トピック

ケーブルによる音の変化を追体験、“機器の魅力をスポイルしない”AudioQuest LAN/HDMIの違いを空気録音してみた

オーディオ歴35年の私。かねてから電線病患者であることは公言しているし、あちこちで「ケーブルを交換したら激変!」みたいな記事も書いてきた。時にはプチ炎上することもあったが、昨今では、先人たちのたゆまぬ努力の甲斐もあって、電源ケーブルやスピーカーケーブル、インターコネクトケーブルといった、いわゆるアナログドメインのケーブルについては、それらが(良くも悪くも)音質や画質に影響を与えることが広く認知されるようになってきたように思う。

しかし、今回のネタはそう一筋縄ではいかないだろう。よりにもよってLANケーブルとHDMIケーブルなのである。またもやオカルト警察の皆様からお怒りを買うことになりそうで気が重い。

一方で、彼らが怒りたくなる気持ちも分からなくはない。特に、「LANケーブルをオーディオグレードに換えたらノイズが減った!」とか、「正確な伝送が可能になった!」みたいな表現は、世の中のITインフラを支えるエンジニアに対して喧嘩を売っていると受け取られても仕方がない。

なので、最初に断っておくと、本稿が扱う「LANケーブルで音が変わる」「HDMIケーブルで音が変わる」といった表現は、ビットパーフェクトで伝送できていることが大前提となる。

では、なぜ変わるのか?

今、オーディオ界隈で定説となりつつあるのが、ルーターやスイッチングハブ、パソコンやテレビといった機器から発せられたノイズが、メタル線であるLANケーブルやHDMIケーブルを介してオーディオ機器に伝わり、悪影響を及ぼしているのではないかという考え方だ。つまり全てはアナログドメインで起きていることであり、それらを回避するために、光絶縁を行なうメディアコンバーターや、SFPポートを活用したファイバー伝送を導入する人が増えていて、実際それらの効果は想像以上に効く。

ただ、それだけでは説明できない事象もたくさんある。

オーディオマニアにもいろいろなタイプがいるが、私は理論や知識よりも、まずは自分の耳や目を信じる人間だ。その上で科学的に分析しようと努力する。まぁ、大抵の場合は自分の足りない頭では理解できないことが多いのだが、だからといって、眼前で起きていることから目を逸らしたり、耳を塞いだりはしない。その行為こそオカルトなのではないかと思うからだ。

機器の魅力をスポイルすることがないケーブル

米国に、45年も前から、ケーブルによる音の変化を科学し続けているケーブルブランドがある。それが「オーディオクエスト」だ。

ビル・ロウ(William E. Low)氏

創業者はビル・ロウ(William E. Low)氏。1970年代のオーディオケーブル黎明期から研究開発を続けていた彼には、1つの信念があった。

「百聞は一見にしかず」

顧客が信じるのは理論ではなく体験だ。そう考えたビルは1つのアイデアを思いつく。それが、「Boom Box Demo」と名付けられたデモンストレーションだった。実際の様子は山崎編集長のレポートをお読みいただきたいが、顧客の目の前でケーブルを交換し、その音の違いを体験してもらうという、いわば実演販売のようなものだ。あえて安価なシステムを用意するというのがポイントで、それが被験者に「高級なシステムじゃなくても、ケーブルだけでこれほど音が変わるのか!」という強烈な印象を残す。

そんな草の根レベルの取り組みが実を結び、販路を次第に拡大していったオーディオクエストは、今では世界74カ国に愛用者がいる米国を代表するケーブルブランドとなった。

かくいう私もその一人で、1990年代に発売された「Lapis Hyperlitz」という、当時の上から2番目のグレードだったインターコネクトケーブルを、今もDACからプリアンプ、フォノイコからプリアンプ、プリアンプからパワーアンプといったシステムの要所で使用している。

これまで数多のケーブルを試してきた私が、オーディオクエストを選ぶ理由。それは、どんな場面で使っても、その機器の魅力をスポイルすることがない信頼性の高さに他ならない。エントリークラスからハイエンドクラスまで音の方向性に一貫性があり、「銅線より特性は優れているがクセも強い」と言われがちな銀線を使ったケーブルでも、特有のキャラクターを感じさせないところに、この老舗ブランドの実力を伺い知ることができる。

何より興味深いのは、ビルが「音の良くなるケーブルは無い」と言い切っていることだ。「ケーブルで悪い信号を良くすることではできない」、重要なのは「信号にできるだけダメージを与えないこと」というブランドフィロソフィーは45年経った今も変わらない。

