レビュー

HDMI付きで本格2ch、マランツ「MODEL 40n」で小型~大型スピーカーまで鳴らしてみる

今回取り上げる、マランツ「MODEL40n」

リビングで良い音をじっくり楽しみめるオーディオが欲しいと思っても、どんな製品を選べばいいのか、ピッタリな答えがなかなか見つからない。しかも、熱心な音楽好きで音質への要求が高いほど、その悩みは深くなる。

理由は簡単。ハイレゾ、ストリーミング、さらに映像ソフトまで、いま聴ける多様な音源を一台でカバーできる製品が少なすぎるのだ。

最近はHDMI端子付きの手軽なストリーマー(ネットワークプレーヤー)が増えてきたが、その多くは入門クラスで、アンプ付きの製品でも本格スピーカーを鳴らすには力不足の感が否めない。一方、音の良いピュアオーディオのアンプはHDMIどころかデジタル入力すら付いていないものが大半で、ネットワーク音源を聴くには専用機を追加する必要がある。AVアンプなら一台でまかなえるが、サラウンド再生の環境を一気に揃える予定がない人には機能が過剰で使いこなしも難しくなってしまう。

「ピュアなアナログプリメインアンプも多機能なAVアンプもどちらも欲しいものとは少し違う」。そんなジレンマに悩む音楽ファンに向けて、マランツは3年ほど前からプリメインアンプのラインナップ拡大に取り組み、ネットワーク対応の「PM7000N」、HDMI端子付きの「NR1200」を投入した。10万円前後とハイファイオーディオとしては手軽に買える価格帯で登場したこともあり、音楽ファンの支持を集めてヒット作となった。

そのマランツが取り組んだ次の課題は、ネットワークに対応し、映像機器とつながるプリメインアンプを同社が最も得意とする本格オーディオのカテゴリーに導入することだった。音質と使い勝手どちらも妥協したくないオーディオファンが本気で探している分野だけに、開発にも自然と力が入る。

MODEL40nの概要

その結果として完成したのが、2022年春に発売された「MODEL40n」(286,000円)である。HEOSプラットフォームを活用したネットワーク再生機能に加えてHDMI ARC端子を装備し、テレビとHDMIケーブルでつなぐだけでさまざまな映像コンテンツの音声を高音質で楽しむことができる。それをミドルクラスのプリメインアンプで実現したことが画期的で、他社に先駆けて完成させた意義は大きい。なにしろ他社が同様なコンセプトの製品を発売するまで、一年以上もの時間がかかっているのだ。

「MODEL40n」

たんにHDMI端子を追加するだけでなく、上位機種にふさわしい音質対策として、コントロール信号とは別に音声信号を独立してデジタル入力に送り込む工夫を凝らしたことに重要な意味がある。HDMI ARCはたしかに便利な伝送方式だが、コントロール信号と音声信号が混在することやHDMI特有のグラウンド処理の影響で、ノイズが発生したり、ダイナミックレンジが制約を受けることがあるという。ハイファイグレードのプリメインアンプならそこにメスを入れるのは当然のことだと思うが、実際に対策しているのはTechnicsの「SU-GX70」くらいしか見当たらない。その点、MODEL 40nは2022年2月の発売製品でありながら、早くから対策を徹底して高い完成度を実現している先駆的なモデルとも言えるだろう。

背面端子部
劣化を抑えるために、ARC伝送された音声信号(SPDIF)は、HDMIインターフェースをスルーして、直接DIR(セレクター)に入力される

ネットワーク再生時にデジタル回路からアナログ回路へのノイズの飛び込みを抑えるために入念なシールドを施すなど、MODEL40nはノイズ対策にも妥協はない。デジタル回路を内蔵することで音が悪くなるのでは? という疑問を払拭するため、できることはすべてやった感がある。音質に妥協せず音楽を聴きたいリスナーが選ぶことを想定し、ハイファイモデルにふさわしい作り込みを徹底しているのだ。

筐体内部
細長い銀色のシールドケース内に、デジタル回路を収納している

アンプの本質的な性能を測る指標の一つに瞬時供給電流がある。音楽信号の場合、大音圧で連続して鳴り続けることはまずないのだが、オーケストラのすべての楽器が同時に大きな音を出すフレーズなど、音が出る瞬間に注目すると小音量時とは桁違いの大電流が流れることがある。そんなとき、瞬時供給電流に余裕があればスケール感や押し出し感のある力強い音を引き出すことができるのだが、そのためには出力回路と電源回路を強化する必要がある。言い換えれば物量が物を言うということだ。

