間が一体になっていた。
これまでのJVCケンウッドは、八王子にカーナビなどのモビリティ&テレマティクスサービス部門、横須賀にプロジェクターの事業部といったように、事業・分野によって各事業所が分散していた。それらの技術、研究開発、営業、商品企画、コーポレート部門の各部門を、新子安駅に近い本社ビルのある横浜本社地区に集結させた。
そして、本社ビル「The Central」の隣に、新ビル「Hybrid Center」を建設。検証設備の「Testing Lab」も含めて「Value Creation Square」と総称している。新ビル「Hybrid Center」は2023年6月から建設を進め、2024年10月に完成。11月下旬には従業員の入居も完了し、本格的な稼働を開始した。
大きな吹き抜けの階段を中心に開放的な空間が広がる
JVCケンウッドは、日本ビクター、株式会社ケンウッドの時代から、約100年にわたる歴史の中で培ってきた「映像」「音響」「通信」の技術を強みとしているが、これまでは重なり合う技術を持ちながら、事業・分野別に拠点が異なっていた。それをVCSに集結することで、効率化や人的流動性を高めるのが狙いで、その象徴と言えるのが4階建ての新ビル「Hybrid Center」だ。
アイデアを生み出す空間として作られたHybrid Centerは、外から見ると窓が無いように見えるが、壁面が小さな穴があいた有孔折板で構成されており、ブラインドを備えなくても、太陽光が入りすぎないように工夫。この有孔折板には、音の波形をイメージしたデザインも施されている。
入口をくぐり、まず目に入るのが、建物の中央部に1階から最上階まで続く大きな吹き抜けの階段。この階段を中心にとし、開放的な空間が広がっている。
3階と4階は執務フロア。固定席を無くしたアドレスフリーな環境になっているほか、会議室やコラボレーションスペースなど従業員が集まる場も設けられ、コミュニケーションを取りやすいよう設計されている。
オープンスペースは、床を掘った構造で段差に座ることができ、アイデアの議論やピッチ(短いプレゼンテーション)などができる「JKC PLAZA」や、イベントやプレゼンテーションなどもできる大階段を設置。共創が促される空間としている。
なお、新ビルを含めたVCS全体の執務エリアは、分野別や事業部別ではなく、技術・商品企画・営業などの機能別に配置することで、分野や事業の垣根を超えた交流のきっかけが生まれるようなレイアウトになっているという。
また、技術部門の執務エリアでは什器や設備を標準化し、どのフロアでも同じ業務環境とすることで、新たなプロジェクトにも参画しやすく、エンジニアの流動性が高まることを目指した。
これにより、スタッフやチームの交流を深め、蓄積された「知」(ノウハウ、知識など)を共有。「生まれた“摩擦”により新たなアイデアの創出につなげ、グローバルなメガトレンドに対応した技術開発力を強化する」という。技術の交流会なども予定されている。
VCS稼働を機に、オンサイト勤務とオフサイト勤務の両方のメリットも高めた。VCSを軸とするオンサイト勤務では、前述の通りオープンコミュニケーションの活性化を目指した環境づくりをする一方、オフサイト勤務では、在宅勤務の整備、サテライトオフィスやシェアオフィスの充実化も実施させている。
1階と2階には巨大な試験・評価施設
Hybrid Centerの1階と2階は試験・評価施設となっている。2階には、ホームオーディオやカーオーディオのサウンドをチェックするための20畳ほどの試聴室を用意。天井には、スピーカーを配置しやすいようにバーが備えられているほか、カーオーディオのユニットを取り付けて試聴するためのエンクロージャーも設置されている。なお、試聴室はもう1室あるとのこと。
-30度から80度まで、任意の温度をキープできる恒温槽や、熱衝撃試験を行なう装置が並んだ部屋も。中には無線機などの製品が入っており、過酷な使用環境を想定した試験が行なわれている。こうした恒温槽は大小46台完備されており、かなりの規模だ。
1階にはさらに巨大な設備がある。
1つは無響室。簡単に言えば、床や天井、壁の全ての面に吸音材を配置し、そこに網のような足場を作り、中に入れるようにした部屋だ。その中で音を出すと、周囲の吸音材に音が吸音されるため、壁や床などで音が反射しない。ここでスピーカーを鳴らせば、スピーカーから出ている直接音のみを計測できるというわけだ。
この無響室はかなりの広さがあるが、より巨大な、なんと自動車が入ってしまう半無響室もある。自動車を入れるため、床は通常の床となっているが、周囲の壁や天井の作りは無響室と同じ。
この半無響室は、カーオーディオの開発などで活用。座席にダミーヘッドマイクを座らせ、カーオーディオの音を集音すると、周囲からの反射音が少ないため、カーオーディオ本来の性能を測定できるようになっている。
この無響室の“電波バージョン”のような部屋が電波暗室。電波を吸収する特殊なウレタンが壁や天井に配置され、床は設置した自動車の回転台になっている。電波が自動車に与える影響や、車載機器から発生する電波の強さを、様々な角度からチェックできる設備だ。
さらに、振動・衝撃試験を行なう部屋では、試験装置が「ガガガガッ!」と凄い音を立てながら、設置されたカーナビを揺すっている。悪路を走行するなど、車載機器は過酷な環境でも動作するように作る必要があり、信頼性を高めるために欠かせない試験だという。
こうした試験・評価設備を自社で持つ事で、開発のスピードを加速できるだけでなく、オフィスと試験評価施設が1つの建物に集約されている事で、例えば、試験で試作機に問題が発生したらすぐに開発部門にフィードバックできるなど、多くのメリットがあるそうだ。