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8月開始の8K試験放送やハイレゾ音声対応「ALS」など、4K/8K放送の最新動向

 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は、4K/8K放送や次世代スマートテレビ向けの最新動向や機材などを紹介する「4K・8Kソリューションミーティング」を、会員や関係者に向けて2月25日に開催した。

 NexTV-Fは、'13年にも会員向けイベント「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」を開催。当時は4K制作現場でのノウハウがまだ蓄積されていない状況だったことから、コンテンツ制作のための基本的な情報共有などを主な目的としていた。

 その後、多くの放送局やCATVなどで4K制作環境が整いつつあるとの見方から、今回のイベントでは、新しい映像技術であるハイダイナミックレンジ(HDR)や、BT.2020広色域などへ取り組む制作者に向けて、最新の映像技術動向や機材など紹介する形で行なわれた。このイベントの中から、NHKやNTT、ポストプロダクション各社によるプレゼンテーションの内容をレポートする。

 会場にはカメラやモニター、編集機材、ソフトウェアなどの新製品や、新サービスが紹介された。展示の内容は別記事で掲載している

NexTV-Fの'15年度検証用4Kコンテンツ採択案件
'15年度の検証用8Kコンテンツ採択案件

NHK 8K試験放送は放送会館などで公開視聴の形に

 総務省のロードマップでは、2016年にBSを使った4K/8K試験放送をNHKらが開始することが定められており、その後の電波監理審議会の答申を経て、NHKが8月1日、NexTV-Fが12月1日よりBS 17ch(12.03436GHz)を利用して実施することが決まった

8K放送のロードマップ

 8月の試験放送に向けて、NHKは制作/編集/送出設備のそれぞれの現状を紹介。8K放送のフルスペックである7,680×4,320ドット映像と22.2ch音声に対応した機器は家庭向けに市販されていないため、全国のNHK放送会館などに85型8Kモニターなどの設備を用意して公開視聴する形になる。試験放送の時間帯は10時〜17時のうち6時間を予定し、NHKとNexTV-Fが時分割で放送するため、日によって放送時間は変更になる場合がある。

 22.2chのスピーカーは、上層9台/中層10台/下層3台を使って、視聴者取り囲むように設置。サブウーファは前方に2台使用する。こうした設置は家庭では現状では難しいことから、公開視聴の場所では“やぐら”と呼んでいるシステムを組んでスピーカーを吊る形となる。

8K/SHVの仕様
制作や編集などの設備の現状

 8Kカメラや、8K映像/22.2ch音声の編集室、中継車などは既に開発されているが、現状では8K用のスタジオは用意されていないという。「スタジオを作るためのスイッチャーやカメラなどの機材を、どうまとめてスタジオにしていくかが課題」(NHK技術局 スーパーハイビジョン開発部 専任部長 増原一衛氏)としている。

8Kカメラ
8K中継車
8K映像編集室/22.2ch音声編集室
送出/送信設備

 受信設備では、パラボラアンテナからの信号を、8K/HEVCデコーダ搭載の受信装置で復号して映像/音声処理した後、4系統のHDMI 2.0端子でディスプレイに接続して表示。音声信号は、受信装置から民生用7.1ch AVアンプ3台を介して22.2chのスピーカーに接続する。

受信設備

「放送でもハイレゾ音声」のALS

 NTTは、「HEVC/ALS/MMTを用いた高臨場感伝送技術」をテーマに4K/8Kソリューションを紹介。その中でも、主にMPEG-4 ALS(Audio Lossless Coding)による放送の高音質化を中心に最新技術について解説した。

NTTの4K/8K伝送の取り組み

 NTT/NTTコミュニケーション科学基礎研究所の鎌本優氏は、ALSを言い表すための例えとして、非圧縮のPCMを「500mlの天然100%ジュースを一升瓶で運んで飲む」、ALSを「500mlの天然100%ジュースをちょうどよい大きさの水筒で運んで飲む」、(現在の地デジなどで使われている非可逆圧縮の)AACを「50mlの濃縮ジュースを運んで10倍に薄めて飲む」と表現。「今までは“仕方なく”圧縮しており、音が悪いと感じる人もいる。そこで、選択肢としてロスレス、“生のジュース”が飲めるようになった。このように選択肢が広がった」と述べた。

PCMやALS、AACを、ジュースに例えて比較

 ALSの活用としては、チャンネル数を増やす方向と、ステレオのまま音質を上げる方向の2種類があり、NHKは22.2chなどの多チャンネル、民放は48kHz/24bitなどの高音質を採用する意向が強いという。ALSのMPEGでの標準化は10年前に終わっているが、現在はIECによる規格で外部アンプなどに光デジタルで出力するための規格改定が進められ、今年中に完了予定だという。

ALSの基本原理
ALSでは48kHz/24bitのハイレゾも伝送可能としている
ALSの拡張性のポイント
ARIBでのロスレス符号化に関する実証実験

 AACでこれまで指摘されていた点としては、高音やアタック(音の立ち上がり)などがカットされていることや、スタジアムでの拍手など空間の表現が得意ではないとの結果がMPEGの試験でも出ていると指摘。今後のオリンピック放送などでALSが採用されることで、臨場感のある音声が再現できるといったメリットを説明した。

 ALS対応デコーダ製品は、DSPやSoCの複数メーカーで動作確認が終わっており、商用化に向けた準備が進められているという。エンコーダは、ソフトウェアはNTT-ATが、ハードウェアはNTTエレクトロニクスが開発を進めている。また、放送だけでなく配信ではNTTぷららが4K VODでALS配信を計画しているという。

