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「こういうのでいいんだよ」小型で高音質、ハイコスパなUSB DAC/HPアンプ、SHANLING「EH1」を使い倒す

SHANLINGのUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「EH1」

ポータブルオーディオ界隈で人気のブランドはいくつかあるが、超小型プレーヤー「M0」に心を掴まれて以来、個人的に注目しているのはSHANLINGだ。

DAPやイヤフォンなど、ポータブルオーディオ製品で次々とヒットを飛ばしているSHANLINGだが、最近では据え置き機にも力を入れている。その最新モデルの機能やサイズ感がめちゃくちゃ好みで気になっている。それがUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「EH1」だ。

音はどうなんだろうかと、気になっていたら編集部から「聴いてみないか」のオファーが。ありがたく試させてもらうことにした。

ハイファイオーディオブランドとしてのSHANLING

日本ではSHANLINGに対して、ポータブルオーディオブランドというイメージが根強いだろう。実際に同分野で人気なのは間違いないが、実はブランドの設立は1988年と古く、SHANLINGのポータブルオーディオ参入は2014年のこと。

2014年に発売されたSHANLING初のDAP「M3」

もともと、主力製品は真空管アンプや、ブランドが世界に知られるきっかけとなったCDプレーヤー「CD-T100」など、むしろ据え置き機を展開するピュアオーディオブランドとしての歩みが長いのだ。

4基の真空管を搭載したCDプレーヤー「CD-T100」

日本では2021年登場の「EM5」を皮切りに、縦置きにも対応するCDプレーヤー「EC Smart」やブックシェルフスピーカー「JET1」など、コンパクトなデスクトップオーディオ製品を一気に拡充。その幅広いラインナップと開発能力を考えれば、SHANLINGのことはハイファイオーディオブランドと呼ぶのがしっくりくる。

36年以上の歴史のなかでオーディオ機器へのノウハウを培い、現在では全世界29カ国以上の市場に製品を展開するブランドがSHANLINGだ

シンプルな機能、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ

ブランドの振り返りはこれくらいにして、EH1に触れていこう。

モデル名から推察するに、EH1はワイヤレス機能も備えたUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「EH3」の弟分だろう。機能を絞ったことで、34,650円という価格になっている。サイズ感が近いiFi audioの「ZEN DAC 3」が実売4万円ほどなので、それよりも手が届きやすいイメージだ。

EH1の筐体を前から見ると、わずかに上下が湾曲していることがわかる

まずパッと見でわかるとおり、デザインはシンプルだ。曲線を取り入れたアルミニウム製ボディの前面には、電源ボタンとHigh/Lowのゲイン切り替えボタン。3つあるノブのうち一番大きなノブはボリュームで、残りはBASS(±6dB)、TREBLE(±10dB)のトーンコントロールに対応している。ヘッドフォン出力は4.4mmバランスと6.35mmシングルの2系統だ。

ヘッドフォン出力は2系統を搭載。本体には3.5mm to 6.35mmの変換プラグが付属する

背面はUSB-C入力のほか、ライン/プリアウトを切り替え可能なRCAアナログ出力、SPDIF同軸デジタル出力の2系統、そして給電用のDC端子を備えるのみ。

RCAアナログ出力は、EH1でボリュームを可変できるプリアウト出力と、フルボリュームで出力するライン出力を選択できる

対応スペックを見ると、DACチップにはCirrus Logic「CD43198」を採用しており、PCM 768kHz/32bit、DSD 512までのハイレゾ音源をサポートする。ディスプレイは非搭載だが、入力信号のスペックはボリュームノブ周縁のインジケーターの色で確認できる。

サンプリングレートはボリュームノブ周りのインジケーターが何色に光るかで確認できる

ヘッドフォンアンプ回路はSG microのオペアンプ「SGM8262-2」を2基搭載したフルバランス設計で、コンデンサーにSAMYOUNG 47μF×4、Panasonic FC/47μF×8、ELNA SilmicII 47μF×5を分配配置。これにより、ナチュラルで柔らかなサウンドとパワフルな出力を実現したそうだ。

