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ビクタースタジオでハイレゾをウッドコーンで聴く

「EX-N70/50」がスタジオモニター&生音と対決

ビクタースタジオに設置されたウッドコーンオーディオ「EX-N50」

 JVCケンウッドが、ビクターブランドの新製品として発売を開始した、ウッドコーンオーディオ「EX-N70」(オープンプライス/実売126,000円前後)と「EX-N50」(同10万5,000円前後)。ハイレゾにも対応したUSB/ネットワークオーディオ機能が特徴だが、もう1つの特徴は、ビクタースタジオが音決めなど、開発に深く関わった事だという。

 製品の発売が開始された6日、都内のビクタースタジオにて、マスコミ向けの試聴会が開催。“開発の現場”でもあったスタジオの中で、その音を体験した。

ハイレゾ対応ネットワークコンポ

 EX-N70/50の概要をおさらいしよう。どちらもDLNAプレーヤー、2chのデジタルアンプ「DEUS」、USB端子を内蔵したメインユニットと、ウッドコーンスピーカーで構成されたシステムだ。

EX-N70
EX-N50

 N70とN50の大きな違いはスピーカーで、N70は11cm径ウーファと2cm径ツイータの2ウェイ、N50は8.5cm径のフルレンジ。メインユニットの仕様はほぼ同じだが、N70のみ、筐体の振動を抑える効果のあるMDF材のアークベースを底面に配置している。

EX-N70とN50のメインユニット。主な仕様は共通だが、N70は底部にMDF材のアークベースを配置している

 DLNA 1.5に対応し、再生対応ファイルはDSD、FLAC、WAV、Apple Lossless、MP3、WMA、AAC。WAV/FLACは24bit/192kHzまで再生でき、DSDは2.8MHzをサポート。再生制御はiOS/Android用のアプリ「JVC Audio Control WR2」で行なう。独自の高音質化技術の「K2テクノロジー」のON/OFFもアプリから可能だ。

 ラジオは搭載していないが、ネットワーク機能を使ってradiko.jpにアクセスし、ラジオを楽しむ事ができる。

デジタルアンプ「DEUS」の概要

 デジタルアンプの「DEUS」は、名前こそ従来と同じだが、ハイレゾ対応に合わせてICを変更。SNや歪み率などを改善している。また、従来モデルと同様にアナログ/デジタル個別でフィードバックを行なうが、N50/70では新たに外付けの回路を加える事で帰還量を増大させ、より高域まで対応できるようにした。出力は50W×2chだ。

 音声信号のデジタル変換や圧縮などで失われる部分を再生成することで原音に忠実な再生を図る「K2テクノロジー」も進化。従来は、用意された複数のモードから選択する方式だったが、音楽のフォーマットに応じて係数を自動で設定するようになった。ハイレゾコンテンツに対してもK2処理をかけられる。

 振動対策も徹底。底面のフットは3点支持とし、インシュレータはプラスチックと真鍮を組み合わせたハイブリッド仕様。ネジやワッシャには異種金属を組み合わせ、振動を低減。N70のボトムシャーシには、厚さ9mmのMDF材を配置し使ったアークベースを採用。シャーシの剛性を高めるほか、振動を吸収する。ベースの固定には銅メッキネジを使用している。このほかにもN50/70には高音質コンデンサの使用や、部品レベルでの振動対策の徹底などで高音質化を追求している。

CD/ハイレゾの違いを克明に描写

 開発時の音質チューニングには、ビクタースタジオのエンジニアも参加。音源の情報量増加に見合う、より広い空間表現や収録現場の空気感の再現などにこだわりながら音作りを進めていったという。

 ビクタースタジオでの試聴会では、ユニークな比較試聴を実施。アーティストがピアノとサックスを生演奏し、その音をスタジオのモニタースピーカー(38cm径ウーファ×2などを使ったGENELEC製スピーカー)で試聴。同時に、その音をCDフォーマット(16bit/44.1kHz)と、24bit/96kHzのハイレゾで録音。生音の後に、同じくGENELECのモニタースピーカーでCDの音、ハイレゾの音をそれぞれ再生し、ソースの違いを聴き比べた。

生音とCDフォーマット、ハイレゾの音を比較
サックスはTOMAこと苫米地義久氏。ピアノは石塚まみさん
GENELEC製のスタジオモニター

 生音をモニタースピーカーから聴くと、サックスの生々しい音が強く印象に残る。中低域の吹き出し、張り出しが強く、こちらに迫ってくるような音圧の高さが心地よく、そのパワーに影響された鼓膜がゾワゾワとざわめくのが感じられる。演奏者の感情がダイレクトに伝わってくるようだ。ピアノも響きが豊かで、深みのある中低域がゆったりと膨らみ、その音に包まれる感覚が心地良い。

 CDフォーマットで録音したものを再生すると、サックスの第一声から「音が硬い」と感じる。独特の甘い響きが減り、質感が失われ、カサカサした表現になる。音楽全体のスケールも小さい。低域は出ているのだが、音圧が低下して、グワッとこちらに迫ってくるような圧迫感は迫力が低下。レンジはある程度広いが、厚みの無い、“薄い音”に聴こえてしまう。

生演奏を録音し、CDフォーマット/ハイレゾで聴き比べ

 ハイレゾをモニターで聴くと、前述のような不満が払拭され、生音にグッと近くなる。サックスの響きや余韻にしなやかさが出て、音圧も回復。鼓膜がゾワゾワする感覚が戻って来て、音楽が感動的になる。スケール感もアップし、音の響きが消える様子もよく見える。

