ミニレビュー

一番身近なAK×JH Audioイヤフォン、65,980円の「Michelle」を聴く

 直販価格「Layla II」(税込399,980円)を筆頭に、高価なモデルがラインナップされているAstell&KernとJerry Harvey Audioのコラボイヤフォン「THE SIREN」シリーズ。最も低価格な「ROSIE」も直販139,980円(税込)なので、「欲しいけどなかなか手が出ない」という人は多いだろう。そんなTHE SIRENシリーズをグッと身近にしてくれるのが、12月3日から発売される「Michelle(ミシェル)」。直販価格は65,980円(税込)だ。

Michelle

 ユニバーサルタイプのイヤフォンで、滑らかなフォルムが目をひく。シェル部分には3Dプリント技術が活用されており、人間工学を追求した形状だという。実際に装着すると、シェル部分が比較的小さめ、かつ軽いので装着しやすく、耳に触れる部分が多かったり、不快という感じはしない。

 デザイン的にも、また素材的にも金属を使った「ROSIE」、「RoxanneII」、「LaylaII」、「AngieII」とはちょっと雰囲気が違うモデルだ。音が出るノズルには約10度の角度がつけられているが、これも装着感を考慮したもの。-26dBという高い遮音性能も実現している。

Michelle

 このデザイン、何かに似ているなと考えていたところ、「Triple.Fi 10」10周年記念として1,000台限定発売された、「TriFi」(トリファイ)」(58,889円/販売元はミックスウェーブ)とソックリだ。ただ、並べてみるとTriFiの方がわずかに大きい。

左がMichelle、右がTriFi

 「Michelle」のドライバは全てバランスド・アーマチュア(BA)で、高域、中域、低域に各1基のBAを搭載した3ウェイ3ドライバ。構成としてはオーソドックスと言えるだろう。ドライバはこのイヤフォンのために新開発されたものだという。ちなみにTriFiは、低域×2、高域×1の2ウェイ3ドライバだった。

 ドライバの時間軸と各帯域の位相を正確に制御する、独自のFreqPhaseテクノロジーも採用。チューブ型ウェーブガイドを使い、各ドライバーの信号を0.01ミリ秒以内に確実に到達させるというものだ。

イヤーピースを外したところ

 音についてお馴染み、Jerry Harvey氏は、「LaylaやRoxanneの開発で蓄積した経験を反映させ、ローエンドモデルでありながら、上位モデルを凌駕する魅力あるポテンシャルを持っている」と説明しており、聴くのが楽しみだ。

 ちなみに「Michelle」という名前は、ロックバンド、Guns N’Rosesの1st アルバム「Appetite for Destruction」に収録されている「My Michelle」からきているそうだ。

 ケーブルは着脱でき、端子はカスタムイヤフォンでよく使われる2ピンタイプ。THE SIREN シリーズの上位モデルは、低域調整機能付きの「Variable BASS output Adjustable Cable」を採用し、端子も独自の4pinコネクタであるため、リケーブル製品の選びやすさという面ではMichelleの方が優れている。入力端子はステレオミニ。

ケーブルは着脱可能

 また、注目は2.5mm 4極のバランスケーブルも同梱する事だ。2.5mm 4極のバランス出力を備えたハイレゾプレーヤーを手がける、Astell&Kernとのコラボ製品らしいポイントであり、AKシリーズを持っているユーザーにとっては、追加投資無しでバランス駆動の音も楽しめるのは魅力だろう。

 インピーダンスは18Ω。3サイズのシリコンイヤーピースやキャリングケースも付属する。

2.5mm 4極のバランスケーブルも同梱する

音を聴いてみる

 プレーヤーはAKシリーズから、価格も近い「AK70」(直販税込69,980円)を用意した。AK70は価格を抑えながら2.5mm 4極のバランス出力も備えているので、相棒としては申し分ない。ボリューム値は0~150まで調整できるが、80~90あたりで十分な音量が得られる。

ケーブルは着脱可能

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生。冒頭の空間の広さを堪能していると、1分過ぎから登場するアコースティックベースの中低域がドッシリと、音圧豊かに吹き寄せてくる。JH Audioのイヤフォンらしい、パワフルさを感じる。

 全体のバランスは、やや中低域が強めだが、低音が多すぎてボワボワするような事はない。中高域はスッキリとしてクリアな描写で、清涼感もある。低域を心地よく、ゆったりと描きながら、音像はクッキリシャープに描写するので音が聴き取りやすく、満足感も高い。

 モニターライクなストイックなサウンドというよりも、バランスの良さを維持しながら中低域の音圧を高め、高域をややシャープにしたような感じで、おそらく多くの人が「気持ちがいい」、「好きだ」と感じるサウンドだ。

 癖というか、キャラクターとしては、女性ヴォーカルやパーカッションなどの高域に、ほんのわずかだがBAらしい響きの硬さ、金属質な色を感じる。「高域のしやなかさ、ナチュラルさがもっと欲しい」と感じる人もいると思うが、この“パッキリ感”が、高域にシャープな印象を与えているとも言えるので、これはこれで良いのではないかという気もする。

 低域の沈み込みも十分深い。音圧と量感は豊かだが、適度な締りがあり、トランジェントの良さも感じさせる。このあたりのさじ加減の絶妙さは、さすがJH Audioという感じだ。

 ちなみに、先程デザインが似ていると書いた「Trifi」と聴き比べると、Trifiの方が高域の硬さは抑えられており、より無難というか、“ダイナミック型ユニットっぽい音”に聴こえる(ドライバ的にはBAだが)。ピアノと女性ヴォーカルのみとか、クラシックなど、アコースティックな楽曲ではTrifiの方が玄人好みっぽい感じはあるが、BAのシャープな描写が好きだという人は、Michelleの方が気に入るだろう。

 DSDの「マイケル・ジャクソン/スリラー」を聴いても、おどろおどろしい低音のうねりの中で、ビートが鋭く描写され、音楽全体が活き活きしていて気持ちがいい。音数が多い楽曲も、描写がシャープなので、しっちゃかめっちゃかにならない。基本的な描写能力は極めて高い。

バランス接続に変更

 バランスケーブルに交換すると、チャンネルセパレーションが良くなり、音場が広く、より立体的な描写になる。アンバランス接続では、中低域が密度濃く、グワッとパワフルに吹き寄せていたが、バランス接続では世界全体が広くなるため、パワフルさが相対的に抑えられたように聴こえる。「ロックをガンガン楽しむぜ!」というサウンドから、「ジャズやクラシックもまかせたまえ」という優等生チックなサウンドに変化するのが面白い。そういった意味で、常時バランス接続で聴かず、楽曲に合わせてケーブルを交換するのも楽しいかもしれない。

 5万円、6万円の価格帯は高級イヤフォンの激戦区だが、上位モデルのエッセンスを取り入れつつ、多くの人に好まれるサウンドにまとめあげたMichelleのポテンシャルは高い。コストパフォーマンスの面では、バランス駆動用ケーブルを最初から同梱しているところも見逃せないだろう。

 単体としても魅力だが、AK70とMichelleを買って計約135,000円と、「ROSIE」(直販税込139,980円)よりも安い点も見逃せない。バランス駆動対応のAK70とのマッチングは良好で、双方の魅力を高める組み合わせと言えるだろう。

山崎健太郎