小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1132回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

プロ向け機能を凝縮、フラッグシップ動画カメラ「LUMIX GH7」

7月26日発売の「GH7」とキットレンズ「ES12060」

あのフラッグシップが帰ってきた

ミラーレスのデジタル一眼カメラシステムの最初は、2008年のパナソニック LUMIX「DMC-G1」であった。3色のカラーバリエーションを備えており、「女流一眼」といったコピーにもあるように、一眼レフでは重すぎる女性がターゲットだった。

そこから一転、GHシリーズの登場で動画カメラとしての認知が高まっていった。最初に注目されたのは2010年の「GH2」あたりからだと思うが、2014年の「GH4」ではいち早く4K撮影に対応し、放送用システムに対応できる拡張ユニットも発売されるなど、本格的な動画カメラとしての道を歩み始めた。

GH4の衝撃から10年、今年7月26日に、新フラッグシップとして「GH7」が登場する。静止画用には「G9 Pro II」がフラッグシップだが、動画カメラとしてはこのGH7がフラッグシップという位置づけだ。店頭予想価格はボディのみで274,200円前後、「ES12060」が付属するレンズキット「DC-GH7L」が347,500円前後となっている。

レンズ交換式デジタルカメラとしては世界初となる32bit Float録音にも対応し、新たにProRes RAWの内部記録にも対応するなど、プロ用の機能を満載した作りとなっている。

今回は発売前にGH7の試作機をお借りすることができた。前作GH6から2年ぶりの新作となるGH7を、早速試してみよう。

ボディはGH6とほぼ同じ

2年前のGH6は、さらにその前の「GH5 II」からはボディを一新し、モニターとボディの間に空冷機構を設けるなど大幅な放熱設計が行なわれた。今回のGH7のボディは、仕様表から外寸を比較しても全く同じで、写真で比べても同じに見える。良くできた設計だったので今回もそのまま採用したという事だろう。

ボディの作りはGH6と同じ

センサーは総画素数約2,650万画素の裏面照射型CMOS。以前はLive MOSという表記だったが、今回ははっきり裏面照射型(BSI)と書かれている。画素数などもGH6とは少し違うので、センサーは別物と考えていいだろう。

記録系では、従来もProRes 422/422HQで撮影できたが、GH7ではProRes RAW/RAW HQにも対応した。ただし記録にはCFexpress Type BカードかUSB接続のSSDが必要で、SDカードには記録できない。これまではProRes 422HQの1.9Gbpsが最高だったが、RAW HQの最高ビットレートは4.2Gbpsにものぼる。

本体右にCFexpressとSDカードのデュアルスロット
ProRes RAW HQで撮影可能な最高画質設定

【ProRes RAW/RAW HQによる撮影フォーマット】

解像度フレームレートビットレート
5,728×3,024
(5.7K)
29.97p4.2Gbps(ProRes RAW HQ)
2.8Gbps(ProRes RAW)
23.98p3.3Gbps(ProRes RAW HQ)
2.2Gbps(ProRes RAW)
4,096×2,160
(C4K)
59.94p4.2Gbps(ProRes RAW HQ)
2.8Gbps(ProRes RAW)
29.97p2.1Gbps(ProRes RAW HQ)
1.4Gbps(ProRes RAW)
23.98p1.7Gbps(ProRes RAW HQ)
1.1Gbps(ProRes RAW)

解像度を見てわかるように、ProRes RAW/RAW HQでサポートしているのはアスペクト比17:9のみで、UHD 4Kの16:9では撮影できない。16:9にしたければ横を切ってしまえばいいのだが、基本的にはシネマ撮影用途にフォーカスした機能と言える。

もちろんMP4やMOVなど従来フォーマットも対応しており、動画フォーマット数はMP4で8、MOVで67、ProResで26と、トータルで録画モードが101個もあるというバケモノみたいなカメラになっている。

画質設定の右下に「絞り込み」という機能がある。フレームレートや圧縮形式を固定すると、それに対応するフォーマットだけに絞り込める機能だが、圧縮形式で選択できるのはProRes系だけだ。膨大なフォーマット数を有するだけに、圧縮形式はMP4やMOVも諸条件で絞り込みできるべきだろう。

HDMI出力は、4:2:2 10bitほか、RAW出力にも対応する。ハイフレームレートではC4K/4K 120pの出力も可能で、外部レコーダを使って別フォーマットのRAWで記録できる。

HDMIからRAWデータの出力も可能に

LUT関係の機能としては、スマートフォンアプリ「LUMIX Lab」を使ってサイトからLUTをダウンロードし、カメラへ転送できる機能をサポートした。LUTの状態をそのまま記録できるリアルタイムLUTや、2種類のLUTを重ねがけできる「MY PHOTO STYLE」など、フォトスタイルの機能が拡張されている。

