レビュー

HDMI搭載2chアンプが熱い! デノン/マランツ/ヤマハ 10万円台3機種聴き比べ

マランツ「STEREO 70s」

HDMI ARC対応の2chアンプが増えてきた理由

この夏から秋にかけて、ネットワークオーディオ機能とHDMI ARC端子を装備した2チャンネル仕様のプリメインアンプが数多く登場してきた。筆者はそのほとんどの製品を聴くことができたので、ここではそれらのアンプが出てきた背景を詳らかにしながら、とくにその仕上がりのよさに感心した10万円台の3モデルをご紹介したい。

定額制音楽ストリーミングサービス「Amazon Music Unlimited」に続いて、フランス発の「Qobuz(コバズ)」も今年度内に我が国でハイレゾファイルの配信を始めるとのニュースもあり、AVアンプだけでなく、プリメインアンプにもDACセクションとネットワーク機能を持たせて高音質サブスク対応を図ろうというのが、まずその背景にある。

また一方で、リビングルームでオーディオを楽しんでいる音楽ファンが多いのであればプリメインアンプにHDMI端子を持たせて、同時にテレビの高音質化を図ろうと考えるのも理にかなった考え。

実際ぼくの周りのオーディオマニアを見ても、リビングルームの大型テレビの両脇にお気に入りのスピーカーをセットしている人間がとても多い。

では、なぜHDMI端子か。それは近年ブルーレイレコーダーやプレーヤー、それにApple TV 4KのようなVoD(Video on Demand)を楽しむデバイスで、アナログのステレオ音声出力を装備した製品はほぼ見当たらず、アウトプットはHDMIのみというケースがほとんどだからである。

流れを生み出したマランツ「NR1200」

HDMIは「High Difinition Multimedia Interface」の頭文字から採られた名称で、デジタル映像と音声データを1本のケーブルで伝送できるインターフェイス規格だ。これまではその入力端子を持ったサウンドバーかAVアンプにつなぐのが前提と考えられてきたが、申すまでもなくすべてのユーザーがサウンドバーやAVアンプを欲しているわけではない。

長年慣れ親しんだ2チャンネルのオーディオ・システムに映像機器をスマートに組み込みたい。そう考える人にピッタリなのが、一気に増えてきたHDMI端子付プリメインアンプなのである。

マランツ「NR1200」

この流れをつくったのは、2019年秋に発売されたマランツNR1200だろう。このモデルはHDMI入力端子を5系統(ARCは1系統)装備し、デノン&マランツのネットワークオーディオ機能「HEOS」を積んだ、発売当時8万円のプリメインアンプ。その音の良さもあり、2チャンネル・システムでオーディオもAVも楽しみたいというニーズの応えて大ヒットを記録した。

「AVをやる人はみんなAVアンプを買ってサラウンドするんでしょ?」という業界人の思い込みを見事に打ち砕いた商品企画の勝利だったわけである。

しかし歴史を振り返ってみると、ネットワークオーディオ機能とHDMI端子を搭載したプリメインアンプは10年以上前に存在していた。英国リンのMAJIK DSMである(2012年発売)。

中央がリン「MAJIK DSM」

2007年に「KLIMAX DS」を発売し、高音質デジタルファイル再生の嚆矢となった同社は、現在も両機能を備えたプリメインアンプ、プリアンプを数多くラインナップしており、その時代をみる目、その先進性に改めて畏敬の念を覚える。安易な市場調査などせず、ひたすらロジカルにユーザーベネフィットを考えるメーカーだからなし得たことなのだろう。

ところで今年の該当アンプを眺めてみると、HDMIといってもARC端子でのHDMI対応機種が多い。ARCは「Audio Return Channel」の頭文字を取った名称で、この出力端子をテレビのHDMI ARC対応入力端子に接続すると、音声信号が戻ってくるという伝送規格だ。つまり、ブルーレイレコーダー等のソース機器と直接つないでも音声信号を受け取ることはできない。

なぜか。ソース機器からのHDMI出力は映像信号フォーマットに音声信号が重畳して送出される仕組みだからである。つまり受け手側は映像信号フォーマットの処理機能が必須となる。

しかし、HDMI ARCはテレビから戻ってくる音声信号を受けるだけなので映像信号フォーマットの処理機能は必要ない。すなわちコスト面、あるいは回路面で有利となるのでARC限定でHDMIに対応しようというオーディオ機器が増えているわけだ。

