東芝、薄型テレビ国内生産を終息。経営方針説明

-TVは下期黒字化へ。有機ELは「パートナー次第」


東芝佐々木則夫社長

 東芝は17日、2012年度経営方針説明会を開催。同社の佐々木則夫代表取締役社長が中期経営計画を下に、事業の集中と選択を進め、グローバルトップレベルの複合電機メーカーを目指す方針を示した。

 その中で、昨年度に赤字となったテレビ事業については、体質強化と新興国展開を加速し、12年度下期に黒字化を目指す。同社のテレビ事業は、2007年下期から2010年下期までは7半期連続黒字継続していたが、'11年の国内市場の急速な縮小や売価ダウンなどにより赤字化した。赤字幅は「数百億。3桁と説明している」(佐々木社長)とする。


TV事業の構造改革

 そのため「軽量経営再強化」として、国内生産を終息し、ODMを拡大することを紹介。深谷工場におけるテレビ生産を2011年度で終息した。今後は全て海外生産となる。

 東芝では薄型テレビの'11年度国内/国外生産比率を明らかにしていないが、従来より大多数が国外生産。深谷工場での生産は、一部機種や試作機のみに限られていた。しかし、「アナログ停波が'11年7月でそろそろ危ないということで、'10年の後半には、'11年度で(国内生産終了を)終息し、海外に移そうと計画していた。アセンブル(組立)は付加価値が出るものではないので、ここで終息する決意をした」とする。ただし、テレビの開発やサポートなどの拠点として引き続き深谷工場を運営するほか、ジャパンディスプレイの液晶研究開発、生産拠点としても、従来と変わらず事業継続する。

 今後の展開としては、機種数の統合を進め、'13年度には'11年度比で60%削減、パネル数も同様に'13年度には54%削減し、金型を共通化。「オペレーションそのものも軽量化する。PCは類似したビジネス構造ながら利益確保している。それをもう少し取り入れた形にし、PC流のグローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)へ改革する」という。ODM比率は「'11年度で約40%だったが、今年は40~50%を超えるぐらい」と見込む。


デジタルプロダクツはクラウド・ソリューション連携を強化

 また成長領域として、新興国展開をさらに強化。新興地域向け製品を大幅に増やすほか、サービスも拡充。広告費も新興国向けは'14年度に'11年度比で3倍に増加する。さらに、クラウドサービスを拡大し、テレビにおけるサービス利用を収益の柱にする。

 その他、グラスレス3Dや4K2K、有機ELなど、先進的な製品投入を計画。有機ELテレビについては、「パネルは外部調達でやっていく。そのため、時期などは調達先との調整次第となるので未定。ただ、タブレットはもう発表しました(レグザタブレット「AT570」)。あれはサムスンのパネルですが、いろいろな想像をしていただければいいと思います」とした。

 PCやタブレットなどを含む「デジタルプロダクツ」全体で、クラウド・ソリューションを絡めたサービス型の事業モデルに転換。4Kやフルセグタブレットなどのハードウェア面の商品力強化や、ローカルフィット商品の拡充とあわせて、HEMSや家電連携などの「ホームソリューション」、電子書籍やクラウドロッカー、SNSなどの「BtoCサービス」、オフィス、リテールなどの「BtoBソリューション」などそれぞれの領域で、サービスとハードウェアの連携をすすめる。

 具体的には、電子書籍のBookLiveやコンパス・グラメディア、IBMのセキュリティなど、パートナーと連携し、推進。2015年度の売上高目標は2,000億円。

 テレビ事業の撤退の可能性については、「可能性を完全に否定するわけではないが、テレビはコンシューマ製品の顔になっている。また、'10年度まで7半期黒字という実績もある。投資対効果でいえば、まだまだやれる事業。ホームソリューションでは、HEMSなどの顔になる表示デバイス。発電所から家までというトータルの、スマートホーム、スマートコミュニティ事業をすすめる上でも重要だ。黒字化できなければ(撤退の)可能性もあるが、我々はできると思っている」と語った。

 なお、2012年度のテレビ事業については、2012年度下期の黒字化を目標に掲げている。「通期ではイーブンぐらいの予算を組んでいる。ただ、内部では実行計画を別に作っていて、そこでは通期で黒字を目指している」とのこと。

 HDDとSSDについては、業界再編を機に、ウェスタンデジタル(WD)から3.5型HDD関連資産を獲得。「かつては“2強3弱”といわれていたが、2015年度には3強に入る。WDからは設備だけでなく、特許も取得しており、コンシューマからエンタープライズまでカバーできる」とする。また、NANDフラッシュとの開発一体化を進め、'12年9月にはHDD/NANDのHybrid HDDを出荷予定。「デモ機を試したけど、非常に早い。いいことばかり」とのこと。また、NANDの技術を生かしてSSDの中でも差別化を図り、Ultrabookなどの拡大市場で拡販。2015年度売上高目標は8,500億円。

