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'14年の4K試験放送目前に見えてきた、番組制作の課題とは

TV局が“現場の声”を共有。4K実写版「パトレイバー」も進行中

会場のベルサール秋葉原

 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は、4K/8K映像のコンテンツ制作技術者向けのイベント「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」を12月13日に東京・秋葉原で開催した。

 テレビメーカーや放送/通信事業者などで構成されるNexTV-Fは、4K/8K、スマートテレビ等の次世代放送サービスの早期実現を目指し、技術仕様の検討や、実用化に向けた実証、サービスの開発などを行なっている。6月の発足時は社員(会員社)が21社だったが、現在は40社まで増えており、業界からの注目の高さがうかがえる。

 今回の「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」は、NexTV-Fに参加するテレビ局などのコンテンツ制作者が、4K8K制作における課題や可能性を共有することで、機器メーカーらとともに制作クオリティの向上などを目指して開催したもの。今後の4K機器開発や試験放送などに利用できる検証用のコンテンツをテレビ局らが制作し、NexTV-Fは、「次世代衛星放送テストベッド事業」としてこれを支援。その過程で得られた知見を各社で共有することが大きな目的となっている。会場のベルサール秋葉原には、各社から合計約220人が出席。約半数がテレビ局や制作会社などで、残り半数が家電/放送機器メーカーや設備メーカーなど。

 4K放送のスケジュールは、発足時に発表した通り2014年にブラジル・リオで行なわれるサッカーワールドカップに合わせて、4Kでの試験放送開始を目指す。ただし、この時点では現在の地上波などのように常時放送を続ける体制には至らないという。「4K放送のチャンネル」としてオンエア開始する時期は2014年秋以降としており、会員社のメーカーらは、この時期に照準を合わせて放送設備や機器の開発などを進めていくと見られる。

 なお、4K放送時のフォーマットやフレームレート、ビットレートなどはまだ最終的に決まっていない。色域については引き続き現行のBT.709となる予定。音声はステレオまたは5.1chのどちらかで検討中だという。

プレゼンテーションの模様

 8Kについては、2016年のリオ・オリンピックの前に試験放送を開始。一般家庭で本格的に視聴できる環境が整うのは2020年以降と見ており、このスケジュールで実現していくためにNexTV-Fらが中心となって、環境整備を進めていく。

 4K機器の普及に時間がかかるとされる理由として「コンテンツが足りない」という意見はよく聞かれるが、制作者がコンテンツを作ることと、メーカーによるハードウェア(放送機材や送信設備、受信機)の開発/普及のどちらが先になるかは“ニワトリと卵”の関係に近い。どちらか一方が足踏みすると、もう片方の進化にも影響を与えてしまう。

 こうした中、コンテンツ制作側からのアプローチとして、検証のためにあえて悪条件下で撮影することも含め、今回の「次世代衛星放送テストベッド事業」が開始された。制作されたコンテンツは、スポーツや自然映像、ドラマ、音楽ライブなど多岐にわたり、ユニークなところでは“将棋の対局”も含まれている。機器のテストに使うだけでなく、4K試験放送開始までに番組の権利処理をクリアして、実際の放送に使用することも見込んでいる。これまでであれば自社のノウハウとして蓄積するような“現場の声”についても、局を越えて共有。今回のイベントは、コンテンツ制作側の“本気度”を示す意味合いも大きい。

制作されたコンテンツの上映には、東芝の4K対応テレビ「58Z8X」や、「84Z8X」が使用された

「フォーカスの難しさ」、「膨大なデータ量」など様々な課題

 プレゼンテーションを行なったコンテンツ制作者は、フジテレビ、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、WOWOW、J:COM、スカパーJSAT、東北新社、NHKエンタープライズ(登壇順)で、実際に4Kコンテンツ制作に関わった担当者が解説。使用機材やカメラ配置などの詳細が説明され、撮影後の実感や、浮かび上がった課題などを報告した。

 課題として各社が共通して挙げたのは、これまでも多く指摘された「フォーカスの難しさ」。ビューファインダのサイズでは本当にフォーカスが合っているかを確認しづらいため、例えば大型のモニタを別室に用意して、ビデオエンジニアなど他のスタッフが「フォーカスマン」としてカメラマンにインカムで指示しつつ微調整するなど、様々な試行錯誤が行なわれている。

