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レコード知り尽くしたデノン本気プレーヤー「DP-3000NE」完成度の高さは格別だ
- 提供:
- デノン
2024年4月19日 08:00
「DP-3000NE」は、デノンが久しぶりに投入した本格派のレコードプレーヤーで、この製品の登場を待っていたレコードファンはかなり多いはずだ。私自身もその一人。同社がまだ“デンオン”と呼ばれていた時代の名機「DP-80」を30年以上にわたって使い続けてきたことがその理由だ。なんとなく親しみが持てるし、引き込まれる要素がたくさんある。
特に、ダイレクトドライブモーターの動作、細部のデザインなどに、愛用していた製品と共通するテイストがあり、懐かしさとともに安心感を感じる。
実際には変化した要素の方が多いのだが、実機で外観に触れ、レコードに針を落としてみると、「やっぱりデノンのレコードプレーヤーだ!」と感じる。設計者も世代交代しているとはいえ、半世紀にわたってモノ作りのDNAが受け継がれているのだ。
DP-3000NEを筆者の試聴室に持ち込み、10日間ほど使ってみたら、ますますその思いを強くした。ほぼ毎日レコードを聴く環境のなかに組み込んでみたのだが、使い勝手やデザインだけでなく、音についてもなんの違和感もなく、再生システムに自然になじんでいる。
最近は100万円を超えるレコードプレーヤーも珍しくないが、DP-3000NEは30万円台(385,000円)になんとか収まっていて、手持ちのカートリッジのポテンシャルを引き出す実力がそなわる。“身近な高級レコードプレーヤー”として、貴重な存在と言えるだろう。
ターンテーブル周囲の形状など、以前使っていたDP-80と外観上の共通点はあるが、他のデノン製レコードプレーヤーと比べても中身は大きく進化している。音質はもちろんだが、レコードプレーヤーとしての扱いやすさ、信頼性など、使い勝手の面での進化も大きい。細部までていねいに追い込む姿勢は、レコードファンのことを熟知しているメーカーならではのものだ。
今回は、その具体的な例を順番に紹介すると共に、50年以上に渡って、放送局のプロからオーディオ愛好家まで根強い人気を集める同社のMC型カートリッジ「DL-103」(53,900円)と組み合わせ、その実力を確認した。
回転機構の振動対策が再生音のクオリティを大きく左右する
DP-3000NEの心臓部には、3相DCブラシレスモーターが採用されており、プラッターの不要振動を抑える対策にも妥協は見られない。モーターの振動自体が非常に少ないことに加えて、プラッターやキャビネットの不要振動を徹底して抑え込むことで、普及モデルとは一線を画す静かな動作を実現しているのだ。アルミダイキャスト製プラッターの裏側に分厚いステンレス鋼板を組み合わせ、共振を抑えていることはその一例だろう。
キャビネットもMDFならではの密度の高さが感じられ、ソリッドな素材を高精度なくり抜き加工で成形した良さが実感できる。デンオン時代の高級ターンテーブルには、高密度な重量級の積層材をくり抜いた専用キャビネットが用意されていたことを思い出す。素材こそ異なるが、発想は共通するものがあり、そこにも老舗メーカーならではの伝統を感じる。
いろいろな意味で“静寂”の実現は、ハイファイグレードのターンテーブルを選ぶ上で非常に重要なポイントの一つだ。モーターの振動が及ぼす音への影響をコントロールすることは不可欠と言っていい。適切な製品を選び、十分なチューニングを施すことが条件だが、現代のレコード再生ではLPとは思えないほどの静寂を引き出すことができるのだ。特に、モーターを含む回転機構の振動対策が再生音のクオリティを大きく左右することは憶えておきたい。
音質と使い勝手を両立させた巧みな設計のトーンアーム
DP−3000NEではトーンアームの設計も重要なカギを握っている。ハイファイグレードのレコードプレーヤーに中途半端な品質のトーンアームを使うことは許されない。
このクラスのプレーヤーを選ぶリスナーはカートリッジを交換して音の変化を楽しむことが多いので、まずはカートリッジごとの音の違いを忠実に再現できる性能がトーンアームに求められる。静かな動作を実現するモーターの制振設計と同じぐらい、トーンアームの振動対策や感度を高めることが重要なのだ。