 NANDフラッシュは、2015年度売上高目標7,000億円。タブレットやスマートフォン向けの高容量eMMCなど高付加価値製品を強化。自社ブランドのリテール販売にも取り組む方針。また、需要を見極めて機動的に投資判断を行なうという。次世代技術については、3DメモリBiCSやMRAMなどに取り組む。

 なお、「NANDへの投資が弱気になっているのでは? 」との質問に対しては、「NANDは市場だけでなく、どの顧客と組んでいるかも重要。容量単位では引きが強くなっており、縮小しているというわけではない。主力のA社さんのように、どこと付き合うことができるかが重要だ」とした。

HDD/SSDの展開NANDフラッシュメモリの展開

■ スマートコミュニティと新興国が成長の鍵に

2011年度連結業績

 2011年度の連結売上高は前年比5%減の6兆1,003億円、営業利益は14%減の2,066億円、継続事業税引前純利益は22%減の1,524億円、当期純利益は47%減の737億円。佐々木社長は、「震災、タイ洪水、円高など厳しい環境ながら、リカバリ施策で利益を確保できた。ただ、もう少し頑張れたのでは、という思いもある」と振り返る。

 2012年度も中長期ビジョンの「グローバル競争力を持ったトップレベルの複合電機メーカーへ」という目標はそのままに、BtoBへのポートフォリオ組み換えを中心にした、選択と集中を加速。この考えに基づき、近年、富士通のHDD取得や、水力、スマートメーター、などの社会インフラなどを取得するとともに、システムLSIの後工程売却や、携帯電話事業売却、中小型液晶事業売却などを行なってきた。

 佐々木社長は、新興国の経済成長と、先進国経済の弱含みというトレンドに触れながら、課題としては「高効率・安定的な電力確保」、「高齢者・新興国医療拡充」、「情報のビッグデータ化とセキュリティ確保」と共通項が多いことを指摘。同社がスマートコミュニティと位置づける事業で、基幹電源からビル、工場、家庭のエネルギーソリューション、ヘルスケアソリューション、ストレージ、デジタルプロダクツなどあらゆる事業を連携させていく方針を提案。2015年度の売上高9,000億円。

外部環境スマートコミュニティ事業を強化スマートコミュニティへの取り組み概況

 火力発電の2015年度売上高目標は3,500億円。高効率、低エミッションで成長市場に注力。国内外の受注は好調で、'11年4月以降、新規受注20基、計12GWを獲得。コンバインドサイクルは、GEと連携し事業拡大し、世界最高レベルの効率62%を実現。石炭火力もインドで地産地消製造を進め、新棟を増設するなど好調という。他社設備のプラント改修なども含め、事業拡大を図っている。

 原子力発電の2017年度売上高目標は1兆円。国内においては、福島第一原発の安定化に総力で対応する他、既設プラントの安定裕度向上へ積極提案する。海外では米国におけるAP1000 4基の新規建設や中国での建設順調などで着実に事業をすすめる。一方で、パッシブセーフティやシンプル構成、保守低減などが特徴の新型炉「4S」や「SMR(Small Modular Reactor)」など、より安全性の高い原子炉開発も推進。特に米国エネルギー省における開発プロジェクトへのSMR採択を目指しており、「低炭素な基幹電源として頑張りたい」とした。

火力発電原子力発電

 再生可能エネルギーの2015年度売上高目標は3,500億円。地熱の世界No1シェア堅持や、海流発電システムの開発着手、燃料電池の強化などラインナップ拡充し、分散電源ニーズに対応する。パワーエレクトロニクス・EVについては、「若干苦戦している」としながらも、2015年度売上高目標は8,000億円。二次電池の「SCiB」のEV採用やインバータ・モーターの高効率化、交通ソリューション採用などを目指し、事業強化する。HEMSなどのホームソリューションの2015年度売上高目標は2,500億円。

再生可能エネルギーパワーエレクトロニクス・EVホームソリューション

 ヘルスケアソリューションは、病院内システムや地域医療ネットなどのヘルスケアITや、CTなどの画像診断、がん治療などの領域を強化。14年度にCT世界シェア1位を目指す。2015年度売上高は1兆円。また、IBMのリテールストアソリューション事業を買収し、世界シェア1位となったリテールソリューションも強化。2015年度売上高4,000億円を目指す。

 2012年度は新興国を中心に売上高を拡大。売上高6兆4,000億円、営業利益3,000億円を見込む。'14年度には同7兆8,000億円、4,500億円を目標としており、新興国の占める割合も'11年度の24%から、'14年度には33%まで拡大する予定。

リテールソリューション計数目標


(2012年 5月 17日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]