第262回:[BD]「崖の上のポニョ」

ジブリの宮崎アニメBD化、遂にスタート!
物語も画質も特典も、なんだか全部凄い


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ ジブリの宮崎アニメBD化、遂にスタート


崖の上のポニョ
ブルーレイディスク

(C)2008 二馬力・GNDHDDT
価格:7,140円
発売日:2009年12月8日
品番:VWBS-1076
収録時間:約101分
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:1080p(16:9 ビスタ)
音声:
(1)日本語(リニアPCMステレオ)
(2)日本語(DTS-HD Master Audio 6.1ch)
(3)フランス語 (ドルビーデジタルステレオ)
(4)イタリア語 (ドルビーデジタルステレオ)
(5)スペイン語(ドルビーデジタルステレオ)
(6)韓国語(ドルビーデジタルステレオ)
(7)北京語(ドルビーデジタルステレオ)
(8)広東語(ドルビーデジタルステレオ)
発売/販売元:ウォルト・ディズニー・
 スタジオ・ホーム・エンターテイメント

 12月8日、遂に「崖の上のポニョ」がBlu-rayで発売される。宮崎駿作品のBDとしては「カリオストロ」や「名探偵ホームズ」などが既に発売されているため、“初BD化”ではないが、いわゆる“スタジオジブリの宮崎アニメ”としては、「ポニョ」がBD化のトップバッターになる。

 このコーナーでもDVDで宮崎アニメがリリースされるたびに紹介し、最近では「いつかはBlu-rayを」と書いてきたが、ついに宮崎アニメがBDで楽しめる時代になったかと思うと感無量だ。同時に、国民的な人気を誇るジブリアニメのBD化開始は、一部のAVファン向けだったBD市場の“定着”を印象付ける出来事と言っても良いだろう。

 しかし、ご存知の通り、DVD版は今年の7月3日に既に発売されている。BD版の発売が12月になる事は、4月のDVD化発表時からアナウンスされていた事だが、「どうせ買うならBDで」と我慢していた私を含むファンにとっては、約5カ月間、待ちに待ったという心境だろう。

 今回、BD版を発売前に視聴する機会に恵まれたので、改めての内容紹介と共に、クオリティをチェックしてみたい。特にポニョに関しては、宮崎監督が“手描き”にこだわった独特の映像が魅力なので(彩色はデジタル)、それがBDでどのように収録されているかも気になるところだ。

 BD版の商品構成は単品版(7,140円)に加え、製作過程に密着したドキュメンタリー「ポニョはこうして生まれた。 ~宮崎駿の思考過程~」のBD版をセットにした「『崖の上のポニョ』ブルーレイディスク 特別保存版」(18,480円)も用意。いずれにも初回限定でシールブックが付属するほか、特別保存版にはDVD「課外授業 ようこそ先輩 ~伝わる“地図”を描く~」も付属する。同日にはドキュメンタリーのBD単品版や、DVD版のセットなども発売される。詳細は既報の通りだ。



■ 果てしなく深読みできる作品

ポニョ(右)といもうと達(左)。ポニョが何の魚なのかよくわからないが、いもうと達にキスしたり、クラゲの布団で寝たりと、とにかく仕種が可愛い
(C)2008 二馬力・GNDHDDT
 舞台は海辺の小さな町。5歳の少年・宗介は、活動的で明るい母・リサと2人で、留守がちな船乗りの父の帰りを待ちながら暮らしている。そんなある日、宗介は海辺でビンに入ったさかなの子・ポニョを助ける。ポニョは海底にある家から、クラゲに乗って家出して来たのだ。

 助けてくれた宗介のことを好きになるポニョ。宗介もポニョを守ると約束する。だが、かつて人間を辞め、海の住人となったポニョの父・フジモトによって、彼女は再び海へと連れ戻されてしまう。「人間になりたい!」と強く願うポニョは、いもうと達の力を借りて父の魔法を盗み出し、人間の女の子の姿になる。宗介に会いたい一心で、ポニョは嵐と共に、津波に乗って宗介のいる町へと向かうのだが……。

 何はともあれ、いもうと達とキスしたり、クラゲの布団で寝たり、ビンに入って抜けなくなったりと、ポニョが強烈に可愛い。女の子になった後も1つ1つの仕種は愛らしく、リサにタオルで拭かれるシーンで完全にノックアウトされた。宗介も利発で素直で男らしい、非の打ち所の無い少年である。色々と深読みできる物語だが、基軸は極めてシンプルだ。前半が宗介を好きになったポニョが、宗介の母を押しのけて家に上がりこむ話。後半がポニョを守ると誓った宗介が、ポニョの両親に挨拶に行く話。魚と人間の“異種婚礼譚”だ。

