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“低遅延”に“ゲームモード”、NUARL「N6 sports」で体験する新世代TWS

NUARLの「N6 sports」。カラーはクラシックブルー、ウォームグレイの2色

毎日のように発表される完全ワイヤレスイヤフォン。製品数が増加し、各社がしのぎを削る事で高音質化・多機能化が著しい。多くの製品が一定水準を超えるクオリティを備えているので「もう、どれを買ってもあんまり変わらない」と思っている人もいるかもしれない。ただ、そんな市場に新しい価値を備えて登場した注目モデルがある。NUARLの「N6 sports」という製品だ。

NUARLの「N6 sports」

名前だけ見ると「ランニングとかスポーツ用イヤフォンか」と思うだろう。半分正解なのだが、半分不正解だ。というのもこのイヤフォン、スポーツはスポーツでも“eスポーツ”、つまりゲームプレイも視野に入れた“遅延軽減”に注力。新技術aptX adaptiveにも対応しながら、イヤフォンとしての音質にもしっかりこだわったという、見どころの多いモデルなのだ。

11月末から発売がスタートしており、価格は11,000円。いろいろ特徴が多いモデルなのに、そこまで高価でないところも注目ポイントと言えるだろう。カラーはクラシックブルー、ウォームグレイの2色。黒と白が多い完全ワイヤレスの中で、デザイン面もちょっと個性的なイヤフォンだ。

充電中は赤く光る

スポーツやテレワークにも使える

ゲームの前に、普通のスポーツ向け機能を見ていこう。まず、IPX7の防水性を備えている。数字で言ってもわかりにくいが、どんだけ凄いかというと例えばジョギングで汗だくになって汚れても水洗いできてしまう。ただ、水泳やシャワー中に使えるわけではないのでその点は注意だ。

耳にフィットした際にホールド力を高める“イヤーループ”も備えていて、スポーツのように激しく動くシーンでも安定して装着し続けられる。付属のイヤーピースもソフトタイプ・シリコンなので、長時間使用時の耳への負担も軽減してくれる。

筐体からピョンと飛び出ているのがイヤーループだ

さらにイヤーピースでは面白い点がもう1つある。前述のソフトシリコンタイプは音楽鑑賞向けの「Block Ear+」と呼ばれるタイプなのだが、そのイヤーピースに加え、もう1つ別の種類の「Track Ear+」というイヤーピースも付属している。

音楽鑑賞向けの「Block Ear+」

Track Ear+は、イヤーピースの傘の部分にヒダヒダの凹凸が設けられており、この隙間から適度に外の音が入ってくる。外でジョギングしている時に、突然後ろから自転車や車が来てビックリした経験がある人も多いと思うが、音楽を聴きつつも周囲の状況を把握できるようになるので安全性が高いというわけだ。

外の音も適度に取り入れる「Track Ear+」

さらに新型コロナウイルスの影響で、自宅での仕事時間が増えた人も多いと思うが、そうしたテレワーク中にも「Track Ear+」が役に立つ。遮音しすぎないので来客があったり、電話が鳴っても気づきやすいというわけだ。

実際に、喫茶店でBlock Ear+とTrack Ear+を使い比べてみた。Block Ear+は遮音性が高く、他のお客さんの声や店内のBGMがほとんど聞こえなくなり、音楽に没頭できる。Track Ear+に変更すると、人の声や、食器を洗うカチャカチャという音が少し耳に入るようになる。BGMも意識すると認識できるが、イヤフォンで再生している音楽と混ざり合うほどではない。

Block Ear+を“部屋の中”、オープンエアー型のヘッドフォンを“屋外”とした場合、Track Ear+は“部屋の窓をあけた”ような感じだ。そのため、音楽から低音などが抜けすぎてスカスカした音になる事はなく、大きくサウンドのバランスは変化しない。それでいて、適度に外の状況がわかるようになる印象だ。

喫茶店でこのレビューも書いているのだが、面白いのはTrack Ear+の方が集中できる事だ。Block Ear+の方が、まわりの音が聞こえないので集中できそうなものだが、Track Ear+の方が“まわりに誰かいる”感があるため、「他の人も頑張っているから俺も頑張ろう」とか「他の人が見ているかもしれないからあまりサボれないな」みたいな心理が働くのかもしれない。閉塞感も薄くなるため、長時間の使用に向いたイヤーピースではあるが、仕事や勉強で完全ワイヤレスを活用したいという人も注目のイヤーピースだ。

