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B&Wの高音質が日常BGMに、「Zeppelin Pro Edition」と贅沢な時間を過す

Zeppelin Pro EditionのSolar Gold

ぼくのリスニングルームには、15インチ・ウーファーを搭載した大型スピーカーJBL K2S9900が鎮座している。ぼくはこのL/Rスピーカーを結んだ線を底辺とする正三角形の頂点、すなわち“ステレオのスイートスポット”にチェアを置いて、アナログレコードやハイレゾファイルなどを用いて日々音楽と格闘する感じで「シリアス・リスニング」を実践している。そう、音楽をBGMとして聴き流す行為から遠く離れたところでぼくのミュージック・ライフは成立しているのだ。

JBL K2S9900

そんなオーディオマニアのぼくにとって、B&Wから発売されていた一体型ワイヤレス・オーディオシステム「Zeppelin」は興味の埒外だった。そんな男にAV Watch編集部から「Zeppelinの進化モデル、Pro Edition(136,400円)が発売されたので、一度使ってみてもらってオーディオマニアの視点から原稿を書いてください」という依頼が。

「なんか気が進まないなあ……」と思いつつ到着したZeppelin Pro Editionをハコから取り出し、数日間一緒に暮らしてみたところ、返却日には「コレもう返さなきゃいけないのか……、欲しいな、買っちゃおうかな」と思うようになったのだから人間なんてわからないもの。では、本機の魅力について述べてみよう。

B&Wのスピーカー技術を詰め込んだ一体型オーディオ

横幅65cm、飛行船(Zeppelin)を想起させる細長い楕円形の本機は、2007年に登場したオリジナル・モデルと外観はほとんど変わらない。金属製キャビネットで手に持つとずっしりと重い(6.6kg)。仕上げはSpace GreyとSolar Goldの2色あって、我が家に届いたのはSolar Gold。とても渋くておしゃれな色調。本体下部にはイルミネーションが仕込まれていて、その色合いと明るさを変えることができる。

渋くておしゃれな色調のZeppelin Pro Edition Solar Gold
下面にアンビエントライトを備えており、Bowers & Wilkins Musicアプリから調光や色の変更ができる

機能面で驚かされるのは、外部入力端子がないこと。スマホやタブレットと連携させて音楽ストリーミングサービスを楽しむことに特化させたワイヤレス・ステレオシステムなのである。

入力端子は無いので、背面のデザインもシンプル
上部に操作ボタンがある

従来機「Zeppelin」と、新機種Pro Editionの最大の違いは、採用されたドライバーにある。

通常は外れない前面カバーを外したところ

本機のユニット構成は、中央にL/R共通のウーファーがあり、その左右にそれぞれ中域を受け持つミッドレンジドライバーと高音専用のツイーターが配置されている。この25mmチタン・ドームツイーターと90mmのグラスファイバー製ミッドレンジドライバーが、B&Wの自社開発品に変更されている。従来機は外部のサプライヤー品だった。

25mmチタンドーム・ツイーターは、B&Wの600 S3シリーズで採用しているものと同じユニット
90mmのFSTミッドレンジ・ドライバーは、B&Wでお馴染みのコンティニアム・コーンと同じ製造手法で作られている

従来機も借用できたので、日本でのサービスが始まったばかりのQobuzやSpotify Connectを利用して、本機Pro Editionと実際に聴き比べてみた。

左からZeppelin Pro Edition、従来機のZeppelin。サイズや形状は同じだ

音質の違いは明らかで、本機のほうが低音から高音までエネルギーバランスがみごとに揃っていて、中域から高域にかけて、いっそう音がクリアでヌケが良い。なるほどドライバーユニットの刷新によって、驚くべき高音質化が実現されていることがわかった。

一体型のワイヤレススピーカーではハイレゾファイルとロッシー音源の音質の違いなんてわからないんじゃ? と思っていたけれど、そんなこともなく、Qobuzのハイレゾ音源を聴くと音楽がいっそう伸びやかにしなやかに描写され、その魅力をしっかりと実感することができた。

シリアス・リスニングとは異なる、ぜいたくな時間

3日間ほど、Zepplin Pro Editionで音楽を流しっ放しにして生活を共にしてみたが、自分なりにさまざまな発見があった。

原稿仕事の手を休めて簡単な料理をつくったり、写真集や画集をめくったりするときに音量を抑えて本機で音楽を流すことで、気持ちがリラックスし、とてもぜいたくな時間が流れているという実感が得られるのだ。

L/Rスピーカーをステレオ・セッティングして聴く場合は、どうしても音楽と真剣に対峙する気持ちになってリラックスできないので、ぼくの部屋でBGM的に音楽を流すことはなかったのだが、なるほど音楽とのこんな付き合い方もいいなぁと改めて実感、“Quality way of life”なんてことばが脳裏に浮かんだ。

しかもこの飛行船、小音量で再生しても音楽の姿かたちがくっきりと浮き彫りになり、その魅力がきちんと伝わってくるのである。B&Wというオーディオメーカーの実力の高さがこんなところにもうかがえる。

ウーファー共用で、中高域のL/R用ドライバーを一つのキャビネットに納めたシステムなので、ステレオフォニックな音の広がりは得にくいが、ある程度距離を取って弦楽四重奏やピアノ・ソナタなどを再生すると、ノンPAの小さなホールで聴いているような感覚が得られるのも新鮮な驚きだった。たしかに小編成で聴くナマのクラシックってこんな感じだよな、と。

それからもう一つ、この飛行船、思いのほか設置場所で音が変わる。

しっかりしたレコードラックの上に置くと、さらに音が良くなる

フラッシュ構造のボコボコした頼りないテーブルに置いた場合と堅固な合板棚板を使ったレコードラックの上では音が全然違うのである。後者の場合は低音が締まりより澄んだ音になり、音楽の細部がいっそうクリアーに聞こえるのである。お買い求めになった方はぜひしっかりした家具の上に置いて使われることをお勧めしたい。

一般家庭のリビングルームから「ミニコンポ」が駆逐されて久しい。音楽好きには小型のアクティブスピーカーをステレオ配置して「サウンドステージ」を賞味するようなミュージック・ライフを送ってほしいという気持ちはあるけれど、設置が難しいという方も当然おられるだろう。そういう方にこそこの音の良い「飛行船」をお勧めしたいと思う。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。