またHDMI伝送においては、CEC(Consumer Electronics Control)という機器連動用信号を載せているケースが多く、接続されたテレビのリモコンでアンプの音量がコントロールできたり、電源のオン/オフが可能になる(実際にはうまく動かないケースも散見されるが……)。

また、2チャンネル再生が前提となるプリメインアンプでは、5.1chなどのサラウンド再生ができないので、ドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioなどのサラウンド・フォーマットのビットストリーム信号はテレビ内で2チャンネルのPCM信号に変換しなければならない。

しかしここで問題なのが、テレビの音声信号処理回路だ。内蔵SoCの制約により、ブルーレイなどに収録されている96 or 192kHz/24bitなどのハイレゾPCM信号がパススルーできないため、ソース機器側で48kHz/16bitにダウンコンバートされてアンプのARC端子へ送られるのである。

先述したリン「MAJIK DSM」やマランツ「NR1200」などはARC出力以外にHDMI入力を複数設けていて、ハイレゾ音源がダウンコンバートされる残念さから逃れていたが、この秋の新製品の中にもARC出力だけでなく、HDMIセレクターを搭載した製品が出てきている。まずはその2モデルから紹介していこう。

デノン「DRA-900H」

デノン「DRA-900H」

「DRA-900H」(121,000円)は12万円台の比較的安価なプリメインアンプだが、ネットワークオーディオ機能HEOSとHDMI入力セレクターを備える。

DRA-900Hの外観デザインは同社製AVアンプそのまま。AVアンプからサラウンドデコーダーを取り除き、7~11チャンネル相当のパワーアンプを2チャンネルに絞った製品という見方もできるかもしれない。

カスタム仕様の大型EIコアトランスを用いたアナログリニア電源回路と、AB級増幅回路を搭載したオーソドックスなプリメインアンプで、同社が長年培ってきた高音質メソッドが随所に盛り込まれている。

カスタム仕様の大型EIコアトランスを搭載

D/A変換回路にはL/Rチャンネルそれぞれに2chチップを充てて、2段の差動構成でSN比を向上させている。また、音質を決定づけるコンデンサーや抵抗などもサウンドマスターが厳選したものが奢られているという。

低域から中低域が充実した本格的なエネルギーバランスを訴求するデノン伝統の音調だが、現在の音質担当エンジニア(サウンドマスター)が目標とするのは「Vivid & Spacious(ビビッド&スペーシャス)」。

HEOSアプリをインストールしたタブレットをコントローラーに、本機を再生機器のレンダラーとして再生したAmazon Music Unlimitedの「ザ・ドゥービー・ブラザーズ/Living on the Fault Line」(192kHz/24bit/FLAC)など、この価格からは想像しにくい広々としたサウンドステージが展開され、その音場感の豊かさに瞠目させられた。

HDMI入力を6系統備えている

先述のように本機は6系統のHDMI入力セレクターを装備している。そこで192kHz/24bit/2ch収録されたブルーレイ「坂本龍一プレイズ・オーケストラ」をHDMI入力と48kHz/16bitにダウンコンバートされるHDMI ARCとで聴き比べてみた。

この作品は坂本がサントリーホールで東京フィルハーモニー交響楽団を弾き振りした作品。実際に比較試聴してみると、オリジナルのハイレゾ音声がそのまま再生できるHDMI入力のほうが断然好ましかった。オーケストラのダイナミックなサウンドがより迫真的に描写されるのである。

HDMI ARC端子だけではなく、HDMI入力セレクターを装備する意義は、オーディオ好きにとってはとても大きいと実感させられた次第だ。

マランツ「STEREO 70s」

マランツ「STEREO 70s」シルバーゴールド

「STEREO 70s」(143,000円)もDRA-900H同様、HDMI ARC出力の他に6系統のHDMI入力を装備している。

フロントパネル両サイドに金型成形によるディンプル(窪み)パターンをあしらった洗練されたマランツのニューデザイン。近年の国産オーディオ機器において白眉とも言うべきすばらしい意匠。ブラックとシルバーゴールドの二つの仕上げから選べるが、このデザインによりフィットするのは絶対ブラック仕様だと思う。

こちらがブラック

プリアンプ部に音質で定評のある同社独自の電流帰還型高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を採用し、オペアンプを用いないディスクリート構成のAB級パワーアンプを搭載している。電源回路はEIコアトランスを積んだアナログ・リニア回路だ。

