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“ライブの熱気”も届けるIIJのハイレゾ配信「PrimeSeat」。400万円システムで聴いた
2017年1月18日 18:10
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、コンサートやラジオなどをハイレゾでストリーミング配信している「PrimeSeat」のサービス開始1周年を記念した体験会を報道関係者向けに開催した。
IIJは、大規模コンテンツ配信サービスのノウハウを活かした高音質ストリーミング配信を行なっており、2015年4月にベルリン・フィルの演奏会をハイレゾのDSD 5.6MHzでライブ配信する公開実験に、ソニーやコルグ、サイデラ・パラディソとの協力で成功。同12月よりハイレゾ音源によるストリーミングサービスとして「PrimeSeat」をスタートし、音楽配信事業へ参入してから1年を迎えている。
PrimeSeatは、パソコン用の無料ソフトを用いて再生可能。別途USB DACなどを用いることで、ハイレゾなど音源の高音質をそのまま楽しめる。配信音質やフォーマットは、DSD 5.6MHz/2.8MHzや、PCM 44.1~192kHz/24bitで作品によって異なる。ラジオ形式などの無料コンテンツも用意。音源は暗号化して送信され、PCなどに残らないようにするセキュアなストリーミング方式も特徴としている。対応OSはWindows 7/8.1/10とmacOS 10.9~10.12。
現在は音楽コンサートのDSDライブ配信のほか、無料のオンデマンドコンテンツとして、ベルリン・フィル定期演奏会のハイレゾ音源(PCM 48kHz/24bit)マスターを使用した「ベルリン・フィル アワー(2017年版)」や、有料ではオランダ・アムステルダムのコンセルトヘボウ大ホールで開催されるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートを日本限定のプログラムにした「RCO Live PrimeSeat Special」などを展開。また、インターネットラジオ形式で、アーティストへのインタビューや、環境音作品などの配信も行なっているほか、IIJ初のオリジナルサウンドドラマ「双子とアンドロイドはいつも空腹」(声の出演:藤田咲、沼倉愛美、広瀬裕也)も配信している。
400万円超の本格システムで体験。ホールによる音の違いも明確に
今回の試聴会には、PrimeSeat推奨機器のUSB DACとして英Chordの「DAVE」(150万円)を用意。それに組み合わせるパワーアンプとしてChord「SPM1200 MkII」(156万円)、スピーカーは、テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)の「Micro Evolution One TAD-ME1」(1本50万円)がセレクトされた。
なお、PrimeSeat推奨のDACには、コルグ「DS-DAC-100」や、マランツ「HD-AMP1」、デノン「DNP-2500NE」などもあり、詳細はPrimeSeatのサイトで案内している。なお、IIJはPrimeSeat機器認証プログラムを実施しており、認証されたメーカーは、対象の機器にPrimeSeatのロゴなどを使用可能。メーカーに対して参加を案内している。
DAVEなどChord製品の輸入代理を行なうタイムロードの村上遼氏が、今回の試聴会にあたり機器の選定やセッティングなどを担当。「PCに内蔵されたDACでも音は鳴るが、ミュージシャンやアーティスト、指揮者、エンジニアの思いがスポイルされてしまう」とし、今回は“プレミアムコンパクト”をテーマに機器を選んだという。設計から製造まで英国で行なっているChordからは、FPGAを用いた独自設計のアルゴリズムでデジタルオーディオ処理を行なうDACの「DAVE」や、Chordオリジナル電源技術「SMPS」を用いた、小型ながら協力なドライブ力と繊細さを持つ「SPM1200 MkII」を用意。これらに、国産のハイエンドスピーカー技術を最小サイズのボディに凝縮したTADの「ME-1」を、“相性のいい組み合わせ”として提案した。
