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初心者から長く使える「EOS R50 V」、実はプロ仕様「PowerShot V1」。キヤノン動画機の選び方
2025年6月26日 08:00
「動画撮影を意識してミラーレスカメラを選んでみたい」というニーズが増えている昨今。しかし、何を買えばいいのか、どう選べばいいのか、なかなか難しい。大きいカメラのほうが何でもできそうだが、使いこなせないのではないか。小さいカメラは発熱ですぐに止まってしまうのではないか……などなど、動画撮影以前の悩みが尽きない。
そこで、そうしたカメラの企画・開発を行っているメーカーに直接聞いてみようというのが本稿の主旨。今回は、動画用途に特化した新シリーズ「EOS/PowerShot V series」の話題がホットなキヤノン製品について話を聞いた。おすすめ機種の紹介や、動画需要のトレンドなどについてお伝えする。
今回登場するカメラは以下の通り。
- EOS R50 V ボディのみ直販113,300円
- PowerShot V1 直販148,500円
- PowerShot V10 直販59,950円
【EOS/PowerShot V series】
- EOS R5 Mark II ボディのみ直販654,500円
- EOS R50 ボディのみ直販111,100円
【EOS】
- EOS C80 ボディのみ実売896,500円
- EOS C400 ボディのみ実売1,375,000円
【CINEMA EOS】
- XF605 実売605,000円
- XA60 実売217,800円
【Xシリーズ】
1台目にオススメは「EOS R50 V」。EOS/PowerShot “V”の意味とは
——これから動画撮影を始めたい人に、オススメの機種を1つ挙げるなら?
野口:APS-Cセンサー搭載のミラーレスカメラ「EOS R50 V」をおすすめします。動画を始めたいと考える方へのアンサーとして企画した製品です。4K/60p記録、Canon Log 3対応、4:2:2 10bitなどプロ機に迫る仕様を持ちながら、近距離優先でピントを合わせる「レビュー動画」、シネマライクな画角と映画に近いフレームレートになる「シネマビュー」、手軽に色調を選べる「カラーフィルター」といった、初めての方でも楽しんでいただける機能が充実しています。
先に登場した「PowerShot V10」や「PowerShot V1」といった機種はレンズ一体型でしたが、レンズ交換式かつエントリー向けを意識したEOS R50 Vで、さらに裾野を広げたいと考えています。いわゆるVlogに限らず、動画を作ってみたいと考える全ての方に最初の1台として提案します。
——EOS R50 Vを1台目としてオススメする理由は、どこにありますか?
野口:直感的な操作性です。動画撮影を中心とした機種として、ダイヤル上の機能配置も一新しました。動画と静止画を切り換えるとメニューのUIも変わります。また、パワーズーム対応の交換レンズ用に、シャッターボタン近傍にズームレバーを設けています。ほかにも録画ボタンをカメラの前面にも配置するなど、動画を撮りたい時の動作にマッチするようなデザインを施しています。
矢作:機種名に「V」と加えたことで、“伝統的な写真撮影用のカメラとは異なるコンセプトである”という部分を、名前からもメッセージとして発信しています。
野口:今ではSNSに動画がたくさんあるので、「こういう色にしたい」、「映画みたいにしたい」、「スローや早回しで撮りたい」といった撮りたいもののイメージは持っていても、どう設定すればいいのか分からないという方が少なくないかと思います。EOS R50 Vではそうしたニーズに“モードとして搭載する”というアプローチで応えました。
映画っぽく撮りたければ、フレームレートやアスペクト比の設定をそれぞれ意識せず、とにかく「シネマビュー」を選んでいただければイメージに近い撮影が可能です。スローと早回しは「S&F」(スロー&ファストモーション記録)といった具合です。そして、少しずつ設定のことがわかってきたら、好みの設定をカメラに保存してお使いいただけます。モードダイヤルにC1/C2/C3とカスタム設定エリアを設けているのはそのためです。
野口:また入門しやすさだけでなく、拡張性も意識しました。RFマウントのレンズ交換に対応するなど拡張性も持たせており、長く使える機種にしています。画作りも、最初はカメラ内のカラーフィルターをスマートフォンの延長のような感覚で楽しんでいただきつつ、慣れてきたらLog撮影を行い、本格的なカラーグレーディングによる作品づくりに発展できます。
日常使いにもオススメ。満足画質のコンパクトカメラ「PowerShot V1」
——サブにおすすめする機種を1つ挙げるとしたら、どれですか?
