レビュー

超ピュアサウンド、B&Wスマートスピーカー「Zeppelin」の進化に驚く

第4世代「Zeppelin」

スマホの普及で、すっかり身近なものになったワイヤレススピーカー。以前は手軽なものが多く、“音が出れば良い”的存在だったが、音楽配信サービスの普及により、スマホが音楽ソースとして重要な役割を担うようになったことで“高音質なワイヤレススピーカー”を求める声が高まっている。

そんな中でも注目なのが、ピュアオーディオファンで知らない人はいないほど、絶大な評価を得ているイギリスの名門スピーカーブランドBowers & Wilkins(B&W)。新しいリスニングスタイルの提案にも積極的で、ピュア用スピーカー開発で培ったノウハウと最新技術を融合したワイヤレススピーカーも手掛けている。その代表例が、流線型のデザインが目を引く「Zeppelin」(ツェッペリン)だ。歴史あるシリーズで、今春に第4世代となる最新モデルが登場した。

“その時の最先端”を取り入れて進化するZeppelin

初代Zeppelin

Zeppelinという製品名と形状は、ドイツのツェッペリン飛行船に由来する。初代が発売されたのは2007年(国内では2008年)。iPhone/iPod用ドックを備えたスピーカーだ。当時のiPodスピーカーは、その多くが“iPodのアクセサリー”といった位置づけで、サウンドは二の次。そんな中で登場したZeppelinは、ドックスピーカーでも迫力のあるサウンドを楽しめるという、新しい価値観を市場に持ち込んだ革命児であった。

Zeppelin Air

2代目の「Zeppelin Air」は、2011年に登場。iPhone/iPod用ドックを備えた点は同じだが、新たにAirPlayに対応。ワイヤレスで便利かつ気軽に良音と親しむという新境地を開いた。2015年には、3代目となる「Zeppelin Wireless」がリリースされる。AirPlayに加えて、BluetoothとSpotify Connectをサポートし、ワイヤレス再生の幅を格段に広げた。高音質かつ便利なのが評価され、世界的なヒットモデルとなった。

歴代Zeppelinが飛行船型のデザインを用いたのは、単に“デザインありき”だったからではなく、単一筐体のステレオスピーカーとしての音質を追求し、この形状が最適だったためだという。4代目でもその考えは変わらない。

第4世代「Zeppelin」

4代目となる本機「Zeppelin」(115,500円)は、3月に日本で発売された。ワイヤレス再生はさらに多機能になり、定額制ストリーミングは従来からサポートするSpotify Connectに加えて、Amazon Musicにも対応。各サービスのアプリから本機に音楽をキャストできるようになった。さらに、「Bowers & Wilkins Music アプリ」からDeezerにアクセスでき、合計3つのサブスクサービスを利用できる。

さらに、AirPlay2やSoundCloud、TuneInなどもサポート。Bluetoothは5.0に準拠。コ―デックはSBC、AACに加えて、最大48kHz/24bitまで伝送できるaptX Adaptiveにも対応した。もう一つ、Alexa Built-inとなり、スマートスピーカーに進化を遂げたのも大きなポイント。Zeppelinに「アレクサ」と話しかけて、選曲や再生といったコントロールが可能となったのだ。

4代目はB&Wの「原音再生」を追求

レコードラックの天板に置いたところ

Zeppelinの外形寸法は幅650×奥行194×高さ210mm、重量は6.5kg。数値上は大きく感じられるかもしれないが、飛行船型の形状だからか圧迫感は皆無。本棚の天板やサイドボードに置くとサイズ感はちょうどよく、どの角度から見ても流線型が映える。

横から見たところ

FEA(有限要素解析)によって設計したという堅牢なエンクロージャーの中央に、先代Zeppelin Wirelessのユニットを改良した直径150mmの大口径サブウーファーを搭載。再生時にサブウーファーの振動がエンクロージャーに伝わらないよう入念に最適化したことで、明瞭かつ反応の速い低音再生を実現したという。

左右それぞれに直径90mmのミッドレンジユニットと25mmのツイーターを備える。ミッドレンジには、独自のFST(Fixed Suspension Transducer)技術を採用。一般的なロールエッジではなく、柔軟なリングで支えるエッジレス機構としたことで、振動板が動く際にエッジから伝わるエネルギー(いわゆる反動)がなく高レスポンスなのが特長だ。なお、FSTは800シリーズをはじめとするB&Wの全てのトールボーイスピーカー上級機に使われている。