MODEL40nは増幅回路にパラレル・プッシュプル方式を導入し、電源回路に大型トロイダルトランスと大容量の電解コンデンサーを投入することで、68A(アンペア)に及ぶ瞬時供給電流を実現した。姉妹機PM8006の瞬時供給電流も45Aとかなり大きいが、MODEL40nはその1.5倍に相当する電流を供給できるのだ。

姉妹機などと比較しても、瞬時電流供給能力に優れている

組み合わせ試聴の目的と試聴方法

MODEL40nのアンプとしての実力がはたしてどれほどのものなのか。今回は、それを探るために音源とスピーカーをそれぞれ複数組み合わせてじっくり聴いてみることにした。

MODEL40nは入門機とは別格のスピーカー駆動力をうたっているが、実際はどうなのだろう。スピーカーについては、10万円前後の手頃なスピーカーからミドルレンジの実力機、さらにハイエンドの大型スピーカーまで組み合わせ、その実力を検証する。アンプやスピーカーの性能をチェックするためには、音源の種類もできるだけ多い方が良い。CD、ハイレゾファイル、ストリーミングなどの音楽ソースに加えて、UHD BD/BDの映画と音楽ソフト、さらに動画のストリーミングサービスでも再生音を確認する。

HEOSに対応しており、様々なストリーミングサービスから再生できる

筆者の仕事場兼試聴室にMODEL40nとスピーカー群を持ち込み、聴き慣れた環境で音を検証することにした。CD/SACDはエソテリックの「K-1X」、UHD-BD/BDはOPPOの「UDP-205」でそれぞれ再生し、ネットワーク再生はfidataのオーディオ用NASに保存したハイレゾ音源と、AmazonMusicのストリーミングを中心に検証。さらにAppleTVでベルリンフィルのデジタル・コンサートホールやドイツ・グラモフォンのSTAGE+などを視聴し、高音質映像配信のコンテンツも確認する。

AmazonMusicをストリーミング再生しているところ

組み合わせるスピーカーについて

今回の試聴では、組み合わせるテレビ(ソニー KJ-55A9F)の画面サイズ(55型)とのバランスも考えてブックシェルフ型のスピーカーを組み合わせることにした。

ソニー KJ-55A9Fと組み合わせて、映画のサウンドなどもチェックする

手頃な価格帯を代表する2ウェイモデルの代表として、まずはPolk AudioのReserveシリーズから「R200」(ペア103,400円)に白羽の矢を立てた。独自開発のリングラジエーター方式ツイーターとタービン形状の振動板を採用した16.5cmのウーファーを組み合わせ、バスレフポートも独自形状(Xポート)によってポートノイズの発生を抑えるなど、エントリー機とは一味違う音質改善技術が目を引く。感度は86dB(2.83V/1m)とやや低めながら、インピーダンスは4Ω、MODEL40nの出力はチャンネル当たり100Wに及ぶので、十分な音圧を得られるはずだ。

Polk Audioの「R200」

もう一台はミドルレンジの実力機としてB&Wの「706S3」(ペア352,000円から)を選んだ。独自設計のカーボンドームツイーターやコンティニュアムコーンを採用するバス/ミッドレンジユニットは700S3シリーズ共通のもので、上位の800D4シリーズから重要な技術を継承していることが重要なポイントだ。

B&Wの「706S3」

近年、B&Wのスピーカー群は世代交代を重ねる過程で実質的に一つ上のグレードに上がるほどの進化を遂げているが、700S3シリーズも例外ではなく、800シリーズとの差は以前より確実に小さくなっている。706S3はブックシェルフ型モデルの真ん中に位置し、ウーファーはR200と同じく16.5cm。感度は88dB(2.83V/1m)でインピーダンスは8Ω。鳴らしやすさはR200とほぼ同じと考えていい。

番外編として、大型フロアスタンディングスピーカーと組み合わせたときにどんな音が聴けるのかを探るために、筆者の試聴室でリファレンス(基準)スピーカーとして使っているウィルソンオーディオの「Sophia 3」とも組み合わせ、再生音を確認することにした。アンプとスピーカーの価格帯がかけ離れているので現実的とは言えないのだが、アンプの基本性能を確認するには大型スピーカーの方がわかりやすい面もあるので、試聴する意味はあるはずだ。