 次に、このCDフォーマット/ハイレゾデータをUSBメモリにコピー。ミキサー卓の上にセットしたN50で再生してみる。つまり、GENELECの大型モニタースピーカーと、たった8.5cm径のフルレンジユニットを搭載したN50が勝負するカタチになる。価格的にもサイズ的にも、N50が気の毒になるような無茶な対決だが、実際に音が出てみると、なかなかどうして、片手で持てる小さなスピーカーとは思えない立派な音が出てくる。

GENELEC製のスタジオモニターとN50が対決

 ウッドコーンスピーカーはもともとトランジェントの良い、キビキビとした、ハイスピードな描写が持ち味だが、それがソースの違いを良く描写してくれる。CDフォーマットのデータを再生すると、情報量が少なく、カサカサした質感がそのまま描かれて、ちょっとキツイ描写に感じる。

 反対にハイレゾを再生すると、質感の豊かさ、しなやかさがウッドコーンからしっかりと表現される。ハイスピードな描写と、しっとりとした質感描写が同居し、グッとドラマチックなサウンドになる。このコンパクトなスピーカーで、ここまで明瞭にCDとハイレゾの音の違いがわかるのも驚きだが、誤魔化しの効かないフルレンジスピーカーだからこそ、逆に音の違いがわかりやすいという面もありそうだ。

 個人的にウッドコーンスピーカーには以前から、高域に独特の“硬さ”を感じていたが、ハイレゾを再生すると、その中にもしなやかさが感じられるようになり、非常に興味深い試聴となった。

 当然、小型ブックシェルフスピーカーならではの点音源による音の広がりの良さも、ハイレゾではCDよりワンランク上。豊かに広がる音を見ていると、月並みな表現だが、スピーカーがグレードアップしたような感覚を覚える。

 N50のスピーカーは8.5cm径のフルレンジユニットだが、低域を強化するため、振動板サイズに近い7cm径のマグネットを採用し、駆動力を高めている。また、ウッドブロックを磁気回路後部に装着し、不要振動の吸収と重量付加により、低重心な低音再生を可能にしたという。エンクロージャは響きの良さを追求い、天面や地板、前面バッフルにはチェリー無垢材、両側板はアルダー無垢材で構成。各所にチェリー材の響棒も配置している。ターミナルにはダブルナット構造を採用し、接触抵抗を低減している。

ウッドブロックを磁気回路後部に装着
N50のスーピーカー内部
広い場所では点音源による空間表現の上手さが光る

ハイレゾ対応の描写力にK2テクノロジーが活きてくる

 N70は11cm径ウーファと2cm径ツイータの2ウェイ。ユニットに、上位モデル「SX-WD200」のユニットを採用しているのが特徴で、具体的にはウーファの振動板(チェリー材)の背面に、十字の形で異方性振動板を配置している事。ウッドコーン振動板の伝搬速度を縦方向と横方向でバランスをとるためのもので、ワイドな空間表現と解像度を両立するという。

 磁気回路には歪みを低減するためのアルミショートリングや銅キャップを採用。メイプル材をポールピースの上部に装着し、センターキャップ裏側から出る音を処理。音の濁りを低減。ツイータはエッジにシルク繊維を採用。ウッドドームの内部には吸音材として木製チップ(スプルース)を配置しており、高域の音場表現や伸びを向上させている。

N70の2ウェイスピーカー
ユニットに十字の形で異方性振動板を配置している
ツイータのウッドドーム内部には吸音材として木製チップ(スプルース)を配置

 各ユニットの磁気回路後部には、八角形のチェリー材を装着。取り付け位置は1mm刻みで調整されており、ダクトからの不要高域の制御を行ない、低音エネルギーの増大や、不要振動低減効果があるという。

 実際にN70スピーカーの音を聴くと、N50と比べて中低域の厚みや、低域の沈み込みの深さがアップ。2ウェイではあるが、ツイータ/ウーファのどちらもウッドコーン/ウッドドームであるため、ハイスピード感や、描写の細かさといった特徴は、全体域で揃っている。N50のサウンドに、迫力を追加したような鳴りっぷりだ。

N70スピーカーの内部
ウッドコーンオーディオの開発者である今村智氏が解説した

 ヘッドフォンや大型フロアスピーカーでハイレゾとCDの聴き比べは何度か経験があるが、今回、コンパクトなスピーカーでもその違いが克明に出る事が印象的だ。こうなると、ハイレゾ音源ばかりを聴きたくなるのが人情だが、そうでない音源が大半なのが実情だ。

 そのため、ウッドコーンオーディオには、失われる部分を再生成することで原音に忠実な再生を図る「K2テクノロジー」の最新版も搭載。従来は、用意された複数のモードから選択して適用する形だったが、音楽のフォーマットに応じて係数を自動で設定する機能も搭載されている。実際にK2のON/OFFで音を比較してみると、ハイレゾとCDオーディオを比較した時のように、高域のしなやかさや、音場の広さと空気感などに確かな違いがある。ハイレゾ音源の魅力を再生するポテンシャルを持つコンポだからこそ、K2テクノロジーのような技術がより活きてくると言えそうだ。

 なお、JVCケンウッドはEX-N70/N50や、ウッドドーム搭載イヤフォン「HA-FX850」、「HA-FX750」、「HA-FX650」などを「ハイレゾ音源の持つクオリティを再現する製品」とし、専用の「Hi-Resolution Audio」ロゴを付与。“ハイレゾ対応製品”として今後訴求していく。

 また、既報の通り、ビクタースタジオでもキングレコードなど計4社が参加するハイレゾ音楽配信サービス「VICTOR STUDIO HD-Music.」6日からスタートさせており、このハイレゾ配信とハイレゾ対応製品をコラボレーションさせ、イベントなどを通じて消費者にアピールしていく予定だ。

(山崎健太郎)