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“視覚、想像力、そして写真の変革”、ドローンによる空撮の魅力を写真家・別所隆弘が紹介

 品川にあるDJI JAPANのオフィスにおいて28日、フォトグラファーの別所隆弘氏を招いて、空撮をテーマにした無料のセミナーが開催。空撮をテーマとしたセミナーは初開催だが、興味を持つ多くの来場者で会場は熱気に包まれた。「日本の風景を新しい視点から」と題し、静止画の写真撮影ツールとしてのドローンの可能性を感じるトークショーが行なわれた。

セミナーの様子

ドローンは視覚、想像力、写真の変革

 登壇した別所氏は滋賀県在住。主に琵琶湖を中心としたエリアを撮影しており、2014年の「東京カメラ部 10選」に選ばれ、フォトグラファーとして活躍。InstagramやFacebook、TwitterといったSNSでも精力的に作品を発表。定期的に撮影ワークショップも開催している。また、DJIのドローン「Phantom 4 Pro」のユーザーでもあり、空撮の可能性も追求している。

フォトグラファーの別所隆弘氏。トークショー後は、細かなカメラのセッティグなど、来場者からの質問にも答えていた

 ドローンで撮影する静止画の魅力を、別所氏は、関西の写真愛好家に良く知られる撮影スポットである滋賀県高島市のメタセコイア並木を例に挙げて説明。別所氏が初めて撮影した時は、「僕一人しかいなかったんです。でもそれからどんどん有名になって50人、60人と増えていって、今では100人、200人。近くには車がズラーッと並んでいる状態」だという。それだけの人が、同じような場所から撮影すると、どうしても撮れる写真も同じようなものになり、ネット上にもそうした写真が溢れる事になり、差別化も困難になる。

別所氏の作品。右下がメタセコイア並木の写真で、地上から撮影したものだ

 しかし、その場でドローンを飛ばすと「見たこともない景色が広がっていた。“本当に並木が直線だったんだな”と改めてわかりました。写真を撮る際のドローンの魅力は“視界を制限されない事”。人間は空を飛べない。カメラを構える高さは上下に変えられるけれど、その範囲は身長程度。ドローンではそれが大きく変わる」という。

メタセコイア並木をドローンで上空から撮影したもの

 地上でカメラを構えていると、手前にある森などに邪魔され、その向こうの景色が見えない場面は多々ある。しかし、ドローンであればそうした制約は無い。「高度を60m、70mと段階的に上げていくだけで見え方が変わっていく。特に奥行きの見え方が変わっていきます。(そうした)視界に遮るものがないところでは、僅かにカメラの角度を変えるだけでも、見えるものが随分変わる」という。

 また、角度によっては“人間には撮りにくいもの”もある。「例えば高い場所から真下を撮影するアングル。崖の上からへっぴりごしで身を乗り出せば撮れないことはないですが(笑)、普段はあまり撮影できないアングルです。しかし、ドローンであれば上空に飛んで、カメラを真下に向けるだけで、普段見たことのない写真が撮影できる。何処でも絵になります。発見だらけです」と魅力を語る。

 真上から見下ろすアングルで撮影する事で、生まれる“発見”。その顕著な例として、水に浮かぶ不思議な“円”の写真も紹介。実はこれ、養殖の網なのだそうだ。

幾何学模様のようで美しい“養殖の網”

 「横から見ると、単なる“線”にしか見えません。魚が時折ジャンプしているだけ。しかし、ドローンを飛ばすとめちゃくちゃキレイな幾何学模様。おそらく、効率的に魚を円環させるためのカタチとしてそうなっているんでしょうが、完全な真円。ドローンを飛ばさなければ見えなかった風景。鳥の目線です。これはもう“視覚の革命”で、それが想像力にも革命を起こす。もしかしたら見えるかもしれない、そんな“想像力の変革”でもある。その結実である“写真も変革”していく。そしてドローンだけでなく、一眼レフでも、こう撮れば、こうなるんじゃないかという意識の変化にも繋がる。地上のカメラとドローンの両方に、ポジティブな影響を与えていくのではないか」とした。

空撮で気をつけている事

 そんな別所氏がドローンを購入したキッカケは、Phantom 4 Proの登場だったという。「風景写真家は基本的にセンサーサイズを気にしますが、それはRAWで撮影した時にシャドウ部分にカラー情報が残っているか、階調はどうか、といった部分を重視するから。それまでのドローンは1/2.3型センサー、つまりコンデジの真ん中から下くらいのセンサーサイズでしたが、Phantom 4 Proでついに1インチが来た! と。友達の写真家も1インチセンサーのカメラで撮った写真で写真集を出したりしていますが、1インチが写真家として勝負ができるスタートラインだと思う」と説明。

1インチセンサーを搭載したPhantom 4 Pro

 Phantom 4 Proの購入後、初フライト。「仕事が終わり、夕日が撮影できるかどうかという時間帯でしたので、琵琶湖の東側にある平池という、湖面が凪いで綺麗な場所で飛ばしてみる事にしました。それまでドローンの経験は何もなく、とりあえずいっぺん飛ばしてみようと。誰もいないので、万が一落ちても迷惑かけないだろうと(笑)」。

 「飛ばしてみると2つの点で驚きました。1つは“音がデカイ”(笑)。2つ目は微動だにしないホバリングと、落ちる気配がまったくない安定感。そしてカメラの水平がバッチリ出ていて、それを維持できている事にも驚きました。RAWで撮影してみて、どのくらい使えるのか試してみましたが、Lightroomで湖面の暗くなっている部分の露出をプラスしてみると、色褪せずに、めっちゃキレイに色が残っていて驚きました」という。

