トピック

この価格で超ハイエンド動画カメラ。LUMIX GH6でシネマ風撮影してみる

3月25日より発売されたLUMIX DC-GH6

手が届くフラッグシップ

パナソニックのLUMIX GHシリーズは、同社マイクロフォーサーズ機のフラッグシップモデルとして長い歴史がある。2009年発売の初号機「DMC-GH1」は、前年に発売された世界発のミラーレス「DMC-G1」が静止画専用だったのと違い、動画撮影対応モデルとして登場した。

歴代のGHシリーズ
なつかしのGH1。“動画に強いLUMIX”はここから始まった

光学ビューファインダを持たないミラーレスの構造は、ビデオカメラの構造にも近い。今でこそ多くのミラーレス機が動画性能を誇るようになっているが、パナソニックは最初から「ミラーレスで動画」というアプローチに光明を見出していたことがわかる。

GH1時代からすでに「ムービーカメラ並み」と評されていたわけだが、そこから連なるGHシリーズ全製品が、動画撮影のプロやハイアマから「写真も撮れる動画機」として圧倒的な支持を受けてきた。

その最新モデルであり、同社マイクロフォーサーズ機のフラッグシップが「DC-GH6」だ。今年3月25日より発売開始されている。

LUMIX DC-GH6

パナソニックは2019年に、フルサイズミラーレス市場にも参入している。フルサイズのDC-Sシリーズは毎年拡充し続けているところだが、こちらもフラッグシップ機として「DC-S1H」、リーズナブルなフルサイズ機として「DC-S5」。が市場で高い評価を受けているところだ。

実はフルサイズのS5とマイクロフォーサーズのGH6は、価格帯としてはかなり近いところにある。加えてボディサイズも近い。したがって、「同じぐらいの価格ならフルサイズを」となりがちなところである。だがカメラ性能から考えると、GH6はフラッグシップ機であり、実はほとんどの機能でS5を上回る。

S5はもちろんフルサイズ機ならではのリッチな描写が魅力だ。大きなボケ味を活かした表現や余裕のあるダイナミックレンジを活かした撮影も可能。デュアルネイティブISOテクノロジーも搭載しているので、低照度環境下でも細部の描写性が優れている。

ボディサイズはS5(左)に近い

そこで、“手が届くフラッグシップ”「GH6」の魅力を解説してみたい。

マイクロフォーサーズとGH6の魅力

マイクロフォーサーズ(以下M4/3)は、4/3インチのセンサーを採用し、ミラーレス用にフランジバックを短くしたフォーマットだ。センサーサイズはフルサイズのちょうど1/4となる。従って、マイクロフォーサーズ用レンズの焦点距離をフルサイズ換算する際には、単純に2倍すればいいという、分かりやすい規格である。例えばM4/3で10mm~25mmのズームレンズなら、35mm換算では20mm〜50mm、という事になる。

中央に見える鏡のようなパーツがGH6のセンサー

M4/3は、マウント径の小ささ、フランジバックの短さから小型・軽量のレンズが多く、複数のレンズを持ち歩いても軽量で大荷物にならないというメリットがある。現在パナソニックでは、Gシリーズとして32種類の多彩なレンズ資産があり、フルサイズ用レンズに比べ価格的にも半分ぐらいで、良質なレンズが揃うのも魅力である。

また長年のパートナーであるLeicaからも12本のレンズがリリースされており、バリエーションに花を添えている。もちろん、同じマイクロフォーサーズカメラをリリースするOMソリューションズのレンズも互換性があり、さらにはフォクトレンダーなどの名門レンズも揃っている。

M4/3のフラッグシップとなるGH6は、動画のプロフェッショナルも納得の機能を多く備えている。ボディにはマグネシウム合金を使用し、軽量と耐久性を両立。接合部や操作部材にシーリング構造を採用し、防塵・防滴・耐低温仕様となっている。液晶部奥にはファン型の放熱機能があり、長時間の動画記録でもオーバーヒートを抑制する。

液晶モニタの背後に放熱機構を持つ
放熱機構を持つのはS1H(左)と同じ
GH6の放熱機構イメージ
各部にはシーリングを施し、防塵・防滴・耐低温仕様となっている

動画のRecボタンは、上部に1つと前面に1つ備えた。リグを組んだりジンバルに乗せた際には、上部のボタンが押しづらくなる事があるが、前面にもあることで助かるケースも多いだろう。前作GH5 IIよりも重量が100gほど増えているが、グリップが深くなり、持ちやすさが向上したため、あまりハンデには感じられない。

