本田雅一のAVTrends

日立のテレビ画質が向上した理由

新型Wooo GP08/XP08シリーズインプレッション




P50-GP08(左)と、L42-XP08(右)

 日立が今年秋の新テレビラインナップを発表した。新たなシリーズとして用意されたのは、プラズマ方式を採用する3D表示機能対応のGP08シリーズ(50V、46V、42V)、およびIPS液晶パネル採用のXP08シリーズ(42V、37V、32V)だ。それぞれの発表内容についてはニュース記事を参照いただきたい。ここでは、実際の製品に見て、触れてのファーストインプレッションをお届けしたい。


型番タイプ解像度3D特徴発売時期店頭予想価格
P50-GP08プラズマ1,920×1,080ドット地デジ×3
500GB
AVネットワーク
スマートフォン連携
8月27日32万円前後
P46-GP0827万円前後
P42-GP0822万円前後
L42-XP08液晶1,920×1,080ドット-9月10日19万円前後
L37-XP0817万円前後
L32-XP081,366×768ドット145,000円前後

 


 

■ 新エンジンで“書き割り効果”を抑えた3Dに。2Dも進化

 日立のテレビはプラズマ、液晶ともに2009年のXP03シリーズから急激に画質面での完成度を高めた。結果論と言えばそれまでだが、他社製パネルを調達して使うようになったことで、ややアクの強かった日立製プラズマパネルから解放され、日立のテレビ開発陣が思う存分に絵作りを行なえるようになったためだ。

 それまではプラズマの特性に合わせて絵を作り、それに合わせて液晶の絵を作っていたそうだ。XP03でも手順は同じだが、階調表現や色再現のリニアリティが高く、素直な絵作りが可能になったと、それ以前からも、そして現在も絵作りを担当する開発の一人は話していた。

 このときを境に、自動画質調整機能を含め、ナチュラルな色階調を見せるようになった。それ以前のイメージが強かったためか、いまだに過去のWoooの画質が引き合いに出されることがあるが、以降のWoooシリーズはプラズマでも液晶でも、“画質調整パラメータを触らなくても満足できる度合い”ナンバーワンのテレビとなった。

 そしてXP05(2010年)の世代となり、ピクセルマネージャという機能が加わった。このピクセルマネージャの機能は、実装されているLSIこそ異なるものの、改良されてXP08にも採用されている。

 ピクセルマネージャでは、複数フレーム超解像のように力業での高画質化は行なわれない。そう書くと遅れているように感じるかも知れないが、実際には異なるアプローチで高画質化に取り組んでいる、と表現した方が正しい。

 映像の内容を分析し、輪郭成分の抽出などを行なった上でシーン分析し、映像内の部分ごとに適切な超解像処理を行なう。この際、映像の精細度を検出し、適切な処理を行なうことでノイズを際立たせず、雰囲気を損なわずにディテールや輪郭をクリーンに描き出す。適応型処理のため、映像ソースごとに違う画質に合わせて自動的に適した画質にしてくれる。

 シャッキリと輪郭が明瞭になるだけでなく、ピントの合った部分と合っていない部分の差もはっきり判るようになる。複数フレーム超解像での、副作用の少ない超解像処理を、単一フレームでも実現したような雰囲気の映像だ。映像の情報量復元という面ではやや落ちるかも知れないが、映像全体の雰囲気はとてもいい。

P50-GP08

 さて、このピクセルマネージャの機能をGP08では、3D映像に対しても適用できるようになっている。“ピクセルマネージャEX”と名付けられた新エンジンは、従来のピクセルマネージャの良さを引き継ぎながら、3D映像の画質向上という新たな要素を盛り込んだわけだ。

 実際にピクセルマネージャEXのオンとオフでアバター3Dを視聴したが、書き割り効果が軽減され、より3Dらしい質感の表現となる。書き割り効果とは、絵を描いたパネルを並べたような、細かな立体感が失われ、大まかな遠近感のみが強調させる見え方のことだ。また、デフォルトでは無効になっているが、左右カメラの色校正が取られていない一部の3D映像に対応するため、左右像の色の違いを自動的に判別して揃える機能など、他社にはない細かな3D映像表現への胃配慮が行われている。


