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大型スピーカーも鳴らす! マランツ全方位盤石アンプ「Model 40n」で映画、レコード、配信を聴く

マランツ「Model 40n」

マランツ「Model 40n」自宅で聴く

マランツ「Model 40n」(286,000円)が発売から2年を経過した。近年はコンポーネントのモデルチェンジ・サイクルが長くなってきているが、今以てそのユニークなコンセプトは色褪せていない。それどころか他を寄せ付けないオリジナリティが益々輝きを放っているといって過言でない。それを一言でいえば、“ヴァーサタイル”というものだ。

メーカー発表のカテゴライズによると、本機は『ネットワークプリメインアンプ』とされている。いうまでもなくD&Mが推進する『HEOS』プラットフォームに対応したネットワーク再生機能が前面に推し出された形である。HDMI ARCも内蔵し、テレビとの連携性を重視している点もセールスポイント。いかなるデジタル信号にも万端の構えというわけだ。

とはいえ、Model 40nは安易なストリーマー(ネットワークプレーヤー)とはまったく異なる設計方針が貫かれている。つまり、本格的なプリメインアンプとしての土台を構築した上で、前述のネットワーク機能を乗せたモデルなのだ。

HDAM-SAを活用、アナログ信号への配慮抜かりない

では、本格的な設計方針とは何か。

それは、“Marantz”というロゴバッチを貼付する他のモデルと何ら変わらないノウハウが結集されていることである。具体例のひとつは、マランツの自家薬篭中のメソッドである「HDAM-SA」の採用だ。

プリ部に、ハイグレードなボリュームコントロールICと、独自のHDAM-SA2を使ったリニアコントロール・ボリューム回路を搭載。一般的な音量の範囲内ではプリアンプで増幅せず、パワーアンプのみで増幅する可変ゲイン型にして、ノイズを低減している。

プリ部に、ハイグレードなボリュームコントロールICと、独自のHDAM-SA2を使ったリニアコントロール・ボリューム回路を搭載

さらに、電流帰還型のアンプモジュールが、ハイスルーレートの実現によって位相特性や高S/Nを達成し、ディテイル描写やステレオイメージなどの音楽信号に対する忠実度を担保。「HDAM-SA3」を使ったフルディスクリート構成の電流帰還型パラレルプッシュプル・パワーアンプとなっており、瞬時電流供給能力に優れたこのパワー部が、スピーカーに対する充分な駆動力を発揮する。

HDAM-SA3を用いたフルディスクリート構成の電流帰還型増幅回路をパワーアンプに採用している

デジタル系信号の対応力だけでなく、アナログ信号への配慮にも抜かりない。MM型カートリッジに対応したフォノイコライザーアンプを搭載するが、NF-CR型回路の採用で低歪み化を果たしているのだ。

細長い銀色のシールドケースの中に、デジタル系の回路とフォノイコライザーの基板を収納している

以上が回路デザイン面でのトピックといえるが、ミドルクラスのプリメインアンプにふさわしい数々の音質チューニングが施されている点も見逃せない。

HDMI ARCを備えている

例えば前述のHDMI ARC回路は、何も対策しなければ高音質は望めない。なぜならば、コントロール信号と音声信号が混在した状態で処理されるからである。ここにModel 40nはメスを入れた。HDMIケーブルを通じて伝送されるオーディオ信号を直接デジタルオーディオセレクター(DIR)に入力し、通常の処理では問題となるグラウンド処理によるノイズの影響や電源回路からの干渉を防ぐことに成功しているのだ。

劣化を抑えるために、ARC伝送された音声信号(SPDIF)は、HDMIインターフェースをスルーして、直接DIR(セレクター)に入力される

また、前述のフォノイコライザーアンプをシールドケースに収めた上で、近傍のD/A変換回路からの影響も防ぐべくシールド板も併用されている。

シールドケースの内部。DACとフォノイコライザーアンプ基板の間にもシールドプレートを配置している

さらに電源回路とオーディオ回路を離してレイアウトし、その間にシールド効果が期待できるパワーアンプ部の放熱板を置くことで電源回路からの漏洩磁束の影響も遮断した。この辺りも長年蓄積されたノウハウといえる。