特徴的なのはゲインボタンを長押しすることで、「ゲーミングDACモード」が利用できること。このモードではUSB AUDIO 1.0で動作するため、PlayStation 5やNintendo SwitchとUSB接続してゲームサウンドをレベルアップできる。

USB AUDIO 1.0で動作するゲーミングDACモード時には、インジケーターの色がレッドになる

このように、全体的に機能はストレートで無駄がない。そしてこのシンプルさこそ、筆者がUSB DAC/ヘッドフォンアンプに望むところである。

「あれも、これも」と詰め込まれた多機能モデルは、「どうせなら色々と積んでいた方がいいよね」というある種の“もったいない精神”からつい選んでしまいがちだが、思い返せばその機能をフルで活かした経験はほとんどない。

特にパソコンやスマートフォンをプレーヤーとするデスクトップオーディオにおいては、プレーヤー側で色々と調整できることも多い。そのため受け手であるUSB DAC/ヘッドフォンアンプは何でもできる必要はなく、優れた基本性能があればいいというのが筆者の考えだ。

実際、機能がシンプルな方が使い勝手としては良いものだ。利用しないモードや機能の選択に手間を取られず、スッと音楽再生がスタートできるのは心地よい。

またEH1の156×90×36.5mm(幅×奥行き×高さ)、392.5gというサイズ感は収まりが良く、かつ小さすぎない。あまりに小さく軽いと、ケーブルの重みに負けて本体が引っ張られたり、なかには足が浮いてしまうモデルなどもある。EH1はそういった心配がいらないので設置しやすい。奥行きも短いので、机の上に置きやすいのも良い。

コンパクトな筐体は、限られた机上スペースでも置く場所を作りやすい

なお、USB-C接続時にバスパワー駆動も可能だが、性能をフルで発揮するためには別途電源を取ることが推奨されている。付属の電源ケーブル(DC5V - USB-A)はL字の端子が筐体からはみ出るためちょっと邪魔になるが、接続した方が単純にパワーが上がるので、基本的に電源はつなぐようにしたい。

付属の電源ケーブルはL字型で、横か上に逃がさないといけない

ナチュラル&スームズなサウンドはボーカル曲との相性が最高

いよいよサウンドを聴いていこう。今回はMacbookとUSB接続し、SHANLINGのヘッドフォン「HW600」を用いてハイレゾ楽曲を中心に確認した。

試聴にはヘッドフォン「HW600」を組み合わせた

HW600について紹介しておくと、110×86mmの大口径平面ダイヤフラムを採用したSHANLING初のフルサイズヘッドフォンだ。ネオジウム棒磁石を両面に7本ずつ均等に並列配置した最大1.8Tの磁気回路を構成することで、高効率かつ応答性能に長けたドライバーユニットを実現したという。

EH1の音の印象をひと言で表すなら、「ナチュラル&スムーズ」。

どの帯域も強調することなくフラットに出力してくれることに加え、とにかく雑味がない。そして特筆すべきは、その音の滑らかさだ。

オノマトペで表現すれば「ツルッツル」。「ツルツル」では足りないから「ッ」をつけるくらい、例えば、高域が破綻してキツイなど、ささくれだったところがない。モニターライクではあるが無機質ではない、自然なので、長く聴いていられる音だ。

ボーカル曲との相性が抜群に良い。ボーカルと楽器が重なるシーンでも、高い解像感で描き分けられる音の輪郭がハッキリしているため、意識せずともボーカルが目立ってくる。このバランスが、ボーカル曲の王道にして最も美味しい聴き方ではないだろうか。

Mrs.GREEN APPLE「ライラック」では、イントロのエレキギターのリフが粒立ち良く耳に飛び込んできて、楽曲に引き込まれる。そしてAメロに入った瞬間、ボーカルがスッと主役の座に収まり、楽器隊は名脇役へと立ち位置を変える。バンドサウンドにおいてここで楽器も主張するバランスは、ダブル主演な感じでそれはそれで良いものだが、やっぱりここは王道バランスが気持ち良い。