ちなみにMODEL40n背面のスピーカー端子は大型で配置にゆとりがあるので、普段使っているスピーカーケーブルのYラグ端子が問題なくつながる。AVアンプだと端子の間隔が狭く、バナナプラグなどに変換しないと接続できないことが多い。ハイファイ用アンプとAVアンプはこんなところにも違いがあるのだ。

Sophia 3
MODEL40n背面のスピーカー端子は大型で配置にゆとりがある

音楽ソースの試聴

【R200】

R200

MODEL40nで聴くR200のサウンドを一言で表すと、「聴きやすくまとまりのある音」という表現がぴったりだ。エッジを強めたり低音のビートを強調することがないので、音を出した瞬間のインパクトは控えめで、どちらかというと大人しく感じるかもしれないが、じっくり聴いていると旋律もリズムも肝心の音を力むことなく引き出していることに気付く。声もパーカッションも音が痩せず刺激的なきつさがないので、何時間聴いても耳への負担が強まる心配はなさそうだ。

デュア・リパの「ホームシック」(AmazonMusic 44.1kHz/24bit)は厚みのある柔らかい音色のピアノとボディ感豊かなヴォーカルが自然に溶け合って、身体を包み込むようなエコーが心地よい。一番高い音域まで声のにじみやふくらみがなく、デュオのフレーズでもリパの声が手前に浸透してくるので、韻を踏んだ各フレーズの歌詞の変化を正確に聴き取ることができた。

アラン・テイラー「ネイディーン」(AmazonMusic 44.1kHz/16bit)はアコースティックギターのスティール弦にきつさや硬さがなく、とても耳当たりの良い響きだ。ベースは少し緩めに聴こえるが、もともとテンションの高い曲ではないので、良い意味で脱力したヴォーカルの雰囲気が素直に伝わってくる。女性ヴォーカルもそうだが、R200は声のタッチに不自然な突っ張り感がなく、子音を強調することもないので、安心して浸ることができる。スピーカーの正面でじっくり聴くときだけでなく、小さめの音量でずっと流しておくような聴き方にも合いそうだ。

ロト指揮レ・シエクルのマーラー:交響曲第4番(CD)はソプラノ(サビーヌ・ドゥヴィエル)が独唱を歌う第4楽章を聴いた。クラリネットからオーボエ、フルートに受け渡す冒頭の旋律が柔らかくなめらかで、そのままソプラノ独唱につながる自然なフレージングが浮かび上がる。管弦楽がにぎやかな展開に転じてパーカッションや独奏ヴァイオリンが動きのある旋律を刻む部分でも、特定の楽器にエネルギーが偏ることがなく、オーケストラ全体のバランスがよく整っている。この曲で最も感心したのはドゥヴィエルの澄んだ声質を忠実に再現していることで、アンプとスピーカーどちらも固有の色付けが少ないことを物語っている。

再生中のアプリ画面

【706S3】

706S3

スピーカーを706S3に変えると、声や楽器のイメージにピタリとフォーカスが合い、ステージの隅々まで見通しが聴く風通しの良い音場が広がった。小型スピーカーのなかには空間再現力が抜きん出て高いものがあるが、この706S3もその代表格と言える。デュア・リパの「ビー・ザ・ワン」ではシンセサイザーとヴォーカルのエコーがスピーカーの外側に大きく広がり、大げさではなく部屋いっぱいに音の雲が広がるようなイメージだ。ヴォーカルの高音部は音量を上げてもきつさがなく、澄んだ声がどこまでも伸びていく。

アラン・テイラーのギターは立ち上がりが鋭く、一音一音が前に出てくるアグレッシブな雰囲気に満ちている。一方、低い音域でつぶやくように歌うヴォーカルの落ち着いたタッチはこの歌手の特長を忠実に引き出していて、一番低い音域での声の柔らかさと広がりも正確に再現した。鋭い音から柔らかい音まで、音色を描き分けるレンジが非常に広いスピーカーであることは間違いない。