筐体内部。中央にあるパワーアンプの放熱板で、電源回路からの漏洩磁束の影響を遮断している

いわば作りっ放しでなく、細かな部分に入念な音質対策をすることで、マランツの名に恥じないポテンシャルを実現しているわけだ。

UHD BDの映画も迫力の音

今回Model 40nを試聴したのは、自宅システムである。

始めに試したのはHDMI ARC機能で、パナソニック「DMR-ZR1」からのHDMI信号を43型液晶テレビのARC対応HDMI入力に接続。別のHDMI入力にModel 40nを接続してUHDブルーレイの音を聴いた。接続したスピーカーはパラダイム「Persona B」である。

スピーカーはパラダイム「Persona B」

「フォードvsフェラーリ」のチャプター12、フォード・ムスタング発表会のシーンでは、会場の暗騒音がナチュラルに広がる。ステレオ再生ではあるが、頭上を通過するプロペラ機の轟音も高さが出ていてなかなかの迫力だ。

続くチャプター17では、テスト走行でサーキットを周回するフォードGT40のエキゾーストサウンドがしっかりと切れ目なく連なって聴こえる。そのクリアーで滑らかなつながりは、eARC回路のデジタル伝送が忠実に行なわれている何よりの証といえそうだ。

ハイエンドのフロア型スピーカーもしっかり鳴らす駆動力

CDのアナログ入力やネットワーク伝送のピュアオーディオの試聴では、スピーカーを私のメインシステムであるTAD「Reference One」に繋ぎ代えて実施した。

TAD「Reference One」

あらかじめ申し上げておくが、Model 40nはこのフロアータイプのハイエンドスピーカーをしっかりドライブしてくれた。決してスピーカーをねじ伏せようという挙動ではなく、歌わせるというような積極的な歩み寄りを感じる鳴り方だ。

米コーラス・グループ、マンハッタン・トランスファーの最新作「fifty」に収録されたブライアン・ウィルソン作「God only Knows」では、繊細なストリングスを背にした男女コーラスの滑らかでリッチなハーモニーが濃密に響いた。ソロ・ヴォーカルはファントムセンターでくっきりと定位し、その後ろ側に優しく包み込むようにコーラスとストリングスオーケストラが広がった。

ショルティ指揮、シカゴ響の「バルトーク:管弦楽のための協奏曲」の第5楽章では、打楽器の力強い強打でも決して崩れることなく、スケールの豊かさと重厚なハーモニーを克明に再現してみせた。

これは当初予想していた以上のハイレベルなパフォーマンスであった。この辺りは、前述したような瞬時電流供給能力に優れた電流帰還型パワーアンプ部の恩恵もあるし、それを支えるトロイダルトランスを擁した強力な電源回路のバックアップもあるのだろうが、TAD Reference Oneを鳴らすのに役不足ということは決してなかったのである。

レコードも再生してみた。男性ヴォーカルのメル・トゥーメとピアノのジョージ・シアリングのライブ盤では、柔らかで瑞々しいトゥーメの歌唱と、それにそっと寄り添うようなピアノの伴奏が心地よい。ここでもS/Nのよい、奥行き感のあるステレオイメージが実感できた。フォノイコライザーアンプの出来栄えが良好ゆえの出音であろう。

全方位盤石アンプ

プリメインアンプというコンポーネントは、実に難しい役回りである。さまざまな信号の整理をしながら、音量の加減と共に、スピーカーを十全に鳴らすことまで要求される。レコード再生のみならず、近年はあらゆる接続形式/フォーマットのデジタル信号の対応も課せられるようになった。そうした点から万能性が求められるわけだが、それぞれの信号の品位をいかに保ちつつ、スピーカーにしっかりとパワーを送り込むかという点で、実に多くの英知が注ぎ込まれる。

Model 40nには、マランツというアンプ設計に長けた老舗ブランドだからこそ成し得た完成度がある。どこを取ってもエクスキューズがない最新プリメインアンプであり、これぞまさしく『全方位盤石アンプ』という印象を強くした次第である。

小原由夫

測定器メーカーのエンジニア、オーディオビジュアル専門誌の編集者を経て、1992年に独立。アナログオーディオ、ハイレゾ(ネットワーク)オーディオ、ヘッドホンオーディオ、200インチ投写と三次元立体音響対応のオーディオビジュアル、自作オーディオなど、さまざまなオーディオ分野を実践している。 主な執筆誌に、ステレオサウンド、HiVi(以上、ステレオサウンド)、オーディオアクセサリー、Analog(以上、音元出版)、単行本として「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」(DU BOOKS)