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新たなHDR映像体験を目指す「Dolby Vision」。Ultra HD BD対応もまもなく?

 ドルビージャパンは9日、HDR対応の新世代映像フォーマット「Dolby Vision(ドルビービジョン)」説明会を開催した。今春、LGから、Dolby Vision対応の4K有機ELテレビ「OLED E6P」シリーズ4K液晶テレビ「UH8500シリーズ」が発売され、映像配信サービスのNetflixが「マルコ・ポーロ」の4K/HDR配信を開始するなど、Dolby Visionを実際に体感できる環境が整った。Dolby Visionによる高画質化技術や他のHDR方式との違い、高画質化へ向けたDolbyの取り組みなどが解説された。

Dolby Vision対応のLG「65E6P」

人間の体験の再現を目指すDolby Vision

 Dolby Visionは、映像のダイナミックレンジを高め、コントラストや色表現力を改善する映像技術。

 ドルビージャパン 事業開発部ディレクター 真野克己氏は、「これまでの“画質向上”は、解像度やフレームレートを上げるという方法が多かった。もちろんそれも大事だが、映像において重要なのは、コントラストや色。そこに10年かけてDolbyが取り組んだものがDolby Vision」と紹介し、HDRへの誤解として“明るいだけ”という意見があるが、「人間の目で見た光景に近いダイナミックレンジや、自然な色、奥行きを表現できる技術」とする。

ドルビージャパン 事業開発部ディレクター 真野克己氏

 真野氏は、花火を背負った人の写真を紹介。HDR撮影したDolby Visionコンテンツだが、SDR(標準画質)で見ると暗がりの中を花火を背負う人の姿だが、HDR/Dolby Visionで見ると、群衆の中で花火を背負っていることがわかる。また、暗い洞窟から明るい山々の風景を撮影したり、金属素材の反射光など、HDRだからこそ可能となる映像表現があることを強調した。

SDR映像
HDR化では周囲に人がいることがわかり、また明暗差や色の違いも明白

 Dolby Visionにおいては、明るさ10,000nits、暗さも0.005nitsが規定されている。放送やBDなどの映像制作で用いられる規格「REC.709」では、明るさは最大100nit、暗さは0.117nitsが基準となっており、現在制作されている多くのコンテンツ(SDR)はこのREC.709に準拠している。

 人間の視覚は、20,000nitsまでの明るさから0.001nitsの暗さまでを認識できるとされているが、輝度のダイナミックレンジが広がることで、表現できる色域(カラーボリューム)も広がる。しかし、数十年来続いてきた、REC.709による製作、流通、視聴プロセスでは、輝度ダイナミックレンジや色の制限により本来の映像表現が損なわれている。それを、Dolby Visionに準拠したプロセスに変更することで、映像表現の制約を解消し、より高画質、リアリティある映像を実現するのが、Dolby Visionの狙いだ。

SDR
HDR。輝度ダイナミックレンジの拡大が色表現の向上に繋がる
各プロセスでDolby Vision対応

 Dolby Visionの明るさ10,000nit、暗さ0.005nitという基準は、数多くの被験者による主観テストの結果などを踏まえて決定。カメラの絞り値相当では、これまでのREC.709では10段(10stops)相当だったものが、Dolby Visionでは19stopsにまで拡張される。人間の視覚のダイナミックレンジは約24stopsで、Dolby Visionではこれにかなり近づく性能を持つことになる。

REC.709では、制作、流通、表示プロセスで大幅に情報が削減される

 0.005nit~10,000nitという広大なダイナミックレンジをもつDolby Vision。ただし、ガンマ圧縮して量子化しても、輝度階調は14bitを超えてしまい「商業利用では使えなくなってしまう」という。データが膨大になるだけでなく、SDIやHDMIなどのインターフェイスは12bitまで、さらに14bit対応のレコーダも存在しないなど課題が多い。

 そこでドルビーが開発したものが、PQカーブ(Perceptual Quantizer Curve)という、人間の視覚特性に沿ったガンマカーブだ。PQカーブを用いてハイダイナミックレンジ映像を変換することで、12bit内に収めることができるため、現行技術を少し拡張するだけでHDRを実現可能にする。PQカーブは、ディスプレイや映像制作機器での採用を前提に、SMPTE「ST2084」として標準化。ST2084はUltra HD Blu-rayでも採用される業界標準となっている。

PQカーブにより、実用的なHDR方式を実現

UHD BDのHDR10に対するDolby Visionの優位性とは?