 結末は別にして、鶴の恩返しや浦島太郎、人魚姫などと似た話で、宗介はポニョを金魚と呼ぶので“金魚姫”か。いや、金魚は海水だと死ぬから“真鯛姫”か。そんな事を考えながら観賞していると、劇中の宗介は海で助けたポニョを、何の迷いもなく水道水入りのバケツにドボン。ポニョ元気に復活。つまり「ポニョが何の魚かとかはどうでもいい。とにかく魚だ」という映画なのだ。宮崎監督が「子供が最初に観る映画として作った」というだけあり、あまり深く考えず、感性のままに、宗介とポニョの愛と冒険を楽しむのが正しい観賞スタイルだ。物語も1本筋で、トトロのような“一見子供向けだが、実は大人向け”という映画でもないようだ。

明るく、行動力があり、ドライビングテクニックも凄い、母・リサ(左)と、宗介(右)
(C)2008 二馬力・GNDHDDT
 だが、単純なだけの作品かと言うと、ちょっと違う。可愛くて幸せな映像の裏に、何かが潜んでいる感じがするのだ。最初に気になったのは、フジモトがポニョ捜索のために放った“意思を持った波”が、宗介に襲いかかるように打ち寄せるシーン。目玉が付いた波はハッキリ言って不気味で、動きも「もののけ姫」の冒頭の“タタリ神”並に怖い。私が5歳の少年なら泣きそうなものだが、宗介は平然と家に帰るし、彼の様子を見ていた母・リサも不思議な光景ととらえていない。

 ポニョにしても、女の子に変身した時はとても可愛いのだが、律儀に魚類からほ乳類への進化の過程を辿りたいらしく、時折カエルのような両生類チックな姿になり、妖怪のようにも見える。私が道端で彼女を見かけたら「UMAだ!」と網を持って追いかけ回しそうなものだが、劇中の大人達は驚いていない。漂うかすかな違和感は、「港町で起こった不思議な物語」のはずなのに、「不思議が当然の事」として描かれており、疑問を感じているのが視聴者だけだからだろう。

 ご存知「となりのトトロ」では、トトロや猫バスなど、不思議な存在は大人には見えず、メイやサツキだけが現実世界とトトロの世界を行き来できる。草のトンネルの奥、夜の森、雨の日の薄暗い稲荷、巨木に空いた大きなウロなど、子供の頃に誰もが感じた“何かいそう”な場所から、子供の想像力を借りてトトロが現れるわけだ。

 「千と千尋」で千尋が迷い込んだ世界、「もののけ姫」でアシタカを導いた森の精霊コダマなど、宮崎アニメには日本人が自然に感じる畏怖の念や、アニミズム的な感覚が映像化される事が多い。ポニョも基本的には同じなのだが、現実と空想の境界が非常に曖昧で、視聴者がどこに立って観ればいればいいのかわからなくなる。それが違和感の正体だろう。

 一度深読みを始めると、気になる部分は沢山ある。港町の“外の世界”があると思えない箱庭的な世界観。父親の不在、母親を名前で呼ぶなど、友達感覚が抜けない親子関係と、存在感が希薄なサブキャラクター。そんな中で1人だけ存在感があるのが、老人ホームにいるトキという老婆。彼女だけがポニョを“人面魚”と呼んで怖がり、他のキャラが疑問に思わない“怪奇現象”に疑いの目を向ける。主な舞台が保育園と老人ホームというの意味深だ。これらの「何を意味しているのだろう?」という疑問が、大人の観賞に耐えるミステリアスな魅力を生み出している。

 個人的な考えだが、この作品は世界観も物語も“子供の視点と感覚”で描かれているように思う。小説で言えば「となりのトトロ」は三人称で、「ポニョ」は一人称。子供にとって現実と空想の境界は常に曖昧で、認識できる世界は狭く、人間関係も限定的である。例えば自分の子供の頃を思い返してみると、当時は家と学校と友達の家と公園くらいが世界の全てで、自転車や電車に自由に乗れるようになって初めて世界が広がった。宗介にとっての“世界”は、家と保育園と、その間の道のみ。人間関係もほぼ全て母親に集約されており、他人は重要ではなく、悪い人がいる事もまだ知らない。オバケもいると信じていれば現実の仲間入り。それが作品世界に反映されているように思える。