前面のRecボタン装備もS1H(左)と同じ

センサーは新開発の25.2MハイスピードLiveMOSセンサーで、最大解像度5.8K(5,760×4,320)/29.97pの撮影をサポートする。ただしこちらはアナモルフィックレンズの使用を前提としている。17:9のいわゆるDCI 4Kサイズであれば、最高5.7K(5,728×3,024)/59.94pで撮影できる。同じ17:9のDCI4K(4,096×2,160)であれば、最高119.88pでの撮影も可能だ。もちろんテレビ向け4K(3,840×2,160)サイズでも、119.88pで撮れる。

コーデックもMOV, MP4のほか、GHシリーズとしては初めてApple ProResに対応した。ビットレートは最高1.9Gbpsにも及ぶが、デジタルシネマのワークフローにも合致する。

GHシリーズとしては初めてApple ProResに対応

ハイスピード撮影という点では、フルHD解像度まで落とせばなんと239.76pで撮影できる。またバリアブルフレームレート(VFR)モードでは、フルHDで最高300fpsでの撮影も可能だ。30p再生でも10倍、24p再生では12.5倍スローという事になる。

通常撮影でも240p(239.76p)撮影が可能
VFR撮影では最高300fpsにまで達する

この高速センサーから送られてくる莫大なデータの画像処理を可能にしたのが、GH6用に新規開発された新Venus Engineだ。フルサイズのフラッグシップ「DC-S1H」搭載のものと比べて、約2倍の性能を誇る。

画質面では、ディテールや3Dノイズリダクション性能の向上が見込めるほか、AF性能の向上や、HDMI2.1/USB3.2(Gen2)/CFexpressといった高速IFへの対応といった恩恵が受けられるのも、この新エンジンのパワーである。

新世代ヴィーナスエンジンを搭載したメイン基板
メモリーカードはより高速なCFexpress Type Bカードにも対応

また音声収録でも、GHシリーズとしては初めて4ch/24bitの内部収録に対応した。本体上部にはオーディオ用ボタンも新設されており、音声に関する設定だけを一元で管理できるようになった。4chを利用するには別売のXLRマイクロホンアダプターが必要とはいえ、メインLRのほかアンビエント音も同時収録できたり、あるいはVR用サラウンド収録ができたりと、可能性が拡がる。

上部にオーディオ連用ボタンを新設
オーディオ専用メニューが呼び出せる

小さくて安いので、ジンバルやレンズに投資できる

M4/3システムが小型軽量であることはすでに述べた。GH6はM4/3の中ではかなり大型ボディだが、それでもフルサイズで同性能のS1Hと比べれば機動性は高い。

例えばジンバル撮影を考えてみると、GH6はキットレンズの「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm/F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.」と組み合わせると、総重量1.2kg。一方同じフラッグシップでもフルサイズS1Hと「LUMIX S PRO 24-70mm F2.8」の組み合わせでは、総重量2.1kgになる。

今回は「DJI RSC 2」に乗せてみたが、ペイロードは3.0kgあるので、一応どちらも乗せられる。ただS1Hの場合、水平を維持するだけならともかく、上向きや下向きで固定すると、モーターのトルクが足りず、エラーとなる。

同レベルのフルサイズ機、S1Hをジンバルに乗せると、総重量3.5kg

そもそもジンバルと延長グリップだけでも1.4kgあるのに、さらに2.1kgのカメラを乗せれば、総重量3.5kgにもなる。これをワンハンドルで持っての撮影は、ちょっと無理があるところだ。S1Hを使うなら、両手で持って背中から吊るような、さらに上位のプロ向けジンバルが必要である。

一方GH6なら、上位レンズの「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.」と組み合わせても総重量1.5kgを切るので、DJI RSC 2との組み合わせでも十分に撮影可能だ。

GH6ならハイエンドレンズと組み合わせても総重量3kg以下

重さだけではない。例えば、前述のジンバル「RSC 2」は、周辺機器がセットになった「Pro Combo」を買うと73,700円。カメラはボディだけで撮影できないので、レンズも買う必要があるが、GH6であれば、それら周辺機器を買い揃えても50万円以内に収められる。S1Hの場合は、ボディだけでそれに近い金額となり、そこからさらにレンズや周辺機器を買い揃えなければならない。