矢作:広角ズームレンズを搭載したコンパクトカメラ「PowerShot V1」です。冷却ファンの搭載でより長時間の撮影に強いなど、玄人受けしやすい性能を多く含んでおり、プロのサブ機としてもお使いいただける仕様になっています。V1については、そうしたプロやハイアマに向いている部分も打ち出したプロモーションをやっていきたいと思っています。
“15万円のコンパクトデジカメ”というポジショニングは、お客様が“良いカメラ”を期待される価格帯です。EOS R50 Vは価格こそレンズ付きで同じ15万円前後ですが、ミラーレスカメラで15万円前後となりますと、値頃感のある価格帯と言えます。
——PowerShot V1がサブとした場合、その時のメイン機はどんなカメラを使うイメージですか?
矢作:CINEMA EOSやEOS R5といったクラスの機種をイメージしています。PowerShot V1はエントリー向けの機能も充実していますが、弊社が日本市場向けに発しているメッセージは、プレミアムなコンパクトとして、プロも納得できる仕様を持っている部分です。すでにミラーレスカメラなど動画のメイン機を持っている方には、より気張らずに日常使いできる機種でありながら、メイン機にも引けを取らない、玄人にも満足いただける画質があると自負しています。
——少し話は逸れますが、PowerShot V1はスチルカメラとしても仕様が充実しています。超広角ズームレンズ搭載のコンパクトカメラが市場に少ない中で、静止画ユーザーも意識しているのでしょうか?
矢作:はい、静止画ユーザーも意識しています。PowerShot Gシリーズ(※筆者注:歴史ある高画質志向のコンパクトカメラシリーズ)のお客様にもご満足いただけるかどうかという視点です。その点でV1は、ファインダーこそ内蔵していませんが、写真の画質も高いクオリティを実現できていますし、犠牲にしている部分はありません。
一例ですが。PowerShot V1が搭載する1.4型センサーは他機種からの流用ではなく新規のものです。1型センサーという選択肢もありましたが、動画機能にもユーザーメリットがあることから、新しいセンサーを採用することにしました。そうした点からもV1の本気度を感じていただければ嬉しいと思います。
——EOS/PowerShotの「V」とつくカメラのシリーズは、それ以外のカメラとどう違いますか?
矢作:動画用途が主軸になる機種を指します。いかに動画の撮影体験を良くするかに注力している点が異なります。これまでのEOS/PowerShotはスチルカメラとしてのエルゴノミクスが基本になっており、そのまま動画用途をメインにしようとすると基本を踏襲できない部分が出てくるため、「V」という新しい軸を作って棲み分けました。
時代背景としましては、動画撮影需要の多様化が一番大きいです。これまでのEOSも動画機能は充実していますが、それ以上に動画撮影を専門とする方が増え、視聴者が動画に接する時間のボリュームも増えたので、そうした動画ニーズに主軸で対応できるものとして考えました。
また、動画視聴のインフラ充実も後押ししています。企画当時はモバイル環境で5G通信が見えてきており、時を同じくしてSNSの動画広告市場も拡大していました。動画投稿をする人々も増えており、SNS上で動画を見ない日はありません。私たちは指先ひとつで次から次へと動画を視聴することが可能で、“動画大量消費”の時代に入ったと認識しています。
ミラーレス出身のクリエイターに薦めたい「EOS C80」。LogやRAWのメリットは?
——すでに動画撮影に取り組んでいて、乗り換えにおすすめの機種は何でしょう?