イヤフォン側のマイクによる外音取り込み機能も備えている。特徴としては、音楽を再生・停止に関わらずに使えるため、駅のアナウンスなど、とっさに外の声を聞きたい時に便利。音楽再生中は音楽に影響を与えないよう、取り込んだ周囲の音を調整してフィードバックしているそうだ。

ゲームなどの遅延低減に注力

N6 sports最大の特徴である、ゲームへの対応も見ていこう。最も特徴的なのは、最新技術であるQualcomm aptX adaptiveに対応している事だ。

ちょっと細かい話になるが、aptX adaptiveについておさらいしておこう。Bluetoothのコーデックでは、aptXやaptX HDなどがお馴染みだが、あれらは固定レートで音声信号を伝送(CBR方式)している。

aptX Adaptiveはその名の通り、レートを変動させて伝送(VBR方式)するのが特徴。つまり、スマホなどの送信側と、イヤフォンなどの受信側が相互に通信状況を確認し、環境に応じて送信側が伝送レートを決定する。具体的には、最大48kHz/24bitの音声データをサポートしており、レートは279kbps~420kbpsの幅で自動的に変動させながら伝送する。変動するのはレートのみで、ビット深度やサンプリングレートは変わらない。

御存知の通り、以前の完全ワイヤレスは通信が安定せず、途切れやすい製品が多かった。しかしaptX Adaptiveであれば、通信速度がなかなか出せない時はレートを下げて、通信しやすい環境ではレートを贅沢に高めて高音質で配信できる。安定した接続・再生を可能にする技術というわけだ。安定性だけでなく、音質にもこだわって開発されたコーデックでもある。

さらに、左右独立通信「Qualcomm TrueWireless Mirroring」にも対応している。これは、接続する端末やBluetooth機器に関わらず左右独立通信を可能にするもので、接続安定性を高められる。また、ペアリングの際も1つのイヤフォン名を選ぶだけの簡単操作で完了。ステレオ使用中にどちらか片側をオフにしても、ミラーリングしているもう1つのイヤフォンが自動的に接続され、音楽や通話が途切れずに利用できるといった利便性の高さも特徴だ。

では、実際に途切れにくいのか? aptX adaptive対応の「Xperia 1 II」とペアリングした状態で、電波状況としてはキビシイ、東京・新宿駅のホームへ。ホームを往復してみたが、途切れることはなかった。新型コロナウイルスの影響で以前より電車を利用する人の数が減っているという変化はあるが、それでも十分接続安定性の高いイヤフォンと言えそうだ。

新宿駅のホームをウロウロしてみたが途切れなかった

さらに、aptX adaptiveには遅延を低減するコーデックという側面もある。アルゴリズム上のレイテンシーはなんと2ms、機器に組み込まれた場合でもレイテンシーを50~80msに抑えられるとされている。現在Bluetoothで低遅延と言えばaptX Low Latencyが知られているが、aptX Adaptiveは接続安定性を高めつつ、このaptX Low Latencyを引き継ぐコーデックという位置づけだ。

“途切れず”“音も良く”“低遅延”と三拍子そろって「最高じゃん」といいたくなるaptX adaptiveだが、1つ注意点がある。送信するスマホなどの機器側が対応していないと利用できない。対応端末はQualcommのWebページで確認できる。

Xperia 1 II

対応機器の中で、日本で有名なモデルと言えば先程の「Xperia 1 II」だろう。今持っているスマホ/タブレットは対応していないという人も多いと思うが、今後買い換える端末がaptX adaptiveに対応するケースも増えていくはず。それを見越して、イヤフォンを買う時はaptX adaptive対応の新世代イヤフォンを選ぶというのはアリだと思う。

Xperia 1 IIとN6 sportsをペアリング。aptX adaptiveが使える事が確認できた

ここまで「N6 sportsはaptX adaptiveに対応している」と、サラッと書いてきたが、aptX adaptive自体まだ新しい技術。それゆえ、対応イヤフォン開発はかなりの苦労があったそうだ。

また、将来的に、何かの端末との相性問題が発生した場合に対応するため、イヤフォン側のファームウェアをアップデートできる機能も備えている。このあたりの堅実な作りは、日本メーカーならではの魅力と言えるだろう。今後、ファームアップを行なうためのアプリも登場予定だそうだ。

aptX adaptive非対応のスマホでも遅延を抑える

一方で、「いま使ってるスマホ、aptX adaptiveじゃないし」とか「そもそもiPhoneだし」いう人にも恩恵がある。aptX adaptive非対応端末と接続した時でも、遅延をできる限り抑える機能として、N6 sportsには「ゲーミングモード」が搭載されている。

