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20世紀FOX副社長に聞く「BD支持」の理由
-映画スタジオにとっての著作権保護の重要性とは?



20世紀フォックスのダニー・ケイ副社長
 ハリウッドメジャーの一角であり、既にBlu-ray Discでのコンテンツ発売を行う意向を示している20世紀フォックス。

 前回、インタビューの中から速報として著作権保護技術AACSにおけるアナログHD出力制限に関する同社の意見をお伝えしたが、後編では同社がBD支持に回った理由として挙げていたBD+に対する意見やビジネス的な展望についてお伝えしたい。

 話は引き続き20世紀フォックス副社長のダニー・ケイ氏に伺っている。



■「将来、何も手出し出来なくなることは避けたい」

 さて、ややBD寄りのコメントを出しつつ、BDアソシエーションに参加していた20世紀フォックスだが、1月に今回と同じケイ氏に話を伺った時には「我々はあくまでも中立」との立場を明確にしていた。BDAへの参加に関しても、積極的にBDを支援するのが目的ではなく、DVD ForumでHD DVDに対して意見を述べるのと同じように、自らの要求をキチンと伝えることが目的としていた。

 加えてケイ氏はその時点で「今の時期に、まだ1年も先のフォーマットについてコミットしなければならない理由はない。それよりももっと重要な事、たとえば著作権保護に関する枠組みの話も決まらないうちに支持フォーマットを決める他スタジオの考えもわからない」と話していた。

 その20世紀フォックスがBD支持を表明したのは、それまでに懸念していた事項がフィックスしてきた事を示している。ではなぜ20世紀フォックスはBD支持を決め、そしてこの時期にアナウンスしたのだろうか。

ケイ:我々はこれまでに話してきたように、HD DVDとBDの両方に関して検討をし、その仕様や技術的な背景について調べてきました。その中でBDでの発売を決定したのは、BDがよりセキュアなシステムだからです。我々の要求する仕様を満たしたのはBDだけでした。それがBDを支持した理由です。

本田:AACSは128ビット暗号鍵を用いており、鍵の管理もより厳密になります。PCで動作するソフトウェアプレーヤーに関しても、インターネットを通じた定期的な鍵の更新が必要になりました。AACSの暗号化強度は十分なものだと考えていますか?

ケイ:暗号化技術に関して言えば、AACSの仕様な十分に高いセキュリティを持っていると考えています。問題はそこではありません。どんなに高いセキュリティ技術も、将来にわたって絶対に破られないという保証はありません。暗号化を破る事は不可能でも、将来、アジア圏でAACSの実装が不完全な再生装置が出回ったとき、ファームウェアのクラックは可能になるかも知れません。我々は様々な可能性について議論しなければなりません。

本田:DVDは初期の安全性が低いソフトウェアプレーヤーから鍵情報が漏れ、それがDeCSSを生み出し、現在は暗号の解除はとても容易になっています。これに対して、たとえクラックされたとしても、その後の対処が行えるかどうかが重要ということでしょうか?

ケイ:そうです。昨年の10月にBDAに参加して以来、BDAとDVD Forumの両方に対してクラックされた後の対処が可能なシステムを実装して欲しいと訴えてきました。その要求に対して、BDAのメンバーは真剣に検討し、そして仕様へと盛り込んでくれました。BD+を用いれば、クラックされた後で発売するコンテンツに関して、同じクラッキングを監視し、排除することが可能になります。


 ここでひとつ解説を加えておきたい。BD+はAACSに対してアドオンで付加される著作権保護技術として紹介されている。実際、BD+には映像を出力直前の段階でスクランブルする機能なども含まれているが、主な目的はクラッキングされたデバイスやソフトウェアプレーヤーの監視にある。

 監視するためのプログラムロジックはBD-ROMの中に収められ、BDプレーヤー内で動作する簡単な仮想マシン内部でのみ動作する。新しいクラッキング手法が現れた場合、コンテンツベンダーはその後製造するBD-ROMに、新しいクラック対策を施したプログラムを入れておけば、被害の拡大を防ぐことができるというわけだ。

 このほか特殊なマスタリング装置でのみ記録できるアナログのマークをBD-ROM内に記録し、それを読み取れない場合は商用コンテンツを再生できなくするという保護機能もBD+には含まれている。このマークはBD-RやBD-REには記録できないため、たとえ中身をデジタルデータでコピーしたとしても、プレーヤー側でそれをせき止める事も可能だ。

 このようにBD+は違法コピーガードというよりも、違法コピーガードのキャンセラーを無効化するための補助的なシステムと言えるだろう。元々はCRIという会社の技術だが、これを家電向けに松下電器とソニーが仕様を変更し、BD+として発表している。


ケイ:我々は単純にセキュリティを強化するというのではなく、新しいアビリティ(能力)としてシステムクラックへの対応性を求めました。BD+を用いれば、我々コンテンツベンダーは自分自身でクラックに対して対応できます。一度破られれば、あとはいつまでもコピーされ放題ではビジネスの根幹に関わります。


■ 高付加価値のコンテンツ制作基盤である事

20世紀フォックス
 20世紀フォックスはまた、BDにおけるインタラクティブ機能としてHDMV(DVDのメニュー機能などを大幅に強化したビデオアプリケーション制作のためのツールセット仕様でBD-ROM向けに開発されているもの)に加え、Javaベースのアプリケーション実行環境の実装も強く推し進めたとも言われている。

 結局、BD-ROMにはJavaによるアプリケーションも仕様として盛り込まれる事が決定した。しかしこの際、ディズニーは自らも共同開発者として参加していたiHDを諦める代わりに、ピクチャーインピクチャーを始めとする+αのインタラクティブ機能を盛り込む事を求めた。

 だが本当にそこまでの機能が使われるのか。DVDにおけるアングル切り替えのように、ほとんど使われない可能性もある。その上、ビデオの重ね合わせなどの機能は製品への実装面でコストが高く、プレーヤーコストの削減に影響を来すかもしれない。

本田:コンテンツベンダーはインタラクティブ機能強化を訴え続けてきたが、やややり過ぎの感もある。シリコン上の実装を軽くし、プレーヤーの普及を促すためにも、インタラクティブ機能はもう少し軽くすべきではなかったのか?