「音の良くなるケーブルは無い」と言い切るビル

空気録音で読者の皆さんにも体験を

そんなオーディオクエストのLANケーブルとHDMIケーブルのレビューを書いてほしいというのが、今回の依頼だ。しかし、普通に書いただけではつまらない。読者の皆さんにも“理論ではなく体験”をして欲しい。

そこで考えたのが、空気録音を使った「Boom Box Demo」である。早速、輸入元であるD&Mの担当者に提案してみると、「それは面白いかもしれませんね!」と快諾していただいた。山崎編集長によれば、AV Watchで空気録音を行なうのは初めてとのこと。なんだか、ちょっと楽しみになってきた。

今回の比較試聴では、LANケーブルとHDMIケーブルだけでなく、スピーカーケーブルや電源ケーブルの交換も交えながら、計10パターンの空気録音を収録し、それらを「LANケーブル編(6パターン)」と「HDMIケーブル編(4パターン)」の2つにグループ分けしている。

曲はD&Mが用意した許諾音源の中から、音の微細な変化が感知しやすい、スローテンポでシンプルなバンド構成の女性ボーカル曲、スーザン・ウォン(Susan Wong)の『Nothing More to Say (single)』をチョイスさせてもらった。

1パターンあたり1分30秒ほどで進行していき、最後には各ケーブルの特徴が掴みやすいバスドラムやコインの落ちる音が登場するサビ部分(20秒)を抜粋したトラックも追加している。

B&W「705 S3 Signature」

リファレンス機材は、スピーカーがB&W「705 S3 Signature」で、それを駆動するアンプ兼ストリーマーとしてマランツ「MODEL M1」を用意してもらった。フラッグシップの800シリーズは、「音を視る」という表現がピッタリな、超ハイレゾリューションなスピーカーだが、700シリーズにもそのDNAはしっかりと受け継がれていて、シグネチャーモデルではさらに音質が高められている。ミッドナイトブルーのエンクロージャーも惚れ惚れするほど美しい。

マランツ「MODEL M1」

MODEL M1はオーディオの世界に古くからある「ストレート・ワイヤー・ウィズ・ゲイン(Straight Wire with Gain)」という言葉、つまりは「アンプとは、入力された音楽信号を、何も足さず、何も引かず、増幅するだけの電線のような存在であれ」という理念を具現化したような製品であり、今回のようなケーブルの比較試聴にはもってこいである。

LANケーブルのテストではAmazon Musicのハイレゾ音源(96kHz/24bit)をHEOS経由でMODEL M1から再生し、接続するLANケーブルを交換した。Wi-Fiルーターやスイッチングハブには汎用品を使っている。

HDMIケーブルのテストでは、UHD BDレコーダーのパナソニック「DMR-ZR1」でCD音源を再生し、一旦LGのテレビへHDMIで入力。そこからMODEL M1にeARCで接続している。

DMR-ZR1とテレビの間のHDMIケーブルは「Vodka48」で固定し、交換するのはテレビとMODEL M1の間のeARC伝送用ケーブルだ。CD音源なので44.1kHz/16bitになってしまうが、eARC接続時はテレビ側の仕様によって上限が48kHz/16bitに制限されるため、今回の用途では問題無しと判断した。ただし、ハイレゾとCDでマスタリング時の音作りに若干違いがある可能性は予めご考慮いただきたい。

パナソニック「DMR-ZR1」

収録場所はD&M社内にある四方をカーテンに囲まれた防音仕様の部屋で、響きはかなりデッドだが、今回のような差分を聞き取るための空気録音にはむしろ好都合な環境である。

収録機材には筆者所有のTASCAMのポータブルレコーダー「Portacapture X8」を使用した。6万円前後の製品だが、非常によく出来たレコーダーで、競合製品に較べて低域までしっかりと収録できるため重宝している。

マイクセッティングはA-B方式とX-Y方式が選べるが、リスニングポイントで聴いているステレオイメージに近かったA-B方式を採用した。スピーカーからの距離や高さについても、限られた時間内ではあったが、何度もリハーサルを行ない決定している。

録音フォーマットは192kHz/32bit floatのWAVとし、内蔵のヘッドアンプ(マイクアンプ)のゲインはS/Nが悪化しない程度に抑えて、後ほど「DaVinci Resolve Studio」で編集した際に、一律で4dBほどゲインを上げた(下駄を履かせた)。これは、どのような再生環境でも違いを聞き取りやすくするためで、ノーマライズやEQ等の処理は一切行なっていない。

