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“コンテンツとハードの環”が広がるDolby Vision。'17年にUHD BD再生機も対応へ

 ドルビージャパンは26日、HDR(ハイダイナミックレンジ)映像の「Dolby Vision(ドルビービジョン)」での映像制作、配信環境などを紹介するイベント「Dolby Vision Day 2016」を、パートナー企業などに向けて開催した。

 ドルビービジョンで制作から配信、再生までの環境が整ったことを受けて、パートナー各社によるデモを交えて紹介。動画配信や製品における採用事例や、実際のHDR制作ワークフローなどが、AV機器メーカーやコンテンツ制作者などに紹介された。

制作から配信まで、Dolby Visionエコシステムが充実

 映像のダイナミックレンジを高め、コントラストや色表現を改善するDolby Visionは、明るさ10,000nits、暗さ0.005nitsを規定。放送やBDなどの映像制作で用いられる「REC.709」規格は明るさ100nits、暗さは0.117nitsが基準のため、これをDolby Visionに準拠したプロセスに変更することで、映像表現の制約を解消し、より高画質、リアリティある映像の普及を目指している。

 国内では映像配信のNetflixがDolby Vision対応コンテンツを配信し、直近では海外ドラマ「マルコ・ポーロ」の第2シーズンもHDRで配信開始。LGの有機ELテレビ「E6P」シリーズや「C6P」シリーズ、液晶テレビ「UH8500シリーズ」と組み合わせることでDolby Visionの高画質で楽しめる。

LG製有機ELテレビの「55E6P」を使って、Netflixの「マルコ・ポーロ」をDolby Visionで視聴

 米国では、VUDUやAmazonビデオでもDolby Vision映像配信が開始。海外の対応テレビとしては米VIZIOや、中国のTCL、Skyworthが発売。MediatekやRealtekを含むSoCチップメーカーもパートナーとなっており、テレビに接続してDolby Visionコンテンツが楽しめる対応STBなどの開発も進められている。

 ドルビージャパンの大沢幸弘社長は、「これまで提唱してきたHDRの波が、市場にも押し押せてきた。解像度については、小さなテレビでは識別できないほどの上限に向けて挑戦されてきたが、HDR分野では“対応かそうでないか”くらいしか語られていない。Dolby Visionなら“最高のHDR”が使われていることになり、テレビ選びの新しい基準になる」とアピール。HDR10など他方式との違いとして、シーンごと/フレームごとにメタデータを持ち、映像に応じて正確かつ効率的にダイナミックレンジを高められるといった、Dolby Visionの優位性を強調した。

ドルビージャパンの大沢幸弘社長

 技術的な特徴だけでなく、映画分野での浸透や、制作環境の充実などにも触れ、編集ツールでもソニーDADCやScenaristなどがDolby Vision対応することを紹介。「Dolby Visionエコシステムができ上がりつつある」と述べた。

 国内でのDolby Vision採用事例においては、LG製テレビ以外の対応について、具体的な発表はなかった。しかし、グローバルでの動向について説明した米Dolby Laboratoriesのコンシューマーイメージング担当バイスプレジデント ローランド・ヴライク氏は、「他のブランドでの対応も進められていて、数カ月後には新たな発表ができるだろう。STB向けにも対応が進めれている。Ultra HD Blu-ray(UHD BD)プレーヤーのDolby Vision対応モデルは'17年内に販売されるだろう」との予測を示した。

米Dolby Laboratoriesのコンシューマーイメージング担当バイスプレジデント ローランド・ヴライク氏

 この他、海外では映画館の取り組みとしてDolby Vision映像とDolby Atmos音声を組み合わせた「Dolby Cinema(ドルビーシネマ)」も進められている。米国や欧州、中国で採用事例がある。日本での採用について具体的な時期や場所などは示されなかったが、大沢社長は「(劇場での)Dolby Atmos採用は既に20館単位で普及しており、候補地はたくさんある」とした。

