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キヤノン「EOS R6 V」の使命とは? スチル機とシネマ機の間に広がる動画ニーズ

左から、キヤノンマーケティングジャパン株式会社 カメラ統括本部 カスタマーリレーション企画部の野口理加氏と矢作大輔氏、イメージングソリューション営業本部 イメージングソリューション企画部の榊田尚貴氏

5月に発売されたミラーレスカメラ「EOS R6 V」は、キヤノンが動画向けラインの“EOS/PowerShot Vシリーズ”に投入した初めてのフルサイズ機。最大で7K60pの12bit RAW撮影や、クロップのない4K120p撮影、7K30pオープンゲート記録といった、プロ機に迫る機能性が特徴だ。

しかし、キヤノンにはすでに同様の機能を持つカメラが発売済み。ファインダー付きのミラーレスカメラ「EOS R6 Mark III」と、シネマ向けのCINEMA EOSシリーズに属する「EOS C50」である。

EOS R6 Mark III。カメラグランプリ2026の読者投票で「あなたが選ぶベストカメラ賞」に輝くなど、スチル派からの支持も厚い
EOS C50。CINEMA EOSで最小・最軽量のサイズ感。付属の多機能XLRハンドルにマイクを直接接続できる

このスペックが似た3機種をどのように選べばよいのか。昨今の動画事情を背景に聞くと、EOS R6 Vは、EOS R6 Mark IIIの動画版ではなく、CINEMA EOSの廉価版でもない。スチルカメラとシネマカメラの間に新しく生まれた現代の動画ニーズを受け止めるカメラだった。


    【登場機種】
  • EOS R6 V:動画向けEOS/PowerShot Vシリーズの最上位機。フルサイズ・363,000円
  • EOS R6 Mark III:動画にも強いスチルカメラ。フルサイズ・429,000円
  • EOS C50:映像制作向けCINEMA EOS最小機。フルサイズ・554,400円
  • (参考)EOS R50 V:エントリーしやすい本格動画ミラーレス。APS-C・113,300円

EOS R6 Vは何を埋めるカメラなのか

今回登場する3機種は、イメージセンサーや映像エンジンといったキーデバイスが共通。画質も基本的に同じと言える。では何が違うのかというと、撮影体験と実現できることだ。

EOS C50

縦横同時記録機能やタイムコード端子など、映像制作の現場で求められる仕様を備えたプロ向けシネマカメラ。

EOS R6 Mark III

充実したスチル性能をコアとしつつ動画性能も兼ね備えた、バランス型のハイブリッド機。ファインダーやメカシャッターといった、スチルカメラに必須とされる仕様を持つのは唯一。

EOS R6 V

ミラーレスカメラの設計思想をベースに、よりミドル〜ハイアマ〜プロのビデオグラファーが求める機能を拡充したモデル。業務用の領域とは異なる、新しい映像制作ニーズをカバーする。

左からEOS R6 Mark III、EOS R6 V、EOS C50

大衆化した動画需要に応えるVシリーズ

キヤノンは2023年にコンパクト機「PowerShot V10」を発売。続けて、広角ズームレンズ搭載のコンパクト機「PowerShot V1」と、APS-Cミラーレスカメラの「EOS R50 V」を投入。特にEOS R50 Vについては、これから本格的に動画を始めてみたい人へのオススメの1台と位置付けている。

この記事で話題の中心にする「EOS R6 V」は、このVシリーズの最上位機として2026年6月に発売されたフルサイズセンサー搭載のミラーレスカメラだ。

なぜ今、コンパクト機からフルサイズ機までVシリーズのラインナップが拡充されているのか? キヤノンが見ている現代の動画ニーズについて聞いた。

ショート動画時代に求められるカメラ

そもそも、スチルカメラを出自とするミラーレスカメラに動画機能が充実してきた背景には「動画の大衆化」というキーワードがある。本誌記事で複数メーカーに取材する中で見えてきたトレンドだ。

