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LUMIX GH7と32bitフロート録音で“イケてる俺ミュージックビデオ”撮影にチャレンジ

LUMIX GH7と音楽スタジオへ

コロナ禍で楽器演奏を始めたり、「歌ってみた」系の動画の投稿をはじめた人も多いだろう。でもスマホ撮影では、どうしても画質や音質に満足できない……要するに“イケてる動画”にならないと悩んでいる人はいないだろうか。そんな人にオススメしたいのが、パナソニックが7月に発売したミラーレスカメラ「LUMIX GH7」(オープンプライス)だ。

このミラーレスカメラ、小型ながらプロが本気の映像制作に使ったり、レンズをいろいろ取り換えて楽しめたり、写真撮影能力も強力で……と、特徴が色々あるのだが、演奏好きの人にお伝えしたいのはズバリ「音声」のこと。実は別売の「DMW-XLR2」というXLRマイクロホンアダプターを組み合わせると、“手軽な音楽撮影に最強”になるのだ。

LUMIX GH7の上部に装着しているのが別売の「DMW-XLR2」XLRマイクロホンアダプター

具体的には“32bitフロート録音”というのが可能になる。なんだか難しそうなワードだが、心配ご無用。想像以上に簡単に、高品位な映像と“音割れしない音声”をカメラ1台で撮影できてしまう。演奏を撮影したい人にとっての“神機能”なのだ。

今回は実際に音楽スタジオに持ち込んで、“イケてる俺ミュージックビデオ”の撮影にチャレンジしてみた。

挑戦するのは「学生時代はよくバンド演奏してて~」が口癖のアラフォー筆者

32bitフロート録音というのは、一般的なリニア録音に比べてダイナミックレンジ(捉えられる音の大小の範囲)が圧倒的に広いのが特徴。要するに、「大きな音でも音割れせず記録できる」「小さい音で録音したものを、あとから綺麗に大きくできる」「撮影時の音量調整が不要」といったメリットで注目されている。マイクと入力機器の限界さえ超えなければ音量の心配は無用ということで、1人での動画撮影も気楽になるわけだ。

さっそく録ってみた。24bitリニア/32bitフロート録音を比較

筆者はマイクセッティングや録音の経験が全くない。そこで、演奏シーンの録音におすすめというマイクを編集部に用意してもらった。オーディオテクニカのマイクで、ボーカルやアコギにも使われる定番コンデンサーマイク「AT2020」と、ドラムなどの低音楽器に最適というダイナミックマイク「ATM25」だ。これをLUMIX GH7の頭上に取り付けたXLRマイクロホンアダプターに接続する。

オーディオテクニカのマイク。左から「AT2020」「ATM25」
これをXLRマイクロホンアダプターに接続。XLR端子が2つ(INPUT1/2)、3.5mm端子が1つ(INPUT3)備わる

コンデンサーマイクのAT2020をドラムセットの頭上に2本セット。INPUT 1/2は動画のL/Rチャンネルにそれぞれ録音されるので、せっかくだからステレオにしてみようという狙いだ。「LとRのマイクをスネアドラムから等距離に置く」というセオリーに沿って設置してみた。とりあえず準備はこれだけ。

ドラム頭上にマイクを2本をセット。側面にあるオーディオテクニカのロゴがマイク正面なので、この向き
DMW-XLR2にマイク2本を接続した姿。プロっぽい見た目に気分がアガる

ちなみにマイクスタンドとXLRケーブルは、どちらも音楽スタジオにボーカルマイク用として用意されているものを借用。スタジオ入室時に受付で「マイクは何本お使いですか?」と聞かれるアレですな。

マイクをDMW-XLR2に接続したら、コンデンサーマイクはパネル上の入力ゲインスイッチを「+48V」に、ダイナミックマイクの場合は「MIC」に切り換える。「LINE」はミキサーなどのライン接続用だ。

DMW-XLR2の操作パネル。コンデンサーマイクのAT2020は電源供給が必要なので、スイッチを「+48V」にセット

他にもダイヤルなどが並んでいるけれど、最初に述べたように32bitフロート録音時は録音レベル(音量)調整不要なので、音量調整のダイヤル操作も無効。あとは録画ボタンを押すのみだ。

録音音質で32bitを選ぶと、お目当ての32bitフロート録音となる。設定メニューの[動画]-[音1]-[録音音質]から選択
32bitフロート録音時のレベルゲージ。音割れしないので黄色や赤の警告も出ない。マイクがちゃんと繋がっているかの参考になる
参考:24bitリニア録音時のレベルゲージ。めいっぱい振れており、音量調整が不適切で音割れする状態