データの書き出しは192kHz/24bit、48kHz/24bit、44.1kHz/24bitを試したが、192kHz/24bitでアップロードし、YouTube内部でダウンサンプリングや圧縮処理をしたものが、元データの雰囲気を最も残していたので、これを採用することにした。

今回の空気録音の現場には私を含め5人の人間がいた。D&Mの担当者K氏とT氏に、AV Watchの2人、そして私である。手順としては、K氏とT氏がケーブルの交換をしたあと、それを5人で聴いて感想を述べあい、その後、全員が部屋から退出して空気録音を行なった。

1曲ずつ、試聴室から全員出て録音した

驚いたのは、その際の全員のコメントが驚くほど一致していたことだ。それもあって、本来であれば私1人のインプレッションを書くのが筋なのかも知れないが、今回は5人のコメントをまとめたような形で書き進めていきたい。

LANケーブル編

ちなみに、現場では想像以上の音の違いに、かなり盛り上がった。特にLANケーブルの「Diamond」やHDMIケーブルの「Dragon」といった最上位モデルは、スピーカーが800シリーズは言い過ぎだとしても、750くらいにはなったのでは!?というほどの激変っぷりだった。山崎編集長に至っては、「買えないけど欲しい……」と口にするほど衝撃を受けたご様子。

だが、収録したWAVデータを聴いてみると、音の違いは分かるものの、現場で感じたほどの変化量は残念ながら感じられなかった。感覚的には1/10程度といったところだろうか。

私の録音スキルが足りなかった部分もあるとは思うが、極論を言えば、10万円のスピーカーを10万円のアンプで鳴らした音と、100万円のスピーカーを100万円のアンプで鳴らした音の、“本質的な違い”を収録したいなら、100万円のマイクと100万円のマイクアンプが必要なのかもしれない。これが空気録音の限界であり、リアル試聴との差だと個人的には考えている。言い換えれば、空気録音全盛の今、それを補うオーディオ評論が求められているということだろう。

最初から言い訳じみた感じになってしまったが、今回はLANケーブルやHDMIケーブルでも音が変わる体験をしていただく事が目的なので、そこは割り切って楽しんでもらえると幸いだ。また、YouTubeにはチャプターが振ってあり、本稿の小見出しと連動しているので、ぜひ空気録音を聴きながら本稿をお読みいただきたい。

それでは空気録音版「Boom Box Demo」をスタートしよう!

LANケーブル編

チャプター1「無線LAN+スピーカーケーブルRocket11(切り売りケーブルの加工品)+付属電源ケーブル」

705 S3 Signatureには付属のスピーカーケーブルといったものが存在しないため、この組み合わせが今回のスタートラインとなる。本来であれば、エントリーモデルの「Q2」を付属ケーブルの代わりとしても良かったのかもしれないが、あくまで今回はLANケーブルとHDMIケーブルが主役なので、それ以外の空気録音の本数が増えることを避ける意味でもRocket11をデフォルトとすることにした。ちなみに、Q2はその価格が信じられないほどしっかりした音がするスピーカーケーブルで、「設計技術者の能力は予算が少ない時にこそ判断される」というビルの持論を体現するモデルだ。

さて、このチャプターで注目したいのは無線LANである。ネットワークオーディオの世界では、「無線LANは大量のノイズを撒き散らすので使うなんてありえない!」といった考え方が半ば常識となっているが、メタル線を介さない分、LAN回線からの誘導ノイズといった点では有利なのでは?という見方もある。果たして無線と有線でどのくらいの差があるのか、このあとのチャプター2と聴き比べてみて欲しい。

切り売りスピーカーケーブルROCKET11の加工品(1.5m 47,300円)

チャプター2 「LANケーブルForest+スピーカーケーブルRocket11+付属電源ケーブル」

LANケーブルForest

「Forest」(1.5m 7,590円)はオーディオクエストでは最も廉価なLANケーブルだが、それでも明らかに音場の天井が高くなったのが分かる。正確には、天井が下がっていたものが元に戻ったと言うべきか。無線LANの音には抑圧された印象が常につきまとっていたが、そのモヤモヤが解消された感じだ。現場でも、「理屈はさておき、やっぱり無線LANって音が悪いんだね。ここが実質的なスタートラインかな」という意見で一致した。もし読者の中に無線LAN接続で聴いているという方がいたら、まずは汎用ケーブルでいいので、ぜひ有線化にチャレンジしてみて欲しい。(それがケーブル沼の始まりなのだが……)