706S3と組み合わせたところ

マーラーの交響曲ではステージの遠近感を素直に再現すると同時に、各楽器セクションの間のセパレーションの高さに感心させられた。フルートやオーボエが旋律を吹いているとき、その周囲への余韻の広がりにまで立体感が感じられることにも驚く。左右スピーカーの中央に浮かぶソプラノ独唱の音像も3次元の立体感があるが、エッジを立てることで音像の明瞭さを演出するのではなく、声のイメージ自体がピンポイントに定まって、しかも薄っぺらにならず、身体全体が響くボディ感もそなわる。弱音で歌う高音は繊細でかろやか、思わずため息が出るほど美しい。

【Sophia3】

大型のSophia3につなぎ変えると、低音成分を含むすべての楽器でリアリティが一気に高まり、グランドピアノならではの重量感やベースが押し出す一音一音の空気の動きに説得力が出てくる。30cmの大口径ウーファーは振動板の面積だけでなく振動系の重量も小型スピーカーとは比較にならないほど大きく、いったん振動するとその動きを止めにくくなる傾向がある。音符通りに動きを正確に制御して切れの良いリズムを再現するためには、アンプがスピーカーを正確に駆動する能力、特に瞬発力と動きを制動する性能が問われるため、大型スピーカーを鳴らすときはアンプの負荷も高くなってしまう。

MODEL40nが瞬時供給電流に余裕を持たせていることは記事前半で紹介したが、その成果はSophia3のような大型スピーカーを鳴らすとすぐに実感できる。マーラーの交響曲第4番終楽章の全奏部分で各楽器のアタックが低音から高音まで正確に揃うだけでなく、全楽器の動きが同期したときのエネルギー感が痩せ細ることがないのだ。特にティンパニと大太鼓が大音量で鳴った瞬間、腰が砕けず、芯のある音を引き出すことには驚いた。普段このスピーカーを鳴らしているパワーアンプに比べると皮の張りの強さがやや緩めに感じるとはいえ、演奏のテンションが下がるようなことはまったくなく、クライマックスの高揚感も見事に引き出すことができた。オーケストラの各楽器のセパレーション、ホール空間を満たす余韻の広がりなど、30万円未満のプリメインアンプで鳴らしているとは思えない説得力がある。

アラン・テイラー「ザ・トラベラー」の深々としたベースは、ウーファーが動かす空気の絶対量が大きく、ヴォーカルやギターを凌駕するエネルギーを蓄えているのだが、その低音に負けて声やギターがくぐもったり、鮮度を失うことは皆無だ。これはスピーカーの性能だけでなく、アンプの動的な解像力の高さにも理由がある。立ち上がりと減衰を正確に再現し、時間的な揺らぎやにじみで音色を曖昧にしないことが肝心なのだ。

映像ソースの試聴

【R200】

R200

テレビに入力したUDP-205の音声信号をHDMI ARC経由でMODEL40nに送り出し、UHD BDとBDの視聴を進める。この際音声フォーマットは、ディスクの仕様に関わらず、組み合わせたテレビ側の制約でPCM 48kHz/16bitになってしまうが、特に映画ではそこがボトルネックになるとは思えない。ただし、ハイレゾ音声を収録した音楽ソフトでは本来のクオリティを引き出せないこともありそうだ。96kHzや192kHzなどサンプリング周波数の高いハイレゾ音源をそのまま伝送できるように、テレビメーカーには早急な対応を望みたい。

R200との組み合わせで観た「トップガン マーヴェリック」は小型スピーカーとは思えないほど効果音の重心が低く、台詞に安定感がある。テレビの内蔵スピーカーと次元が異なるスケール感が味わえるのは当然のこととして、台詞の明瞭な発音や楽器や効果音の質感の高い音色など、上位グレードのサウンドバーでも太刀打ちできないクオリティ感がある。ハイファイグレードのアンプとスピーカーで聴くことのメリットは明白で、神経質な硬さのないR200の音調は映画の音響と相性が良い。

R200と組み合わせたところ

今回視聴した画面の高さとスピーカーの間隔だと映像との自然な一体感があり、ツイーターの高さが画面高さ方向の中心に位置するので音像定位にも偏りがない。左右への広がりは十分な余裕があるので、65型などひとまわり大きなテレビと組み合わせてもバランスの良い音が得られると思う。

