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HDMI 2chアンプの先駆者マランツ、薄型初のHDAM搭載「STEREO 70s」を聴く

STEREO 70s

オーディオで今トレンドになっている“HDMI入力搭載の2chアンプ”だが、その市場を切り開いたのはマランツだ。2019年に「NR1200」(116,600円)というモデルを発売、「AVアンプでもない2chアンプで売れるの?」という心配は何処へやら、なんと2020年のHi-Fiコンポ年間売上シェアでナンバーワンを獲得。3年半が経過した現在も人気のアンプとなっている。

その後、マランツの新時代デザインを採用しつつ、よりハイグレードな「MODEL 40n」(286,000円)というアンプが登場したが、30万円近いため、ちょっと手が出ないという人も多かった。そして10月下旬、より手にとりやすいモデルとして「STEREO 70s」(143,000円)が登場する。ちょうど、NR1200とMODEL 40nの間に入るモデルだ。

NR1200との価格差はそれほど大きくないため、NR1200からどのくらいサウンドが進化しているのか気になるところ。さっそく違いをチェックしてみた。

NR1200

スリムシリーズ初のHDAM-SA2搭載

前述の通り、STEREO 70sのデザインはMODEL 40nと似た雰囲気だ。高級感がありつつ、シンプルさも兼ね備えているので、ラックの中に押し込まず、リビング等で外に出した状態でも家族に受け入れられやすいだろう。カラーはブラックとシルバーゴールド。

STEREO 70sブラック
STEREO 70sシルバーゴールド
MODEL 40n

外形寸法は442×386.5×109mm(幅×奥行き×高さ)と、NR1200と同じように薄型だ。巨大なAVアンプと比べると、気軽に導入しやすいサイズ感。

STEREO 70s

STEREO 70s最大の特徴は、プリアンプ回路にマランツ・アンプの代名詞とも言える高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を用いた電流帰還型回路を採用している事。ハイスピードかつ、SN比が良く、歪も少ないといった特徴があるが、スリムシリーズへのHDAM搭載はSTEREO 70sが初めてだ。この仕様だけでSTEREO 70sが“ガチなHi-Fiアンプ”として作られている事がわかる。

プリアンプ回路は独立した専用基板にレイアウトし、入力セレクター、ボリューム、出力セレクターそれぞれの機能に特化した高性能カスタムデバイスを採用する事で、信号経路を最短化している。不要な信号経路の引き回しを無くす事で、鮮度の良い、クリアなサウンドを実現する狙いだ。

プリアンプ回路は独立した専用基板にレイアウト
中央の黒い部品が並んでいる部分がHDAM-SA2

パワーアンプもオペアンプを使わないフルディスクリート構成。細かい回路の見直しや、練り上げにより、低歪化を実現。プリアンプの性能向上だけでなく、パワーアンプも改善した事で、1kHzでは10dB以上の低歪化を実現したという。薄型アンプだが、定格出力75W(8Ω)とパワフルだ。

フルディスクリート構成のパワーアンプ

電源部も音に大きな影響を及ぼす。ブロックコンデンサに、STEREO 70s向けに特注した6,800μFのカスタム品を採用。さらにデバイスメーカーと協力し、新開発した小容量コンデンサもカスタム品を搭載している。

カスタム品のブロックコンデンサ

STEREO 70sはアナログ回路とデジタル回路が同居するアンプとなるが、DSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給に、専用のトランスを搭載している。こうする事で、アナログ回路との相互干渉を排除した。

また、シールドを使って回路間のノイズの飛び込みを抑え、電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを使って除去している。

コンデンサーの品種や定数は、マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏が試聴を繰り返して選定。特に、デジタルオーディオ回路に使用する小容量コンデンサーには、音質対策用の高性能な導電性高分子コンデンサーを多数投入したそうだ。

マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏

筐体の側面や背面を見ると、基板やシャーシを固定するビスやワッシャーに、銅製のものが使われている部分がある。これも尾形氏が試聴しながら、ここぞという部分に投入しているという。

要所要所に銅ビス、銅ワッシャーが使われている

スリムなアンプだが、スピーカーターミナルは本格的なスクリュータイプで金メッキ仕上げ。2系統の端子を備えており、バイワイヤリング接続や、2組のスピーカーを切り替えての使用が可能だ。

HDMI ARCの音質にもこだわる

HDMIは6入力、1出力を装備。NR1200が5入力だったので、1系統増えている。また、NR1200は4Kまでの対応だったが、STEREO 70sは入力3系統、出力1系統が8K/60Hz、4K/120Hz信号のパススルーに対応。HDR10、Dolby Vision、HLGに加え、HDR10+、Dynamic HDRにも対応するなど、最新の仕様になっている。

HDMIは6入力、1出力

HDMI ARCにも対応。192kHz/24bitまでのリニアPCM(2ch)の入力が可能で、テレビ放送や動画配信サービス、Blu-rayの映画などの音声も再生できる。

このHDMI ARCにもこだわりがある。通常の機器では、HDMIケーブルを通して伝送されるオーディオ信号(SPDIF)は、コントロール信号などと一緒に、筐体内のHDMIインターフェースデバイスに入力される。

しかし、STEREO 70sはコントロール信号はHDMIインターフェースに入力するが、音声信号はこれをすっ飛ばして、直接デジタルオーディオセレクター(DIR)に入力している。こうする事で、余計な回路を経由せず、音の劣化が抑えられるそうだ。

HDMIインターフェースをすっ飛ばして、直接デジタルオーディオセレクター(DIR)に入力。音の劣化を抑えている

さらにHDMI ARC回路自体の電源供給の強化、低ノイズ化、接続経路やグラウンドの見直しを実施する事で、音質を高めている。開発時はマランツの試聴室に各社のテレビを持ち込み、尾形氏が音質を追求したそうだ。