 イベント会場内には、パートナー企業によるHDR映像制作のデモブースも用意された。

 収録については、グラスバレーがHD/3G/ハイスピード対応カメラ「LDX 86シリーズ」からHDR対応モニターへのリアルタイム出力をデモ。ドルビーが映像制作向けに開発した「Maui」モニターで2,000nits表示。2K解像度ではあるが、SDRモニターと並べると、白飛びを抑えつつ暗部の階調も損なわずに表現できる点を紹介した。

グラスバレーがHD/3G/ハイスピード対応カメラ「LDX 86シリーズ」からモニターへリアルタイム出力。モニターは左側はHDRのドルビー「Maui」、右がSDR

 ドルビーのMauiモニターは、青色LEDを光源とし、赤と緑には量子ドットを使用。LEDを個別駆動し、高いコントラストを実現しつつ、発光効率の高い青色LEDにより消費電力を170Wに抑えている点などが特徴。

 IMAGICAは、キヤノンやBlackmagic Designと共同で、HDR制作環境のブースを再現。キヤノンが、試作機として2,000nitsのHDR対応モニターを用意し、HDRカラーグレーディングに対応したBlackmagic Designの「DaVinci Resolve」を使用し、HDR制作のコンテンツをカラーグレーディングして、それを元にSDRコンテンツにも最適化した形で色補正を行なうといった作業を紹介。DaVinci Resolveは'14年からHDR対応を開始し、ディズニーのDolby Vision対応作品である「トゥモローランド」の制作にも使用されたという。

IMAGICA、キヤノン、Blackmagic Designの共同ブース

 この他にも、AVID「Media Composer」の最新版となるVer.8.5.3や、FilmlightによるHDRグレーディングシステムなどが紹介された。

AVID「Media Composer」
FilmlightによるHDRグレーディングシステム

 また、Dolby Vision映像とDolby Atmosサラウンド音声を組み合わせたホームシアターのデモも実施。米国で配信されているVUDUを今回に合わせて特別に受信できるようにし、映画「パシフィック・リム」と「バットマン vs スーパーマン」がDolby Visionで上映された。

VUDUで配信されているDolby Visison/AtmosコンテンツをAVアンプで再生

LGやひかりTVなど、Dolby Vision支持の理由

 現時点では日本で唯一、Dolby Vision対応テレビを展開しているLGエレクトロニクス・ジャパンの李 仁奎社長は、自発光による色彩の豊かさや、黒の沈み込みといった有機ELの特徴と、HDRの親和性の高さをアピール。「人間の目に近い映像のDolby Vision映像がNetflixで始まり、今後は各社のコンテンツも揃ってくるため、映画館の臨場感が自宅でも楽しめる」とした。

LGエレクトロニクス・ジャパンの李 仁奎社長

 映像配信のひかりTVでは、8月下旬からはひかりTV 4K HDRにDolby Vision対応コンテンツとしてフリースタイル・モトクロスの「Red Bull X-Fighters World Tour Stop Abu Dhabi 2015」を配信予定。NTTぷららの取締役 技術本部長 永田勝美氏は、4KやHDRへの配信の取り組みと、コンテンツ制作に向けた他社との協力などを紹介。HDR 10やHLG(Hybrid Log-Gamma)といった他の方式とDolby Visionの仕様を比較しながら「目指すコンテンツに近い形」と評価した。

NTTぷららの取締役 技術本部長 永田勝美氏
Dolby Visionと他のHDRの比較チャート
「Red Bull X-Fighters World Tour Stop Abu Dhabi 2015」のDolby Vision配信は8月下旬開始

 また、AV評論家の麻倉怜士氏も登壇。Dolby Visionで白ピークが10,000nits、黒は0.005nitsという基準に至るまで、人間の目でテストを重ねた結果であることを説明。また、EOTF(電光変換ガンマカーブ)をPQカーブに決めた理由について、10,000nitsでは12bit PQが最も効率良いとされた研究を紹介。これがSMPTE ST2084規格となり、UHD BDにも採用されたHDR10規格の上限が10,000nitsになったことから「すべてのHDRはDolby Visionが元祖」とした。

麻倉怜士氏
麻倉氏によるDolby Visionのポイント