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ベルリン・フィル公演DSD 11.2MHzライブ配信の舞台裏をIIJに聞く

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の公演をDSD 11.2MHzで、ハイレゾストリーミングサービス「PrimeSeat(プライムシート)」でライブ配信している取り組みについて、報道関係者向けの説明会を開催した。

 IIJでは、配信基盤となるネットワークや大規模コンテンツ配信サービスのノウハウを活かし、ハイレゾ音源をストリーミング配信で楽しめる「PrimeSeat」で音楽配信事業を展開。また、ベルリン・フィル・メディアが運営するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ベルリン・フィル)とパートナー契約を締結しており、2017/18シーズンの5つの公演をDSD 11.2MHzライブストリーミングで無料配信する。9月17日の第1回を皮切りに、'18年6月まで計4回実施予定。スケジュールや公演の詳細はこの記事の最後に掲載している。

 ライブ配信の聴取には、Wndows/Macパソコン用ソフト「PrimeSeat」と、常時24Mbps以上の通信速度、DSD 11.2MHz対応DACなどが必要。なお、音質は5.6MHzやPCM 96kHz/24bitも選べる。

 第1回目のライブ配信は9月17日深夜(日本時間)に行なわれ、公演の主な内容はプフィッツナー「歌劇《パレストリーナ》より3つの前奏曲」と、ブルックナー「交響曲第4番変ホ長調《ロマンティック》」。当日は深夜2時からの配信となったが、「まだ集計中だが、100回弱ほど再生ボタンが押されたので、それくらいの人に聴いていただけたのではないか」(IIJ 配信事業推進部 担当部長の冨米野孝徳氏)。また、聴き逃し配信も9月26日まで実施した。

ベルリン・フィルハーモニーホール

 17日(現地時間16日)に開かれた公演のライブ配信では、ゼンハイザーの無指向性マイク「MKH 8020」2本のみのシンプルな構成で収録。マイクからの信号はホールのすぐそばのコントロールルームに送られ、Merging Technologiesのマイクプリアンプ「HAPI」とADコンバータ(ADC)を通り、USB経由でMacBookにDSDの信号を入力。今回のライブ配信のためにコルグが開発したソフト「PrimeSeat Broadcaster」を使い、ステレオのライブストリーミングデータとして日本に向けて送出するシステム構成だった。コンソールなどはなく、公演の途中に挟まれる休憩時間も含めて、マイクからの音がほぼそのまま配信された形だ。

ホール内の配信構成
ゼンハイザーの無指向性マイク「MKH 8020」を2本使用
マイクにはベルリン・フィルのロゴが入っている

 DSDライブストリーミング用にIIJが提供した配信基盤は、ベルリンで収録したデータをロンドンのIIJサーバーへいったんアップロードし、IIJバックボーンネットワークを通して日本のCDN(Content Delivery Network)サーバーへ伝送。そこからIIJ配信プラットフォームを通して、ユーザーに配信する仕組み。

 DSD 11.2MHzのステレオデータ伝送にあたり、ロンドンの配信サーバーには通常通信の倍程度のスループットを実現するチューニングを施してタイムラグを圧縮しながら送出、22.4Mbps以上のスループットを実現したという。音切れに配慮して1分程度のバッファをとっているため、再生時は最初に若干の待ち時間が発生したとのこと。

ホール外の配信構成
右にMacBook、その下にマイクプリアンプ「HAPI」
配信中の様子。聞き逃し配信用のDSD録音も並行して実施

 IIJの冨米野孝徳氏は、16日の公演時は「初回ということもあって日本のオフィスで待機して確認している人とチャットをしながら『ちゃんと(データが)流れていますか?』などと確認していた。現場はリハーサルも含めて3日間おり、ほどよい緊張感がある中で仕事ができた」と振り返った。

IIJの冨米野氏

 また、ユーザー側がより低帯域なネットワークでもハイレゾストリーミングを楽しめるよう、DSD 11.2MHzデータからDSD 5.6MHzとPCM 96kHz/24bitのデータも生成して配信。当初は国内でマルチストリームを生成することも検討したが、技術的な制約からロンドンのサーバーで生成した計3つのマルチストリーム配信という形となった。