 また、解像度が4倍になることから当然撮影データ量も膨大になり、データコピーなどに多大な時間と労力がかかるといった問題もある。そのほか、カメラは4Kでも、ズーム倍率などの制約からレンズは解像感が4Kより下回るHD用を使っているケースが多く、放送機器メーカーらに対し、一層の開発促進を期待する声も多く上がった。

 フジテレビは、ゴルフの「フジサンケイクラシック」に4K撮影を実施。4Kカメラを使ったリアルタイムスイッチングや、コース全体と小さなボールを一度に捉えたときの見え方、グリーンの起伏や形状などの表現に加え、シネレンズのスポーツ中継への応用などについても検証した。

 4Kで撮影すると画面の細部まで鮮明に見え、全体にフォーカスを合わせても視聴者が好きな視点で見られるという利点があった一方で、「2Kとの同時制作は難しい」という問題もあったという。例えば、ショットする選手を4Kカメラを使って広い画角/深い被写界深度で撮影すると、ショットする選手の後ろにいる選手たちが雑談する様子もハッキリ分かって彼らに親しみが持てるという一面もあるが、フルHD収録の手法では、そういった“緩い画”を撮ることは無いという。2Kではありえなかった撮影/演出手法が、4Kだと新たな魅力となる可能性があるため、2K/4Kをまとめて1度の収録で行なうのは難しくなってくるという。

フジテレビ「フジサンケイクラシック」の使用機材
カメラの配置
撮影の課題
レンズの画角比較表
様々な機材が準備された
フォーカス確認に大型モニタが必要となるなど、課題が多い
編集にかかった時間の例
NHKによる富士山の撮影概要

 NHKは、“白い魔境”とも言われる厳冬の富士山や、山梨・忍野八海の潜水撮影、モーターパラグライダーを使った航空撮影という過酷な撮影にチャレンジ。山に登るためには最小限の機材で挑まなければならないことから、大型のモニターを持ち込むことは断念。MacBook Proと約40台の1TB/2.5型HDDなどを持ち込んだ。しかし「当時一番速いMacBook Pro」でも、静止画レベルでの再生確認がやっとだったことから、「色付きでフォーカスを確認できる小さなモニターが早めに出てくれるとありがたい」と期待を寄せた。

潜水撮影
モーターパラグライダーやラジコンヘリを使った航空撮影
富士山撮影〜完成までのフロー

 日本テレビは、プロ野球の「巨人×ヤクルト」(10月3日)で、国内初となる4Kのプロ野球中継収録を実施。長時間収録/編集のワークフローの検証などを行なった。4Kならではのカメラワークとして、ハイファースト(1塁側2階席)にメインカメラを置き、ピッチャーの背後ではなく斜め上から全体を撮影。この位置でフルHDだと打球を見失うこともあるが、4Kでは引いた画でも詳細まで表現できるため「場内の観客と同じ目線」で撮影できたという。

 長時間撮影の課題としては、収録時のメディアの量が膨大になるということが挙げられる。4時間の場合、SRメモリ収録の1TBメディア8枚、512GBメディア10枚を用意。コストの関係からレンタルとなったため、返却期限までに急いでバックアップする必要があり、社内でHDDにバックアップする作業のため、、フルで4営業日を費やしたという。

日本テレビのプロ野球4K収録の概要
カメラ配置
各カメラの映像
収録・編集の現場
成果と課題

 テレビ朝日は、「世界水泳2013 バルセロナ」で4K撮影のトライアルを実施。カメラ1台のロケスタイルで、SxSメモリーカードに記録する方式を採用した。また、マリンメッセ福岡での「フィギュアスケートグランプリファイナル」では、4Kカメラ3台によるライブスイッチで撮影を行なった。シネレンズを使うことでキレのある映像が記録できた一方、小型レンズは倍率が低いため、頻繁にレンズ交換が発生。フォーカスについても、ワイド画角だと、30型クラスのモニタでも判断が難しかったという。

