トピック
これから始める“ハイレゾ”超入門
ポータブルや据え置きなど使用シーンごとに紹介
(2014/2/18 10:30)
Webでも家電量販店でも、“ハイレゾ”という言葉をよく見聞きするようになった。メーカー各社がこぞってハイレゾ対応オーディオ製品を発売し、その熱はますます上昇している。オーディオに詳しくない人でも、「高品質な音源や音響機器の総称だろう」くらいには理解しているのではないだろうか。
とはいえ、いざハイレゾの世界をのぞいてみたいと思っても、ハイレゾが一体どういうものなのか、ハイレゾを始めるにはどうすればいいのか、具体的には知らない人も多いかもしれない。高品質なオーディオ=高価と思い込み、積極的に導入する気になれずにいる人もいそうだ。
今回は、そんな「いまさらハイレゾが何なのか人に聞けない」ような入門者の方に向けて、「とりあえずこれだけ知っておけばOK」な点に絞って、ざっくり解説したいと思う。
“ハイレゾ”とは何か?
ハイレゾは、“HiRes”、“ハイレゾリューション・オーディオ”などとも表現されることがある。ハイレゾに明確な定義は今のところないが、ハイレゾ音源は、一般的に音楽CD(16bit/44.1kHz)やDAT(16bit/48kHz)を超える情報量をもつデータを指す。
この16bitや44.1kHzという数字は、レコーディングの際に音の強弱を測定する頻度みたいなものと思っておこう。この数字が大きいほど音の強弱を高速に、細かく分解して記録することになるので、元々の音をより正確に再現できるようになる。
そもそも音楽CDの44.1kHzという値は、人間の聞き取れる周波数帯域(可聴帯域)であるとされている20Hz~20kHzをカバーするために定められた。音楽CDが規格化された1980年当時はこれで十分と考えられていた。ところが最近では、20kHz以上の聞き取れないような音も再現することで、サウンドの空気感を伝え、リアリティが増すと言われるようになってきた。
ハイレゾの場合は、24bit/96kHz、24bit/192kHzというような高い精度で記録されたファイルが用いられ、最大100kHz程度を超える周波数帯域をカバーするものまである。CDでは省略されてしまう微細な音の変化や高域の音でも、ハイレゾ音源では可能な限り忠実に記録され、その情報をしっかり引き出せる音響機器を使うことで、実際の生音に近いリアルなサウンドを聴くことが可能になる。
文字通り、音の解像度や深度が向上するのがハイレゾのポイント。SD画質のテレビがハイビジョンになり、さらに4Kへと進化しているのと同じような流れが、オーディオの世界でも始まっているというわけだ。
ハイレゾ音源にはどんなものがある?
すでに述べたように、ハイレゾでは24bit/96kHzや24bit/192kHzといった高精度の音声データが使われる。これらは非圧縮のWAVファイルのほか、可逆圧縮やロスレスと呼ばれる方式で記録されたFLACファイルなどで提供される。Apple LosslessやAIFFなどの形式もあるが、ここではハイレゾ音楽配信サービスで採用が多い、FLAC、WAV、DSDを紹介する。
WAVとFLACの違いは、FLACの方が圧縮している分ファイルサイズが小さくなるほか、ジャケット画像や曲情報などのデータをファイル内に記録しておけるところ。そのため、楽曲としての管理のしやすさはFLACが上になり多くのハイレゾ音楽配信サービスで、FLACが採用されている。WAVは非圧縮の録音データとなるが、ロスレス圧縮のファイルより容量が大きくなるという課題がある。
また、注目を集めているハイレゾ音源には、DSD方式もある。WAVやFLACのデータ(PCM方式)とは大きく異なる手法で記録するもので、情報量を表す数値は1bit/2.8MHzや1bit/5.6MHzのような形で表現される。ここでは細かい説明は避けるが、アナログ的な滑らさのある音質を再現しやすいとされているフォーマットだ。
DSDは他とは大幅に違う方法で記録するため、プレーヤーなど機器側でも特別な対応が必要で、これまではあまり対応機器が多くなかった。ただし、最近ではポータブルプレーヤーなどでもDSD対応製品が増えはじめるなど、機器側の対応が整いつつある。
WAV/FLAC/DSDなどの形式で提供されているハイレゾ音源を楽しむには、配信サイトからダウンロードするのが近道。現在国内では、下記のWebサイトからハイレゾ音源を入手可能となっている。
・e-onkyo music
http://www.e-onkyo.com/music/
・OTOTOY
http://ototoy.jp/
・ mora ~WALKMAN公式ミュージックストア~
http://mora.jp/index_hires
・HQM STORE
http://www.hqm-store.com/
・VICTOR STUDIO HD-Music.