これは左イヤフォンのボタンを3回クリックするとONになるもので、理論的には最高60msまで遅延を抑えられるという。ただ、現実的には端末の性能やOS側の処理にオーバーヘッドがあるので最大で120ms程度までは遅れる場合があるとのこと。イヤフォンはあくまで信号の“受け手”であるため、こればかりはどうすることもできないのだが、「それならば、受け取った音声信号はできるだけ遅延なく再生しよう」と作られたのがゲーミングモードというわけだ。

まずは音楽と映画で音質をチェック

イヤフォンとして大切な音質部分にもこだわっている。NUARLはもともと、自分達の理想とするサウンドを実現するために、ダイナミックドライバーを自分たちの手で開発しているのが特徴のメーカーだ。ドライバーを他社から買ってきたり、買ってきたものに手を加えてカスタムするイヤフォンメーカーは多いが、理想とするものを1から作るメーカーは珍しい。同時に、高い技術力を持つ証でもある。

N6 sportsに搭載しているドライバーは、「最強グレード」という高等級ネオジム磁石を使用した6mm径ダイナミック型フルレンジ「NUARL DRIVER [N6]」。その振動板として、剛性と弾性に優れた「PEEK」(Polyetheretherketone)振動膜の表面に、「TPE」(Thermoplastic Elastomer)とチタンを皮膜蒸着した「PTT多層皮膜振動板」を使った「NUARL DRIVER [N6]v3」を搭載している。

NUARLによれば、今回のイヤフォンは“没入サウンド”をテーマにサウンドチューニングしたという。「音の広がり感」を意識した従来のNUARLサウンドと異なり、“内に籠るようにのめり込むような音”を目指したそうだ。

では、実際に聴いてみよう。Xperia 1 IIとaptX adaptiveでペアリングし、Amazon Music HDでハイレゾ楽曲を再生してみる。なお、aptX adaptive以外にもSBC、AAC、aptXに対応している。

“内に籠るようにのめり込むような音”“没入サウンド”と聞くと、「もしかして、音がこもりがちなのでは?」と不安がよぎったが、「Official髭男dism/Laughter」を再生すると、音が出た瞬間に、そんな不安が吹き飛ばされる。パワフルかつクリアなサウンドで、一気に音楽の世界に引き込まれる。

シンプルに言うなら「ドラマチックな音」だ。音の色付けは少なく、解像度も高い。それでいてモニター寄りのサウンドではなく、中低域にパワフルさがあり、低域は深く沈む。エレキベースやオーケストラのストリングスが押し寄せるような楽曲では、「グワッー」と押し寄せる音のパワーと、スペクタクル感に圧倒される。“内に籠るようにのめり込むような音”というより、個人には“洪水のようになだれ込んでくるような音”と感じる。

「さすがNUARL」と感じるのは、それでいて「派手で下品な音」になっていない事だ。中低域のパワフルさを追求すると、そこがボワッと膨らみ、高域にまで影響がおよんで、全体的に描写が甘くなってしまうイヤフォンも市場には存在するが、N6 sportsではそれがまったくない。1つ1つの音が力強く描写される一方で、不必要に音像の輪郭が膨らまず、タイトさを維持している。それゆえ、中低域がソリッドで、ズバズバと切れ味鋭く、聴いていて気持ちが良い。

宮本浩次のカバーアルバム「ROMANCE」から「赤いスイートピー」を聴くと、ベースが深く沈み、パワフルに押し寄せてきて迫力がある。それでいて、そのパワーが他の音を汚さないので、低音の上にあるボーカルの描写がクリアなまま。歌の感情表現がしっかりと聴き取れる。

Netflixで映画を観てみる

これは映画とかにもマッチしそうだ。Netflixアプリでアクション映画「オールド・ガード」を再生したらドンピシャ。地鳴りのような重厚なBGMの波が押し寄せても、バトルシーンで斧が空を切る「ヒュイッ!!」という鋭い音や、銃器の発射音など、細かな音が埋もれずにシャープに描写される。映画ならではの迫力と同時に、効果音やセリフがキッチリ聴き取れるのが見事だ。

いよいよゲームをプレイ

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ゲームにもマッチするサウンドだ。Activisionの「Call of Duty:Mobile」というFPSゲームをプレイ。戦場では手榴弾が爆発し、「ドドドド」という銃撃音も地鳴りのように響く。N6 sportsはそれらを大迫力で再生しつつ、「ヘッドショット!」とか「UAVオンライン!!」などのSEをクリアに描写してみせる。

