プレイバック2025
人生で100回は観た『もののけ姫』を、生まれて初めて映画館で観た by小岩井博
2025年12月25日 08:00
「一番好きなジブリ作品ってなに?」
気のおけない友人や、始めましての間柄。今日もどこかで誰かが口にしていそうな定番の質問で始まり恐縮だが、この問いに対する自分の答えは『もののけ姫』と決めている。
最初の出会いは金曜ロードショーだったか、レンタルしてきたビデオテープだったか。その両方で幾度となく鑑賞したため、もうわからなくなってしまった。ひとつはっきりしているのは、初めて観たときに体が震えたことだ。その後、DVDを手に入れ、金に困って手放し、そしてまた買い直し──気づけば、ゆうに100回は繰り返し観ている。
関連書籍を買い集め、サウンドトラックのレコードを聴き込み、ギターで「アシタカせっ記」を弾けるようになった。ここまで付き合い続けている映画は他にないのだから、ジブリ作品という枠を外しても、人生で一番好きな映画と言って差し支えないだろう。
そんな『もののけ姫』を、2025年、生まれて初めて映画館で観ることができた。
好機逸すべからず
これほど惚れ込んでいるにもかかわらず、「映画館で観ていない」という事実は、長らく自分の中でトゲとなり刺さったままだった。
『もののけ姫』が初公開された1997年、当時11歳だった筆者の生活圏には、「映画館に行く」という選択肢そのものがほとんどなかった。山あいの小さな町から最寄りの映画館までは、車でも1時間以上。そもそも映画館に足を運ぶ習慣のある家庭でもなく、「映画はテレビで観るもの」という感覚が当たり前だった。
その考えは成人して東京に出て、映画館が身近になるまで続いた。だから、それを疑問に思うことも、ましてや無念に感じることも、それまでなかった。
ところが、劇場鑑賞の体験を知ってしまった今となっては、「なぜ、あのとき行かなかったのか」という思いが、時間差でじわじわと染み出してくる。年齢的に考えれば、初公開時に観ることも不可能ではなかっただけに、なおさらだ。
2020年のリバイバル上映は生活が慌ただしくタイミングを逃してしまい、「あーあ」と迎えた2025年。なんか、4Kデジタルリマスター版がIMAX上映されることになった。まじで? めっちゃうれしい。
何度観ても味がする
ということで、いざIMAXシアターへ。物語については今さら触れるまでもないが、オープニングでタイトル画面が表示されるまでのわずかな間で、鳥肌がたった。
画も音も、信じられないほど良かった。いまだに見えていなかったもの、聴こえていなかった音がたしかに存在し、ここにきてなお新鮮な表情をみせてくれる。特に、エミシの村を吹き抜ける風や、アシタカとサンが言葉を交わす洞窟内の反響など、サウンド面では数々の発見があった。
ストーリーに集中しているのに、一瞬“オーディオビジュアル脳”が動き、さらに世界観に没入していくというループに入り込んだのだ。
内容はもちろん知っている。人物のセリフをそらんじることもできる。にも関わらず、鑑賞後は放心状態となった。お、おもしろすぎる……。
この体験は同時に、自宅の視聴環境をグレードアップしたいという気持ちも呼び起こした。ディスクに収録されたデータには限界があるとはいえ、これまで相当量の情報を見過ごしてきたのだと認めざるを得ない。
再現できる範囲、そして無視できないお財布事情はあるにせよ、やれることはやりたい。2025年のトピックを振り返ることで、2026年の目標が見えてきた。
そして、今回『もののけ姫』のリバイバル上映がヒットしたことを受け、ぜひ他のジブリ作品も続いてほしい。まずは『天空の城ラピュタ』『千と千尋の神隠し』あたりを、どうか。