スマホからLUTを選んでカメラに転送できる「LUMIX Lab」

こうしたLUT関係の実装は、先に発売されたフルサイズ機「DC-S9」と同じだ。6月のレビューでこのあたりは詳しくテストしているので、参考にして頂きたい。

さらに別売のアップグレードソフトウェアキーを購入すると、ARRI LogC3でも記録できる。ARRIのシネマカメラと組み合わせて使えるほか、GH7にはLUTをあてた状態をそのまま記録できる「リアルタイムLUT」機能があるので、現場でLUTをあてた状態を撮影、遠隔地にいる別スタッフと共有・確認といった使い方もできる。

音声収録としてのポイントは、32bitフロート録音に対応した事だろう。ただしカメラ単体で使えるわけではなく、別途新開発されたXLRマイクロホンアダプタ「DMW-XLR2」が必要となる。価格は55,400円前後となっている。

別売のXLRマイクロホンアダプタ「DMW-XLR2」
外部マイクを接続したところ
アダプタを使えば最高96kHz/32bitフロート録音ができる

32bitフロート録音はここ数年、Zoomのポータブルレコーダが採用したことで、集音業界では急速に普及し始めている技術だ。従来のリニア録音では手動でレベル調整が必要で、場合によってはリミッタなどで頭を抑える必要があったが、32bitフロート録音にはそもそもレベル調整という概念がなく、小音量で収録されていても分解能が高いことから、編集でレベルを持ち上げても解像度を維持できるという特徴がある。

32bitフロート録音時には録音レベル設定が無効になる

集音音声は動画ファイルの音声トラックに記録されるので、編集時は32bitフロート対応の編集ツールが必要になる。

大きくフィーチャーされた「リアルタイムLUT」

では実際に撮影してみる。使用レンズは、キットレンズの「ES12060」で、35mm換算24mm~120mm/F2.8~4.0だ。

今回はProRos RAWに対応したところがポイントだが、あいにく手元にはCFexpress Type Bカードがなかったので、手持ちのSSDをUSB-Cで接続して撮影した。

使用したのは「SanDisk Extreme 900」で、2017年頃のモデルである。今回は手元に空いているSSDがこれしかなかっただけで、特に屋外使用が想定されている製品ではない。現在は屋外撮影を想定したSSDが多く出ているので、そうしたものを使用して欲しい。

今回撮影に使用した「SanDisk Extreme 900」

このSSDで5,728×3,024(5.7K)で撮影できることを確認した。なお記録形式をProRes RAW/RAW HQにすると、フォトスタイルは「V-log」に固定される。V-logはいわゆるVideologのことではなく、パナソニックオリジナルのlogフォーマットの事である。なお今回のサンプルは、LUT関係の機能をテストしたかったので、このSSDを使って撮影モードはC4K/30p/ProRes 422 HQで撮影している。

今回テストしたかったのは、プロキシのリアルタイムLUT収録機能だ。GH7では編集用の軽い記録フォーマットとしてプロキシファイルの同時撮影機能を実装しているが、いわゆる本線はLUTなしで記録し、プロキシのみリアルタイムLUTで記録するという、変則的な収録が可能になっている。

プロキシのみリアルタイムLUTの収録ができる

この機能を使えば、オフライン編集はLUTが適応されたプロキシ映像で確認しながら作業でき、それを元に本線の映像に差し替えて、改めてLUTをあてながらカラーグレーディングできる。

オフラインでLUTが当たった映像を見る必要があるのかと思われるかもしれないが、例えば高コントラスト系のLUTを使いたい場合、LUTによって見えやすい部分と見えなくなる部分が出てくる。編集時にそれがわかれば、そのカットを使う、使わないの判断も変わってくる。

この設定は、若干ややこしい。まずフォトスタイルで「リアルタイムLUT」を選択し、使いたいLUTを選んでおく。今回は「Retrostyle709」を選択している。この状態で、LUTを「OFF」に設定する。そうしないと、本線映像にもLUTが適用されてしまうからだ。加えてプロキシ記録設定のところで、「リアルタイムLUT(プロキシ)」を選択する。

リアルタイムLUTでLUTは選ぶが、OFFにする

これで撮影すると、本線映像はLUTなし(スタンダードと同じ)、プロキシには「Retrostyle709」が適用された状態で記録できる。サンプルは、リアルタイムLUTなしの本線C4K映像と、リアルタイムLUTありのプロキシ映像の結果を掲載しておく。

「Retrostyle709」が適用された状態のプロキシ映像
LUTなしの本線映像

今回は外部SSDに収録したわけだが、この収録スタイルだとカメラバッテリーを使ってSSDを駆動することになるので、バッテリーの減りが早い。今回は20秒撮影して2分移動、みたいな間隔で小1時間撮影したが、それだけでもうバッテリーが空になってしまった。

付属バッテリーチャージャーはUSB-Cで給電できるようになっているが、これはバッテリーが2個あれば、交互にモバイルバッテリーで充電しつつ撮影できますよ、という意味もあるのかもしれない。そういうところもよく考えられている。