このゲームでは、敵を2連続、3連続で倒したり、ヘッドショットを決めたりすると、画面に勲章マークが流れるのだが、それが積み重なる時の「カチャン! カチャン!」という効果音が高解像度で気持ちが良い。このSEを聴きたくて、どんどんプレイしたくなる。

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

実は筆者、音ゲーが苦手なのだが、それでも低遅延なイヤフォンを使えばやりやすいのでは? と、「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(デレステ)」、をプレイしてみた。流れる音楽、そして画面の奥から飛んでくるタイミングマークに合わせ、画面をタップしていくわけだが、不思議なもので画面をにらめっこしながら押すよりも、音楽に身を任せながらタップした方がスコアが良い。

N6 sportsでプレイすると、音楽と流れるマークにほとんどズレを感じないため、やりやすい。まあ下手なのは相変わらずなのだが、“タイミングにあわせて押したつもりが押せていない”というシーンが以前プレイした時より少なく感じた。

細かく遅延の違いを体験しようと、先程の「Call of Duty:Mobile」で、練習モードに移動。ハンドガンをリズム良く撃ちながら、画面の描写と「バキュンバキュン」という音がイヤフォンから聴こえるタイミングのズレに注目してみた。

「N6 sports + Xperia 1 II」と、「対応コーデックSBC/AACの一般的なBluetoothイヤフォン + aptX adaptive非対応のPixel 3 XL」という2組を比べてみたが、銃口から閃光が出ている最中に音がしはじめる前者に対し、閃光が終えてから音がする後者と、確かに違いがある。

遅延テストができる「オーディオテスター」(BARUM)というアプリも試してみたが、「一般的なBluetoothイヤフォン + Pixel 3 XL」が遅延300msのラインを超え、400msにさしかかるあたりで音がするのに対し、「N6 sports + Xperia 1 II」は中央のラインを超えて100msのラインに到達する前にちゃんと音が出ていた。

N6 sports + Xperia 1 II 低遅延テスト。イヤフォンをカメラのマイク部分に固定して音を収録している

「遅延を気にするほどガチにゲームしていないよ」という人もいると思うが、単純に遅延が少ないとプレイしていてストレスが無い。また、ゲームに限らず、例えば動画配信サービスで映画などを見る際も、俳優の口の動きと音の出力のズレが少ないとストレスも少ない。こうした細かな“気持ち良さ”の積み重なりが、N6 sportsの魅力と言っていいだろう。

多機能で高音質、そしてそんなに高くない

数日使っていて感じるのは、完成度の高さだ。まず音が良い。ゲームにマッチするとか以前に、普通に音楽や動画を見る際にイヤフォンとして高音質であり、ドラマチックに、旨味たっぷりに再生してくれる。これがある意味、一番大事なポイントだ。

次に、デザインが良い。カラーはクラシックブルー、ウォームグレイと、どちらもちょっとポップで、ストリートっぽさもあり、垢抜けた感じで可愛い。男性はもとより、女性も気に入るデザインではないかと思う。なんでも「スニーカーからインスパイアされたデザイン」だそうで、確かにそんな感じがする。

筐体も小ぶりで、イヤーピースの種類も豊富であるため、装着感も良好。再生時間もイヤフォン単体で連続10時間、充電ケースとの組み合わせで最大60時間と、スタミナもバッチリだ。

付属の充電ケース

ここまででも“良く出来た完全ワイヤレス”と言えるが、aptX adaptiveとTrueWireless Mirroringで遅延を抑え、接続安定性を向上。ゲームプレイを快適にでき、aptX adaptive非対応の端末も見越して「ゲーミングモード」を搭載。「Track Ear+」イヤーピースで外の様子もわかりテレワークでも使いやすい。さらにリアルなスポーツに使ってもOKと、“全方位OK”という優等生。

しかも価格は11,000円と、そこまで高価ではない。

単純に「音が良くて、カッコいい完全ワイヤレスが欲しい」という人が選んでも、期待に応える実力を備えており、オマケでゲームやスポーツでも快適にこなせるとなれば、満足度は高いだろう。

今やスマホは単なる電話を超えて、音楽を聴くプレーヤー、映像を楽しむ表示デバイス、そして携帯ゲーム機も兼ねた存在になっている。特に映像配信サービスやゲームの進化は著しく、今後もさらに存在感を増し、日常の中でそれを楽しむ時間も増えるはず。

新世代の完全ワイヤレスには、音の良さに加え、それらを低遅延で、どれだけ快適に楽しめるか? も、求められるだろう。N6 sportsは、そんな近い未来を見越したイヤフォンだ。