2010年代にキヤノンのEOS 5D Mark IIやEOS 7Dから広まった“一眼動画”は、映像のプロが表現の幅を広げるためのツールだった。だが2020年代に近づくにつれ、SNSを通じた動画投稿や視聴が一般化。デジタルカメラの動画機能は、もともとカメラに詳しいプロだけでなく、スマホからステップアップする新規ユーザーをサポートすることも課題になってきた。

今の動画トレンドは、いわゆるショート動画に代表されるように尺が短め。そして、消費スピードが高まっている。この分析について、「『鶏が先か、卵が先か』ではありますが、みんなが残したいものはトレンドに近いんです」と矢作氏は話す。

矢作氏

SNSプラットフォームや通信環境の進歩によって、動画も写真のように消費しやすくなったというわけだ。

では、どのようにサポートしているのか。

目指すのは、スマホとカメラの壁をなくすこと。そのために転送アプリの充実に力を入れている。動画編集そのものはスマホで行なわれることを想定して、とにかくスマホに動画を転送しやすいアプリを作っている。

特にEOS R50 V以上の本格的な機種になってくると、DaVinci ResolveやPremiereのように編集ソフトもプロ用を使う人が多い。そして、それらにはモバイル版も用意されていることが多いため、キヤノン自ら編集アプリを提供するユーザーメリットは大きくないとの考えから、撮影した映像を素早く転送できるアプリの提供に集中している。

キヤノンのスマホアプリ「Camera Connect
動画ファイルの転送やリモート撮影が行える

EOS R6 Vが「足りなかったピース」として実現する、旅と高画質の両立

こうした動画需要の広がりを、キヤノンは「旅」という切り口からも捉えている。キヤノンは旅メディアと共同で、Vシリーズの公式アンバサダーを組織。動画クリエイターや写真家、ミュージシャン、旅ライターなどが魅力を発信している。

ここで「旅」との相性をアピールするのにも理由がある。写真や動画を撮るのが好きな人ならわかる通り、旅やレジャーなどのアクティビティを楽しむのと、その様子をカメラで撮影するのは、ともすれば相反関係にあるからだ。

もちろんスマホやアクションカメラであれば、アクティビティを楽しみながら撮影することも可能だろう。しかし、クオリティが高い“一生モノ”の映像を、機動力のあるサイズで撮れるようにする。これを高次元で実現するのがフルサイズかつ機動性の高いEOS R6 Vであり、まさにキヤノンの考える「足りなかったピース」というわけだ。

EOS R6 V。ファインダーは非搭載。バリアングルモニターを備える

動画撮影の現場が生んだ操作系

Vシリーズに属するEOS R50 VおよびEOS R6 Vの操作性も、基本的にはスチルカメラ発祥のEOSをなるべく踏襲するよう目指しているという。その中で、今の動画ニーズに応える仕様を大胆に盛り込んだ。

例えば外観では「縦位置撮影用の三脚ネジ穴」が象徴的だ。映像作品の本編を横位置で撮影する傍ら、広報用としてSNS向けの縦位置動画も記録したいニーズがある。その際に選ばれるサブカメラとしては、カメラを縦向きに設置しやすいのは大事なポイント。

左からEOS R6 Mark III、EOS R6 V、EOS C50。C50もサイドに三脚穴はあるが、R6 Vは縦位置撮影しやすい中央付近に三脚穴が付いている

榊田氏によると「撮影現場では、撮る画が最初に確定していないケースがあります。横位置だけでなく縦位置の映像も欲しいと言われることが少なくなく、それに対応できる余地を残す撮影機能が求められています」とのこと。

榊田氏

また、カスタマイズできるボタン数を多くしているのも特徴だ。AF/MFの切り替え、撮影アシストの表示、露出の確認などを、ワンボタンで呼び出すことができる。そうしたボタンレイアウトが、既存のEOSとは少し異なる“動画寄り”のバランス感覚に表れている。さらに、常時収録や縦横同時記録、長時間撮影でも安定して稼働する熱耐性もシネマカメラならでは。