 編集時の課題としては、フレームレート59.94pの4K映像と、収録に使用している29.97フレームのドロップフレーム・タイムコードで、オフライン編集とオンライン編集にタイムコードの齟齬が生じる点を指摘。また、撮影時の設定から編集、映像データの管理までを行なう「データマネージャー」の必要性を感じたという。そのほか、視聴環境として100型以上のパブリックビューイングで観る、家庭の65型テレビで観るといった違いで、画のサイズやカット割りなど「創り方」が変わる可能性についても検討の余地があることを挙げた。

世界水泳2013 バルセロナで使用した機材
カメラ配置
フィギュアスケート グランプリファイナルでの機材
カメラ配置

 TBSは、「世界遺産」の4Kバージョンである「THE 世界遺産 4K PREMIUM EDITION」において、DCI準拠の4,096×2,160ドット、60p、RAW収録という高画質収録を行なっている。全編ロケ撮影の「世界遺産」で問題となるのは、機材が大量になることでスタッフの“機動力”が損なわれること。大型の4Kモニタを持ち運ぶことはできず、リモートでフォーカスマンが指示したという。このため、バッテリ動作する4Kモニタの登場に期待を寄せた。また、データ量は1日の撮影で3TBとなり、1日撮ったら次の日までにHDDへバックアップを取るという作業が必要だったのが、テープとの違いを最も感じた点だという。

 同番組は、銀座ソニービルにあるシアタースペース・OPUSでの4K上映や、店頭などの4Kデモ映像として利用されているほか、BS-TBSではハイビジョンにダウンコンバートして放送。「HD収録に比べ明らかに高品位だと実感している」としており、視聴者からの画質を評価する声も多く寄せられていることから「制作者として、観ている人が欲していることには自信を持って進めていきたい」とした。

THE 世界遺産 4K PREMIUM EDITION
撮影機材など
ワークフロー

ドラマは“キレイ過ぎて”問題も?。東北新社は実写パトレイバーの長編4K版を撮影中

 WOWOWは、寺尾聰と岡田将生が共演した“ドラマW”の「チキンレース」で4K収録を行なった。2時間の単発ドラマ(実尺109分)で、撮影は都内近郊のほか、千葉県の南房総埠頭、北海道帯広でも行なった。カメラはソニーのPMW-F55で、レンズには、「通常のドラマとしてはいいもの」とするUltra Primeを使用。ただ、このドラマは4Kで撮影するために企画されたものではなく、「美しい映像=面白いドラマではない」という考えから、「芝居や演出の妨げになってはいけない」ということも心がけたという。最新の機材にこだわるよりも、従来の制作環境の延長で成立させることで、今後の8Kも含めた“実現性の高さ”を追求している。

 利点の一つとしては、役者の細かな表情をとらえることができた点を挙げた。例えば、通常は涙が“こぼれた”時に初めて“泣く”表現が成立するのに対し、4Kでは目に涙が“滲んだ”表情もしっかりとらえられることから、より感情移入しやすい映像となった。一方で、4Kの特徴である「全ての対象物がハッキリ見える」ことはマイナス要因になることもあるという。例えば役者の肌や髪の毛などまで精細に映ることから、メイクなどの確認で撮影が進まなくなることを防ぐためにも、あえて現場では4Kモニタでのチェックは行なわなかった。また、ベニヤ板で作ったセットが“ベニヤ板(ニセモノ)にしか見えない”苦労もあったとのこと。さらに、撮影現場において、周りに余計なものが映り込んでいないと判断した場合も、後で確認すると実は遠くに一般の人がいたり、電柱の看板に電話番号が入っていたことから、後でCGで消す手間が発生したという。

ドラマ「チキンレース」の撮影概要
4K制作した理由や、「4Kドラマ」を成立させるためのポイント
4K制作の利点と課題

 J:COMは、J SPORTSとの協力により、現在の国立競技場での“最後のラグビー早明戦”(2020年の東京オリンピックに向けた建て替えのため)を4Kで収録。4K/60pで撮影するにあたり、「新技術を使いながらも、“こけおどし”にならないよう配慮し、スポーツファンに受け入れられることを重視した」という。また、大画面視聴時の健康被害に配慮して「素早いパンニング」を抑えた。