 大人になってから思い返せば他愛のない事でも、空想が現実となる世界では大事件となる。宗介はそんな試練を、彼なりの精一杯の冒険を経て乗り越えていく。“大切なのはスケールの大小ではない”というメッセージを感じる。また、垣間見える問題や不安に気付かないフリをして、「楽しい」と心から思える子供時代にこそ、幸福に関してのある種の真理があったのかもしれない……そんな事を考えさせられた。


■ 絵本がそのまま動いているような斬新な映像

 この懐かしくも、現実とは違う世界を支えているのが、美術監督の吉田昇氏による背景画だ。曲線を巧みに使った温もりのある絵で、所々にクレヨンを使った跡があるほか、青空1つとっても筆のタッチが残り、変化に富んでいる。約100インチのスクリーンに投写したが、まるで巨大化した絵本がそのまま動いているようで、最近のデジタルアニメに慣れているとかなり斬新で、見惚れてしまうほど美しい。

 そんな背景の中で動き回るのが、宮崎監督ならではの躍動感溢れるキャラクター達。特に宮崎アニメの十八番とも言える、子供のリアルな動きが素晴らしい。重いバケツを運ぶ宗介の慎重な歩き方、そうかと思えば蛇口のホースを抜くのに気をとられて足下のバケツ(ポニョ入り)をぶちまけるなど、子供の真剣さと、視野の狭さが巧みな描写で表現される。まるで「はじめてのおつかい」を観ているようで、画面に引き込まれる。これこそジブリアニメだ。

水の表現が素晴らしい
(C)2008 二馬力・GNDHDDT
 最近はCGエフェクトの水表現もリアルになってきたが、ポニョでは少ない色と大胆な動きで、CGにも負けない量感豊かな水を表現している。「紅の豚」の飛行艇離陸&着水シーンも感動したが、ポニョでの魚を使った水の表現も独創的で、圧倒された。

 こうした動きは、鉛筆で描いた絵をスキャンし、デジタルで彩色して作られている。アナログ的な線からは、パッと見では3DCGや実写と比べて“精細な映像”というイメージは受けない。そのため、「DVDとBlu-rayの解像度の違いが、それほど大きく出ないのでは?」と考えていた。しかし、実際にDVDと比較すると、BDの情報量の多さが桁違いで驚かされる。完全に“別物”と言って良いレベルだ。

 背景に注目してBDを見ると、例えば駐車場のコンクリートの壁には、鉛筆の斜線を何度も重ねて陰影が付けられ、壁の凹凸が表現されている。木々も鉛筆やクレヨンを走らせる方向でボリュームや葉っぱ膨らみを表現している。だが、DVDに切り換えると、こうした細かな線がボヤけて、周囲の線とくっついてしまう。鉛筆描きの紙に水をたらして、線がにじんだ時と良く似ている。

 背景の描き込みがより微細な、例えばリサの家の中では違いが顕著。ソファーや床の質感、本棚に並ぶ本の背表紙などがBD版では克明に描写され、壁のざらつきや本の重さ、電気スタンドカバーの黒ずみ、食器棚に積まれた小皿の冷たさまで伝わる。DVDも健闘しているが、全体的にフォーカスが甘く、奥行きが短くなり、その場にいるようなリアリティが低下。BDを大画面で観賞すると、細かな線の積み重ねが膨大な情報量となり、観る者を圧倒し、画面から目が離せなくなる。

 本田雅一氏のコラムでお伝えしたように、BD版ポニョの映像圧縮はパナソニックハリウッド研究所の柏木吉一郎氏が担当しており、“やわらかな質感がありつつ、情報量が多い”という映像を追求したと言う。確かに、情報量が多いのだが、線が一辺倒に鮮鋭で精細感を高めるような事はなく、ふわっとした線も、鋭い線も、そのタッチが残されている所に要注目だ。

 圧縮ノイズの少なさもBDとDVDの大きな違いだ。冒頭、無数のクラゲや海草、小魚、エビや貝のような形をした小さなプランクトンが、粉雪のように画面を覆い尽くすMPEG-2泣かせな場面が続く。DVD版は、動きが遅いクラゲはなんとか持ちこたえるが、揺れる海草を描写したまま画面がパンするシーンでディテールが崩れ、プランクトンの小さな足はモスキートノイズに埋もれてしまう。BDではこうした細部もクッキリ描かれ、破綻が無い。「こんな所まで描き込んでいたのか」と驚くシーンの連続だ。