DP-3000NEのトーンアームは本機のための独自設計で、緩やかなS字型カーブを描くパイプはアルミ製だ。アーム接合部分に独自のフローティング構造を採用していることが特長で、この技術もデノン伝統のアイデアを生かしたものだ。
LP盤に刻まれた振幅の大きな信号がトーンアームの共振を誘発すると、音質に有害な影響が出てしまうことがあるのだが、今回の試聴期間中に再生した数十枚のレコードでは、DP−3000NEがトーンアームの不要な共振に起因するノイズを出すことは一度もなかった。音質と使い勝手を両立させた巧みな設計のトーンアームだと思う。
使い勝手の面でもこのトーンアームはとても良く考えられている。アームの水平を保つために高さ調整機構がそなわるのだが、ここではアーム下部のレバーを前後にスイングさせるだけで高さが連続的に変わる仕組みを採用しており、その使い勝手が非常に優れている。
また、インサイドフォースキャンセラーも操作ノブを引き出すだけで一瞬でオフにすることができ、針圧調整が非常にやりやすい。カートリッジを交換する機会が多い人は、そうしたきめ細かい工夫がとても嬉しく感じるはずだ。
カウンターウェイトは回転だけでなく、おもりの一部を前後にスライドさせることで大まかな針圧調整ができるので、質量の大きなカートリッジを組み合わせるときなど、素早く調整できるし、おもりを後端に移動してもバランスが取れないときは付属のサブウェートを追加すれば対応するカートリッジの幅がさらに広がる。
直接針を落とすときの操作のしやすさは特筆に値する
使い勝手の良さといえば、スタート/ストップボタンの軽く確実な操作感、起動と停止のスピードの速さもデノンのレコードプレーヤーの長所を受け継いでいる部分の一つだ。
確実な操作感は放送局など業務用ターンテーブルを作っていた頃からの伝統を受け継いだもので、現代のユーザーにとっても大きな安心感につながる。ちなみに回転数切り替えスイッチを押しながらスタート・ストップスイッチを押すと、LEDが2つ点灯し、78回転に切り替えることができる。
使いやすさを実感できる要因の一つが、キャビネット天面からレコード盤の高さが適切なことで、特にアームリフターを使わず直接針を落とすときの操作のしやすさは特筆に値すると言っていい。高すぎても低すぎても手のひらで安定して支えるのが難しくなり、針を落とす位置の微調整がしにくくなってしまうのだ。
DP−3000NEはこの高さが絶妙で、なんのストレスもなく操作できる良さがある。普段からあまりリフターを使わない筆者にとって、ここはとても重要なポイントの一つなのだ。
外観上の特徴についても触れておこう。まずはキャビネット周辺部を緩やかな曲面形状に仕上げていることに注目したい。その僅かなカーブが柔らかい雰囲気を醸し出すと同時に木目の美しさを際立たせる効果も発揮する。デノン製レコードプレーヤーはスクエアな形状のキャビネットを採用してきたが、DP-3000NEは従来とデザイン志向に微妙な変化が感じられ、現代のアナログオーディオにふさわしいデザインに生まれ変わった感がある。
マット仕上げと光沢仕上げの絶妙な使い分けにも好感を持った。キャビネットの仕上げに滑らかな質感の黒檀を採用したことにも新しさを感じる。黒檀は弦楽器や木管楽器でおなじみの高級木材で、質感の高さと木目の美しさに特別感がある。突板を使用しているようだが、まるでソリッドな黒檀を加工したような一体感があり、接合部の仕上げもていねいで非常に美しい。
標準で付属するダストカバーは透明度の高いポリスチレンを採用しており、カバーをした状態でもキャビネットの美しい外観を積極的に見せる効果がある。
昔聴いたレコードが良い方向に大きく変わるスリリングな体験
DL−103を取り付け、DP-3000NEの再生音を確認してみよう。
リッキー・リー・ジョーン「ショウビズ・キッズ」(45回転盤)は冒頭のパーカッションの一音一音の粒立ちの良さと、それに続くウッドベースのテンションの高い音色が鮮やかなコントラスを描き、リッキー・リーが歌い始める前に早くも高揚した空気が部屋を満たした。
ヴォーカルはウォームな感触だがどの音域でも声に芯があり、骨太のベースに負けない充実したエネルギーを実感。発音も明瞭で力強く、CDやファイル音源で聴くよりも生々しい感触が伝わってくる。この力強くリッチなサウンドが聴きたくて、あえてレコードを選ぶという人がいても不思議ではない。何を隠そう筆者もその一人だ。
