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日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2007」を5月24日から27日まで実施する。入場は無料。公開に先立つ22日、マスコミ向けの展示が行なわれた。
スーパーハイビジョンのレポートに続き、ここではその次のテレビとして開発が進められている立体テレビや、ワンセグ関連の展示を紹介する。
■ 立体テレビ 「スーパーハイビジョンの次のテレビ」も検討が進められている。NHKでは「スーパーハイビジョンは2次元の究極映像」と位置付けており、その次のテレビとしては立体テレビの実現を目指している。 今回の展示では、撮影時に微小レンズを大量に並べたレンズアレーを通して撮影を行ない、表示も同アレーを通して再生することで、多くの視点から見た映像を一度に撮影/表示する「インテグラル式」の立体テレビを紹介している。 これまでの研究では、レンズアレーを通すことで解像度が低下することや、正しい立体映像を見ることができる範囲(視域)が狭いことが問題だった。そこで、スーパーハイビジョンの技術を導入。従来の約2倍に視域を拡大することに成功している。
ほかにも、インテグラル式で撮影した映像をホログラムに変換する技術も開発。ホログラム撮影にはレーザー光が必要なため、人体や風景の撮影には向かなかった。そこで、インテグラル式の立体映像からホログラムに変換することで、自然光で撮影した動画像をホログラフィで立体表示できるようになっている。
■ オンデマンド配信サービスは最速で2008年4月から 近々に実施されそうなサービスの展示としては、「アーカイブス・オンデマンド サービス」が挙げられる。放送通信連携のサーバー型サービスの第一歩として予定されているもので、NHKが放送した番組を、ネットを通じて好きなときに視聴できるようになるというもの。 ブースではPCから、ブラウザでアクセスするタイプに加え、PC用専用アプリを使ったもの、Windows VistaのMedia Center用画面なども用意。サービス実現に向け、具体的な作業に入っていることを伺わせる。映像はSD解像度で、フォーマットはWMV。ビットレートは1.5Mbps程度を想定。著作権保護にはWM DRMが使われる。ニュースや連続ドラマはストリーミングで、アーカイブスはダウンロード型の配信を予定している。 有料サービスになる予定だが、1コンテンツあたりの価格や料金体系は未定。サービス開始時期については、「現在の法律(放送法)では、NHKはこうしたサービスができない。今の国会で法改正が成立すれば、最短で2008年4月にもスタートできる。その次の国会にずれ込んでも、2008年中には実施できる見込み」だという。
ほかにも、「Marlin DRM」を使ったアクトビラでの配信イメージデモや、次世代ネットワーク(NGN)を通じて、QoS(通信品質を保証する機能)を使用して、10MbpsのMPEG-4 AVC/H.264 HD映像を安定配信するデモなどを実施。将来的に予定している携帯電話向け映像配信も紹介されている。
さらに、通信を利用しない、衛星放送を利用した大容量映像ファイルのダウンロード蓄積型サービスも検討。HDDレコーダなどにコンテンツを蓄積しておき、擬似的なオンデマンドサービスを提供するもので、番組に付随するメタデータを活用し、ニュースに関連した番組を視聴者に提示するなど、様々なサービスが検討されている。将来的にはレコーダに導入し、ストリーミングのオンデマンドサービスとのシームレスな連携も想定。ネットワーク回線の圧迫を防ぐという。
■ ワンセグも進化 現在のワンセグ放送は、地下鉄や地下街など、電波が届かない場所では受信できず、別途地上デジタル放送の再送信設備が必要になっている。しかし、このような場所では必ずしも12セグメントのデータは必要ではない。そこで、デジタル放送波から、各チャンネルのワンセグ放送のみを取り出し、これらを連結して1つの信号にして、放送局のチャンネルとは異なるチャンネルで再送信する「ワンセグ連結再送信システム」が開発された。 ワンセグのみを再送信するため、地デジをそのまま再送信するのに比べ、送信電力を抑えられるという利点がある。また、受信チャンネルとは別のチャンネルで送信するため、混信の心配がない。また、最大で13個のワンセグが送信できるため、放送局のワンセグに加え、地下街の紹介映像など、地域独自のワンセグを一緒に提供できるのも特徴。 なお、現在発売されているワンセグ機器は、放送局電波の真ん中にあるワンセグデータのみを受信するようになっているため、そのままでは再送信ワンセグが全て受信できないという。ファームウェアのアップデートなどで対応できる機種も存在するが、基本的にはこのシステムの受信を想定して開発する必要がある。NHKではこのシステムを広く提案し、対応機器の拡大にも努めたいという。
ほかにも、デジタル放送に含まれる緊急警報放送に反応し、自動的にワンセグ端末を起動させるアダプタを開発。0.2秒ごとに送信されるワンセグの起動フラグを間欠的に受信することで、低消費電力化を測り、1週間程度の連続待ち受けができるという。また、ワンセグの搬送波432本のうち、4本の緊急警報放送起動フラグを全て受信することで、受信感度も向上させている。 将来的には、チューナ内のチップに、緊急警報感知機能を盛り込み、アダプタを必要としない対応ワンセグ端末を目指すという。
■ その他 民生用レコーダに投入できそうな機能としては、メタデータを使ったマルチメディア百科事典の自動生成機能や、自動番組紹介ビデオ作成機能が挙げられる。前者は番組に付随するメタデータを利用して、キーワードごとに、その動物や人物や登場しているシーンへのリンクを作成するというもの。 動物の名前から、その動物の行動まで、番組のナレーションデータを基に動画を解析し、番組の中から該当するシーンをピックアップする。「この動物の大きさはどのくらいでしょう?」といったQ&Aのみをピックアップする機能も備えており、別途質問と回答のみを見ることもできる。 自動番組紹介ビデオ作成は、前述の機能を応用したもので、1時間番組などから自動的に30秒程度の紹介映像を作成するというもの。番組のEPGデータを解析し、その番組内の特徴であるシーンをまとめたものを作成してくれるという。
スーパーハイビジョン用に作られた、800万画素の撮像素子を通常のハイビジョン(1080/60p)に流用した、単板式のハイビジョンカメラも試作されている。これまでの放送用3板式カメラは200万画素の素子を3枚使っていたが、800万画素の単板式とすることで、分光光学プリズムが不要となり、光学部の小型化を実現。小型かつ安価ながら、画素数が多いため、より高解像度の撮影ができるという。 15,000rpmという高速回転を実演するため、0.1mm厚という超薄型の基板を用いた光ディスクも開発。放送用ハイビジョンVTRと同等の記録速度である250Mbpsを実現するため、高速回転させており、書き込み時には、平坦な安定化板(ガイド)に近接させて回転させる。近接させることで薄い空気層が発生し、ディスクはガイドに直接触れていないが、張り付くように回転する。 記録フォーマットには、Blu-rayと同じ青紫レーザーを使ったXDCAM-HDを採用。ディスクが薄いため、大量の枚数を重ねることが可能。次世代アーカイブ用記録メディアとしての適用を目指している。
□NHKのホームページ
(2007年5月23日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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