プレイバック2020
“シルバーから赤へ”「アルファ ロメオ 147」との感動的車生活 by 麻倉怜士
2020年12月25日 09:30
「怪我の功名」という言葉があるが、これから話すことは「事故からの大回天」だ。私は「プジョー306カブリオレ」(ローランギャロ仕様)と「アルファ ロメオ 147 1600TS」の2台体制(どちらも並行輸入)で、ここずうっと来ていたが、147が自損でラジエーター破損し、結局、保険的には全損になってしまった。
ところが、偶然とはあるもので、行きつけの修理工場である田園調布のアールエスモーターさんから、「ウチで整備してきた同じ147の2000CCを、ちょうど今、ネットで売るところだから見てみたら」とのご提案。
「私のと同じ」という意味は、左ハンドル・マニュアルシフトということだ。私は、91年の「シトロエンBXブレーク」以降、「シトロエンAX」、「プジョー306カブリオレ」、「フィアットPUNTO」、「アルファ ロメオ 147」と乗り継いできた(すべてラテン!)が、PUNTO除いて左ハンドル・マニュアルシフトだから、そうでなければ困るのである。私のことをよく知っている修理屋さんだから、私にぴったりだと思ったのだろう。
早速、見て、試乗した。まず色が衝撃。アルファ ロメオといえばのアルファレッドではないか! 壊れた147はシルバーだった。落ち着いた色で、それなりに気に入っていたが、やはりアルファは赤なのでは……という潜在意識があった。だから、目の前の赤の147を見て、昂奮した。だって、13万㎞も走っているのに、まるで新車のようにクリヤーに輝いているのだから!
2人の前オーナーが大事に手入れしていたのだろう。聞くところによると、前オーナーの田園調布のお金持ちが子供のために買ってあげた147だが、子供が興味ないということで出戻っていたところに、ちょうど私が来たということだ。同じ並行輸入もので、ピカピカの赤。それだけでも心惹かれるのに加え、試乗も昂奮的だった。「決めた!買った!」。
車庫証明は自分で取った。ナンバーは前と同じ「147」にした。前の147からビルシュタインのサスペンションを外して、取り付けてもらった。マフラーは前オーナーによってオレカ製が装着済み、タイヤも昨年11月に交換済みだった。各種のベルトは最近交換され、オイル類も 新品を入れてもらった。
赤のアルファ ロメオ 147・ツインスパークがやってきてから、毎日がアルファ ロメオ・デイだ。朝起きたら、赤の147の様子を観察し(毎日変わるわけでもないのに!?)、車室内に入り、目で見て、匂いを嗅いで(レザーに香りはまだ残っている)、コックピットを眺めて、悦にいるのが日課だ。同じ147だけど、前オーナーの手入れが丁寧だった(2オーナーの整備記録がちゃんとあった)ので、室内のやれは、皮のシフトレバーの色落ちぐらい。
家で原稿を書くことも多いが、気分転換に一日、数回は乗っている。目的地がない、ただのドライブ。91年にシトロエンBXブレークを買った時も、あまりに面白いクルマなので、毎日、当てもなく乗っていたかつての日常の再現だ。
新しい赤の147に感動したポイントを述べよう。まず走行フィーリングだ。アルファ ロメオというと「官能的」「イタリアのエスプリ」「快感ドライビング」……と形容されるが、前の1600CCの147は(イタリアから並行輸入)では、いまひとつ、そうした感覚とは違い、真面目に誠実に、大人っぽくリニアに加速・走行していた。もう一台のプジョー306カブリオレの方が、面白かった。
でも今度の赤の2000CC 147は大違い。もの凄くエモーショナルだ。街中の低速走行は、とても円滑で、すべらか。静かに走り、しっとりとしているのだが、回転数を3,000回転まであげると、急に躍動。トルクが乗り、パワーが漲る。この時、エンジンから車体のすみずみに、力が与えられ、全身で咆吼しながら加速。官能的な振動と音を放つ。
この3,000回転から急に盛りあがるという現象の理由のひとつは2000CCエンジンの特性。旧147の1600CCエンジンは最大トルク14.9kgmを4,200回転で発するが、2000CCは3,800回転で18.4kgmを発し、3,000回転ぐらいからトルクが太くなる。特に効くのが2速。ここからの盛りあがりとパワー感はまさに官能的だ。もうひとつ、新147のオレカマフラーのエキゾースト力も効いた。マフラーがエンジンに流入する空気量を増加させ、シリンダー内の爆発力を増加させた。
旧147から移植したビルシュタインのサスペンションも走行剛性を支えた。アールエスモーターで試乗した時は、オリジナルのサスペンションだったので、少し柔いかなと思ったが、ビルシュタインに換えて、実に的確で収斂度の高いロードレスポンスになった。シフトフィーリングも旧147より確実によい。前車よりシフト距離が短くなり、キビキビと確実にチェンジ、スムーズにアップ、ダウンが実行できる。現地オプションで装着されたMOMOの金属シフトレバーの感触もクールにして、すべらかだ。シフト操作の快感の何割かは、MOMOのおかげだ。確実に、クイックに曲がるステアリングは旧車からそうだったが、新147も、ひらひらと左右に舞える(そんな運転はめったにしないが)。
オーディオ機器もクルマも、こだわりのものづくりと、所有価値の実感と、実使用での感動が大切という意味では、共通する。憂色の2020年を大回天させた、掉尾を飾った感動の買い物だった。