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小型でも圧倒的駆動力、水月雨(MOONDROP)のDAC内蔵アンプ「DHA15」実力に迫る

水月雨(MOONDROP)「DHA15」

ヘッドフォンの進化は著しい。平面駆動方式や、高性能な振動板素材を使った大口径ダイナミックドライバー搭載モデルなど、多くの製品が登場。それらを実際に手にいれ楽しんでいる読者も多いことだろう。ただ、ヘッドフォンの真の能力を発揮するためには忘れてならないものがある。それがDACやヘッドフォンアンプだ。

ヘッドフォンアンプは、出力の高さはもちろんのこと、帯域バランスのよい駆動であることやダイナミックレンジの幅広さ、SNのよさ(特にノイズレベルの低さ)など、様々な要素で実力のほどが問われる。単にハイパワーなだけでは、ハイクラス有線ヘッドフォンの真の能力を上手く引き出せないからだ。

そんな、意外と奥が深いヘッドフォンアンプの世界に、注目の新製品が登場した。それがDAC内蔵ヘッドフォンアンプ、MOONDROP「DHA15」(89,100円)だ。

DHA15

水月雨(MOONDROP)とは

成都(四川省)に本拠を置く水月雨(MOONDROP)といえば、中国本国での人気はもとより、日本でも多くのポータブルオーディオファンが知る中華イヤフォンブランドの代表格。設立10年を越えたばかりの、新進気鋭オーディオブランドだ。

自社工場製造による質の高い製品クオリティと、リーズナブルな価格でたちまち人気ブランドに成長した水月雨(MOONDROP)なのだが、設立当初こそ有線イヤフォンを中心としたラインアップだったが、その後はTWS(完全ワイヤレスイヤフォン)などのワイヤレス製品も展開。

現在は、有線ヘッドフォンやポータブルヘッドフォンアンプ、CDプレーヤーなどのポータブル製品に加え、モニタースピーカーなどのデスクトップオーディオ製品まで展開。さらには、オーディオに特化したスマートフォンまで開発するなど、総合オーディオメーカーとしての道を歩み始めている。

スマホとストリーミング音楽プレーヤーを融合させたという5G対応「MIAD 01」
4月に開催された「春のヘッドフォン祭 2026」では、アクティブスピーカー「MM3A」も参考出品した

そんなMOONDROPから登場した「DHA15」は、同社初の据置型ヘッドフォンアンプであり、新たに展開をスタートしたカテゴリー製品のひとつとなる(これまでのアンプは、ドングルDACのみのラインナップだった)。しかしながら、完成度や実力の高さにおいて、最初の1台とは思えない実力の高さを伴っている。

S.M.S.Lとは

というのも、「DHA15」はS.M.S.Lとのコラボによって生み出された製品となっているからだ。

S.M.S.L(Foshan ShuangMuSanLin technology)は、2009年に深センで設立された、据置型のオーディオ機器を得意とする中国メーカー。設立以来、コンパクトでスマートなデザインのアンプやDACを多数手がけており、コストパフォーマンス高さと、高い音質で世界30カ国以上に展開している。

DHA15の天面には大きく、MOONDROPとS.M.S.Lのロゴ

そんなS.M.S.Lの技術力を認め、積極的に取り入れることで完成したのがDHA15だ。このように、コラボ相手の名前を隠さず、逆にアピールのひとつとする方法論も、水月雨(MOONDROP)らしいコンセプトであり、さらにいえば、オーディオ趣味人でもある鄭(テイ)社長らしい製品展開だと思う。

フルバランスのディスクリートA級アンプ搭載、グランド設計にも注目

さて、実際の製品について詳細を見ていこう。

DHA15は、SMSLとのコラボ製品だけあって、254×221×46mm(幅×奥行き×高さ)というコンパクトかつ薄型ボディを持つ。特に薄型であるため、設置場所の自由度が高く、たとえばテレビやモニターの下側にも無理なくすんなり収まってくれるのは嬉しい。