ケイ:インタラクティビリティは、コンシューマ向けパッケージにおいて重要な機能になると我々は考えています。次世代光ディスクでは、これまで家庭では体験できていない新しい高画質のコンテンツが販売されるようになります。これはHD放送とは比べものにならない品質になります。その品質に見合うだけの商品パッケージとしての魅力を出すには、ユーザーに対して単に映像を見る以外のアクティビティも提供していかなければならないと思います。

本田:現在のDVDパッケージは、確かに特典映像を好む一部ユーザーはいるものの、その多くは映像そのものの中身にしか興味がないように見えます。

ケイ:映像の品質だけでなく、様々な切り口から付加価値を創造していかなければならないということです。たとえばゲーム機も世代が変わるごと、性能やグラフィックを強化するだけでなく、HDDやネットワークなど新たな切り口でコンテンツの可能性を広げていますよね。それと同じ事です。

 重要なのは現状で考えるのではなく、将来、HDパッケージソフトが普及した時に、新しいアプリケーションの可能性が生まれる道を閉ざさないということです。つまり早期立ち上げのための付加価値創出と、将来にわたっての発展性の両面でインタラクティブ機能の強化は必要なことだと考えています。

本田:ではBDが備えているインタラクティブ機能に関して、20世紀フォックスは十分な潜在能力があると考えていますか?

ケイ:ええ。一緒にBDAの中で話し合っていますから、十分なものに仕上がっていると思います。


■「製造コストの差など2~3年で解決する些細な問題だ」

本田:北米では今年年末から来年3月へと延期されたHD DVDプレーヤーの発売ですが、現時点において東芝は日本において12月中にプレーヤー発売を果たすとしています。HD DVDの容量、セキュリティ機能、そしてビジネス面での可能性についてどのように考えているのでしょう?

ケイ:それは答えることができません。

本田:ではHD DVDに対してコンテンツを提供する可能性はあるのでしょうか?

ケイ:それも答えられません。我々が決めているのはBDを用いてコンテンツを発売するという事だけで、HD DVDに対しての評価は発表していません。同様にBD向けに発売するタイトルの具体的な名前についても何も言えませんよ(笑)。特にスターウォーズに関してはジョージ(ルーカス)に訊いてもらわないと。

本田:BD-ROMの複製コストに関してBDとHD DVDの差について昨年は語られることが多かった。では現時点のステータスにおいて、両者のコストの違いはビジネス上の障害となり得ると思いますか?

ケイ:両者の複製コスト差は、トータルのコストから見れば全く存在しないようなものです。そもそも立ち上げ初期の段階で気にする問題ではありません。2~3年経過しパッケージソフトが揃ってきた頃考えるべき問題であり、そのころには差はなくなっているでしょう。我々はその点に関して全く気にしていません。

本田:来年、BD向けにソフトが発売された後、HDビデオパッケージのビジネスはどのように推移すると考えていますか?

ケイ:初期の段階はDVDと同じように推移すると思います。少しずつ認知が広がり、DVDとは全く別のマーケットとして構成されていくと考えます。DVDほど大きなビジネスになるとは思いませんが、DVDとBDの両方を合わせることで、DVDだけの場合よりも市場サイズをプラスに持って行けるでしょう。

本田:タイムフレームで見た時の普及速度に関してはどのように見ていますか?

ケイ:2006年にリリースし、2007年いっぱいまでは初期の高品質コンテンツに興味のあるユーザー層のみが市場を形成することになると思います。DVDを購入する層の、さらに10~15%が興味を持つ小さな市場です。これはおそらく日本市場でも同じぐらいの割合だと思います。最初の2年はHDパッケージコンテンツを認知してもらい、市場の基礎を創り出す時期だと考えていますから高望みはしていません

 DVDは様々な切り口において非常に強い市場基盤を築いていますが、一方でDVDは今後様々な問題から大きな成長も望めません。そこにHDパッケージコンテンツが加わるからこそ少しずつでも成長できるというのが我々の考えです。HDコンテンツが十分に楽しめる画質のテレビが普及するにつれ、ゆっくりと成長するでしょう。

本田:そうした緩やかな成長カーブの中では、光ディスクからブロードバンドネットワークへのメディア革新が同時進行し、結局は次世代光ディスクそのものが幻に終わるという可能性は考えていませんか? たとえばインテルはブロードバンドでのネットワーク配信の普及を目指してViivというAVパソコンのプラットフォーム推進を行なおうとしています。

ケイ:明らかな事は、物理的なモノとしての価値を、ネットワークコンテンツで置き換える事はできないという事です。電子ブックは紙の本を上回るでしょうか? 将来はあり得るかもしれませんが、今の電子ブックは紙の本を上回る品質と使い勝手、それにモノとしての価値を実現してくれません。

 同様に映像コンテンツに関しても、クオリティ、体験レベルなど何でもかまいませんが、次世代光ディスクを乗り越えるだけのパワーが現在のブロードバンドコンテンツにはありません。将来、光ディスクを乗り越える可能性はあるかもしれませんが、その時期が近いとは考えていません。


□AACS LAのホームページ
http://www.aacsla.jp/
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(2005年9月27日)

[Reported by 本田雅一]


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