中央の黒い部品が並んでいる部分がHDAM-SA2

HEOSアプリを用いて、Amazon Music Unlimitedのから「Living on the Fault Line」(192kHz/24bit/FLAC)を聴いてみた。透明度の高いクリアなサウンド。DRA-900Hとの比較で言うと、高域優勢の帯域バランスだが、解像感はより高い印象だ。

本機でも192kHz/24bit/2ch収録のBD「坂本龍一プレイズ・オーケストラ」をHDMI入力と48kHz/16bitにダウンコンバートされるHDMI ARCとで聴き比べてみたが、やはりDRA-900Hと同様の結果に。オーケストラ・サウンドの音の広がり、各楽器の音色の写実性の高さともにHDMI入力の優位性が認められた。

DRA-900Hが暖色系とすれば本機は寒色系。音調の好み、おもに聴く音楽に合わせて選ぶべきと思う。

ヤマハ「R-N1000A」

ヤマハ「R-N1000A」

「R-N1000A」(198,000円)も発売されたばかりの新製品。DRA-900HやSTEREO 70s のようなHDMI入力セレクターは用意されておらず、HDMI ARC出力しか装備していない。しかも20万円弱とデノン機、マランツ機よりも5万円から7万円高くなるが、実際に聴いてみて、なるほどその値段差が納得できる音質が実現されたアンプだと実感させられたのだった。

ブラック仕上げの本機は兄モデル「R-N2000A」のフロントパネルにあったVU/ピーク切替えレベルメーターはないが、美しいノブやツマミの下に有機ELパネルを用いた視認性のよい表示スペースを配した、1970年代から続くヤマハ伝統の洗練された意匠で仕上げられている。

R-N2000AのフロントパネルにあったVU/ピーク切替えレベルメーターはない
有機ELパネルはR-N1000Aも搭載している

アナログリニア電源回路とAB級増幅回路を採用したオーソドックスな回路が採られているが、随所に音質にこだわったデバイスやパーツを投入したヤマハ流Hi-Fiメソッドに則った設計が採られている。

機能面で興味深いのは同社独自の自動音場補正機能「YPAO」(Yamaha Parametric room Adoustic Optimizer)が搭載されていることだろう。とくに試してみたいのは、部屋の音響特性込みでトータルの周波数特性を整えてくれるパラメトリック・イコライザーのオン/オフの聴感上の違いだ。

また本機には同社独自のネットワークオーディオ機能「Music Cast」を搭載しており、デノン機やマランツ機同様に、Amazon Music UnlimitedのFLAC形式のハイレゾファイルを簡単に聴くことができる。

まず「PureDirect」モード設定でハイレゾファイルをいくつか聴いてみたが、DRA-900H、STEREO 70sに比べて明らかにワイドレンジでダイナミック・コントラストに優れることがわかった。加えてリヴァーブの質が上がったかのように聴こえ、音の肌理がとても細かい。先述したようにDRA-900H、STEREO 70sのハイレゾファイルの音もとても良かったのだが、レベルが一段上がった印象なのである。

付属マイクロフォンを本機に挿し、テストトーンを発生させてYPAO測定を行なってみた。その時間わずか数十秒。驚くほど速い。

YPAOのイコライザーオン/オフの違いを確認してみた。このイコライザーのターゲットカーブ(補正後の周波数特性)がどのように設定されているのかはわからないが、オンにすると音場がすっきりと澄明になる効果が実感できたが、環境によってはオフのほうが音像の張り出しや力感で上回る印象もある。

優れた録音音源を聴くときはPure Directモードを使いたいと思うが、低音の伝送特性に問題を抱えた(=低音が聞こえづらかったり盛り上がりすぎたりする)狭小空間では、YPAOはより威力を発揮するはずだ。

R-N1000Aの背面にあるHDMI ARC

テレビと本機をHDMI ARC接続し、BD「坂本龍一プレイズ・オーケストラ」を観てみた。先述のようにテレビの音声信号処理回路の制約により、48kHz/16bitにダウンコンバートされてしまう残念さはあるが、それでもこの音だけ聴いていれば、大きな不満を感じることはない。扇状に広がるオーケストラ・イメージ、各楽器の音色の写実性の高さともに好ましい。

いずれにしてもヤマハのオーディオアンプの魅力が横溢した完成度の高い製品に仕上がっていることが確認でき、充実した思いを抱いた次第。

次回は20万円以上の該当プリメインアンプやHDMI ARCを搭載したネットワークプレーヤーやアクティブスピーカーなどについて触れてみたい。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。