下の動画では、ドラムを叩いている様子を次の3パターンで比較撮影した。いずれも音は無加工で、録音した状態から編集時に少しだけレベルを下げている。聞こえる音色はそれぞれ異なるが、ドラムの叩き方はどれも同じ。

  • カメラ単体、カメラ内蔵マイクで録音(録音レベル標準)……カメラの初期設定で撮影
  • マイクアダプター装着、24bitリニア録音(手動録音レベル調整失敗)……従来方式のリニア録音
  • マイクアダプター装着、32bitフロート録音(録音レベル調整不要)……今回注目のフロート録音
32bitフロート録音の効果を試す

32bitフロート録音以外では、音が割れないように「このくらいかな?」と音量調整をしてから撮影ボタンを押すわけだが、演奏がスタートするとつい熱が入り、音が割れてしまうという失敗がよくある。

実際にカメラ内蔵マイクでも撮影してみたが、撮影時の設定では完全に音が割れてしまっていて、編集時に音量を下げても音は割れたまま。カメラ画像の白トビと同じで、割れてしまった部分は戻ってこない。

2番目の24bitリニアは、XLRマイクロホンアダプターを使ったが、音量の手動調整を失敗してしまった。つい演奏に熱が入り、音が大きくなってしまった。もちろん割れているので、編集時に音量を下げても音は割れたまま。

注目は3番目の32bitフロート録音。動画編集ソフトに読み込んだ段階では音が割れているように聴こえるが、レベルを下げていくと波形の山が復活! 最初から適切な音量で録音していたかのように再生できる(MacのiMovieとPremiere Proで扱えた)。これはスバラシイ。

マイクで録れた音は、「ちゃんとマイクを設置した甲斐があった!」と感じられるクオリティ。スネアはオープンリムショットでカーン! と鳴り、開き気味のハイハットも音が飽和せずにディテールが残っている。スタジオによくあるボーカルマイクやスマートフォンの内蔵マイクで録ったものとは、中音域~高音域の明瞭さが明らかに違う。

さらに作り込むのであれば、この音にコンプレッサーなどのエフェクトを掛けたり、DAW(音楽制作ソフト)に持っていって細かく作り込むのも自在だろう。簡単なセッティングでも、これだけ高品位に録れたのは嬉しい。

いよいよ、ミュージックビデオ風撮影!

32bitフロート録音の威力がわかったところで、ドラムだけでは寂しいから他の楽器も撮影して“ミュージックビデオ風”にチャレンジ! 各ファイルを動画編集ソフトで簡単に重ねて、バンド演奏風に仕立ててみた。

動画編集ソフトでカット割り。映像や音色は無加工(※モノラルとステレオ混在のため、編集にはAdobe Premiere Pro使用)
ギターアンプにAT2020を設置。とりあえずスピーカコーンの直前を狙った
ベースアンプには、低音楽器用のダイナミックマイクATM25を使用

聴き返すとお恥ずかしい演奏だけど、ベースの音は時折混ざるフレットノイズが生々しくリアル。ギターはマーシャル「JCM900」のキレのある歪みのバッキングと、ソロでは独特の中高域の粘りがよく捉えられている。どれも現場で聴いたままの音という感じがする。

これはレコーディングとミュージックビデオ撮影が同時にできてしまったぐらいの感覚。カメラの前で演奏する気恥ずかしさも、映像をチェックしていて徐々に“ドヤ感”に変わってきたのは内緒だ。

この表情である

もっと遊びたい人に……リアルタイムLUT、レンズ交換、オープンゲート

撮影に慣れてくると、音だけでなく、映像にも一手間加えたくなってくる。LUMIX GH7であれば、それも手軽にできる。

最初は「リアルタイムLUT」という、映像にエモさやシブさを与える機能。上の動画でもいくつか使っている。通常は、撮影後に動画編集ソフトで色やトーンを変えるが、LUMIX GH7では撮影中にその効果を確認しつつ、録画できる。しかも種類が豊富だ。

カメラ内蔵のプリセットだけでなく、スマートフォンアプリ「LUMIX Lab」から気に入った色味のLUT(ラット)をダウンロードして、カメラに転送できる。操作のアプリ画面の指示に従えば難しさはない。