ツイーターは、2020年に発売されて人気となっている「600 Series Anniversary Edition」のために開発されたものと同じユニットを搭載。エンクロージャーからデカップリングされて取り付けられており、サブウーファーの振動がエンクロージャーを経由して伝わり、音が濁らないよう工夫されている。

内部のユニット配置

なお、各ドライブユニットは専用のアンプモジュールで駆動する。出力はミッドレンジ40W×2、ツイーター40W×2、サブウーファー80Wの合計240W。このうち、サブウーファーの駆動にはブリッジ接続されたアンプモジュールを用いており、クリーンかつパワフルな低音再生を実現したという。

B&Wは「何も足さない何もひかない」をコンセプトに、「原音再生」を追求している。そのサウンドは高く評価されており、世界的に有名なレコーディングスタジオ「アビー・ロード・スタジオ」のモニタースピーカーに、B&Wのハイエンドモデルである800シリーズが使われているのは有名な話だ。

この800シリーズのアコースティックチームが、4代目Zeppelinの音作りも担当しているというから、各所にハイエンドスピーカーのノウハウが惜しげも無く投入されているのも納得だ。

素直かつ輪郭が明瞭、聴きやすいリッチなサウンド

レコードラックの上に設置して、Zeppelinをセッティングする。前面のファブリックは高品質で肌理が細かい。遠目に見ても質感がわかるので、置いただけで部屋の雰囲気が変わる。本機のインターフェースはWi-Fi(2.4GHz)とBluetoothのみ。背面にUSB-C端子があるが、これはメンテナンス用。前モデルが搭載していたAUXや有線LAN端子もない。つまり、スマホにインストールしたBowers & Wilkins Musicアプリ(iOS/Android)から設定をする必要がある。

前面のファブリックは高品質で肌理が細かい

といっても、接続は至ってカンタン。Wi-Fi環境のある部屋でZeppelinに電源ケーブルを接続し、AndroidスマホのPixel 6にインストールしておいた「Bowers & Wilkins Musicアプリ」を起動。最初にアカウントを作成したら、あとは画面の指示に従っていくだけ。何をすればよいかが画面に表示されるので、迷うことなく作業は完了する。

背面
電源ケーブルは着脱可能
アプリから設定中

このアプリから、配信サービスの選択と連携、選曲や再生、前面LEDの調光などの設定が可能。特に、前面LEDは置く高さや位置によってかなり明るく感じられる。今回は周囲の環境に合わせて抑え目にした。

前面LEDの明るさも調整できる

対応する配信サービスから、Deezerを選びアカウントでログイン。本機は最大96kHz/24bitでの再生に対応するが、Deezerの仕様上44.1kHz/16bitロスレスでの再生となる。

対応する配信サービスから、Deezerを選びアカウントでログイン

まずは本機Zeppelinにちなんで、英国の伝説的ロックバンド、レッド・ツェッペリンのアルバム「Celebration Day」から「Good Times Bad Times」を再生する。2007年にロンドンで行なわれた再結成コンサートを収録したライブ盤なのだが、これが本機の実力を試すのにちょうどよかった。曲が始まる前にフェードインしてくる歓声が聴こえた瞬間、まるでライブ会場で音を浴びているように部屋が音で満たされたのだ。

本機は音のスイートスポットが広く、大げさでもなんでもなく、部屋の中央にいても、端にいても聴こえ方が大きく変わらない。本機に搭載するドライブユニットは、いずれもマウント部の周囲が音の放射を妨げないような形状とし、サウンドの拡散性が向上したそうだが、その効果は想像以上だ。

前モデルでもサウンドは低域から高域までクリアーで素直だったが、本機はその遙か上をいく。最も違いを感じたのが音の粒立ちの良さ。濃密でありながら、立ち上がりが速いのだ。シンバルやボーカルの高域は音の輪郭が明瞭で曖昧さが皆無。音の消え際までしっかりと聴こえる。ディストーションの効いたギターはエネルギーに満ちたリッチなサウンドで、「部屋の端まで減衰していないのでは?」と思うほど浸透力がある。この点も、音が部屋中に拡がる効果につながっていそうだ。