カルロス・クライバー指揮ウィーンフィルの演奏で聴いたベートーヴェンの交響曲第5番はハーモニーを支える低弦とティンパニの厚みのある音と、第4楽章で第2ヴァイオリンとヴィオラが刻むリズムの推進力の強さをたっぷり味わうことができた。
この演奏の特長の一つであるオーケストラの一体感と高揚した温度感もレコードで聴くといっそう際立つ印象があり、クライバーの求心力の強さが瞬時に蘇ってくる。第2楽章の内声の動きも鮮やかで、演奏が前に進む勢いにあらためて気付かされた。
プレーヤーを変えると演奏の印象まで変わるのはデジタルディスクプレーヤーでも良く経験することだが、レコードプレーヤーだとその変わり方がさらに大きく感じられる。不思議だが紛れもない事実で、さらにカートリッジを変えて好みの音に追い込むこともできる。デジタルでは真似できないアナログならではの楽しみがここにある。
フリッツ・ライナー指揮シカゴ響によるドビュッシー「イベリア」は60年以上前の録音だが、その古さをまるで感じさせないほど鮮度の高いサウンドを引き出すことができた。低音から高音までどの楽器もアタックに緩みがなく、パーカッションの反応の速さは爽快なほどだ。弦楽器はピチカートの一音一音が鮮明に発音し、部屋の後方まで音がもの凄い勢いで飛んでいく。金管楽器は音色に光沢感が乗り、打楽器に負けないぐらい遠くまで届く浸透力が強烈だ。
とはいえアタックにキツさや不自然な硬さはなく、むしろ本来の柔らかい響きを確保していることに感心させられた。低音が弛まず、エネルギーバランスに誇張がないので音場の見通しがよいことにも好感を持った。
「2001年宇宙の旅」のサウンドトラックも50年以上前の録音だが、J.シュトラウスの「美しく青きドナウ」の弦楽器のトレモロなど、思わずハッとさせられるような鮮度の高さがあり、シカゴ響のドビュッシーと同様、録音年代の古さをまったく感じさせない。
この盤を手に入れた頃の再生システムでは静寂のなかから少しずつ音が立ち上がる冒頭のダイナミックレンジの大きさを十分に再生できなかった記憶があるが、当時と同じDL−103を使っているのにDP-3000NEで鳴らすと次元の違う静寂感を引き出すことができる。昔聴いていたレコードの印象が良い方向に大きく変わるのはとてもスリリングな体験で、レコードプレーヤーを新調することの意味を思い知らせられる。
村治佳織の「シネマ」もあえてレコードで聴く価値のある録音の一つに数えられる。ギターのナイロン弦の柔らかい音色や楽器のボディが振動する木質の響きの美しさがデジタル音源とは違う心地良さで伝わり、演奏に込められた曲への思いの強さやエモーショナルな表現の深さがダイレクトに感じられるのだ。
村治奏一とのデュオで演奏したA面のトラック1ではウォームで柔らかい音色の美しさに加えて、伴奏と旋律のバランスの良さを聴き取ることできた。耳の集中力を意識的に高めて聴くと、D線とG線など、それぞれの弦の音色の特徴を正確に再現していることにも気付く。デュオの演奏でもハーモニーに混濁はなく、それぞれの楽器の響きと音色の違いを正確に再現していることがわかる。
シャルル・デュトワ指揮モントリオール響の幻想交響曲ではステージ上の楽器の並びやホールトーンの広がりなど、空間情報を正確に再現していることが良くわかる。楽器同士の距離や立体的な位置関係まで聴き取れるようになると、この作品で作曲家が表現したかった遠近感や弦楽器と木管楽器の対比の面白さなどが自然に浮かび上がり、ベルリオーズが工夫を凝らした作品ならではの仕掛けが伝わるのだ。
珍しい楽器をあえて使ったフレーズや、鐘を効果的に鳴らす場面など、音響的な聴きどころも狙い聴き取ることができ、最終楽章の瞬発力の大きさもレコードのダイナミックレンジの限界をほとんど感じさせない。音場の透明度の高さなど、この録音ならではの特徴も正確に引き出していると感じた。
アナログ再生の醍醐味。カートリッジ交換で音の違いを楽しむ
次に、カートリッジをフェーズメーション「PP2000」に交換し、聴き慣れたレコードを何枚か聴いてみることにした。
このカートリッジは筆者が普段リファレンスとして使っているMCカートリッジの一つで、解像度の高さと全音域でのセパレーションの高さに特徴がある。カートリッジ本体が少し重めなので、付属のサブウェートをトーンアーム後端に取り付けて指定の針圧を確保した。