これから凝った動画撮影にチャレンジしたい人にとっては、S1Hと同クラスの撮影ができつつ、周辺機器への投資も押さえられるのが、GH6の魅力と言えるだろう。

画質面ではダイナミックレンジブーストに注目

高画質という点では、GH6で新たに搭載された「ダイナミックレンジブースト」に注目したい。これはセンサーの信号を2つに分け、明るさに対しての飽和に強い低ISO回路と、低ノイズ設計の高ISO回路で処理した映像を画素ごとに合成することで高いダイナミックレンジを得るという技術だ。

GH6の目玉機能、ダイナミックレンジブースト

ダイナミックレンジブーストが生きるのは、やはりV-Log収録ということになるだろう。この組み合わせでは最低ISO感度が2000となるため、昼間の撮影ではNDフィルターが必須になる。

そこで、可変NDフィルタを使って輝度を下げつつ、5.7K/30pで“Vシネマ”を想定した撮影を行なってみた。編集時にDaVinci Resolve Studioにてカラーグレーディングを施している。

ダイナミックレンジブーストでV-Log収録したサンプル
上記のVシネマ風サンプルはHDRで掲載している。HDR対応スマートフォンなどで再生すれば、ダイナミックレンジブーストの威力をHDR映像で楽しめるので試して欲しい。写真はPixel 6 Proで表示したところ
対応機器で再生すると、画質設定部分に解像度に加え「HDR」と表示される

一見して分かるのは、高いコントラスト表現である。逆光のアングルでも、すべての色を破綻なく収めることができるだけのダイナミックレンジを備える。その結果は十分満足できるものであった。

暗部から明部までバランスの良い発色が得られる
難しい光でも難なくこなせる

また特筆すべきは、暗部のノイズもほとんど見られないところだ。夕暮れどきの映像も、明部と暗部を上手く両立できている。ダイナミックレンジブースト+V-logでは、最大13+Stopsのダイナミックレンジが得られるという。これは業務用VARICAMシリーズや、S1Hの14+Stopsとほぼ互角に戦えることを意味する。

暗部のSNの良さにも注目したい

実はこのダイナミックレンジは、静止画にも活かされている。RAWではなく普通にJPEGで撮影しただけだが、レンジの広さと豊かな階調表現を感じさせる。

静止画でも暗部から明部まで、階調豊かに表現
動画に強くても静止画の絵作りはぬかりない

いくら“S1Hとほぼ同じ”と言われても、多くの人はセンサーサイズの差を気にするだろう。センサーサイズが大きければ、背景や前景のボケやすさに繋がり、深度表現がやりやすいのは事実だ。一方センサーサイズが小さいと、被写界深度が深くなり、つまりはあまりボケないという事になる。

今回のサンプルは、「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.」と、同「25-50mm / F1.7 ASPH.」で撮影しているが、35mm換算で80mm程度、つまりM4/3で40mm以上の中望遠の解放で撮影すれば、背景はかなりぼかすことができる。一方で絞りを絞っていけば、パンフォーカスに近い絵も撮れる。つまりはフルサイズっぽい立体感の絵作りもできる一方で、M4/3らしい近景から遠景までシャープな撮影も両方できる。

中望遠で解放なら背景はかなりぼかせる
パンフォーカス的な絵も得意

撮影者の意図で色々な撮り方ができるところも、M4/3の面白いところだ。

ツボを押さえた動画撮影アシスト機能

GH6には、普通のカメラにはない、動画撮影者のためのアシスト機能が数多く搭載されている。この中で特に筆者が便利だと思ったものをご紹介したい。

まずは、フォーカスリミッターだ。これはAFの動作範囲を特定範囲だけに限定できる機能だ。深度を浅くした場合、動画ではフォーカスの追従性がシビアに求められるわけだが、あらかじめ被写体との距離がだいたい分かっているなら、AF動作範囲を決め打ちできる。

フォーカスリミッターを組み合わせたハイスピード撮影

顔認識が働いている時ならまずAFが外れることはないのだが、後ろ姿の場合は顔認識が動作せず、フォーカスが後ろに抜けることもある。この動画では、フォーカスリミッターを最短から1m程度に設定しているが、移動ショットにも関わらず後ろ向きからふり向きまで、被写体に対して綺麗に合焦している。あまり何度もテイクを重ねられないような撮影では、こうした「決め打ち」はかなり有効だ。