低域は密度が濃く重量感たっぷり。一般的にこの手の一体型スピーカーでは、低域や高域を強調しているだけで音が平板になりやすいが、本機は音域を問わずすべての音が立体的。単に情報量が多いだけでなく、ミュージシャンやエンジニアが音源に込めた情報をそのまま引き出し、再現してくれているからこそ成立するサウンドだ。

Aimerの「残響散歌」は音にキレがありで疾走感に富んでいる。ベースやドラムの低域とコーラスが厚みのあるサウンドで迫ってくるが、一つひとつの音が明瞭なのでブーミーにならない。ボーカルは質感が素晴らしく、再現力がないと乾いた音に聴こえがちな独特のハスキーボイスが、本機ではやや湿り気を帯び、各パートで繊細に表情が移り変わる。

Amazon Musicで再生しているところ

Amazon Musicでも聴いてみる。切替えはシンプルで、Amazon MusicアプリのキャスティングアイコンからZeppelinを選択するだけ。残念ながら、再生時の音質がアプリ上からは分からなかったが「Good Times Bad Times」と「残響散歌」を聴いた感覚では、Deezerでの再生とほぼ変わらない印象だ。yamaの「MoonWalker」は、ボーカルの声が一段前に位置し、葛藤を抱えた人へのメッセージを込めたという歌詞がスッと心に染みてくる。ロック調の曲なので、ついノリノリで聴きがちだが世界観は対極にあり、再生力がないとこの相反する世界を描ききれない。

他にも、ジャズやクラシックも聴いてみたが、いずれも音の輪郭が明瞭で、空気感まで表現してくれる。ボリュームを小さくしても音が破綻しないので、BGM再生にも適している。

アレクサの音声操作が、娘達に大人気

Alexaの設定画面

続いて、Alexaの設定をしていこう。アカウントの紐付けは、Bowers & Wilkins MusicアプリからでもAlexaアプリからでもOK。設定が完了して、「アレクサ」と話しかければ、本体前面のロゴ付近が青く光り、音声操作を受け付ける。背面の上部の丸いボタンを押しても、同様に青く光り音声操作が可能だ。マイクの性能がよく、多少離れた位置でも問題なく声で操作できた。

「アレクサ」と話しかけると、本体前面のロゴ付近が青く光り、音声操作を受け付ける
背面上部に操作ボタン。丸いボタンを押しても、音声操作を受け付けてくれる

これが、とても便利。筆者には中学生と小学生の娘がいるので、試しに使ってもらったところ、この二人がZeppelinにどハマりした。理由を聞くと、「普段使っているEchoデバイスと同じように声で操作できて、高音質を存分に楽しめるから」とのこと。特に、リビングとつながるキッチン、和室のどこにいてもいい音を楽しめる点を特に気に入ったようで、テレビを見る時間がほとんどなくなり、家にいる間はZeppelinを常に聴いている状態になってしまった。

AirPlay2やBluetoothも試して、音質が申し分ないことは分かったが、曲を頻繁に切替えることもありスマホが手放せない。結局、最後は何も持たずに済むAlexaでの操作に戻っていた。

リビングや寝室に本格的なオーディオを置くのに十分なスペースがなくても、Zeppelinが1台あれば、本格的なB&Wサウンドをカジュアルに楽しめる。一見奇抜に思えるデザインも、部屋に置くと洗練されていることが分かる。インテリアとして映えるのだ。

今後、アップデートで複数のZeppelinによるマルチルーム再生に対応するほか、B&Wのワイヤレスオーディオシステム「Formationシリーズ」と組み合わせたマルチルーム・システムの構築も可能になるという。Zeppelinは使うほどに、音楽と聞き手の距離を近づけてくれる、希有なアイテム。ぜひ一度、そのサウンドを味わってみてほしい。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

草野 晃輔

本業はHR系専門サイトの制作マネージャー。その傍らで、過去にPC誌の編集記者、オーディオ&ビジュアル雑誌&Webの編集部で培った経験を活かしてライター活動も行なう。ヘッドフォン、イヤフォン、スマホといったガジェット系から、PCオーディオ、ピュアオーディオ、ビジュアル系機器までデジタル、アナログ問わず幅広くフォローする。自宅ではもっぱらアナログレコード派。最近は、アナログ盤でアニソン、ゲームソングを聴くのが楽しみ。