筐体が薄型なので、PCモニターの下部にもすんなり収まる

コンパクトだから安っぽいという事もない。筐体には航空機グレードのアルミ合金をチョイス。高精度CNCで削り出したヘアライン仕上げとなっていて、上品、かつ上質な印象ともなっている。

アルミ合金からの削り出し筐体は極めて上質。天面はヘアライン仕上げ

加えて、トップパネルには“MOONDROP水月雨×S.M.S.L”というコラボを象徴するロゴが配置され、前面左のディスプレイ部にもブランドキャラクター「水月友希」の姿がレーザー刻印されている。総じていえば、SMSL然としたデザインだが、一目で水月雨と分かる、そんな外観だ。

ディスプレイ部には、ブランドキャラクター・水月友希の姿がレーザー刻印されている
中央がDHA15のパッケージ

もちろん、音質にまつわる内部構成についても、いっさいの手抜かりはない。

音質のよさと高出力を両立すべく、アンプ部はフルバランス、かつディスクリート構成のクラスAアンプを搭載。15W+15W(16Ω)の最高出力を確保すると同時に、99段階のボリュームコントロールと3段階のゲイン調整を用意した。

なかでも低ゲインはIEMなど低インピーダンス製品に向けに最適化されており、平面磁界駆動型ヘッドフォンをしっかりと鳴らしきるだけでなく、イヤフォンやポータブルヘッドフォンなどもベストなサウンドで楽しむことができるようになっている。

ディスクリート構成のクラスAアンプ

もうひとつ、独立グランド設計を採用しているのもユニークだ。筐体背面のスイッチでグランド・フローティングとグランドを切り替えでき、別途グランド系アクセサリーと組み合わせることで、さらなるノイズ伝減を追求できる。こういった、ハードウェア・カスタム機能が盛り込まれている点も興味深い。

中央にあるのがグランドの切り替えスイッチ

そして、音質に関して大きな影響をもつDAC部は、Cirrus Logic製「CS43198」をデュアル構成で搭載し、さらに特別にカスタマイズされたという独自プロセッサー「MOONDROP TYPE-UA01」を組み合わせることで、良質なサウンドが追求されている。なおスペックは、最高384kHz/32bitのPCM、DSD 256までの音源に対応している。

Cirrus Logic製「CS43198」をデュアルで搭載

総じていえば、SMSLのハイスペックかつ丁寧なモノづくりに水月雨独自の音響技術が加わり、1+1=2以上、3とも4ともいえる魅力的な製品に仕上がっているのは確かだ。

ユーザー参加型の第2世代DSPもユニーク

DHA15の魅力はそれだけに留まらない。MOONDROPならではの魅力でありサービスでもある、ユーザー参加型の第2世代のDSPが搭載されているのだ。

こちら、WEB上に用意される様々なチューニング設定を活用することで、簡単かつ詳細な音響調整が行なえるというもの。ちなみにこちら、他のMOONDROPユーザーが作り上げ公開している設定を活用することもできるので、様々なものが簡単に試せて楽しい。そういった“遊び心”を持ち合わせているのも、MOONDROP製品ならではといえ、他社製品名はないDHA15ならではの大きな魅力となっている。

ちなみに、デジタル調整そのものは、各周波数ポイントのゲインはもとより、フィルタータイプやQ値なども自由に調整できるようになっている。細かく調整し、愛用ヘッドフォンにとってベストな、自分好みサウンドをコツコツと作り上げていくのも楽しそうだ。

ヘッドフォン出力はバランスがXLR4pinと4.4mm、アンバランスが6.35mm。ソース入力はデジタルがUSB-Cのみとなるが、ほかにアナログ系としてXLR 3極×2、RCA×2も用意されている。

また、XLR3極×2、RCA×2のアナログ出力も用意されているので、ヘッドフォンアンプ兼プリアンプとして活用することも可能だ。アクティブ(アンプ内蔵)タイプの小型スピーカーと組み合わせ、デスクトップシステムを構築するのも良さそうだ。

操作系に関しては、リモコンの付属が嬉しい。本体も前面中央のプッシュ+ダイヤルで全ての操作と設定ができるが、見えない場所や手の届かない場所に置いても操作が可能なのが便利。リモコンは入力/出力/音量調整など至ってシンプルな内容だが、十字キーによる直感的な操作が行なえ、扱い易い。