矢作:CINEMA EOSの35mmフルサイズRFマウント機「EOS C80」です。ミラーレスカメラからのステップアップを想定しました。
矢作:動画の大量消費時代を迎え、動画クリエイターも爆発的に増えました。新しいクリエイターの方々は多くがミラーレスカメラで映像制作をしています。その中でクライアントワークをやっている方ですと、クライアントも持っているような一般的なミラーレスカメラで現場に入るのが不安だという悩みを抱えていたりします。
EOS C80は、CINEMA EOSらしく動画用途に特化した専門的な端子や大きなバッテリーを備えつつ、フォームファクターはミラーレスカメラと同じです。そのため慣れ親しんだ撮影スタイルを継承しながらシネマカメラの撮影クオリティを得られます。
——動画カメラの「Log」対応にはどんなメリットがありますか? また、RAW動画が撮れると何が良いのでしょう。
矢作:Logはデジタルシネマのクオリティを再現するためのガンマカーブで、フィルムの特性に近い階調が得られます。カラーグレーディングで映像の世界観を構築したい方に有用です。
もう一つは、失敗できない撮影シーンをLogで撮っておけば編集で救える余地が増えます。それでいてLog撮影を行ってもデータ量は増えないため、RAWよりは手軽です。逆に、編集に時間を掛けられなかったり、SNS界隈のように即時性が大事なシーンではLogはあまり使われません。
最新のカメラにはCanon Log 2、Canon Log 3というガンマカーブを搭載しています。2はシャドー側がよりフィルムに近く、広い階調を持っています。それに比較すると3は編集しやすいLogで、Canon Log 2ほど暗部階調はありませんが、白トビ耐性は2と同等です。
動画のRAWは写真のRAWと同じく、編集の自由度が高いです。色味を大きく変えることにも耐性があります。しかしRAW収録はデータ量が膨大になるため、高価な専用記録メディアや、膨大なストレージを用意することを考えると「予算に合わない」と言われてきました。キヤノンでは、データ効率が良い12bitのRAW動画を、SDカードやCFexpressカードなどの可搬メディアに、内部記録できるようにこだわっています。
——RAWで動画を撮れると、どんなときにありがたいのでしょう?
矢作:静止画と同じく、絶対に撮り直しが利かないシーンで便利です。Logでも不安なときには、RAWで保険的に撮っておくと、引き出せる色情報の量が異なり、編集の自由度が高まります。エクストリームスポーツで「メイク」(ワザが成功するという意味)の瞬間を撮るような方には、撮り直しができないためよく活用されています。
8K動画や高画素機の現状。まだまだ動画撮影は難しく感じる件について
——8K動画について、現状をどのように捉えていますか?
矢作:ハイレゾリューションの活用方法はいろいろあると思います。8K放送の一般化はまだ先でしょうから、“8Kで完パケる”といったことは、これからの視聴環境次第かと思います。現時点では、解像度の余裕を生かしてブレ補正を掛けたり、ズーム処理を入れたり、“バレ物”(余計なものが見切れること)をカットするといった、クリエイティブの余地やセーフティとしての活用が主になっています。
一方で、キヤノンには「EOS VR SYSTEM」があります。二眼式のVRレンズで撮影し、いわゆるVRゴーグルなどを通じてVR体験を提供するものです。これはハイレゾリューションで撮影できれば没入感が高まりますので必要です。こちらもVRゴーグルの普及は途上にあるかなと考えています。いずれにしても、単にカメラ側の画素数を増やすだけではお客様の価値には落とし込めせんから、周辺環境を見ながら検討しています。
——デジタルカメラの動画機能は、NDフィルターやジンバル、マイクなど、画質相応の撮影には別途必要となるアクセサリーが多いです。シャッタースピードなどの設定にも知識が求められ、まだまだ専門的と感じます。現在、カメラにはどのようなサポート機能がありますか?
矢作:いわゆる一眼動画の広がりは、2008年に発売したデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark II」をプロの皆様にご活用いただいたのがきっかけだと認識しています。それからプロ機材がコモディティ化し、動画プラットフォームがSNSに移行するなど、いかにクリエイターのワークフローを効率化できるかを考えながら機能を搭載してきました。カラーグレーディングではなく「カラーフィルター」という機能にしている点などもそうです。
シャッタースピードは、人間の目の特性から「フレームレートの2倍に設定すればいい」と言われています。フリッカーの出ないシャッタースピードは、蛍光灯であれば東日本が50Hz、西日本が60Hzであるのに合わせるのがセオリーです。シネマカメラのEOS C80のほか、EOS R5 Mark IIなど一部の機種にも、フリッカーを自動で検出して適切なシャッタースピードを設定してくれる機能もあります。
矢作:また、私共のショールームである「キヤノンフォトハウス」では、動画コーナーを常設しており、動画撮影でよく使用されるマイクやリグなどの周辺機器アクセサリーも一緒に参考として展示しております。カメラとレンズがあれば動画撮影は可能ですが、より実際のユースケースに近い状態で展示することで、動画撮影時に必要なアクセサリーをイメージしていただけるようにしています。また、カメラを楽しむために様々な講座をご用意している「EOS学園」においては、動画の撮影や編集にチャレンジしたい方のための初心者向け講座もご用意しています。
——現在、新たな動画トレンドとして注目していることはありますか?
