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NECとヤマハ、“PCでもいい音”のスピーカー技術を解説
小型筐体の低音を強化した仕組みをヤマハ技術者が語る
(2013/3/6 18:30)
NECパーソナルコンピュータは6日、同社PCの技術をマスコミ向けに説明する「Tech Day」を開催。この中で、新モデルに搭載されているヤマハの音響システムを解説。開発時のエピソードやデモを交えて語られた。登壇したのは、ヤマハのエレクトロニクス事業本部 技術開発室 技師補の新井明氏。
PCの筐体に収められる、小型かつ高音質のスピーカーを開発
ヤマハの新井氏が解説したのは、'09年10月に発売された23型IPS液晶一体型の「VALUESTAR W」より採用されている「SR-Bass」(Swing Radiator Bass)と、'10年9月発売の21.5型液晶搭載「VALUESTAR N」や'15.6型ノートPCの「LaVie L」などに採用されている「FR-Port」(Flat Radial Port)という、ヤマハによる2つの特許技術。
「SR-Bass」は、ヤマハのポータブルスピーカーなどにも採用されているパッシブラジエータを用いた技術で、エンクロージャ内部のエネルギーを効率的に低域に変換できるというもの。振動板の一部だけを筐体に固定したラジエータベースを備え、本体内の背圧で“うちわ”のようにしならせることで、従来のドロンコーンよりも効率良く低音エネルギーを増強する。
ドロンコーンのパッシブラジエータでは、振動板を安定して支えるためエッジにも一定の硬さを持たせなければならず、結果として抵抗が増えて効率が悪くなるという問題がある。これに対し、SR-Bassは振動板の一部だけが本体に固定されているため、エッジに柔らかい素材を使用でき、抵抗を抑えた効率良い振動を可能にすることが特徴。
当初は、ユニット径約3cm、容量80㏄という小型のSR-Bassステレオスピーカーとして開発していたが、新井氏によれば「バスレフより“ちょっといい”くらいの音だった」とのことで、更に高音質化を図るため、4cm径サテライトと5.5cm径ウーファの2.1ch構成に変更。NECのハイエンドPCが水冷から空冷に切り替わるタイミングで、ウーファを本体の脚部のダイキャストフレーム部に装着することができた。
会場には、SR-Bassと通常のバスレフ、密閉型のエンクロージャを用いたデモ機を用意。それぞれの音質を比較するデモも行ない、SR-Bassの強力な低音や、ポートノイズに影響されない音質などをアピールした。
もう一つの技術「FR-Port」は、より小型の筐体に対しても、効率よく低音を増強できるというもので、一般的な円筒型のバスレフポートとは違い、上下がつぶれたホーンのようなポート形状を採用する点が特徴。
円筒形のポートの場合、低域の損失を防ぐためにまっすぐなポート形状にすると、音質的に良い条件でPC内に収めることが困難になる。新井氏が他社のPCの内部を見たところ、「せっかくポートが付いていて、ユニットが表(正面)を向いていても、ポートの音が筐体内に捨てられているという例をいくつか見た」とのこと。
これに対し、FR-Portは自由な形状にできるため、ユニットから近い場所にポートを配置して“点音源”に近い状態を実現。これにより、バーチャルサラウンドやノイズキャンセルの機能を使った場合にも効果が出るという。
また、上下方向をつぶしたような形状のため、円形のホーン形状とは異なり、空気流が渦輪(実験などで知られる“空気砲”のような輪)となって音質に悪影響を与えないことも特徴。さらに、ポートの開口部を(スピーカーグリルの)パンチングメタルなどで塞いだ場合も、円筒形のポートに比べて音圧の変化を抑えることができる。
パソコンのオーディオ機能におけるヤマハとNECの協力関係は、FM音源の1980年代までさかのぼる。NECパーソナルコンピュータの商品企画本部 本部長 栗山浩一氏は「当時、パソコンの音は83年発売のファミコンに劣っており、ビープ音だけでみんなゲームをやっていた。なぜ1万いくらのファミコンに、20万円のパソコンの音が負けるんだ!? という所からスタートした」と振り返る。
NECは、当時のヤマハFM音源「YM2203」に着目。これを8bitの個人向けパソコンに搭載するため、ヤマハと共同で開発をスタート。こうして発売された1985年1月に発売されたのが「PC-8801mkIISR」だった。栗山氏は「大きく変わったのは、パソコンで三重和音の音楽が楽しめること。音の表現力が高まって、ゲームの質が一気に変わった。マニアのものだったパソコンが、ゲームや音楽の作曲にも使えるようになった。“音”という切り口のテクノロジーの進化によって、パソコンの利用シーンが広がった」と述べた。
今回説明されたFR-Portなどの技術についても、その性能を活かすために“ノートPCの一等地”であるディスプレイ下部のスペースをスピーカー用に確保。ディスプレイをバッフル面のように活用してより良い状態で聴こえるように、電源ボタンの位置さえも移動することになったという。
新井氏は、「PCと組むことで、開発したばかりのSR-Bassを世に送り出すことができた。FR-Portは、NECさんの厳しい小型化要求に応えていくうちに、開発できた技術。ヤマハとしてもメリットがあり、感謝している」と述べた。