スマホアプリ「LUMIX Lab」で、サンプル画像を見ながらお気に入りのLUTをダウンロード。LUMIX GH7とペアリングしてカメラに転送する

あとはカメラ側のフォトスタイルを「リアルタイムLUT」にし、そこでAFモードボタン(背面モニター右上にある"田"みたいなマークのボタン)を押すと、LUTの選択画面が出る。そこでレンズ越しの景色にどう色味が反映されるか見ながら、イイ感じのLUTを選ぶだけだ。

設定メニュー[動画]-[画質1]-[フォトスタイル]で[リアルタイムLUT]を選択。下キーで[LUT ON]を選び、(田)[LUT選択]をタップ
「Smoky Color-S」は、少しコントラストが低めで渋い色味
「Classic Teal N Orange」は青緑が乗ってエモい感じ

ミラーレスカメラなので、撮影レンズを交換するのも楽しい。レンズ交換は音楽でいえば楽器やエフェクターを使い分けるようなもの。LUMIX GH7はマイクロフォーサーズという規格のカメラで、多種多様なレンズが揃っている。

今回は標準的なズームレンズ「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0 ASPH. POWER O.I.S.」と、寄りの画でカッコいい背景ボケが出せる「LUMIX G 42.5mm F1.7 ASPH. POWER O.I.S.」を使用。レンズ自体の小ささも魅力だ。

そしてSNS時代らしいのが「オープンゲート」と呼ばれる撮影スタイル。動画というと普通は16:9の横向きに撮影するが、これは4:3という比率で縦に広く撮っておいて、そこから縦横いろんなサイズに切り出して使おうというもの。

撮った動画を、あとからYouTubeだけでなくTikTok(9:16の縦動画)などにも投稿したい! といった場合に便利な機能だ。

「オープンゲート」撮影で、異なる画角を切り出してみた。撮影時は「5.8K 30p 420/10-L」(200Mbps)を選択。そこから、様々なアスペクト比に切り出した
4:3での撮影画面。ピントは顔を認識して追いかけている

また、LUMIX GH7はシャッター速度7.5段分という強力な手ブレ補正機構(B.I.S.)を内蔵しているほか、動画撮影時での手持ち撮影を強力にサポートする「アクティブ I.S.」や、動きながら撮影しても、カメラをジンバルに乗せたような安定した映像が撮影できる電子手ブレ補正(E.I.S.)も利用できる。

今回の撮影でも、演奏の様子を回り込みながら撮影などしてもらっているが、三脚を使わずに、安定した映像が撮れている。この手軽さは大きな魅力だ。

カメラを手に取り、恥ずかしさを捨てよ!

というわけで、初めて使ったLUMIX GH7での“ミュージックビデオ風の動画撮影”は、見事にチャレンジ成功! iMovieを使ったごく簡単な編集で、イケてる(自称)ミュージックビデオ風動画が作れた。画質も音質も良く、いい思い出になった。バンドでお互いを撮りっこしてYouTubeにアップ、というのもいずれやってみたい。

ミラーレスカメラを使った動画撮影は、撮れる映像こそハイクオリティだが操作が難しく、「下手にミラーレスカメラを使うぐらいなら、スマートフォンのほうが失敗なく撮れる」とも言われている。だが、32bitフロート録音機能を使って、録音レベル調整の難しさを機材にまかせてしまえば、録音の失敗が減らせるので、挑戦のハードルはグッと低くなった。

今回の撮影でも、マイク設置後は「ギターにピントを合わせて、奥のボケたところにドラマーがいたら雰囲気出そう」、「弾いてる姿を下からアオって撮影しよう!」、「青い照明のLEDがギターのボディ映り込んでカッコいい!」などと、機材のことは忘れてシンプルに映像撮影を楽しめた。

LUMIX GH7はAFも強力で、カメラが自動で顔にピントを合わせ続けてくれたり、画面タッチの操作で設定できるので、カメラ撮影を担当する人も、カメラに詳しい必要はない。三脚を用意すれば、1人で凝った映像の撮影にもチャレンジできるだろう。

楽器好きになら少しでも演奏技術向上に時間を使いたいところ。ミラーレスカメラの高画質と、32bitフロート録音の安心感を融合した「LUMIX GH7+XLRマイクロホンアダプターDMW-XLR2」の組み合わせは、最適な“演奏撮影向きカメラ”と言える。プロアマも上手い下手も関係なく、ムズカシイことはカメラに任せて、熱い演奏を記録しよう。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」