左からEOS R6 Mark III、EOS R6 V、EOS C50。背面ボタンの数や配置、動画のメニュー画面の構成も違う
天面もボタン配置が異なる

それでも入り口はAPS-C。「EOS R50 V」という手堅い選択肢

EOS/PowerShot Vシリーズ

2023年の「PowerShot V10」に始まるVシリーズを市場投入してから、映像制作のためにカメラを手に取る人が増え、メーカーとしての期待通りだと話す矢作氏。EOS R5のような本格的なフルサイズ機を所有しつつ、サブで動画機に挑戦してみたいと考える人の買い足し需要に応えられている。

純粋なサブ機であればセンサーサイズは同じほうが好ましいけれど、APS-C機のほうがコスト的に手にしやすい。2025年に投入したAPS-C機の「EOS R50 V」は、フルサイズのEOS R6 Vが登場した後も“動画入門の1台目”としてイチ押しの存在だ。

EOS R50 Vについては、「カメラを始めたいけど予算の都合があったり、とにかく軽いカメラがいいという方に店頭で選ばれています。静止画も十分な性能なので、旅の記録として写真も綺麗に残したい人に好まれています」と野口氏。

野口氏

筆者自身もそうだが、ついカメラ愛好家はフルサイズ機を中心にカメラ市場を見てしまいがち。しかし、今でも販売台数のボリュームはAPS-Cのほうが大きい。EOS R50 Vはレンズが付属しても10万円台前半で買えるのだから、すぐ50万円前後になってしまうフルサイズ機より格段にエントリーしやすい。

ライバルはFX3やZR。キヤノンならではの強みは?

EOS R6 Vがライバルと目するカメラは、ソニーFX3やニコンZRといった、動画主体のミラーレス機。近年の動画トレンドで人口が増えたゾーンだ。同じ提供価値を目指す機種としてベンチマークにしつつ、「キヤノン製品も存在することで、購入者の選択肢に入れる」(矢作氏)という狙いもある。

では、キヤノンならではのアピールポイントは? それは、レンズとカラーサイエンス(写真でいう“画作り”)だという。EOS Rシリーズ用のレンズには、製品名に“Z”を冠するパワーズーム対応レンズや、「RF F1.4 L VCMシリーズ」と呼ぶ高速・静音AFと共通サイズの鏡筒を採用したラインナップが揃う。

RF F1.4 L VCMシリーズ

特にRF F1.4 L VCMシリーズは、色再現や描写だけでなくフィルター径や重心も揃えており、ジンバル撮影時にレンズを交換しても重心のリバランスが不要というメリットがある。1本あたり20〜30万円台という価格帯なので、気軽なVlogというよりは、人手が足りないプロの現場を助けるAFレンズという印象を受ける。

いずれにせよ、動画機を展開することは、カメラだけでなくレンズやソフトウェアといったワークフロー全体を構築・訴求していくことが大事だというメッセージがある。多面的なサポートによってクリエイターの力を引き出し、より次元の高いクリエイティビティを追求できる余力が生まれるように考えられたシステムだ。

矢作氏は「EOS R6 Vは、Vシリーズの最上位機でありながら、CINEMA EOSのエントリーのような立ち位置でもあります。2〜3年後にCINEMA EOSへステップアップしてもらえるようなことも考えています」と語る。

榊田氏は、「収録フォーマットの呼び名をEOSとCINEMA EOSで共通化したり、カスタムピクチャーやリール番号の管理もCINEMA EOSからEOSに取り入れました」と語る。“プロだからCINEMA EOS”、“アマチュアだからEOS”、とハッキリ分けられるものでもないのだ。

キヤノンが外部SSD記録に対応しない理由

興味深い話を聞いた。キヤノンのカメラは外部SSD記録に対応していない。RAW動画も基本的に内部収録としている。

これは、カメラの内部で発生したエラーであればメーカーで解析できるが、外部SSD記録でエラーが起きるとカメラ以外にも接続ケーブルなどの外部要因が多く、リスク管理がしづらいからだという。

