レビュー

ゲームの音も激変。狭い部屋でもOK、HDMI付き2chアンプ「マランツNR1200」使ってみた

マランツ「NR1200」とPolk Audio「R200」をテレビに繋いでみた

薄型テレビの音を良くしたい……が、お金はあまりかけられない。そこで、編集部にあったAmazonの「Echo Link amp」と、壊れてしまった昔のミニコンポの付属スピーカーを再利用して、“テレビのサウンドをグレードアップしたつもり”になっていた。

しかし、それでもなんだか音が薄っぺらい。大きな理由は、部屋が吹き抜けの空間に面しおり、そこに障子があるという特殊な環境のせい。テレビ内蔵スピーカーは前面についていないので、音が障子から吹き抜け空間へと抜けてしまい、前に音が出ず、よく聴こえない。Echo Link amp + スピーカーの設置でだいぶマシにはなったものの、満足感で言うと“マイナスをゼロにした”イメージ。

いずれはちゃんとしたAVアンプを買いたいと思っていたのだが、「AVアンプじゃなくて、HDMI入力付きのピュアオーディオアンプでもいいんじゃない?」と、マランツ「NR1200」をおすすめされた。これは気になる。

せっかくなので、スピーカーも人気モデルを聴いてみたい。Polk Audioのブックシェルフ「R200」を借りて、主にテレビと組み合わせて聴いてみた。結論から先に言うと「もはや返却したくない」組み合わせだった。

本格的なピュア用アンプだけど“薄い”NR1200

NR1200は、2019年に登場したピュアオーディオ用のステレオアンプ。高さ105mmと薄型のボディなので、ラックの空き空間が小さくても置きやすいのが魅力だ。重量は7.9kgで、筆者宅のテレビスタンド棚板(耐荷重10kg)に乗せられる重量だったのも嬉しいポイント。

実物を前にするとフロントがヘアライン仕上げのシルバーゴールドで、“ピュアオーディオ”っぽくて気分が高まる。今まで使っていた黒いアンプと違い、高級感がある。

NR1200

このアンプ最大の特徴が、本格的なピュア用アンプなのに5系統のHDMI入力と、ARC対応のHDMI出力を1系統を備えている事。相手がARC対応のテレビであれば、HDMIケーブル1本でテレビと繋ぐだけで、映画やゲームがいい音で楽しめてしまうわけだ。

オーディオ用スピーカーを、まるでサウンドバーのような手軽さで、テレビ用スピーカーとして活用できるイメージだ。

HDMIは5入力1出力

「HEOS」テクノロジーによるネットワークオーディオ機能も内蔵しているので、Amazon Music Unlimitedなどの音楽配信サービスや、インターネットラジオ、LAN内のNASに保存したハイレゾファイルも再生できる。

前述のように、HDMIケーブル1本で接続できるので、セットアップは超簡単。AVアンプのように、スピーカーを何台も置いて、繋いで、マイクを耳の高さに設置してチューニングの設定をして……といった複雑な作業は不要。スピーカー2台を繋ぎ、良い感じに音が聴こえる位置に置けばOK。この手軽さも、人気のモデルの理由だろう。

ピュアオーディオ用アンプと聴くと数十万円と高額なイメージがあるが、NR1200の価格は116,600円、発売から少し経過しているので実売価格もこなれており、通販サイトなどでは7万円台もめずらしくない。

スピーカーは、コスパの高さで人気のPolk Audioブックシェルフ「R200」(ペア103,400円)。こちらも通販や量販店では10万円を切っている。NR1200とR200を揃えても、20万円でお釣りが来るのはありがたい。

Polk Audio R200もセッテング

Polk Audio R200の第一印象は「思ったより大きい」だった。正面からの写真を見ていたのでそんな印象は無く、実物も前から見るとそんなに大きく見えないのだが、外形寸法は190×354×359mm(幅×奥行き×高さ)あり、奥行方向が結構大きい。PS5を並べてみると、高さと奥行きはほぼ同じだ。購入を検討している人は、奥行きも確認しておこう。

Polk Audio「R200」
PS5と今使っているスピーカーと大きさを比較してみた。けっこう大きい
奥行きもPS5とさほど変わらない

今回はブラウンモデルを使っているが、木目がキレイで、こちらもアンプに負けじと高級感がある。

うねるような6.5インチウーファーが面白い。これは「タービンコーン」というもので、振動板が前後にピストンして音を出す時に、歪みが発生すると音に悪影響がある。そこで、振動板に独特の凸部を設けて強度を増して、歪を解消しようという工夫だそうだ。

背面には砲弾のような突起がついたバスレフポートがある。突起の中には、余分な音を吸収するフィルターが入っている。バスレフポートは低音を強めるためのものだが、そこから“出てほしくない”音をうまく処理する技術で「X-Port」と名付けられている。

R200の背面
砲弾のような突起が特徴の「X-Port」

さすがオーディオアンプ。R200のパワーで部屋全体が音に包まれる

テレビの前に、まずは2chで音楽を聴いてみよう。ネットワーク再生機能の「HEOS」を使って、Amazon Music Unlimitedの曲を再生してみた。CDプレーヤーなどが無くても、アンプとスピーカーだけで大量の音楽が楽しめるのは便利だ。