チャプター3 「LANケーブルDiamond+スピーカーケーブルRocket11+付属電源ケーブル」

LANケーブルDiamond

次に、LANケーブルを最上位の「Diamond」(1.5m 196,900円)に交換する。LANケーブルのラインナップの中ではこのモデルだけが導体に銀線を採用していて、DBSやNDSといったオーディオクエストの基幹技術ももれなく搭載されている。Forestとの価格差はなんと25倍超!だが、音はトンデモなく変わった。

聴感上のノイズフロアが一気に下がり、部屋の空気が静まり返る。すべての音が磨き込まれ、身体の奥まで染み入るような音の浸透力が圧倒的だ。ボーカルのニュアンスはこれでもかというほど溢れ出し、まるでスーザン本人の歌唱力が上がったかのよう。バンドの演奏も一体感が増して、「僕たち、さっきまでは本気を出していませんでした」と言わんばかりだ。コインの落下音の生々しさもたまらない。

音場感、奥行き感、音圧感といった要素も桁違いで、LANケーブル1本でここまで変わるかと、しばし呆気にとられてしまった。これだけ歴然とした差を見せつけられると、約20万円というプライスにも納得感が出てきてしまうのがヤバい。空気録音でそれが少しでも伝わってくれるといいのだけど。

チャプター4 「LANケーブルForest+スピーカーケーブルRocket88+付属電源ケーブル」

スピーカーケーブルRocket88

ここでは、LANケーブルをForestに戻し、スピーカーケーブルを上位モデルの「Rocket88」(1.5m 160,600円)に交換した。そのため直接の比較対象はチャプター2になる。

サウンド全体の迫力が増しただけでなく、音数自体もアップし、1音1音がハッキリと耳に届くようになった。他方で、Rocket11に対して、Rocket88は少しだけゴージャスな音に感じられるかもしれない。これをRocket11が地味と判断するか、Rocket88が派手と判断するかは2本だけの比較では難しいが、メーカーとしては当然Rocket88の方が本来の音に近いということになる。いずれにしてもLANケーブルの交換とは変化のベクトルが異なっていることがお分かりいただけるだろうか?

チャプター5 「LANケーブルForest+スピーカーケーブルRocket11+電源ケーブルNRG-X2」

電源ケーブルNRG-X2

今度は電源ケーブルを交換してみよう。こちらも直接の比較対象はチャプター2だ。

筆者は、電源ケーブルの交換はオーディオアクセサリーの“いの一番”だと考えているが、これまではメガネ端子の電源ケーブルは選択肢が少なかった。MODEL M1のようなインレット側がメガネ端子となっている機器が増え続けるなか、メガネ端子の交換用電源ケーブルも増えてくるだろう。ちょうど、今後日本での取り扱いが検討されているという「NRG-X2」という電源ケーブルをお借りしたので、これを使ってみた。グレードとしてはエントリークラスになるようだが、販売されれば、確実に音質のグレードアップが見込める定番モデルとなるだろう。

音の1粒1粒がシャキッと立ち上がる様子は、まるで高級炊飯器で炊いたご飯のようだ。この毛細血管の隅々まで血流が行き渡るような感覚を一度体験すると、付属ケーブルの低血圧サウンドでは物足りなくなってしまう。オーディオ機器にとって電源はすべての力の源なのだ。

チャプター6「LANケーブルDiamond+スピーカーケーブルRocket88+電源ケーブルNRG-X2」

LANケーブル編の最後は「全部盛り」である。無対策だったチャプター1と聴き比べてみてほしい。敢えて多くは語らないが、まるで別物だということは空気録音でも伝わるはずだ。特筆したいのは、ここまでやってもサウンドに余計な色が付かないこと。

高級ケーブルの世界には1本導入しただけで、システム全体をそのブランド色に染め上げてしまうような強烈なケーブルも存在するが、オーディオクエストのケーブルはそれとは一線を画している。グレードが上がるたび、解像力、分解能、力感、ワイドレンジ、ダイナミックレンジといったオーディオ的な要素がひたすら改善されていくだけで、最上位モデルともなれば、色ではなく、そのオーラでもってシステム全体を支配してしまうのだ。

しかし、それでもビルはこう言うのだろう。

「音の良くなるケーブルは無い」と。

HDMIケーブル編

HDMIケーブル編

チャプター1 「HDMIケーブルPearl48+LANケーブルForest+SPケーブルRocket11+付属電源ケーブル」

HDMIケーブルPearl48

続いてHDMIケーブル編に移ろう。ここでは無線LANには見切りをつけ、LANケーブルにForest、スピーカーケーブルにRocket11、電源ケーブルに付属品を使用した状態をデフォルトとした。