コンテンツのクオリティを確認するために、まずはSpotifyやAWAなど多くの音楽配信サービスにおける最高クラスの音質とされる320kbpsの圧縮音源と、PrimeSeatのハイレゾ音源と比較再生した。
東京・南青山のジャズクラブ「BODY & SOUL」のライブ音源を、まずは320kbpsで体験したところ、アンプの力で一定のパワーは感じられるものの、やはり圧縮音源では全体的に音が平坦で、1枚の板のような狭いスペースから音が鳴っているという印象。
DSD 5.6MHzで再生すると、圧倒的な音の立体感/情報量により、演奏者の配置が手に取れるように分かる。各パートの音の厚みも一変して生々しくなり、音の消え際まで繊細に描かれる。ハイレゾと圧縮音源の聴き比べはこれまで何回も体験しているが、特にライブ音源ならではの臨場感をそのまま伝えるのにハイレゾが適していることを実感した。使用された機器も、華美に音を演出するのではなく、ハイレゾの良さをそのまま活かした、ストレートながら力強い迫力を持って耳に届く。
続いて、オーケストラやコンサートホールなどによる音の違いも体験した。今後PrimeSeatでも配信予定のオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるコンサート音源や、浜離宮朝日ホールで行なわれた「藤原真理 チェロ・リサイタル」、ベルリン・フィルによるマーラー交響曲第4番を聴いた。
シンプルなマイク構成で収録されたというロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートは、豊かな低域が特徴という現地ホールの響きが再現され、広い音場とダイナミックレンジが、CDでは体験できないレベルであることを実感できる。
IIJ 経営企画本部 配信事業推進部の西尾文孝氏は「来日公演などもあるが、ホールの音は現地に行かないと聴けない。これを最高のクオリティでお届けすることで、その場で聴いている一員になったと感じていただけるのでは」としている。
ホールに約2,000人を収容できるというコンセルトヘボウに比べるとかなりコンパクトな、浜離宮朝日ホールでのコンサート音源も聴いた。チェロとピアノのシンプルな編成で、響きのスケール感もコンパクトに収まっているが、演奏者それぞれの音の存在感の違いがより明確になり、先ほどに比べて音が前へ押し出される圧力、熱気が間近で感じられた。
ベルリン・フィルは、60個ものマイクがホールに用意され、演奏に応じたミックスを行なうという特徴が、収録音源にもはっきり表れており、ステレオ再生ながらも音像の定位がより明確。ホールの特徴というクリアな響きとも相まって、先ほどの2つのホールとも全く違う、ハイレゾという“入れ物”の良さをストレートに活かした濃密かつ繊細な情報量が、そのまま配信で届いていると感じた。
こうしたホールによる音の特徴は、演奏するアーティストや編成、収録方法などによって変わってくると思うが、そうした違いまで自宅のリラックスできる環境で楽しめるのがPrimeSeatの魅力。PCからそのままアクティブスピーカーなどに接続する方法でももちろん聴けるが、使う機器にこだわれば、細かな違いまで分かりやすく、その音楽やアーティストに対してさらに愛着を持てるようにも感じた。ヘッドフォンとUSB DACという組み合わせでもハイレゾを手軽に高音質で聴けるので、その人のスタイルに合った楽しみ方ができそうだ。
“ライブの熱気”を配信に。スマホなどPC以外の展開も
前述のIIJ西尾氏は、他の手軽な配信サービスとの違いとして、「CDが売れなくなったといわれているが、それよりも料金の高いライブに行くことは増えている。ライブならではの熱気などは、(CDなど)パッケージメディアと違う体験で、PrimeSeatと共通する。これを感じてもらうためには良いクオリティでないと伝わり切らないと思い、今回の試聴会を企画した」という。一般向けにこうした試聴会などを開催することも検討中としている。
サービス開始から1年を経ているが、まだ一般層への認知は高くないため、PCでの再生以外についても「より多くの人へ広めるという意味では、今後はスマートフォンで聴けるとか、CDプレーヤーなど再生機器に組み込んで、その機能としてPrimeSeatを使えるように、今後取り組んでいかなければ」との認識も示している。