なお、NR1200には、音の調整ができる「ステレオ」、調整用の回路を通らず音質を優先した「ダイレクト」、さらにディスプレイ表示の回路なども停止して極限まで音を追求した「ピュアダイレクト」の3モードが搭載されている。今回は全て「ピュアダイレクト」で聴いた。

再生してみると、まずもう音場の広さがまったく違う。これまでは、テレビ脇に置いたミニコンポスピーカーから放射状に音が出てはいるが、広がりが無く、ボーカルの位置も遠かった。

しかし、NR1200 + R200ではスピーカーの周囲を越え、楽器の演奏が部屋全体に拡がる。さらに、ボーカルが左右スピーカーの中央、つまりテレビの前に“立っている”というリアルさがあり、そのボーカルが歌う声が、しっかりと前に出て、自分の元に届いてくれる。

また、低域も豊かに広がり、部屋全体を包み込むように聴こえるようになった。2台のスピーカーなのに、まるでサラウンドスピーカーで再生しているかのように錯覚する。

冒頭で書いたようにこの部屋は密閉度が低く、とにかく音が抜けやすい。にも関わらず、しっかり音に包み込まれるような感覚が味わえ、驚いた。

これだけ低域がしっかり出ているのに、ボーカルも非常にクリアに聴ける。「GHOST/星街すいせい」を再生してみるとイントロの低域が深く沈んでいくベースの音が、部屋を包み込むくらいに広がり、こんな規模!? と思わず笑ってしまう。R200を設置するスペースに限りがあるので、左右をあまり離して設置できなかったので、NR1200と合わせて「性能を発揮できないのでは?」と心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

「追熱/龍ケ崎リン&アザミ」のような、演奏に重なってしまいがちな落ち着いた低い女性ボーカルでも、しっかりと分離されてボーカルは正面から聴こえ、演奏はその背後に拡がっていく。音楽が立体的に展開するので、聴いていて心地良い。「SCORPION/Reol」のようなEDM調×高い女性ボーカルの曲では、迫力あるキックが効きつつ、歌声も刺さらずに気持ちよく突き抜けていくので、ずっと聴いていたくなる。

HEOSの場合は専用アプリから再生することになるが、NR1200はAirPlayにも対応しているので、Amazon Music UnlimitedやiPhoneのミュージックアプリから直接操作できるのもありがたい。

テレビの音も臨場感アップ。より聴きやすい音に

いよいよテレビの音を再生してみる。NR1200はARC対応でテレビの対応端子に繋げばそのままテレビの音を再生できる。

ちょうど先日見ていたWBCの決勝が、Prime Videoでアーカイブ配信されていたので再生すると、ミニコンポスピーカーで聞いていたのと、臨場感がまったく違う。

球場の歓声はテレビの奥の方から聞こえ、それより手前の画面あたりに選手達がプレーしている音が、そして実況の声は画面から飛び出して前へと出てくる感覚。全ての音がきれいに聞き分けられる。今まで聞いてきた“野球中継の音”とクオリティが違い過ぎて、戸惑うほどだ。

試しに、テレビ内蔵スピーカーでも再生してみたが、広がっていた全ての音が狭い空間にぎゅっと圧縮されて、狭苦しい音になる。さらに薄っぺらい音に聴こえ、解説の声はこちらまで届いてくれず、非常に聴き取りにくい。NR1200 + R200の臨場感マシマシサウンドを聞いてしまうと、もう戻れない。

アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」第8話のライブシーンを再生してみると、こちらも臨場感が桁違い。2曲目に入る手前のぼっちのソロ演奏のシーンから「あのバンド」に入っていく流れは何度も繰り返して観てしまった。

「お兄ちゃんはおしまい!」第2話の“例の叫び声”シーンは、低音が響き渡って、まひろの身に起きたできごとの精神的な深刻さが伝わってくる。また、ちょっとしたBGMのベースラインが深く、鋭く再生され、低音の心地良さが味わえたりと、今まで以上に低音がしっかり感じられる。それでいて、キャラの台詞もしっかりクリアに聴こえる。

そして何より、NR1200 + R200の組み合わせて最高だったのはライブ映像。YouTubeで3月22日に配信された星街すいせい「Shining Memory」を再生してみると、部屋全体がホールのような空間になったように、低音が“部屋全体から押し寄せてくる”状態に。

全身でライブ感を味わえる“気分の上がる響き方”で、最高の気分。すいちゃんとレイヤの「みちづれ」デュエットからのすいちゃん+RASで「HELL! or HELL?」のあたりはテンションぶち上がり。自宅で、2chでここまでの音が楽しめるのは、NR1200のおかげでもあるが、R200のブックシェルフとは思えないパワフルな音の恩恵もありそうだ。

ライブ映像はこれだけ迫力満点、臨場感のある音なのだが、落ち着いた雰囲気の旅番組やニュース番組も“イイ”。番組のBGMだけが目立ったりはせず、人の声にリアルな厚みが出るので非常に聴き取りやすく、観ていて疲れない。毎日観るものなので、「全てが仰々しくなってしまったらどうしよう……」と思っていたのだが、タイプの違う音を描きわけてくれるのも嬉しいポイントだ