DSD 11.2MHzデータからDSD 5.6MHz、PCM 96kHz/24bitのマルチストリームを生成

 ライブ配信の送出用ソフト「PrimeSeat Broadcaster」と、ユーザー側の聴取用ソフト「PrimeSeat」について、コルグ 執行役員 技術開発部 部長の大石耕史氏は「2年半前にベルリン・フィルのDSD 5.6MHz配信実験用にLimeLightというソフトを提供した。このときは試作用で、作り捨てるような勢いで開発したものだったが、PrimeSeat Broadcasterではより安定して配信を行なえるよう研究を重ね、DSD 2.8〜11.2MHz、PCM 44.1kHz/16bit〜384kHz/24bitの配信に対応。Windowsに加えてMacでもDoPで動くようにした。PrimeSeatも改良を重ね、DSD 11.2MHzやPCM 384kHz/24bitに対応するオーディオエンジンに刷新。各社DACとの互換性も向上させた」とコメント。

PrimeSeat Broadcaster
「PrimeSeat」v1.6。オーディオエンジンを刷新し、各社DACとの互換性も向上している
コルグの大石氏

 収録されたDSD 11.2MHz音源の試聴デモも実施。会場にはソニーのスピーカー「SS-AR1」とプリメインアンプ「TA-A1ES」、OPPOの「Sonica DAC」が用意され、17日に配信されたブルックナー「交響曲第4番」のDSD 11.2MHz音源と、AAC 384kbpsに圧縮した同じ音源を比較再生した。

OPPOの「Sonica DAC」(上)とソニーのプリメインアンプ「TA-A1ES」(下)

 AAC 384kbpsで再生すると、ハイエンドのアンプとスピーカーによって音の勢いは感じられるが、スピーカーの置かれた狭いスペースから音が平坦に鳴っている印象。これがDSD 11.2MHzになると、音の情報量が圧倒的に増えて印象ががらりと変わり、弦楽器や管楽器など各パートの配置が見て取れるような立体感があった。ホールの残響感が再現されるほか、集まった聴衆の立てる咳払いなどの雑音も入り、まるで会場にいるかのようなリアリティがある。

 PrimeSeatで提供している番組「ベルリン・フィル アワー」のプレゼンターも務める、クラシック専門インターネットラジオ局「OTTAVA」取締役ゼネラルマネージャーの斎藤茂氏は、ベルリン・フィルの魅力について熱く語りつつ、今回の試聴デモを聴いて「今まで(のベルリン・フィルの音源)は指揮台の横でスコア通りに明快に聴かせてもらっている印象。(DSD 11.2MHzでは)僕が客席にぽこんとワープしてきた感じ、もっというとコンサートホールを家にまるごと持ってきてもらって聴いているような感じだった」とコメントした。

OTTAVAの斎藤 茂氏

 IIJ 経営企画本部 配信事業推進部の西尾文孝氏は、「その場でライブ空間の空気を感じるような聴き方であればスピーカーで、個々の音を克明に細かいニュアンスまで聴きたいということであればヘッドフォンが合うだろう。今回の音源のように、時々『コホン』という咳払いが入っていると思わず振り返ってしまう瞬間もあり、ヘッドフォンでも十分楽しんでいただけるのでは」と話した。

IIJの西尾文孝氏

DSD 11.2MHzライブストリーミング配信の今後のスケジュール

第二回配信

ライブ配信日時(日本時間):12月4日4時〜
聴き逃し配信:12月6日11時~12月12日24時
プログラム
指揮:ベルナルド・ハイティンク
マーラー: 交響曲第9番ニ長調

第三回配信

ライブ配信日時(日本時間):'18年2月24日3時〜
聴き逃し配信:’18年2月27日11時~3月5日24時
プログラム
指揮:サー・サイモン・ラトル / ピアノ:ダニエル・バレンボイム
ドヴォルザーク: スラブ舞曲 op.72
バルトーク: ピアノ協奏曲第1番
ヤナーチェク: シンフォニエッタ op.60

第四回配信

ライブ配信日時(日本時間):'18年4月13日3時〜
聴き逃し配信:’18年4月17日11時~4月23日24時
プログラム
指揮:キリル・ペトレンコ / ピアノ:ユジャ・ワン
リャードフ: 《魔法にかけられた湖》
プロコフィエフ: ピアノ協奏曲第3番ハ長調
F・シュミット: 交響曲第4番ハ長調

第五回配信

ライブ配信日時(日本時間):'18年6月20日3時〜
聴き逃し配信:’18年6月25日11時~7月1日24時
プログラム
指揮:サー・サイモン・ラトル
マーラー: 交響曲第6番