フォーカスが難しい被写体の場合は、マニュアルフォーカスで追うこともある。この場合、多くのカメラでは録画中はフォーカス補助の拡大表示ができない。しかしGH6は、マニュアルフォーカスでの録画中にも、拡大表示が可能だ。これは本体モニターだけでなく、HDMI出力にも出す事ができる。本体モニターでは小さすぎて見えないという場合には、大きなモニターで確認できる。

動画撮影中でも、マニュアルフォーカスの拡大表示ができる

録画中に拡大すると邪魔だという場合は、設定で拡大しないようにすればいいだけの話である。これまで、やりたくてもそうした機能がなかったわけだが、これが選択できるようになったのは大きい。

強力かつ自然なボディ内手ブレ補正は、動画撮影時には常時ONとなる。手持ち撮影はもちろん、ジンバル撮影時にも自然に揺れを押さえる。さらに電子手ブレ補正も加えれば、ジンバル同様の撮影も可能だ。

動画サンプルは、最初のカットが手持ちでボディ内+電子手ブレ補正を使用している。2カット目は、ジンバルを使い、ボディ内手ブレ補正のみ。3カット目はジンバル+ボディ+電子手ブレ補正だ。

手ブレ補正とジンバルの組み合わせをテスト

電子手ブレ補正は、元々手持ち撮影用に開発されているため、ジンバル使用時にはおかしな動きをするカメラもあるが、GH6の場合は特に支障はないように見える。うっかりOFFにするのを忘れたとしても、問題になることはないだろう。

動画制作者にありがたい機能として、フルサイズのHDMI端子を備え、Rec中でも本体液晶モニターとHDMI出力が同時に使用できる点も挙げられる。加えて液晶モニタを対面に向ければ、液晶モニタ、ビューファインダ、HDMI出力と3系統の同時使用も可能だ。クライアントはHDMIモニタで見てもらい、被写体は液晶モニタで写りを確認、撮影者はビューファインダで見るなど、コンパクトな装備でありながら現場の満足度も高い撮影が可能だ。もちろん動画再生時も、液晶モニタとHDMI同士出力する。

もう一つ見逃せないのが、V-Log/V-Gamut収録時のモニタリングである。昨今は本体モニターやビューファインダにLUTを当てて、SDR色域(ITU-R BT.709)でモニタリングできる機能を備えるものも多いが、GH6ではさらに、パナソニックから提供されている.cube形式のLUTを4種類、本体内にロードして使用できるようになっている。

メモリーカードからLUTを4つ本体にロードできる

例えば現場立ち会いのクライアントに対して、最終的な仕上がりに近いイメージをHDMIモニターで確認してもらうこともできるようになる。あらかじめSDカードなどにLUTファイルを一通り保存しておけば、ロードして入れ替えることで、4種類以上のLUTが使えることになる。

動画カメラの頂点へ立つ

GH6の魅力は、S1H相当の絵を、半分~1/3の価格で手に入れられるというところである。

さらに、ハイスピード撮影については、フルサイズでは実現できなかった領域の映像が手に入るのも魅力だ。加えて強力な放熱機構により、5.7Kといった高解像度の撮影も、時間無制限で長回しできる安定性を誇る。

もちろん静止画性能もハイエンドなのは当然として、なにより動画撮影者にありがたい工夫が、数多く搭載されている点は見逃せない。最小限のアクセサリで、多くの現場や利用シーンに対応できるよう、これまでのデジタルカメラにはなかった視点の改良点がある。

フルサイズには、広角でもちゃんとボケるという強みがあり、そこに魅力があるのも事実だ。特にS5はGH6とほぼボディサイズが同じ、価格も近いということで、迷う気持ちはよくわかる。

ただGH6は、AFの良さ、深度表現の自由さ、高ダイナミックレンジで、パッとカメラを向けただけでいい絵になるという強さがある。画質、使い勝手だけでなく、1台で数多くのフォーマットに対応する柔軟性の高さも、“動画フラッグシップ”たるゆえんでもある。

動画のプロだけでなく、YouTuberやVlogger、あるいは企業PRのような業務で映像に関わる人なら、これからの動画標準機として、ぜひとも押さえておきたいカメラだ。