PS5と接続。「ホグワーツレガシー」“仕掛けの音”だけでもう楽しい

テレビからARCで音を出してきたが、次はPS5とNR1200を直接接続。話題のゲーム「ホグワーツレガシー」をプレイしてみた。

と、ここでちょっとトラブル。画面に「テレビが4K HDRに対応していないのでHDRをオフにする」というメッセージが。「いやいや、このテレビ4K HDR対応なんだけど」と確認してみると、PS5の映像をテレビへパススルーするNR1200の設定に問題があった。ビデオ設定の「4K信号フォーマット」項目を「標準」から「拡張」に変更すると、無事4K HDR映像でパススルーできるようになった。

気を取り直して「ホグワーツレガシー」をプレイしてみると、もう音響面が映画を観ているような感覚に。映画の「ハリーポッター」シリーズの中でも度々登場する大きな魔法の仕掛け扉などがゲーム内にもたくさん登場するのだが、その仕掛け扉が解錠されるときの「カチャカチャカチャ」という細かい音から、最後の扉の鍵が開く「ガチャン」という音、さらに巨大な扉の時はそれが「ズズズズ」と開いていく地響きのような低い音まで、扉の音だけでもこれまで以上にゲームの世界への没入感が桁違い。

また、そういったゲーム世界の物理的な音とは異なる、謎解きやストーリーが進ん
だ際に再生される音楽は、効果音の奥に展開。立体的なサウンドが味わえる。

気になることがあるとすれば、このゲームはPS5のコントローラーからも音が再生されるのだが、NR1200+R200の音がリッチ過ぎて、コントローラーのチープな音との落差がヒドい、というくらいだろうか。

音楽ライブの臨場感爆上がり。現地の熱気が伝わってくる

ちなみに、PS5とテレビをHDMI接続し、HDMI ARC経由NR1200 + R200を鳴らした音と、PS5とNR1200を直接接続し、パススルーでテレビに出力した音も聴き比べたが、明らかに直接接続の方が高音質だった。

また、PCとNR1200をHDMIで接続し、SPWNで4月21日23時まで配信で視聴できる「hololive 4th fes. Our Bright Parade」も再生してみた。普段はHDMIケーブルをわざわざ繋ぎ直すのが面倒なので、テレビアプリのないSPWNの配信はPCで視聴してしまうのだが、NR1200を介して再生した方が音のクリアさが増すので、その一手間をかける価値がある。

ネットで配信されている音源なので限界はあるが、どっぷりはまり込める低音と大好きな推しの声がしっかりクリアに聴ける感動を、Blu-ray発売前に味わえるとは思っておらず、繰り返し浴びるようして聴いた。

NR1200の表示がPlayStationとなってしまっているが、PCと接続している

ライブ配信でこの音が楽しめるなら、BDソフトならさらに凄いのでは? と、PS5と再度接続し、BD「hololive 3rd fes. Link Your Wish」も再生してみた。

AVアンプでも聴き込んだ事のあるソフトなのだが、ソースの音声がステレオなので、7.1ch環境を活かせず、「欲を言えばDolby Atmosなどのサラウンドバージョンを発売して欲しい」と思っていたのだが、NR1200 + R200で聴くと、特別感のあるライブ空間が部屋を包み込む。配信の時に感じていた“ノイズ感”も無く、よりクリアな歌声とライブ会場のような響きが部屋に広がった。2chでも、夢が叶ってしまうのは嬉しい。

今求めているのはこれかもしれない、充実の2chアンプ

「テレビの音を良くしたい」となると、手軽なサウンドバーか、高級サウンドバーか、本格AVアンプかの3択しかないと思っていたが、NR1200に触れてみたら、「今求めているのはこれかもしれない」と思い始めてきた。

2chでここまで臨場感マシマシで楽しめるのであれば、この部屋はNR1200で十分なのでは……? というか、もはや返却したくない。せめてこのままホグワーツレガシーをクリアするまで使わせて欲しい、と心底思っているし、今お金に余裕があればおそらくNR1200を購入する。

手軽なサウンドバーも魅力ではあるが、NR1200 + R200では“オーディオの楽しさ”も味わえた。実は、試聴しながら、音像の定位が良くなるセッティングも追求したのだが、その過程で、スタンドと床の接地が不安定な事に気が付き、耐震用のシリコンパッドを挟んだところ、定位感がグッと良くなるという経験をした。

そこで気を良くして、インシュレーター(オーディオテクニカ・AT6098)も使ってみたところ、低域が部屋全体に心地よく広がるようになった。実際に自分で試行錯誤してみて、「オーディオはポンと置いて完成ではないのだな」と実感。“設置方法で音が大きく変わる”楽しさを体験できたのも、オーディオならではの魅力だった。

筆者のように「AVアンプが欲しいけど、ちょっと……」と思っているのであれば、一度HDMI付き2chアンプ・NR1200という選択肢も検討してほしい。

(協力:マランツ)

野澤佳悟