まずは最も廉価な「Pearl48」(1m 5,830円)からだが、LANケーブル編を聴いてきた耳には随分と冴えない音に聞こえたのではないだろうか? もちろん音源のスペックが96kHz/24bitから44.1kHz/16bitになったことも関係が無いわけではないが、それ以上に音質劣化の要因となっているのが、テレビだ。

テレビはそれ自体が巨大なノイズ発生装置である。eARCで接続するということは、そのノイズがメタル線を介してMODEL M1側に大量に流れ込んでくるということを意味する。そこで問われるのが、HDMIケーブルのアナログドメインにおけるノイズ耐性だ。

チャプター2 「HDMIケーブルVodka eARC+LANケーブルForest+SPケーブルRocket11+付属電源ケーブル」

HDMIケーブルVodka eARC

発売になったばかりの「VODKA 48 eARC Priority」は、その名の通りeARC(もしくはARC)接続に特化した注目のHDMIケーブルである。既発売の「Vodka48」(1m 58,300円/2m 82,500円)との違いは、音声ラインにだけVodka48と同じ導体を使用しており、映像ラインについては下位モデルと同等にすることで、1.5m 41,800円、2m 47,300円を実現した。

もちろん、通常のHDMIケーブルとしても使用可能だが、eARC接続の場合、映像ラインにはブランク信号が流れているだけなので、Vodka eARCを導入した方が合理的かつ経済的ということになる。なんだか、商売っ気があるんだか無いんだか分からないが、オーディオクエストというブランドの実直さをよく現した新製品だと思う。

そして肝心の音質なのだが、思わず膝を打つとはまさにこのことで、その場にいたメンバーからは、「テレビを通した感じがしない!」「LANケーブル編の音に戻った!」「ピュアオーディオの世界観になった!」といった絶賛のコメントが続出した。

先ほどのPearl48も巷の付属ケーブルよりはずっと良い音がするのだが、今回ばかりは完全に引き立て役になってしまったようだ。HDMIケーブルで音質が変わることはもちろん、高級ケーブルの存在価値や潜在能力を証明する快作ケーブルの誕生である。

チャプター3 「HDMIケーブルDragon48+LANケーブルForest+SPケーブルRocket11+付属電源ケーブル」

HDMIケーブルDragon48

遂にラスボス「Dragon48」(1m 353,100円)の登場である。オーディオクエストの長い歴史において、Dragonという名は真のフラッグシップモデルだけに与えられるもので、そういう意味では、LANケーブルの最上位「Diamond」は、あれほどの音質を誇っていながらも、Dragonのレベルには達していないということになる。

先ほどはVodka eARCに絶賛コメントを連発した我々だったが、今度は一転して重苦しい雰囲気に包まれた。「いやぁ、HDMIケーブルでもこんな音が出せるんだ……」「いやぁ、Vodka eARCも凄いと思ったんだけどなぁ……」「いやぁ、もうちょっと次元が違いすぎて……」という恨み節のようなコメントを絞り出すのが精一杯で、CD音源とは俄に信じ難い、押し寄せるような情報量の波と、最低域の沈み込みには畏敬の念を抱くほど。

嗚呼、この体験を空気録音ではフルにお届けできないのがもどかしい。

Dragon48に搭載しているケースは絶縁体に電圧をかけて安定した状態の保持を図るという「誘電体バイアス・システム」(DBS)だ

チャプター4 「HDMIケーブルDragon48+LANケーブルDiamond+SPケーブルRocket88+電源ケーブルNRG-X2」

最後は全部盛りである。もう完全にお祭り状態だ。何も伝送していないのにLANケーブルまでDiamondにする意味があるのか?という問いには、「意味はある」とだけお答えしておこう。ここまでお読みいただいた方ならば、その理由はお分かりになるはずだ。

空気録音版「Boom Box Demo」は以上である。いかがだっただろうか?「最初はオカルトだと思っていたけど、聴いてみたらちゃんと違いが分かった!」という方が一人でもいてくれたら、やった甲斐があったというものだ。逆に、「全然分からなかった」という方がいても、それはそれで否定はしない。実際、リアルな試聴会でもそういうことはよくあるし、仮に違いは分からなかったとしても、「なぜだろう?」と思ってもらえたのなら、今回の実験は成功なのだ。その時点でオカルトから科学になったのだから。

秋山真

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫の世話と、愛車のローン返済に追われる日々。