http://hd-music.info/
残念ながら、今のところハイレゾ楽曲は“よりどりみどり”とは言えないのが現実だ。クラシックやジャズなどはかなり増えているし、60年代後半から70年代のオールドロックの名盤などはかなり充実しているのだが、最近の邦楽などはまだめずらしい。しかしながら、曲のラインアップだけでなく配信サイト自体もどんどん増えているので、これからの充実に大いに期待できるだろう。
なお、販売されているハイレゾ楽曲は通常の圧縮音源より高めの価格設定となっている点は覚えておきたい。例えばPat Metheny Unity Groupの新アルバム「KIN」のmoraにおける販売価格はAAC(320kbps)だと1,500円だが、ハイレゾ(FLAC、24bit/96kHz)だと2,500円だ。
消費者としては価格は安いほうがいいのは間違いないが、CDを超える品質の曲が手に入ると考えればある程度納得できる価格差ではないだろうか、また、ハイレゾは単価アップにつながるため、ハイレゾでの販売増が見込めるレーベルやアーティストは、積極的に推進しやすい、という側面もある。
必要な音響機器は?
ハイレゾ音源をハイレゾのまま出力するには、それ相応の音響機器がどうしても必要になる。ゼロからそろえようとするとかなりの出費を覚悟しなければならないように思うが、実は、ハイレゾ環境を実現する機材の組み合わせはいくつもあり、うまくいけば手持ちのデバイスに少し足すだけでハイレゾ環境を構築できる場合もある。
ここでは、外出時など場所を選ばずカジュアルにハイレゾを楽しむ「ポータブル環境」と、自宅などでじっくり聴く「据え置き環境」のそれぞれで、いくつか例を挙げてみよう。
ポータブル環境
ポータブルの場合、外に持ち出して聴いても周囲の迷惑にならないヘッドフォンを使うスタイルが基本。そのため、ハイレゾ音源を十分に堪能できる性能を備えたヘッドフォンがまずは必要となる。
イヤフォンタイプか、ヘッドフォンタイプか、好みは人それぞれだとは思うが、比較的入手しやすいハイレゾ対応のヘッドフォンということであれば、ソニーの「MDR-1RMK2」が狙い目。実売価格は2万円台前半だ。
【ポータブル環境 その1:ポータブルオーディオプレーヤーを使う】
簡単かつ確実にハイレゾを満喫できるパターンが、ポータブルタイプのデジタルオーディオプレーヤーを使う方法。ケーブル接続などの手間はほとんどかからず、音源さえDAPに転送すれば、あとはヘッドフォンをつなぐだけですぐに聴くことができる。
ハイレゾ音源を再生可能なプレーヤーとしては、アイリバーのAstell&Kern「AKシリーズ」が有名だ。iPodなどと比べるとかなり値は張ってしまうが、その分ハイレゾの実力を最大限に引き出した音を聴かせてくれる。ちなみに、アイリバーのWebサイトでは、いくつかのハイレゾ音源を無料で配布している。必要な機材をそろえたら、真っ先に試してみたいところだ。
【ポータブル環境 その2:スマートフォンを使う】
ひょっとすると、今あなたの手元にあるスマートフォンでハイレゾを楽しめるかもしれない。たとえばLG「G2」や「G Flex」、「isai」、サムスン「GALAXY Note3」は、ハイレゾ音源の再生に対応している。
もしこれらのうちどれかを所有しているのであれば、音源を用意してヘッドフォンをつなげるだけで、各端末にプリインストールされているプレーヤーを使って即ハイレゾを体感可能。この場合はヘッドフォンを必要に応じて購入すればいいだけなので、最も安価かつ手軽に始められるパターンとも言える。
【ポータブル環境 その3:iOS端末とヘッドフォンアンプを使う】
iPhoneやiPad、あるいはiPod touchのユーザーはこのパターンが近道かもしれない。必要なアイテムは少し多いが、すでにポータブルオーディオとしてiOS端末を使っているなら、そのまま流用する形でハイレゾにも対応できるのが魅力だ。
具体的には、USB DACとして機能するバッテリー内蔵のポータブルヘッドフォンアンプに、USB接続するためのApple純正「Lightning - USBカメラアダプタ」(または「iPad Camera Connection Kit」)とUSB変換アダプタ、さらに「ONKYO HF Player」などのプレーヤーアプリを組み合わせる。