リモコンも付属する

Armature Art 12など、様々なヘッドフォン/イヤフォンを鳴らしきる

さて、肝心のサウンドについて紹介していこう。

今回、様々な製品との相性をチェックすべく、MOONDROPイヤフォンとヘッドフォンに加えて、手元にある他社製製品もいくつか試してみた。

MOONDROP「Armature Art 12」

まずはMOONDROPの最新IEMイヤフォン「Armature Art 12」から。

Armature Art 12

低ゲインで試してみると、抑揚の大きさと音色の多彩さに驚く。以前、リファレンスとして長らく活用している上級DAP(HiBy「R8II」)直で聴いた際には兄弟機「Armature Art 24」に比べて“幾分地味な音かな”とも思ったのだが、DHA15と組み合わせるとその地味さは丁寧さに生まれ変わってくれ、同時に膨大な情報量、音数の多さを堪能できるようになった。

音色もリアルで、高域表現は鋭すぎず。女性ヴォーカルは僅かにハスキーで大人っぽい。いっぽう低域の量感も必要十分な印象と、バランスのよいサウンドに纏まっている。おかげで、歌声もアコースティック楽器も生々しくも耳触りのよいサウンドを聴かせてくれた。「DHA15は、絶対Armature Art 12でも調整したんだろうな」と疑いたくなるマッチングのよさだ。

ちなみに、今回の試聴は4.4mmで行なったが、ソース側ケーブル端子の変更もできる。3.5mm接続も試してみたところ、やや高域にクセのようなものが現れるが、こちらも悪くはなかった。

Armature Art 12は、全帯域にわたるエネルギーの均一性とシームレスなつながりを優先して、低域・中域・高域のそれぞれに4基ずつのドライバーを配分した3ウェイ構成(4+4+4)。専用設計の4in1BAドライバーと、長期検証済みの高精度3Dプリント構造体を融合させることで、コンパクトさと音質の再現性を両立させている

MOONDROP「流星 - Meteor」

続いて、同じくMOONDROPのトライブリッド(1DD+2BA+4Planar)構成のカナル型イヤフォン「流星 - Meteor」を試してみる。

MOONDROP「流星 - Meteor」

相性としてはこちらのほうが良さそう。表現の多彩さや音の広がり感が良好、低域の量感も充分で、落ち着きのある肩の力がヌケたサウンドを聴かせてくれる。それでいて、音数の多さや音場の広さも充分に感じられる。「流星 - Meteor」の魅力をしっかりと引き出してくれる、こちらも相性のよいくみあわせといえるだろう。

MADOO「Typ821」

他社製イヤフォンも幾つか試してみた。なかでも良好な組み合わせだったのが、MADOO「Typ821」だ。同製品ならではのエッジの鋭さ、ハイスピードでキレのよい表現は変わらず、中高低のバランスが整うと同時にディテール表現もよく伝わってくれるようになった。Hana Hopeのハスキーボイスがとても魅力的な、とても聴きやすい、耳馴染みのよいサウンドとなってくれた。

MADOO「Typ821」

final「A8000」

もうひとつ、final「A8000」も、ヘッドフォンの新たな魅力を感じさせてくれた。

DHA15で駆動すると、抜群の高解像度とバランスのよい中高域によって、心地よい女性ヴォーカルをとことん堪能させてくれる。

今風のサウンドバランスと比較するとやや低域の量感が物足りないが、こちらはゲイン設定を中にすることで多少解消するが、本格的にはDSP調整を活用したいところ。ヘッドフォンアンプでありながら、それができてしまうのがDHA15の魅力といえるだろう。

final「A8000」

MOONDROP「SKYLAND」

続いて、ヘッドフォンを試してみる。こちらもMOONDROPの上級モデル「SKYLAND」から。接続は4.4mm、ゲイン設定は中にした。

MOONDROP「SKYLAND」

まさに本領発揮、今回試聴したなかでも、1、2を争う相性のよさだ。ゲインは中で充分。SKYLAND自身が低歪みな製品なのだろう、丁寧な表現でディテールがよく見える。それにも増して、表現力の高さが素晴らしい。ディテール表現の細やかさと躍動感の大きさ、両極端な表現が見事に両立している。おかげで、クラシックは普段よりも雄大な表現に感じられる。