NTTぷららは、同社の「ひかりTV 4K」に関する技術を紹介。HDRコンテンツ配信のワークフローや、スマホ向け4K配信の開始などについて説明した

ポスプロが4K/HDR制作で感じた課題とは

 映画やBlu-rayなどのコンテンツ制作を手掛けるポストプロダクションからは、拡大を続ける4K/HDRなどの制作現場からの声が伝えられた。

 今回のワークショップで4K評価画像の「QT-4000」などを紹介したキュー・テックは、改めてHDRの特徴や最近の制作現場での動向などを紹介。

 今のスタジオで使われているHDTV規格のBT.709は、カメラで撮影して現行モニターで表示すると0.01nits〜100nitsに圧縮されるため、表現の範囲が限られる。これに対し、BT.2020は、人間の目で知覚できる明るさのレンジに近づけたことで、ハイライトの白つぶれの改善や、色再現性の向上などで、人の見た目に近い色表現、立体感、リアリティの向上などがメリットとして挙げられている。

SDR/BT.709の色再現と輝度再現
HDR/BT.2020の色再現と輝度再現
現実世界の光の明るさは、白熱球13万nits、車のボンネットの反射が30万nitsと非常に高いという

 現在、HDR技術では2つのガンマカーブがあり、DolbyVision(ドルビービジョン)やPhilips方式、Techinicolor方式などの「ST2084」と、NHK/BBCが共同提案した「Hybrid Log-Gamma」がある。DolbyVisionは0.005nits〜最大1万nitsの輝度とし、色再現性を向上。映像伝送に必要な情報量が膨大になるため、それを12bitに収めるためのガンマカーブが「ST2084」として標準化されている。

 Hybrid Log-Gamma(HLG)は、高域にデジタルシネマカメラがHDR記録時に使うLogカーブ、低域に従来のSDR(標準ダイナミックレンジ)のガンマカーブとし、両方を掛けあわせて構成。HDR非対応のテレビなどではSDRで、HDR対応であればHDRで表示されるのが大きなメリット。

DolbyVisionのPQカーブ
HLGのガンマカーブ

 キュー・テックの第1映像部 カラーワークスグループ 今塚誠氏は、カラーリストとしての視点で、最近感じているというHDRに対する自身の考えを述べた。

 HDRコンテンツのカラーグレーディングについては、「暗部の階調や、ハイライト部の階調も見やすくてクリア。ただ、(白飛びなどが無く全体がフラットになると)コントラストやメリハリが失われがちになって、被写体が目立たなくなることがある。評価動画であれば、窓の外が白飛びせず見えるのが正しいが、絵作りとしては窓の外に目が行ってしまわないようにするため、敢えてつぶしてしまってもいいのでは」とし、映像によってはHDRのレンジをフルで使わないことも選択肢として示している。

4K制作のこれまでのトレンド

 IMAGICAは、映画とテレビの制作という2つ面から、ポストプロダクションにおける4Kの取り組みについて説明。映画出身という同社プロビジョニングカンパニー カンパニーマネジメント室マーケティンググループ 清野晶宏氏は、最近の4K制作において、これまでは大きく違っていた映画とテレビの制作が、徐々に似通っているという点を指摘。グレーディングやディゾルブなどのツールを、映画用とテレビ用で同じものを使うようになり、制作者のスキルもテレビだけ、映画だけに通用するものではなく両方が求められるようになっているという。

 広色域のBT.2020の採用については、「ポスプロにとって頭が痛い点は、BT.709から、一つの計算式で100%正しい相互変換というのは難しいこと」と指摘。一方で、映画の世界ではBT.709よりも広色域のDCI-P3色域で制作されてきたという実績があることから、BT.709からDCI-P3への相互変換のノウハウを、BT.2020にも応用していくという。

BT.709と、DCI-P3、BT.2020の色域比較
IMAGICAは、映画のDCI-P3色域でのノウハウをBT.2020にも活かすという

 また、カメラセンサーからそのままの情報が出力されるRAWについて、HDRがトレンドになったことで見直されているという。また、「4K解像度相当を持つフィルム(35mm)は、4Kスキャンとデジタル修復で再価値化される」とし、主な事例として松竹の「青春残酷物語」やKADOKAWA「おとうと」、「炎上」、「雪之丞変化」などのフィルムからの4K化を紹介した。

 パナソニックグループの映像制作/ポストプロダクションであるパナソニック映像は、Ultra HD Blu-ray再生対応BDレコーダ「DMR-UBZ1」の購入者向けにプレゼントされたUHD BDソフト「るろうに剣心 京都大火編」と「るろうに剣心 伝説の最期編」のHDR制作について説明。既に完成した作品を改めてHDR化するということから、演出を崩さずに作業するのが苦労したという。一方で、従来のBlu-rayはBT.709でカラーグレーディングするのに対し、劇場用のリマスターはHDRのため、HDRのUHD BDが完成すると、作品のカラーグレーダーから「制作者の意図が100%表現できる」と評価されたという。パナソニック映像としては、HDRの推進に加え、今後は配信や放送のコンテンツに向けてHybrid Log-Gammaも手掛ける意向だという。

パナソニック映像が手掛けたUHD BDソフト「るろうに剣心 京都大火編」と「るろうに剣心 伝説の最期編」

(中林暁)