iOS端末の仕様上、WAVやFLACなどは24bit/96kHzまでの出力に限定されてしまうけれど、「ONKYO HF Player」はDSDにも対応(PCM変換再生)しているので、ヘッドフォンアンプにDSD対応の「iFI nano iDSD」などを選べば、本格的なハイレゾ環境として使いこなせるだろう。
据え置き環境
ポータブルな機材は据え置き環境としても使えるけれど、自宅でじっくりハイレゾを鑑賞したいのであれば、やはり据え置き型の機材にするのがしっくりくる。この場合は大きく分けると2つのパターンが考えられるだろう。
【据え置き環境 その1:PCを使って聴く】
PCでの作業中に音楽鑑賞することが多いのなら、PCでハイレゾ環境を整えるのがシンプル。必要な機材は意外に少なく、USB DACのみ。あとは好みやシチュエーションに応じてヘッドフォンで聴くか、スピーカーで聴くかのどちらかを選ぶだけだ。
USBポートから電源を取れるバスパワー駆動の据え置きに向いたUSB DACは、バッテリー内蔵のポータブル型より製品の選択肢が多いのがうれしいところ。中でも対応フォーマットが充実しているUSB DACには、たとえばフォステクスの「HP-A4」がある。24bit/192kHzまでのWAV/FLACだけでなく、2.8/5.6MHzのDSDにも対応。フォステクスが別途無償配布しているPC/Mac用ソフト「FOSTEX-AudioPlayer」をインストールすれば、即座にハイレゾ再生を楽しめる。
【据え置き環境 その2:オーディオコンポ】
1人だけでなく、家族や友人と自宅のリビングなどでハイレゾを聴けるようにしたい場合は、ハイレゾに準じた性能をもつオーディオコンポを導入するのが簡単だ。今やJVCケンウッドの「EX-N50」のように、プレーヤーとアンプ部が一体になった本体+小型スピーカーというコンパクトな構成のオーディオコンポでも、クオリティの高いハイレゾ再生が可能となっている。
こういったミニコンポでは、家庭内LANと接続したうえでNASと呼ばれるネットワークHDDか、あるいはサーバーとして動作させたPC上のデータを再生するパターンが多い。そのため、最初の設定時にネットワークなどの知識が少し必要になってしまうものの、それさえクリアできれば抜群のハイレゾ環境に仕上がる。
なお「EX-N50」では、ネットワーク経由以外にも、iOS端末やUSBメモリなどを直接ケーブル接続して再生できるようにもなっているので、自宅に招いた友人らが持ち寄ったiPhoneやUSBメモリからハイレゾ再生する、なんていう使い方もできるだろう。
ハイレゾのハードルは思うほど高くない
現在も多くのユーザーの間で主流のMP3やAACのような圧縮音源は、データサイズを小さくしつつ、できるだけCD音質との差を少なくした「高音質の維持」を目指していた。しかし本格的なオーディオの世界では、単に高音質を目指すというより、レコーディング現場における「原音」をそのまま再生しようという目標で展開されている。
もちろん、「原音」に近づけるには、アンプ1台やスピーカー1本で数十万円から、といった一般の人には手が届きにくい高級オーディオであることは望ましい。しかし、音源から根本的に変わることになるハイレゾは、その音源自体のポテンシャルの高さによって、身近にある手軽な機材でも「いい音」を体験しやすくするための土台になっている、と言えなくもない。
お金がかかると思われがちなオーディオの世界ではあるものの、今回ご紹介したように、やり方や手持ちの機材によっては手間もお金も大げさにかけることなく、ハイレゾを楽しめることがおわかりいただけたのではないだろうか。
たしかにポータブルオーディオの圧縮音源の音質で十分という人や、聴き比べても違いがわからないだろうと考える人は少なからずいるとも思う。それでも、一度ハイレゾで聴いてみれば、「今まで聞こえなかった音が聞こえる」感覚をきっと実感できるはずだ。まずは無理のない予算で少しだけ機材を追加するところから始めて、ハイレゾへの第一歩を踏み出してみてほしい。