 一方、Ultra HD Blu-rayで使われているHDR技術は「HDR10」というもの。HDR10もPQ(ST2084)を用いているが、メタデータの扱いがHDR10だとタイトル毎に規定され、Dolby Visionではシーン毎に設定できる点が大きな違いという。

 現在の民生用ディスプレイでは液晶テレビのハイエンドモデルでも1,000nit超で、10,000nitというDolby Visionの明るさは必要以上に高く見える。実際、映画における平均画面輝度は25~40nitで、これはHDR化されても変わらない。ただし、画面のある一点の光の反射など10,000nitを大きく超える、というシーンも多い。こうした、小さな光源などの表現の違いが、全体的な画質や質感の違いに繋がることもあるため、不必要に高いスペックというわけではないという。

 HDR10では、タイトルごとに「最大輝度1,000nit」等の静的なメタデータを持ち、そこからシーン毎の輝度を相対値で決めていく。一方、Dolby Visionでは、シーン毎に輝度情報などのメタデータを持つほか、より細かな制御を行なう場合にはフレームごとでもメタデータを持つこともでき、そのデータをLEDバックライト制御などに活かせるという。そのため、より正確かつ効率的にダイナミックレンジを高めることができるという。

 また、メタデータを用いることで、効率的に輝度データをダウンマッピングできるため、対応コンテンツであれば、400nit程度の低価格な液晶テレビで1,000nitに迫る表現が行なえるなど、画質向上が見込めるのもDolby Visionの特徴という。さらに、例えば4,000nitを想定して製作されたコンテンツであれば、将来的にテレビの性能が1,500nit、2,000nitと向上していった場合、テレビを買い換えれば、同じコンテンツの実力をいっそう引き出せるようになるという。

 日本では、NetflixがマルコポーロのDolby Vision方式でのHDR配信を開始(HDR10と併用)。また、ひかりTVも今夏にDolby Vision対応するほか、Amazonビデオもまもなく対応予定という。

 一方、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)は、HDR10が必須で、Dolby Visionはオプションとなっている。現時点ではDolby Vision対応のUHD BDプレーヤーやタイトルは発売されていないものの、準備は進んでいるという。

 Dolby Visionでは、ベースレイヤー(BL)と呼ばれる基本情報と、エンハンスメントレイヤー(EL)と呼ばれる追加情報をあわせて伝送し、再生機器のDolby Visionデコーダにおいて、出力先のDolby Vision対応を判別。Dolby Vision非対応の場合はBLのみを適用し、通常のSDRとして出力、Dolby Vision対応の場合はBL+ELを伝送し、Dolby VisionのHDRとして出力する。ELの容量はBLの25%以下となっている。

Dolby Visionのデコーダ/コンポーザー構成

 UHD BDの場合は、10bitのHDR10をベースとし、Dolby Vision非対応機器にはHDR10を出力。対応機器の場合は、HDR10の信号に、ELとメタデータを加えて12bit相当化してDolby Vision出力する。ただし、BLとELで2系統のHEVCデータを扱うため、映像処理チップ側の対応が必要となる。2つのレイヤーをデコードするため、4K/60pのUHD BDコンテンツでは、2つのHEVCデコーダが必要になるなどプレーヤー側の対応に課題はある。ただし、4K/24pであれば時分割処理による1チップ処理が可能で、既に対応チップも完成しているという。

1つのマスターで様々な機器に対応。全てのディスプレイをターゲットに

 また、Dolby Visionの大きな特徴が、一度マスターを作れば、映画、BD、Netflixなどの配信サービスなど、様々なメディア特性にあわせたデータをほぼ自動で生成可能となること。マスターから、Content Mapping Unit(CMU)を介して、HDRコンテンツと放送や配信で使うREC.709コンテンツを同時に製作可能という。マスターからBDを作るといった場合でも、「ディレクターズインテント(製作者の意図)を反映させる必要はあるが、95%は自動化できる」とのこと。

 また日本においても、Dolby Visionの制作環境導入を進めており、IMAGICAはCMUを導入済みでソニーPCLも準備をすすめている。今後、日本においてもDolby Visionコンテンツ制作が行なえる環境が整いつつあるとする。

 海外では、Dolby Cinemaの名称で、Dolby Vision、Dolby Atomsなどを組み合わせた最新シアター展開も行なっているが、日本の展開は未定。ただし「前に進んでいる」とのこと。

Dolby Cinemaの日本展開に向けた準備も進めている

 ハリウッド・スタジオも、ワーナー、ソニー、MGM、ユニバーサルがDolby Visionを支持しており、特にワーナーが積極的とのこと。今後はライブ放送などにおいても、Dolby Vision対応を進めていく方針。

 対応テレビは、LGのほか、VIZIO、Skyworth、TCLなどが発売済み。さらにSTBやメディアアダプタ/プレーヤー、タブレットなど様々な製品でのDolby Vision対応を目指しており、「消費者が映像を見る全てのデバイスが、Dolby Visionのターゲット」という。