Jポップも楽しい。aikoの「skirt」はコードというか音程がとても複雑な曲で、クセの強いイヤフォンやヘッドフォンアンプだと歌声がただの音痴に聞こえてしまう。それが、ディテール細やかな伸びよいサウンドのおかげで世界観を存分に感じられ、楽曲の世界にどっぷりはまり込んでいく。SKYLANDならではの魅力を存分に引き出してくれる組み合わせだ。

MOONDROP「楽園 - PARA2」

MOONDROP「楽園 - PARA2」

ミドルクラスの開放型ヘッドフォン「楽園 - PARA2」との組み合わせも良好。キレのよい高域表現はSKYLANDとは別物で、こちらはやや奔放な鳴り、フォーカスのよい活き活きとしたサウンドを楽しませてくれる。低域のフォーカスもよく、全体に躍動的なサウンドとなるので楽しい。高域のクセを少し抑えたい、という人はゲイン低にしてもよさそうだ。

オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」

他社製ヘッドフォンもいくつか試してみた。リファレンスとして活用している製品のなかでも特筆だったのがオーディオテクニカ「ATH-ADX5000」だ。

オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」

一般的な中華ヘッドフォンやヘッドフォンアンプの傾向としては、高域のキレをよくしてフレッシュな表現をしようとする傾向があったりする。これだとアニソンやEDMなど最新Jポップとの相性が微妙になってしまいがち。そういった傾向を払拭してきたのがJポップも試聴曲に入っているMOONDROPであり、それはDHA15にも当てはまる。

結果として、高解像度でクリアネスなATH-ADX5000の特徴を全開にしてくれ、ダイレクトでせ躍動的なサウンド表現を楽しませてくれる。おかげで、Mrs.GREEN APPLEやSEKAI NO OWARIなど、どちらかというとハイトーンな男性ヴォーカルが、非常に印象的で、魅力的な歌声だった。

AKG「Q701」

このほか、モニターヘッドフォン系ではゼンハイザー「HD490Pro」やソニー「CDR-M1ST」などとまずまずの相性を見せたが、いちばん楽しかったのは往年の名機であるAKG「Q701」。高域の伸びやかさはそのままに、整いのよい中低域を持ち合わせているため、小気味いいグルーブ感満点のサウンドが楽しめる。

ちなみに、モニターヘッドフォン系はゲイン低で充分だったが、帯域バランスの好みで中あたりも試してみてほしい。

幅広い製品を鳴らせるお買い得なDACアンプ

このようにMOONDROPのDHA15は、イヤフォンからヘッドフォンまで、幅広い製品に対応できる懐の深い製品に仕上がっている。

この音質と機能性を持ち合わせながら、9万円前後の実売価格というのも驚きだ。確かに、市場にはさらに上質なサウンドをもつヘッドフォンアンプも存在するが、物価上昇が顕著な今日では30万円どころか50万円を超えるプライスタグまで付けられ始めている。そう考えると、“かなりお買い得なDACアンプ”と言える。

なによりも、他ユーザーの作り上げた音質設定が活用できる据置型ヘッドフォンアンプなんてほかに見当たらない。このユニークさも、趣味と実益の両面から大きな魅力となっている。様々な角度から大いにオススメできる製品だ。

水月雨(MOONDROP)「DHA15」
野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なうほか、レインボータウンFMの月イチ番組「ふわっと」にレギュラー出演、YouTube「ノムケンLabチャンネル」を運営するなど、様々なメディアで活躍している。最も得意とするのはヘッドホン&イヤホン系で、年間300モデル以上の製品を15年以上にわたって試聴し続け、常に100製品以上を個人所有している。一方で、仕事場には100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築し、ステレオ用のプロフェッショナル向けTADとマルチチャンネル用、2系統のスピーカーを無理矢理同居させている。