付属のバッテリーチャージャーはUSB-Cで充電できるようになっている

また本線映像でのリアルタイムLUTもテストしてみた。LUTをカラーフィルターのように使用できるわけだが、従来のフォトスタイルと違い、メーカーお仕着せではなく世の中にある多くのLUTを試せるので、多彩な表現がテストできる。

カメラ内に多くのLUTが収蔵できる
リアルタイムLUTで撮影 LUMIX GH7

今回はセンサーに裏面照射が明記されたことで、夜間撮影もテストした。絞り解放、シャッタースピード1/30固定で、ISO感度は100から順に上げていった。後半のカットはISO 6400で撮影している。

動画撮影時の感度は最高で12800と、裏面照射の割にはそれほど欲張ってはいないが、暗部には目立ったノイズもなく、締まった黒が表現できている。また暗闇の点光源はカメラによってはフォーカスがふらつくが、本機ではそうした動きもなく、安定している。

夜間撮影のサンプル LUMIX GH7

充実の基本性能

基本性能についても、一応これまで同様にテストしてみた。手ブレ補正はキットレンズが光学手ブレ補正対応で、これだけでもワイド側ならかなり自然に補正できる。これに電子補正を加えることで、強力な補正効果が得られる。

手ブレ補正の実装はDC-S9と同じ

電子補正強では画角を狭くしてさらに補正範囲を広げているが、標準でもかなり補正力があり、今回のテストではそれほど変わらない結果となっている。

手ブレ補正のテスト LUMIX GH7

AFに関しては、人物、動物、車、バイク、列車、飛行機と具体的な被写体認識機能を搭載している。人物認識では、瞳・顔・体認識と、瞳・顔のみの認識が使い分けられる。

人物認識では2種類の認識方法が選択できる

ただしサンプルの2カット目に見られるように、人物認識では被写体が真ん中寄りに居ないと認識されないということも起こる。ほんの少しの差なのだが、なんだかAFに構図が支配されているような気がしてしまう。もう少し認識幅が広くてもいいのではないか。

AF性能のチェック

動物の認識については、瞳・体と体のみを使い分けることができる。ただ瞳・体認識でも瞳が認識できない場合は体認識に自動的に遷移するので、せわしない子猫でもうまく追従できている。複数の個体がいる場合は、体のみを使用する。

バリアブルフレームレート撮影はMOVでしか撮影できないが、4K解像度で120fps撮影できるのは強い。このあたりは以前からマイクロフォーサーズが得意としてきた分野である。ただしバリアブルフレームレート撮影時にはマニュアルフォーカスになってしまうので、フォーカスフォローが必要になる。

4K/120pで撮影

音声の32bitフロート記録もテストしてみた。このモードでは入力ゲインの設定がなくなるのはすでに述べたところだが、同時に風音低減やリミッターの設定も無効になる。その代わりXLRマイクアダプタのほうで、スイッチで設定できる。この設定を忘れないようにしたい。

前作GH6からボディ軍艦部にマイクボタンが新設されているので、これを押すと音声関係のステータスが一目でわかるのは便利だ。

フロート録音時のステータス
リニアCPM録音時のステータス

内蔵マイクと比較してみたが、集音してみたら元々32bitフロート録音のほうがレベルが小さかった。今回は編集ソフトで内蔵マイクと同じぐらいのレベルに持ち上げているが、聴き比べても増幅したことはまずわからないと思う。写真から動画の世界に入った人は録音設定が苦手な人も多いと思うが、音で失敗したという経験がある人は、失敗が少ない32bitフロートに注目して欲しい。

内蔵マイク24bitリニアと外部マイク32bitフロートの比較

総論

動画カメラとしての立ち位置としては、他に追従を許さないレベルでの完成度を誇るGHシリーズだが、GH7では同じ動画でもビデオというよりは、シネマ方向への親和性を強く打ち出してきた。ライブカメラというより、多彩なファイル記録を充実させるという方向である。

従来ハイエンドコーデックはHDMI出力を外部レコーダでキャプチャするのがセオリーだったが、CFexpressの搭載と外部SSDを繋ぐ事で、ビットレートの高いコーデックも収録できるようになった。

6月のS9を触っても感じたことだが、スマホアプリLUMIX Labとの連携ができるようになったことで、LUTをカメラ内に取り込むことが簡単になった。現場で思いついて入れる事もできるというのも大きい。

さらにはそのLUTを適用した状態で記録もできることで、現場で絵を作ってしまうという方向を強化したのが、今年のLUMIXの流れということなのだろう。

マイクロフォーサーズはレンズも廉価ながらおもしろいものが沢山揃っており、フルサイズじゃないからこそ気軽にできる遊びの部分もかなり大きい。もちろんハイエンド機なので、カメラ自体はそれほど安いものではないが、プロレベルからすれば自前のシネマカメラが持てて、色々テストできる環境があるというのは、今後の映像表現に与える影響は相当大きい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。