 中盤の大雨シーンでは、斜線で表現された雨がリサの運転する車や、洋服と重なってもBDでは雨の線に疑似輪郭が発生しない。一時停止すると、斜線の雨が様々な太さの線で構成され、雨の勢いや吹き付ける方向を表現している事が確認できる。ビットレートは会話シーンで18~22Mbps程度、アクションでは40Mbps程度まで上昇。カーチェイスシーンは30Mbps以上だ。

 リサの家の中など、動きの少ないシーンを観ていると、画面が上下に数ドット、時折動いている事に気付く。セル画でアニメを作っていた頃の“揺れ”を再現したようで、キャラクター中心に観ているとわからないが、画面全体を見渡すように観ていると気付くだろう。もちろんテレビやプロジェクタの表示領域がズレているわけではないので「故障か!?」という心配は無用だ。

 音響面も、DVDのDTS-ES 6.1chとBDのDTS-HD Master Audio 6.1chを比べると、音場の広さや音圧がグッと高まり、BGMや波、風などの自然音の迫力に大きな差が出る。サラウンドの見せ場は津波のシーン。ヴォンヴォンと吹き荒れる風の風圧がサブウーファの低域で上手く表現され、パタパタと無数の足音のようにコンクリにぶつかる雨音が周囲に充満。その中を風に飛ばされた缶が甲高い音を立てて横断していく。リアスピーカーの使い方も巧みで、視聴者を背後から飲み込もうとする波音で、思わず首をすくめそうになった。

 特典紹介の前に、操作性に癖があるので紹介しておこう。BD再生の冒頭、「リモコンの決定ボタンでポップアップメニューが出る。ポップアップボタンでは出ません」という注意書きが出るのだが、説明通りポップアップボタンを押しても何も起きない。恐らく子供が再生する事も考慮し、リモコンで一番大きなボタンである決定ボタンを重視したのだろう。「冒頭は操作できないから他の事をしていよう……」と注意文を見逃すパターンもあると思うので、この点は覚えておこう。

 なお、PlayStation 3で再生する場合も、当然スクリーンメニューやAVリモコンのポップアップボタンは機能しない。コントローラーの「○」ボタン、AVリモコンの決定ボタンでポップアップが出る。追加的な機能なら良いが、やはり機能名が書かれたボタンを押しても何も起きないというのは混乱を招く気もするので、ポップアップボタンと決定ボタンの両方が機能するようにして欲しかった。


■ 量、質ともに満足度の高い特典

 ジブリのDVDは、絵コンテと本編の比較再生くらいで、特典はシンプルな印象だが、ポニョのBDは非常に充実している。お馴染みの絵コンテはBDのPinP(子画面表示)機能を活用してグレードアップ。通常は全画面表示だが、ポップアップメニューから「子画面(本編)」を選ぶと、大小2種類のサイズで本編映像を同時表示できる。表示位置も画面四隅に変更可能だ。絵コンテには宮崎監督による注意書きが書かれているのが面白い。最初にポニョが登場するシーンも、ポニョの上に「年長さん」、後に続くいもうと達の上に「年中組」、もっと小さないもうと達の上に「年少組」と書いてあった。

 オススメは日テレの「NEWS ZERO」が、ポニョを生み出した5人の天才職人に迫る特番を収めたもの。作画監督の近藤勝也氏や、美術監督の吉田氏などの仕事ぶりを、宮崎監督のコメントを含めて紹介してくれる。アニメが動く仕組みや、制作の過程などを簡潔に説明してくれるので、アニメに詳しくない人でも楽しめる。流石テレビ番組だけあり、編集が洗練されているのでサクサク観られるのが嬉しい。

 宮崎監督が作品に込めたメッセージや各シーンの意味は、監督自身へのインタビューや、外国特派員協会での応答でかなり詳細に語られており、理解の手助けになる。個人的に深読みしすぎて「登場人物全員死んでるんじゃないか」とか怖い事まで考えていたのだが、胸をなでおろせた。また、人材的に厳しいアニメ界の現状や、日本の社会が抱える閉塞感や不安感の元凶にまで話がおよぶので、別のコンテンツとしても興味深く楽しめた。

 アフレコの模様では、宗介役の土井洋輝君と、ポニョ役の奈良柚莉愛ちゃんが、演じるキャラクターそのままで実に可愛い。大人達に囲まれると萎縮してしまうので、優しい女性が1人そばについて、「それじゃ、一緒にやってみようか」という感じで自然な演技ができるようサポートしているのが興味深い。だが、そんな2人も監督の注文に的確に応えた演技をしており、「流石にプロだな」と感心してしまった。