ウィーンフィル「ニューイヤーコンサート2023」をR200で聴くと、ホールの空気を共有するような一体感があり、映像と音が自然に溶け合うような雰囲気を味わうことができた。演奏のディテールをもらさず再現するというより、ステージと客席の一体感や余韻に包まれる感覚を味わえることがR200の長所と言えそうだ。

AppleTVでデジタル・コンサートホールを再生し、画面の設定メニューからステレオを選んでハイレゾ音声を選ぶ。Apple TVとテレビの制約で音声は48kHz/16bitになってしまうのだが、今回聴いた映像系プログラムのなかでは、音の質感の高さを最も強く実感することができた。自然な帯域バランスのおかげで低音の支えが厚く、オラフソンの独奏で聴いたアダムズのピアノ協奏曲はスケールの大きさが格別だ。ベルリンのフィルハーモニー大ホールならではの開放的で広がりのある響きを忠実に再現し、4K映像にふさわしい解像度の高いサウンドが展開する。

【706S3】

706S3

R200に比べるとさらにハイファイ志向の強い音になり、「トップガン マーヴェリック」ではエンジン音に含まれる金属的な成分やタイヤのスキール音など、実在感の強いリアルな音を引き出すことができた。台詞は発音が明瞭で画面手前方向への浸透力が強く、効果音や音楽に埋もれず耳にまっすぐ届く。R200に比べると重心がやや高めに感じるが、効果音の切れの良さや空間の広がりは706S3の方が優位に立つ。低い音域でリズムを刻む音楽や効果音も含め、どの音域にも混濁がないので、見通しよく音場が広がるのだ。

ウィーンフィルのライヴは演奏会場の上方に抜ける余韻の広がりまで立体的に再現し、このホールの響きを熟知したウィーンフィルならではの切れの良い演奏を堪能することができた。ヴァイオリンやフルートの高音は付帯音のない伸びやかな音色が聴きどころで、金管と打楽器は大きめの音量で聴いても音像がぶれず、音がまっすぐ飛んでくる。ワルツやポルカのリズムに緩みがなく、演奏を前に進める推進力を強く意識させることもこのスピーカーの美点の一つだ。

デジタル・コンサートホールを706S3で再生すると、ホールで演奏家や聴衆と空気を共有しているような臨場感を体験することができた。同ストリーミングの4K映像の画質は年々改善が進み、昨年12月に収録されたアダムのピアノ協奏曲はオラフソンが見ているタブレット画面の譜面が読めるほどの解像力がある。ステレオ収録された音声もそれに見合う情報を確保しているのだが、その価値を引き出す手段がなければ本来の臨場感を味わうことはできない。テレビの内蔵スピーカーだと早々に停止ボタンを押したくなるほど低音が足りず、サウンドバーも大半のモデルでオーケストラ本来のバランスを再現することができない。映画では大きな不満を感じないシステムでも、クラシックの良質なライヴ映像では不満が募り、最後まで鑑賞するのがストレスにつながることがある。

MODEL40nと706S3の組み合わせで聴くと、そのストレスから解放され、安心して最後までコンサートを楽しむことができる。オーケストラだけでなく、STAGE+で配信が始まったオペラにも同じことが当てはまる。演奏に集中できるかどうかは音質で決まると言っても過言ではない。十分な満足感を味わうためには、中途半端な環境で妥協してはいけない。本格的なハイファイグレードのアンプとスピーカーを導入するのが正解だと強く確信した。

まとめ

音楽と映像のソースが多様化するにつれて、ピュアオーディオと映像それぞれに専用のシステムを用意するのは難しくなってきたし、現実問題としてリビングルームで2つのシステムを両立させるのは至難の業だ。今後は高音質な映像系ソースがストリーミングでも重要な位置を占めるようになりそうだし、ハイファイ機器側の対応を広げることへの要求はさらに強まるはずだ。

いまのところテレビの音とオーディオシステムの音には雲泥の差がある。その事実を痛感しているオーディオファンは、映像系ソースだけテレビの貧弱な音で我慢することに耐えがたいストレスを感じるはずだ。サウンドバーの音も以前に比べると良くなってきたが、音楽鑑賞のメインシステムとして使うにはまだまだ不十分だ。MODEL40nは本格的なオーディオシステムの中核として活用できると同時に、映像ソースからも本来の高音質を引き出すことができる。リビングルームの環境を音で激変させる絶好の機会を提供してくれるはずだ。

(協力:マランツ)

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。