GP08シリーズは人感節電センサーを搭載し、離席した人が戻ってくるとその前のポイントから再生できる

 また、内蔵HDDに録画された映像を視聴中、人感センサーで人がいないと判断すると、その再生位置を自動的に憶えておき、戻ってくると即、以前の場所に頭出しを行なう機能が組み込まれた。日立によると、席を自ら立っていく場合にも対応出来るが、実際には途中で居眠りした時に、寝てしまった直後の位置へとすぐに戻せるようにと考えたものだそうだ。人がテレビの前にいない場合は、画面が消灯され、30分以上経過すると電源そのものがオフになるため節電にもなる。

 現時点では録画番組視聴中の便利機能に留まっているが、このアイディアには発展性がありそうだ。日立の担当者ともしばらく話し込んだが、たとえば放送視聴中に人がいないと判断した時点で映像を一時的にHDDへと保存しておき、遡って居眠りした直後に戻って見直す……といった機能もできるようになるだろう。

 なお、こうした機能面以外にも、3D対応パネルになって応答性や階調表現に改善が加わっているせいか、従来のプラズマ搭載モデルに比べて2D画質の面でもナチュラルさに磨きがかかった。3Dモデルというよりも、より高画質なプラズマテレビに3D表示機能が加わっていると考えた方がいいだろう。

 


 

■ 自動画質調整も進化。スピーカーはバランスの良い仕上がり

L42-XP08

 一方のXP08には「センサーオートe」というモードが、通常の自動画質調整機能「センサーオート」に加えて追加されている。このモードは映像全体の”明るさ感”を考慮してバックライトを調整する機能だ。人が感じる”明るさ”と”明るさ感”には違いがある。映像全体が明るいシーンでは、人は画面全体を必要以上にまぶしく感じる。

 そこで映像の内容を分析し、部屋の明るさに応じて適度なバックライト輝度となるように自動調整するのがセンサーオートeだ。明るく見えすぎるシーンではバックライト輝度を絞るため消費電力を抑える事ができるのが利点とされている。

 しかし、実際に映像を見ると、液晶パネルにもかかわらず、プラズマテレビのような落ち着いたトーンの見え味になる。センサーオートeに設定したXP08と、センサーオートのGP08を見比べると、ほぼ同じように見えるほどだ。実はこの制御はプラズマが意図して行なっているもので、白に近い部分の面積が広くなるとプラズマ発光を抑えて白ピークの明るさを抑える。この動作にセンサーオートeは極めて近い。

 結果として、省電力という特徴に加え“プラズマ的な暗所での落ち着いた見え味”を獲得している。当然、店頭でセンサーオートeに設定すると、あまり元気のない映像になるのが、自宅のリビング程度の照明では悪い側面はあまりなく、やや暗めの部屋ならばセンサーオートよりも良好な印象と思うほどだ。

 これらが個々の製品のトピックだが、両シリーズ共通の特徴として、ふたつ日立製テレビの美点を挙げておきたい。

 ひとつはCONEQを採用した前面面積の大きなスピーカーユニット。アンダースピーカーを好まない方もいるだろうが、このぐらい開口部を出していた方が音質には圧倒的に有利だ。音質重視で前面にスピーカーを見せる配置とした上で、CONEQを採用することで聴感上、帯域ごとのエネルギーバランスが取られている。

Wooo Remote Lite for iPadでの操作も可能

 もちろん、テレビのスピーカーでCD再生をする人などはほとんどいないだろう。しかしセリフひとつの聞き取りやすさが格段にいい。高価なプレミアムモデルではなく、通常の製品が高音質というところに価値がある。このほか発売のニュースにもあるように、iOS対応にも積極的でソツのない製品に仕上がっている。

 年内の国内工場閉鎖を検討というニュースも伝わってきた。誤解している方も多く見受けられるが、テレビの研究・開発や販売から撤退するわけではない。現在の為替トレンドからすると国内生産はいずれにしろ縮小せざるを得ず、地デジ移行による需要が落ち着いたところで海外への生産シフトが起きることは致し方ない面もある。なお、今回のGP08/XP08シリーズは、6機種全て岐阜工場で生産する。

 最新技術や派手な機能はないが、地味ながら画質と音質の両面に磨きをかけた上で、機能面もこなれてきている。生産は海外になるが、商品企画や開発は日本に残る。実は目立たない名機と言えるXP03以降の日立製テレビが、今後もユニークなアイディアを盛り込みながら進化していくことを期待したい。

 

(2011年 8月 11日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]