 芸能人の声優起用で賛否両論あるジブリ作品だが、今回もリサに山口智子、父・耕一に長嶋一茂、フジモトに所ジョージ、グランマンマーレに天海祐希を起用している。幸い観賞中に強い違和感を感じる事はなく、特に天海祐希のグランマンマーレはイメージにピッタリ。性別を超越しそうな妖艶さが良く出ており、声優の田中敦子に良く似た声質だと感じた。リサの声とフジモトの声には、もう少し表情が欲しかったところだが……。

 さらに、全米公開された北米版の本編も完全収録している。この声優が豪華で、ケイト・ブランシェットやマット・デイモンらが声を当てているので必聴だ。ほかにも、ノンクレジットエンディングのロングバージョンや、予告編、テレビスポット、初日舞台挨拶の模様などなど、豊富に収録している。藤岡藤巻と大橋のぞみによる主題歌のミュージックビデオでは、日本中を席巻したあの歌がじっくり楽しめる。本邦初となる韓国語版ミュージックビデオも必見だ。

ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~ Blu-ray版
(C)2009 Studio Ghibli
 なお、同日には「ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~」というBD/DVDも発売される。これはNHKが宮崎監督の仕事ぶりを紹介した番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」を発端にしたもので、番組製作のため、取材班がポニョの構想段階から完成まで、約2年間宮崎監督に密着。創作の秘密と監督の素顔に迫ったもので、テレビで使われなかった部分も大幅に収録。収録時間が約12時間と長いのが特徴で、DVDは5枚組。BDは2枚組の大作だ。

 こちらでは宮崎監督が作品に込めたイメージやメッセージがより強く伝わってくるほか、彼の人間的な魅力もよくわかる。また、構想が佳境に入ると密着しているNHKの荒川氏への返答が言葉少なになったり、1人になりたがるなど、全世界が注目する新作を、大きな重圧の中で作り上げていく“産みの苦しみ”が克明に描かれている。ポニョのメイキングの枠を越えた、“1人の男の戦いの記録”として見応えのある作品だ。



■ 今後のBDラインナップにも期待

 私が一番好きな宮崎アニメは「天空の城ラピュタ」なのだが、子供の頃に観て強烈なインパクトを感じたシーンがある。巨大な廃墟と化したラピュタを、パズーとシータが散策するシーン。誰もいない都市は広大で、池(貯水湖)の中を覗き込むと水の中にも街が広がっている。庭園には苔に埋もれたロボット兵が遠くまで折り重なっており、その物悲しくも美しい世界観に圧倒された。廃墟ブームでその手の写真を見るたび、今でもラピュタを連想してしまう。

 今回のポニョでは、後半に同じようなインスピレーションを感じるシーンが用意されており、当時の胸のざわめきを再び感じることができた。60代後半になっても、こんな世界観を構築できる宮崎監督の想像力に驚嘆するばかりだ。ポニョを観た子供達が、私がラピュタで感じたものと同じような衝撃を覚えたら、それはきっと素敵な事だろう。

「ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」Blu-ray版
(C)Aardman Animations Ltd 2008
 作品全体では、子供はポニョの可愛さと不思議さに大喜び、大人は「いまのどういう意味?」と顔を見合わせる、年齢リトマス試験紙のような作品と言える。だが、大人であれ子供であれ、多くの人の心の中に何かが残る作品だろう。また、作品のテーマについて語り合うような映画ファンこそが何度も楽しめる作品なので、“子供向け”と決めつけず、BD版発売を機に、ぜひ手にとって欲しい。

 価格は7,140円と若干高価だが、通販サイトでは5,000円台で予約を受け付けているようだ。手描きの“絵”が生み出す情感豊かな映像美は、これまで発売されたBlu-rayソフトの中でも特筆に値する美しさで、映像目的で購入しても損の無い作品だ。最近では11月27日発売の「ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」など、ディズニーはアニメ作品のBD化を積極展開しているが、今後登場するであろう、他の宮崎アニメのBD化にも期待が高まる。「ポニョ」は、そんなトップバッターに相応しいクオリティのBDと言えるだろう。




●このBD DVDビデオについて
 
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

 


前回の「東のエデン 初回限定生産版 第1巻」のアンケート結果
総投票数883票
購入済み
209票
23%
買いたくなった
392票
44%
買う気はない
282票
31%

 
(2009年12月1日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]