 安定感、画質に満足しているとのことだが、だからこそ、逆に気をつけなければならないポイントもあると別所氏は語る。

 「セーフティ機能がしっかりしていて、それが自信にもつながります。しかし、だから気をつけないといけないなと感じる事もあります。例えば、撮っている時に風が強くなっても、手元のスマホで見えている画像に一切ブレはなく、ジンバルも安定した映像を送ってくれ、飛行にも“ねばり”があるので、自然の変化に気づかない事があります。何かに当たりそう、落ちそう、という心配が無いからこそ、自然の変化を察知して気をつけるというのが、最後に人間がしなきゃいけないポイントだと思う」という。

 なお、ドローンは200g以上の場合、2015年12月から施行されている改正航空法の対象となる。無人航空機の飛行が禁止されているのは、空港周辺など、航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある空域、人又は家屋の密集している地域の上空。さらに、地上から150m以上の高さでの飛行も禁止されている。ただし、あらかじめ申請を行ない、国土交通大臣の許可を得た場合は飛行可能となる。

飛行可能な空域(出典:国土交通省)

 どこが人口密集地帯にあたるのかを確認できるフライトマップは、DJIのページなどで公開されている。

 つまり、空港周辺や人口密集地以外であり、地上から150m以上の高さにならない空域が飛行可能だが、その空域であればどこでも飛ばして良いというわけではない。第三者や建物、自動車などから30m以上の距離を保って飛行する事、お祭りなどのイベントの上空飛行、危険物の輸送やドローンからモノを落とすといった飛行も承認が必要。さらに、肉眼で見えない距離まで飛ばす“目視外飛行”、機体が見えなくなる夜間の飛行にも承認が必要となる。

 別所氏はこれらを踏まえた上で、「人口密集地や空港に加え、私有地ではないかどうかも意識します。地上でカメラを持って撮影する時もそうですが、勝手に入って撮れませんし、そこに誰か写ってしまったらプライバシーの問題にもなります。また、県によって異なる条例もチェックします。例えば大阪府は人口密集地域でなくても公園は全部ダメ。そうした部分は必ず事前にチェックします」という。

 また、「将来的にDJIの技術力であれば、例えば5秒間くらいの長時間露光が(ブレずに)できるドローンが出て来るかもしれない。そうすると、当然、夜飛ばして、今まで見たこともない画角で夜景を撮りたくなるでしょう。その場合は夜間飛行するための申請をしようと思っています」と、現在は国交省への申請が不要な場所・時間で撮影するユーザーであっても、ドローンの進化によって承認が必要になる可能性を語った。

 なお、“地上から150m以上の高さにならない空域”は、山の上から飛ばした場合は“山の地表から150m以上にならない空域”となる。そのため、例えば山頂から飛び立ったドローンが、水平に飛行してどんどん山から離れていくと、当然地表との距離は増えていく「知らない内に、勝手に高度が上がっていってしまう場合もあるので気をつけて欲しい」(別所氏)と、注意点を挙げた。

 別所氏は操縦スキルを上達させるために、家から近い琵琶湖で練習もするという。「湖面に等間隔に杭が打ってあるのですが、その杭の上でピッ、ピッと止まれるように飛ばしてみたり、八の字を描いて飛ぶ練習もします。八の字はキレイに飛ばそうとすると思った以上に難しいです」とのこと。DJIの荻野裕一マーケティングスペシャリストによれば、ドローンパイロットでも、“八の字”を練習に取り入れている人は多いという。

DJIの荻野裕一マーケティングスペシャリストも、“空撮における操縦者の心得”を紹介

 また、自然の中を飛ぶドローンだからこそ注意する点もある。「“水ぽちゃ”は電装系がアウトになるので絶対回避しなければなりません。雨や雪にも凄く気をつけています。写真家はピーカンよりも、悪天候の後に現れる“良い空“を狙ったりするので、そういう場合は、雨や雪などに注意して欲しい」(別所氏)という。

ベストショットが増える空撮の魅力

 別所氏は、水の中の鳥居を撮影した写真も紹介。厳島神社を想像するが、琵琶湖の北西にある白鬚神社だという。「パワースポットとしても知られていて、初日の出には、この場所を撮影した写真もSNSに沢山アップされます。岸から水の中の鳥居を撮影した写真は沢山ありますが、湖側から鳥居と陸地を見た人はあまりいないだろうと、しかも雪の日の景色はもっと珍しいだろうと、ドローンで撮影してみました。琵琶湖の水の緑と、雪の白、陸地に残る紅葉、カラーコントラスト美しい写真が撮れました」。

白鬚神社をドローンで撮影した写真

 「風景写真を撮る方にはわかっていただけると思いますが、太陽の光の具合なども考え、“あの場所でこんな写真を撮ろう”と想像しながら出かけると、その場で撮れるベストショットはせいぜい1枚か2枚なんです。周囲も歩いて1,500枚とか、沢山撮影しますが、気に入ったショットはやっぱり最初に目星をつけていた場所からの1枚か2枚……という事が多いと思うんです」。

 しかし、ドローンの場合はそうではないという。「ぐるぐる上空を回ってみると、光の指し方で見え方が違ったり、それに合わせた撮り方があると気付き、そこでまた撮影したり……と、ベストショットが増えていきます」という。

 「僕はカメラマンとしては撮影時間が比較的短い方で、仲間で撮影に行っても、最初に撮影が終わる感じです。ドローンのバッテリは現在2本持っていて、それでその日、十分何かが撮れます。しかし、一眼では撮りたいイメージがだいたい最初にありますが、ドローンでは無限に画角があるので、ついつい足りなくなる。想像していたより良いものが撮れるので、今、3本目のバッテリが欲しくなっています」と笑い、ベストショットが増やせる空撮の魅力を紹介した。

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