矢作:やはり縦動画でしょうか。TikTokやInstagramの広告市場から広がったトレンドで、“縦位置で公開される動画ならそもそも縦位置で撮ろう”という考えです。また、新しいクリエイターの主戦場がそうしたSNSになっているのもポイントです。
野口:縦位置だと、動画広告の視聴完了率が高いと言われています。EOS R50 Vではグリップ部分の側面に縦位置撮影用の三脚ネジ穴を用意し、別途L型プレートを用意する必要がなく、縦位置撮影がしやすい設計になっています。
シネマカメラからディレクターカメラまで、用途に応じて選びたい
——キヤノンの動画カメラについて、各カテゴリーの特徴を教えてください。
矢作:EOS 5D Mark IIが受け入れられたことから、プロが一眼動画に魅力を感じているのは、シネマカメラに比べて圧倒的に小さくて安価なカメラでシネマクオリティの映像が撮れるという点だとわかりました。キヤノンはそこに注力して製品を開発していくべきだろうと考え、2012年の「EOS C300」からEOSというカテゴリの中にシネマカメラ専門の「CINEMA EOS」を展開しています。
そして、昨今はアマチュアや趣味層にも動画を撮りたいというニーズが広がり、既存のカテゴライズではカバーできなくなってきました。そこでEOS/PowerShot V seriesとして、複雑化した動画ニーズに応えることにしました。近ごろは“縦型ショートドラマ界隈”というのも盛り上がっていまして、新しい市場として注視しています。
また、「XA60」のような業務用デジタルビデオカメラは、一体型ならではの操作性やズーム倍率の高さなどが特徴です。テレビ番組や報道・取材用の記者カメラ(ディレクターカメラ)として底堅く使われていて、映像プロダクションや動画クリエイターの方にも受け入れられています。
今は動画撮影というとミラーレスカメラを使う方が増えていますが、皆さん必ずしも被写界深度の浅い映像を撮りたいわけではありません。イベント記録やコンサートの撮影など、どちらかというと、きっちりピントの合った映像を長時間安定して撮りたいシーンには業務用ビデオカメラが適しています。こうした全体像を知っていただいた上で、各カテゴリーのカメラを使い分けていただくと、よりクオリティがアップすると思います。
まとめ
デジタルカメラの動画機能を使った“一眼動画”は、間違いなく「EOS 5D Mark II」が火付け役だった。当初は映像制作を想定した機能ではなかったそうだが、市場の声に応えてマニュアル露出や24fps記録に対応するファームウェアアップデートを順次提供するなど、機を逃さずポジションを確立していった。続くAPS-Cセンサー搭載機の「EOS 7D」は更に安価で、フォーマットもスーパー35に近く馴染みやすいというプロの声を聞いたことがある。
以来、一眼レフカメラやミラーレスカメラにおいて動画機能の比重が高まったのは言うまでもないが、カメラのフォームファクター自体は大きく変わっていない。ともすれば、最初にEOS 5D Mark IIのポテンシャルに目を付けたプロの映像作家ような予備知識や、動画撮影用の各種アクセサリーを用意するのが当たり前のようなイメージもあり、写真撮影機能ほどの“至れり尽くせり”感がないと筆者は感じていた。
しかし、もちろんそんなことはなかった。「EOS R50 V」は買ったその日から簡単にクリエイティビティを反映した動画を撮影でき、ユーザーの知識や経験が増えれば、それを注ぎ込めるだけの懐の深さを持っている。「PowerShot V1」も、ぱっと見では“お手軽Vlog撮影用のコンデジ”に見えなくもないが、新規センサーの採用や冷却機構など、むしろ玄人受けする本気度の高い製品だ。今回解説してもらった各機種の特性を踏まえて、より自分が作りたいコンテンツにフィットしそうなカメラを選べば、きっと動画撮影は楽しくなるだろう。