 課題であるフォーカスに関する新たな試みとして、F55との組み合わせにAFレンズ「XJ100 AF」もアシストとして使用。実際は「8割はカメラマンのマニュアル操作」だったとのことだが、パン/ズームした後などにAFで合わせた後カメラマンが調整するなどにより、「完全ボケ」の状態を防げたという。そのほか、撮影後の実感として「4Kスロー撮影」の有用性や、「夕方の射光の表現が肉眼に近い」といった再現性の高さなどを評価。一方で、フィールドをワイドで撮影すると「ミニチュア競技場のような箱庭的な表現になってしまう」といった課題も指摘した。

J:COMによる国立競技場での“最後のラグビー早明戦”4K制作の狙い
機材などの概要。AFレンズも使用した
Jリーグ収録時の概要

 スカパーJSATは、4KでのJリーグ生中継や、プロ野球収録、アリスのコンサートツアー収録について説明。スポーツ収録では、ワイド撮影時の奥行き感や、60p撮影により「テレビのスクリーン面を感じにくく、透明感がある」といった点を挙げたほか、「スーパースローカメラとの相性は抜群」とした。また、フルHDとは違う視点として、サッカーのフィールドを縦方向にとらえることで、攻守が切り替わったときの選手の表情の変化が読み取れることも新たな発見だったという。なお、アリスのツアー収録については、11月の記事で詳細をレポートしている

4K衛星伝送時の構成
プロ野球の収録
アリスのコンサート時の収録

 東北新社は、テストベッド事業で12月16日に収録を行なう「将棋棋戦特別対局」などについて説明。現場でも「なぜ4Kで将棋?」という声はあったそうだが、その理由は“演出の手法”にある。フルHDの場合、盤面を撮る「天カメ」と、2人の「対局者」、別室での「大盤解説」をスイッチングしているが、これをマルチ画面で表示。これら3つの映像だけでなく、これまでの対戦成績や、数手前までの棋譜といった文字情報も表示させ、タブレットなどの“セカンドスクリーン”的な使い方を、1台のテレビだけで表現することをイメージ。将来的には、視聴者が観たい部分をテレビ本体の操作で選んで視聴するといったことも見据えているという。

 このほか、2014年4月から上映される「パトレイバー」の実写版、「THE NEXT GENERATION-パトレイバー」についても説明。4月公開のシリーズ作品は2K制作だが、“長編劇場版”を、ソニーのF55などを使って4Kで「絶賛撮影中」だという。仕上げも4Kで行ない、2015年春に劇場公開予定。4Kでの上映実現に向けて現在準備が進められている。

東北新社は、「将棋棋戦特別対局」を16日に収録
収録概念図。赤い線が4K、青は2Kの収録
「THE NEXT GENERATION-パトレイバー」の4K撮影も進行中

 NHKエンタープライズは、9月に福岡で収録した「薪能 4K 安達原」を紹介。夜間に薪の炎を使って表現する能舞台である薪能では「4Kによる暗部の再現力」が活かされるという。ユニークなのは、「若い人や世界の人々に発信していくため、“能のテンポ”ではなく、ミュージックビデオのように速いカット割を多用した」という点。4Kカメラ5台のマルチカメラシステムで、カメラマン5人に加え、フォーカスを担当するカメラ補助も5名付いている。アイリスの管理はビデオエンジニア1名が担当。カメラのうち1台は“お面”の抜き専用とした。照明が少ない厳しい環境ながら「光と影の表現により、これまでにない世界感、情感を表現できるメディア」として4Kを活かすことができたという。

NHKエンタープライズの「薪能 4K 安達原」
カメラ配置
ワークフロー

 同社は、8K/スーパーハイビジョン(SHV)でのコンテンツ制作の現状についても説明。ロケで使われる8Kカメラはヘッドの重量が2002年の80kgから、現行機種では20kgまで軽量化され、2kgというキューブ型モデルも開発されていることを紹介。8Kレンズは、フジノン製の12-60mm 5倍ズームや、キヤノンの18-180mm 10倍ズームを運用。8K専用の中継車は、車の入れない場所において、CCUや収録機材をバラして運用することも可能となっている。

8K制作の現状も説明
現在使われている8Kカメラと8K専用の中継車
カメラの進化

(中林暁)