HDMIコントロール機能(CEC)にも対応するので、HDMI接続したテレビと電源ON/OFFを連動させたり、テレビのリモコンでSTEREO 70sの音量調整も可能だ。

ネットワークオーディオプレーヤー機能も備えており、最新モジュールの「HEOS」を搭載する。LAN内のNASや、USBメモリーに保存した音楽ファイルが再生でき、DSDが5.6MHzまで、PCM系は192kHz/24bitまで対応する。

音楽配信サービスはAmazon Music HD、AWA、Spotify、SoundCloudなどをサポート。AirPlay 2、Bluetoothもサポートしているので、スマホから気軽に音楽再生もできる。

テレビとの連携で便利な機能としては、Bluetooth送信機能がある。深夜の映画鑑賞などで、家族が寝ているからスピーカーから音が出せない時でも、手持ちのBluetoothヘッドフォンから音が出せる。Bluetoothヘッドフォン/イヤフォン側に音量調整機能なくても、STEREO 70s側で音量調整が可能だ。

MMカートリッジ対応のPhono入力まで備えているので、フォノイコライザーを内蔵していないレコードプレーヤーを直接接続できる。レコード再生を楽しみたいと思っている人にも見逃せないアンプだ。

付属リモコンも新デザインになり、バックライトを備えた。部屋を暗くしてホームシアターを楽しむ時に便利だ。音声出力に2.2chプリアウトも備えているので、別途サブウーファーを追加する事も可能だ。

NR1200から大きく進化したサウンド

スピーカーのBowers & Wilkins「801 D4」と接続。音をチェックしよう。

まずは2chアンプとしての素の実力を知るため、CDプレーヤーからのアナログ出力した音をNR1200で聴き、その後でSTEREO 70sを聴いてみた。曲は「上原ひろみ/Someday」、女性ボーカルJAZZユニットのカルメン・ゴメス・インクがワンポイントマイク録音した「I'm Walking」だ。

NR1200

NR1200からSTEREO 70sに切り替えて、まず気がつくのは音の分解能と、音場の広さだ。ボーカルや楽器の描写が、STEREO 70sの方が細かく、生々しく、1つ1つの音が聴き取りやすい。視力が良くなったというか、耳の性能がアップしたような感覚だ。

音が広がっていく音場のサイズも、STEREO 70sの方が明らかに広い。余韻が広がっていく空間に、制約が無いイメージで、横方向だけでなく、奥行きも深い。そのため、サウンドステージ自体に立体化が増す。

尾形氏によれば、音場の広がりには、前述した筐体側面や背面の一部に銅のビスやワッシャーを使ってた事が効果を発揮しているという。ちなみにボトムからヒートシンクを固定するネジも銅ビスが使われている。一部のビスだけ違う素材のものを使うというのは、生産時に手間がかかるわけだが、音にとっては譲れない部分というわけだ。

低域もSTEREO 70sの方が鋭く、深い。「I'm Walking」のアコースティックベースも、STEREO 70sの方がお腹にまでズンと響き、しっかりと重い音になっている。NR1200とSTEREO 70sの価格差はそこまで大きくないが、明らかにSTEREO 70sの方がアンプとしてワンランク上の風格を漂わせている。

STEREO 70s

DACも含めたサウンドもチェックしよう。HEOSのネットワーク再生機能を使い、「米津玄師/LADY」(48kHz/24bit)、先程と同じ「上原ひろみ/Someday」(192kHz/24bit)の2曲で聴き比べた。

NR1200の音は、先程のアナログ入力と比べると全体的に大人しく、サッパリとした印象。一方でSTEREO 70sは、トランジェントが良く、米津玄師の歌声をソリッドかつパワフルに描写している。NR1200とSTEREO 70sに搭載しているDACチップは同じものだそうだが、チューニング等でここまで音が違うというのは驚きだ。

低域も、STEREO 70sの方がより深く、鋭い。低域だけでなく、中高域にも言える事だが、STEREO 70sのサウンドは伸びやかで、個々の音が力強く前へと出てくるため、音楽がより楽しく、情熱的に聴こえる。試聴中も、ビートに合わせて思わず体が動いてしまうのはSTEREO 70sだ。

充実するHDMI 2chアンプの世界

STEREO 70sの登場により、HDMIを搭載したネットワーク2chプリメインアンプは「NR1200」(116,600円)、「STEREO 70s」(143,000円)、「MODEL 40n」(286,000円)というラインナップから選べるようになった。

悩ましいのは選び方だ。NR1200も、単体で聴くと良く出来たアンプであり、また、発売から少し時間が経過しているので実売は約7万円ほどまで下がっている。これにスピーカーを加えれば「TVもネットワークオーディオも楽しめるオーディオ環境が完成する」というコスパの高さは魅力的だ。

ただ、STEREO 70sを聴いてしまうと、NR1200から音の進化は著しい。HDAM-SA2の搭載や、各種高音質パーツの投入、徹底したチューニングにより、ハイスピードでパワフル、かつ“美味しいサウンド”に仕上がっているのが魅力だ。

サウンドとしてはMODEL 40n寄りの、これぞピュアオーディオというクオリティに到達しており、そうした魅力をより味わいたい人には、STEREO 70sがオススメだ。

いずれにしろ、これらのアンプは、スピーカーさえ用意すれば膨大な音楽配信サービスが再生でき、テレビやゲームの音まで高音質化できる。そういった意味で、オーディオ入門、オーディオ復帰に最適なアンプだ。マランツが切り開いた新たな世界を、STEREO 70sがより活性化させるのは間違いないだろう。