「いずれ(外部SSD記録の)要望に応じる可能性もあるけれど」としつつ、現時点でキヤノンとしては、内部収録の安全性を訴えるスタンスだ。

これまで矢作氏が見てきた様々なプロの現場、特に“ちゃんとした現場”では、256GBや512GBといったサイズの記録メディアを使ってこまめにバックアップを取っていることが多いという。そして大規模な現場にはDIT(Digital Imaging Technician)という技術サポートやデータ管理の専門家も付く。

昨今は記録メディアの価格高騰もコストとして見過ごせないが、それには「収録効率を良くする」というアプローチで応える。つまり、データ量の軽いフォーマットを使うことで、同じ記録メディアでもより長時間の収録を可能とするわけだ。具体的には、クロップなしで撮影できる4K SRAWや、12bitのCinema RAW Lightといったデータ効率化を提供している。

LUT、リモコン、配信ソフト。動画制作を支える周辺環境

ここまでに触れた要素のほかにも、動画カメラの活用シーンを広げたり、使い勝手を高めるものについて聞いた。

Canon LUT Library

8つのカテゴリのLUTが提供されている「Canon LUT Library
ダウンロード前に画作りのイメージを確認できる

カラーグレーディングで作り込んだような雰囲気のある画調にニーズがあったため、キヤノン純正のいわゆる“クリエイティブLUT”を「Canon LUT Library」で提供。Canon Logを使った撮影を楽しんでもらうための取り組みだ。

エフェクトを掛けた状態で撮影するフィルターは、EOS R50 Vクラスまでの機種ではよく使われている。しかし、Log撮影の対応機種であれば、Logで撮影によるダイナミックレンジの広さや、露出設定が多少甘くても編集で救える点を体感してほしいという。

Canon LUT Libraryの対応機種

EOS Webcam Utility Pro

EOS Webcam Utility ProのWebページ
有料プランでは、最大5台のカメラのスイッチングなども可能に

EOS R50 Vなどのカメラで、ハードウェア不要で簡易的なライブ配信を行えるソフト。元々はコロナ禍のWeb会議需要に向けたソフトだったが、カメラの進化により役割がシフト。スイッチャーのような機材を買わずとも、複数カメラをパソコンにUSB接続することでスイッチングしながら配信できる。

EOS C50同梱のハンドルユニット

EOS C50に標準付属のハンドルユニット。XLR端子を内蔵する使い勝手に加え、ハンドルを持つ安定感や、アクセサリーシューによる拡張性がウリ。また、C50は4倍までデジタルズームができ16段階の速度設定が可能だが、同梱ハンドルを用いることで繊細なズーミングができる。

RF20-50mm F4 L IS USM PZ

パワーズームによる一定速ズームとマニュアル操作を両立。EOS R6 Vとの重量バランスを鑑み、望遠端は50mmに抑えている。ズーム速度を15段階に変更できるのは「やりすぎ」の面もあると認識しつつ、技術者の挑戦的要素として盛り込んだ。作り手の想像を超えた使われ方に期待しているという。

PZ/MZのスイッチをスライドさせながら回すことで、パワーズームとマニュアル操作を切り替えられる

ワイヤレスリモートコントローラー BR-E2

Bluetooth式のリモコン。従来モデルになかったズームレバーが増え、動画撮影に使いやすくなった。半押しに対応するシャッターボタンのほか、録画ボタンやファンクションボタンも用意。テーブル三脚とセットになった「トライポッドグリップ HG-200TBR」もある。

まとめ:現代の動画ニーズに応える3機種展開

EOS R6 Vは単純に動画機能を強化したミラーレスカメラではない。少人数・短納期で、横位置と縦位置の両方も求められる現代の動画制作事情。さらに旅などのアクティビティと高画質撮影を両立するために、EOSとCINEMA EOSの間に置かれた新たな選択肢だ。スチル寄りのEOS R6 Mark IIIでも、シネマ用のEOS C50でも埋め切れない領域。そこにEOS R6 Vの役割がある。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラ・楽器専門誌の機材系記事を中心に、モノ情報誌やライフスタイル誌にも寄稿。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」