加藤訓子が演奏したスティーブ・ライヒ「マリンバ六重奏曲」をこの組み合わせで聴くと、音数が増えても飽和感がなく、混濁のないハーモニーの美しさを堪能することができた。この録音はデジタル音源で再生する方がマリンバらしい深く澄んだ低音を再現しやすいと思っていたのだが、レコードでは木質の柔らかい響きや余韻の密度の高さが伝わり、デジタル再生とは別の魅力を引き出すことができたように思う。
各パートごとのリズムの特徴を明瞭に描き分けることと、マリンバのアタックのエネルギーの強さを忠実に再現することなど、PP2000の長所をもらさず再現していることにも注目すべきだろう。
ミニマルミュージックを代表する本作品は同じ音形が延々と続くように聴こえるが、一部が微妙にずれていくことでリズムの構造やハーモニーが複雑に変化していく面白さがある。このシステムではその変化の様子もはっきり聴き取ることができた。あえてレコードで聴いても、演奏の重要な特長が曖昧になることはない。
ジョン・コルトレーン「至上の愛」のパート2は、ベースの動きがノイズに埋もれず、ピアノと共に刻むリズムの音形をクリアに描き出してくる。
一番感心したのはサックスの音色の力強さと息の勢いの強さで、最初のフレーズを聴いただけコルトレーンの演奏の特長が鮮明に浮かび上がってくる。シンバルの音がくもらず、サックスと同じぐらいの位置まで前に出てくるのもこの録音の重要な聴きどころで、一音一音がつぶれず、クリアなアタックを保ってダイレクトに耳に届く。
サックスは中高域まで密度が高く、高揚感と温度感の高さが伝わるし、ドラムとベースのセパレーションも意外なほど高く、リズム楽器の分離の良さを実感。低音が重くなりすぎないので、リズムの音形がくっきり浮かび上がるのだ。同じ理由でピアノの左手の動きもはっきり聴き取ることができる。
リマスター盤で登場したブリテン「戦争レクイエム」も1960年代の録音だが、まるで録音の現場に居合わせたかのような臨場感があり、録音年代の古さを聴き手に意識させない。
合唱は弱音とフォルティッシモのコントラストが鮮やかで、息遣いまで伝えてくるし、児童合唱のハーモニーもまるで現代の録音のように高い純度を確保している。大太鼓の衝撃的な力強いアタックや重量感を引き出しつつ、あえて残響を強めにとらえた金管楽器の余韻の広がりや他のセクションとの距離感など、演奏会場の空間描写も録音スタッフの狙い通りに再現していると感じた。
名録音の代表格で何度も聴いている録音だが、今回の入念なリマスタリングによって、演奏の細部が以前より克明に聴き取れるようになっている。既存のレコードとも聴き比べてみたのだが、明らかに今回のLPの方が情報量が多く、ディテールの粒立ちや立体感が向上していることを確認した。現代のマスタリング技術で蘇る情報をどこまで引き出せるのか、再生システムに課せられた課題の一つをDP-3000NEとPP2000の組み合わせは難なくクリアして見せたのだ。
リッキー・リー・ジョーンズの45回転盤はDL-103で再生したときよりもウッドベースのピチカートが骨太に感じられ、アタックの力強さがさらに鮮明に聴き取れるようになった。一方、ヴォーカルはDL-103の方がウォームな感触が強めで、声の低音域のボディ感も豊かに感じる。カートリッジを交換したときの音の変化は意外なほど大きく、同じレコードを聴いても印象がガラリと変わることも珍しくない。そんな音の違いを積極的に楽しむこともアナログ再生の醍醐味の一つなのだ。
本気でレコード再生に取り組みたいと望む音楽ファンにも強くお薦め
DP-3000NEはデノンが久々に手がけた高級機である。アナログ全盛期に蓄積した技術やノウハウをすべて継承するのが難しい環境とはいえ、重要な技術や本質的な要素は途絶えることなく受け継いでいると感じた。
特に使い勝手の良さと信頼性の高さは格別で、レコードのことを知り尽くしたメーカーでなければここまで追い込むのは難しいと思う工夫が随所に活かされている。レコード歴の長い使い手の視点で見ても使いやすさが際立っているので、安心して音楽に集中できるのだ。レコードをたくさん聴く人ほど、このプレーヤーの完成度の高さ、使い勝手の良さがわかるのではないか。
再生音については、安定した骨格とスケールの大きさなどデノン伝統の特徴に加えて、現代のレコード再生を視野に入れた着実な進化を聴き取ることができた。低音の質感の高さや遠近感を引き出す優れた空間描写はその一例だ。その進化の意義は、非常に大きい。これから本気でレコード再生に取り組みたいと望む音楽ファンにも強くお薦めできる。