Ado「唱」のシャウトは刺激的だが耳に刺さらない。滑らかとはいっても七色の声色をまろやかにしてしまうことはなく、ハスキーさに由来するざらつきが鼓膜をくすぐってくる。ほかにもYOASOBI「怪物」でバックに流れる軋んだ扉のような音も、存在感はあるが耳障りではない。このあたりのチューニングがお見事だ。

アクティブスピーカーと組み合わせてみる

続いて、EH1のRCAアナログ出力から、クリプトンのアクティブスピーカー「KS-11」へと繋いでのスピーカーリスニングも体験してみる。

アクティブスピーカーとの組み合わせも試した

スピーカーで聴くと、ここまで聴いてきたようなボーカルと楽器のバランス感はそのまま、ひとつひとつの音の量感が増したような印象を受ける。

デスクトップ環境ということもあってステージはある程度の大きさに留まるが、音が短い距離で届くヘッドフォンと比べ、空間を介して聴こえてくるスピーカーの音には、ヘッドフォンでは感じられない、臨場感がある。

ナチュラルなEH1の音は、ストリングス系ともマッチする。「管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068:G線上のアリア」の主旋律は艷やかで、心地よい。取材のために分析的に聴き込んでメモを取ろうとするが、それよりも調和の取れた音の波に身を委ねて目を閉じたくなる。

映画のセリフも聞き取りやすい。ゲームとの相性もチェック

さて、このサウンドは音楽鑑賞以外ではどうなるのだろうか。今度はiPadとUSB接続して、Netflixで映画を再生してみた。

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は緊迫したシーンが多く、魔法によるバトルでは迫力ある音が欲しい。セリフの聞き取りやすさはかなり好印象で、俳優の微細な声のニュアンスを再現してくれるが、デフォルトの状態ではちょっとパワー不足に感じる。

タブレットでの映像鑑賞にもEH1は活用できる

そこでトーンコントロールのBASSノブを思いっきりプラスに回してみると、満足のいく低音が得られた。トーンコントロールは効果が高いため、音楽を聴く際に使うと若干印象が変わって聴こえるが、映像鑑賞においては常にプラスにしておいても良いかもしれない。

次はイヤフォンに付け替えて、Nintendo SwitchとUSB接続してみる。

Switch本体へのイヤフォン直挿しと比較すると、クオリティの差は歴然。音の分離が良くなり、SEやBGMがよりハッキリと聴こえてきて、没入感が高まった。

PlayStation 5と接続して『Apex Legends』をプレイしても、音が聴こえてくる方向の把握こそイヤフォン直挿しと差を感じないが、やはり足音や環境音の聴き分けがしやすくなり、そのおかげで敵の接近をより早く察知できた。

ゲーム機に接続することで、ゲーム内のサウンドがクリアに聴き取れるようになった

ここではTREBLEノブをプラスに回すとよりSEが目立つようになり、RPGなどではちょっと違和感が出てくるが、FPSにおいては勝つためのプレイにつながる印象だ。ただ、ボイスチャットはイヤフォンのマイクが使えないので、コントローラーの内蔵マイクを利用するか、別にマイクを用意する必要があるので注意したい。

コスパだけではなく、EH1だから選びたくなる理由がある

色々なシチュエーションで試したことで、EH1の実力が実感できた。USB DAC/ヘッドフォンアンプとしてパソコン、スマホ、ゲーム機などに接続して、気軽に使える点は想像通り。そのサウンドについては期待以上だった。

正直なところ、競合に対して少し安めなので、無難でも一定の水準の音ならば満足と考えていた。しかし、「ナチュラル&スムーズ」という個性を目の当たりにし、EH1がただのハイコスパモデルに留まらないことがわかった。数あるモデルから「EH1を選ぶ理由」が明確に浮かび上がったのだ。

EH1をオーディオシステムに組み込むのも良いが、このコンパクトさを活かし、デスクトップオーディオを構築するのに向いていると思う。もし、机周りの音環境を良くしたいと考えているのなら、EH1は候補に加えてほしい。

小岩井 博

カフェ店員、オーディオビジュアル・ガジェット関連媒体の編集・記者を経てライターとして活動。音楽とコーヒーと猫を傍らに、執筆に勤しんでいます。