プレイバック2020

「一度聴いたら戻れない」MOONのアンプをメインシステムに導入 by 逆木一

現在のメインシステム

筆者の今までのオーディオ遍歴を振り返ってみると、だいたい3年周期で「メインシステムを更新したい病」に罹患しているようだ。そして、ネットワークプレーヤーやアンプを総とっかえした2017年から3年経過した2020年にも、それはやってきた。

SIMAUDIOというカナダのオーディオメーカーが手掛ける、「MOON」というブランドがある。今年の春、このMOONのプリアンプ「740P」とパワーアンプ「860A v2」を自宅で試す機会があった。もともとMOONのアンプは海外ではイベント等でDynaudioのスピーカーと組み合わせて使用される機会が多く、相性の良さという点で前々から興味を持っていたのである。そして実際に我が家でその音に触れた結果、オーディオ熱が極限まで高まり、居ても立ってもいられなくなってしまった。

あまり価格の話をするのも野暮だが、この時聴いたMOONのアンプの価格は、860A v2単体でさえ、筆者のメインスピーカーであるDynaudioの「Sapphire」を上回る。さすがに一時の気分で導入してしまえるようなものではない。それでも、価格という巨大なハードルの存在を知っていてもなお、「この音を聴いてしまったからには、もう後には戻れない」と思わせるだけの力が、740Pと860A v2の組み合わせにはあった。かつて筆者のオーディオ人生を賭して導入したSapphireが然るべきアンプを得て「生まれ変わった」という実感は、何物にも代えがたかった。

かくして筆者はSapphire以来の巨大な買い物を断行し(といいつつ昨年にもParadigm Persona Bという年末の魔物を迎え入れたが)、5月の注文から約4カ月を経て、740Pと860A v2がカナダからやってきた。

プリアンプ「740P」
パワーアンプ「860A v2」

スピーカーの実力をどれだけ発揮できるかは(他にも様々な要素があるとはいえ)アンプ次第。こんなオーディオにおいてごく当たり前のことを、740Pと860A v2の組み合わせはあらためて実感させてくれた。おかげで筆者のSapphireは今、かつては想像もできなかったような音で鳴っている。オーディオの趣味に目覚めて15年、念願かなってSapphireを手に入れてから8年、とうとう来るところまで来たな、という想いがある。

もちろん、740Pと860A v2の組み合わせが鳴らすスピーカーはSapphireだけではない。「スピーカーの実力を最大限発揮させる」という点で、筆者が自宅でスピーカーの試聴や評価を行なう際に、このうえなく心強い環境としても機能する。

また、昨年末に導入した「もうひとつのリファレンス」であるParadigmのPersona Bとは、ある意味で「究極のカナダペア」を実現すると言えるかもしれない(Paradigmもカナダのメーカーであるため)。

Paradigm「Persona B」。今年はスタンド・ベース・インシュレーターを含めてセットアップも万全の状態となった

読者の皆様もご存じの通り、2020年は当初から新型コロナウイルスの猛威を受け、世界のありとあらゆるものが影響を受けた。オーディオという趣味領域も例外ではなく、リアルイベントがことごとく中止になるなど、「今までできていたことができない」事態となった。

オーディオの世界が陥った状況をたとえわずかでも好転させようと、筆者は今年1年、今まで以上に様々な活動をしてきたつもりだ。そしてそうした取り組みは、究極的には「筆者自身がオーディオファンだから、オーディオを愛しているから」というところから生じている。今回の記事では、ひとりのオーディオファンとして今年巡り合った喜びを紹介させていただいた。

前回のプレイバック2019では、「きたるべき2020年も、やっぱり例によって始まりから終わりまでオーディオビジュアルにずっぽりとはまる年になるに違いない」と書いた。やっぱりその通りだった。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」